第11話・中国人民警察海外派出所
––––東京都某所 中国人民警察海外派出所。
主権国家内において、他国が自らの法律を適用して邦人へ干渉することは通常許されない。
しかし、急成長した経済力と軍事力を背景に肥大化した中国は、そんな常識を無視していた。
「ほぉ、こいつが噂のダンジョンを攻略した自衛官か……」
一見廃ビルのように見えるこの場所の3階で、中国人民警察所属の王小明警部は、ソファーに座りながらタブレットを眺めていた。
映っているのは、今日透が配信したダンジョン攻略の動画だった。
「戦争を知らない愚鈍な日本人でも、銃が撃てたんですね」
部屋に山積みにされた段ボールを整理していた部下が、小馬鹿にするように呟く。
王は、発砲シーンを何度も繰り返し再生した。
「そう言ってやるな、日本人は今までアメリカの庇護下でしか動けなかった自称平和主義者だが、現場に立つ自衛官は違うということだろう」
「しかし、日本が落ちぶれた後進国には違いありません。現に、我々のいる派出所を日本の警察は今も放置している」
この海外派出所は、本来国際的に認められない存在だった。
中国政府は否定しているが、実際に機能してしまっている。
主な活動内容は、在日中国人の監視……必要があれば本国へ戻るよう促すというもの。
脅す材料はなんでも良い、共産党に批判的な邦人を見つけたら、本国の家族を人質にとって黙らせる。
こんな派出所が、世界中に出来ていた。
国外の中国人に、安息の地など存在しないのだ。
「失われた30年で、日本という国は信じられないほど貧乏になってしまった……。ダンジョンの出現で、しぶとかった日本経済にトドメが刺されると思ったんだがな」
落胆した様子の王が次に開いた画面は、国際ニュースだった。
【アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスの軍艦が台湾海峡を通過。航行の自由主張】
【中国経済不況続く……、迫るタイムリミットも政府に打開策見受けられず】
【アジアの少子高齢化、中国が最も深刻か】
【ロシアの6月のGDPは前年比8.7%減少、戦争の影響続く……】
2年前なら考えられない見出しの数々。
ゼロコロナ政策の失敗で、無敵を誇った中国経済に入ったヒビは深刻だった。
中国国内最大手の不動産会社が破産し、それを皮切りにいわゆるチャイナリスクが顕在化。
世界の工場と呼ばれた中国が、今や殆ど投資を受けられていない。
日本のバブル崩壊に学んだ中国は、同じ失敗をしないだろうと誰もが言っていた。
王警部も例に漏れずその1人だったが、いざここまで来て日本という国の凄まじさがわかってしまう。
30年も経済成長がストップしていたにも関わらず、GDP(国内総生産)は世界3位を維持。
さらにはコロナ禍からの回復も行い、2023年にはデフレを脱却。
おまけに、今回のダンジョンによる恩恵で日本経済の成長スピードは中国を追い抜いてしまった。
これでは、いずれGDPで日本に抜かれてしまうだろう。
「共産党はなんて言っているんです?」
部下からの問いに、王はタブレットを置きながら答える。
「現在、あのダンジョンを日本の主権から移すよう工作しているそうだ」
「具体的には?」
「ダンジョンを国連共同の管理下において、常任理事国の軍隊を派遣するようにしたいらしい。もちろん、自衛隊は人民解放軍より格下に扱う」
「ですが、攻略したら日本に恩恵が……」
「あぁ、だから国連の管理下ではダンジョンを一切攻略しない。これ以上日本を強くさせてはならないからな……!」
立ち上がった王警部は、部下を招集した。
「我々も動くぞ、既に工作員が準備を整えている。日本という国には……このまま衰弱死してもらう」
11話を読んでくださりありがとうございます!
「少しでも続きが読みたい」
「面白かった!」
「こういうダンジョン×自衛隊流行れ!」
と思った方はブックマークや感想、そして↓↓↓にある『⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』を是非『★★★★★』にしてください!!
特に★★★★★評価は本当に励みになります!!! 是非お願いします!!