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雨空の下の桜

作者: 雑賀崎紫蘭

僕の家の近くには神社がある。

この神社には沢山の桜の木が植えられていて、春になると満開の桜が楽しめる。

有名な神社ということもあって、桜の季節には大勢の人がやってくる。


遠くから来る人たちは知らないみたいだけど、この神社の桜には怖い言い伝えがある。

神社の近くに住む僕らは、物心がつく頃には耳にタコができるほど聞かされる言い伝え。

それは、子供は桜が満開の時期の雨の日に一人で神社に行ってはいけない、ということ。

もし桜が満開の時期の雨の日に一人で神社に行ってしまうと、神隠しに遭うそうだ。

僕の家はかなり昔からある家で、おじいちゃんが子供の頃にもお父さんが子供の頃にも、友達や、友達の友達が、雨の日に一人で神社に行って以来、行方不明になっているらしい。


幼いうちはこの言い伝えがただひたすら怖くて、桜が咲き出してからは雨の日に絶対に神社に近づかないようにしていた。

それがある時から、この言い伝えが本当なのか疑うようになった。

そもそも子供って何歳までのことなんだろう?

いつになったら、僕は雨の日でも満開の桜を見に行けるんだろう?



この四月に小学五年生になる僕は、今年の一月、学校で行われた「二分の一成人式」に参加した。

本当は今の成人は十八歳だけど、僕の学校では相変わらず今年も四年生が参加することになっていた。

「成人」は間違いなく大人だ。でも、その半分とはいえ十歳は十代だ。十代はもう「子供」っていう感じじゃない。

僕はまだ大人じゃないけど、子供でもないんじゃないか?

そんな気持ちで二分の一成人式に参加した日、僕はある決心をした。



二分の一成人式から二ヶ月が経ち、学校は春休みに入った。

もう神社の桜は満開になっていた。

あとは雨が降るのを待つだけ。

週間天気予報を見ると、今度の月曜日に雨マークがついていた。

決行は月曜日だ。



月曜日。

僕は七時に起きた。

外を見ると、天気予報の通り雨が降っていた。

朝ごはんを食べて家を出たのが八時。

雨のせいなのか、朝早いからなのか、神社には誰もいなかった。


雨は夜から降っていたみたいで、所々に水溜りができ、水面には散った桜の花びらが浮いていた。

ドキドキしながら神社の中をゆっくり歩いてみたけど、特に何も起こらない。

僕は少し誇らしかった。

やっぱり僕はもう大人なんだ。

新学期になったら、新しいクラスのみんなに自慢しよう。

そう思ってニヤニヤしながら神社の出入口に向かって歩き出したその時。


ザワザワザワ…

ゴゴゴゴゴ…


僕の背後で今まで聞いたことのない音がした。

急にゾワっと鳥肌が立った。

僕は恐る恐る後ろを振り返った。

そこにはさっき見たのとはまるで別の光景が広がっていた。


規則正しく並んでいる桜の木から花の部分だけが取れて、どんどん真ん中に集まっていく。

集まった花たちはまるで、僕が幼稚園の頃に読んだ絵本に出てくる魚のように、何かの形を作っている。

花は脚を作り、胴体を作り、腕を作り、そして頭を作る。

これは人だ。大きな、ものすごく大きな人だ。

目も鼻も耳も口もある。

その大きな人が大きな口を開けている。

大きな腰が曲がり、大きな顔が僕の方へ近づいてくる。


僕の世界は突然、真っ暗になった。






「では次のニュースです。東京都世田谷区に住む松村俊樹くん十歳が、昨日の朝、図書館で勉強をしてくると言って自宅を出たまま、行方がわからなくなっています。警察は、俊樹くんが何らかの事件に巻き込まれたとみて、捜査をしています。」




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