第12話・四条の心配
透と外部の精鋭隊員が手合わせするという噂は、一気に駐屯地中に広がった。
それはもう、台風の巻き起こす暴風がごとし勢いで。
「ウチのエースが戦うのかよ!」
「相手は誰だ!?」
「本土から来た空挺レンジャーだってよ! 第一空挺か? それとも水機?」
「どっちでも良い、絶対面白くなるぞ!」
2ヶ月間拠点防衛に従事し、退屈し切っていた隊員たちにとってこれ以上のエンタメは無い。
試合内容は『強化サバイバルゲーム』。
実銃の弾頭をゴムに変えただけで、実際に火薬を使って相手を撃つというかなり激しいもの。
当たればアザは確実にできるうえ、痛みもBB弾とは全く比較にならない。
場所はCQB(近接戦闘)用の狭い訓練エリアで行われ、双方共に愛銃を用いての戦いだ。
ルールは相手が降参するか倒れるまでで、体術も全てオーケー。
まさに、特殊作戦群が好む訓練そのものだった。
「大変なことになってしまいましたね……、透さん。大丈夫でしょうか」
モニターが何台も据えられた休憩室で、四条が心配げに呟く。
黒目は不安で揺れており、珍しく声のトーンが小さい。
「そんなに隊長が心配?」
横でエナジードリンクを飲みながら、椅子に座った坂本が聞く。
彼は四条と正反対に、かなりリラックスしていた。
いや、どう見てもリラックスし過ぎである。
まるで勝つことが確定したスポーツ観戦のように、お菓子まで呑気に頬張っていた。
「そりゃ……、わたしだって心配しますよ。透さんの実力はボスエリアの戦いで十分知ってますが、相手はあの特戦ですよ!? 普通にやったって勝てるわけ……」
「そうだね、普通特戦と同じ土俵でやり合ったら勝てるわけない。多分米軍のデルタフォースあたりでも連れて来ないと無理」
デルタフォースとは、米軍の秘密特殊部隊である。
その実力は世界最強と言われ、古今東西あらゆる戦場を経験したアメリカの最高戦力だ。
これから透が戦うのは、そういった世界に生きる人間だった。
「じゃあ尚更心配しますよ……! まだ付き合いは短いですが、同じ配信チームの仲間……もし何かあったらと思うと」
「……四条2曹、ボスを倒したあの日隊長に言ったよね? “貴方は最高の護衛”って」
顔を上げた四条が、忘れまいと坂本を見る。
「えぇ、あの人は最高の護衛ですよ。わたし……有言実行する方が好きなんで」
「じゃあ安心して見ると良いよ、隊長があんなクソチビに負けるわけが無いからさ」
「ど、どうして坂本3曹はそう楽観的なんですか! エナドリにポテチ! いかにもPX(売店)で買って来たばかりの物じゃないですか!?」
「うん、だってこれからぼくにとってはメシウマなことが起きるわけだし。そりゃ宴……するよね?」
差し出された濃い塩味のチップスを、四条は理解できないといった表情で受け取った。
横目で見れば、坂本は相変わらず長い前髪を退けもせずモニターを眺めている。
「その信頼は……わたしもして良いんですかね?」
「うん、良いと思うよ。隊長の顔見てみ」
スタート地点に立った透は、入念に20式ライフルをチェックしていた。
その目は––––ダンジョンのボスを倒した時と、全く同じだった。
不思議な安堵感が四条を包む。
負ける割合が圧倒的なのに、あの目をした彼は……誰にも止められない気がした。
「そうそう、他人の戦いはそれくらいリラックスして見るのが一番楽しいよ。親しい人間なら尚更ね」
「べ、別に親しくは……」
「じゃあ1つ気になってたんだけどさ」
「っ? なんですか?」
一拍置いたのち、坂本はポテチを噛み砕く。
「なんでさっきから隊長のこと、下の名前で呼んでんの?」
坂本の質問と同時、試合開始のベルが鳴った。
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