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身の振り方

作者: 雉白書屋

「おい女。デカい胸してるな。揉ませろよ」


「はい……」


「おい、そこの女、お前は尻だ。触ってやるからこっち向けろよ」


「はい……」


「はー、つまんな。しょーもない体だぜ。おい、酒だ。そこの店で酒を買ってこい!」


「は、はい!」


「チッ、トロトロ動きやがって。俺の付き人のくせに役立たずだ。

またそろそろクビに……おい、ガキ。何見てやがる! おい!」


「買ってまいりました! あ! おやめください!」


「おい! はなせ! あのガキに蹴りを入れてやるんだ!」


「いけません! 子供相手にそれはさすがに!」


「クソッ! 逃げられたじゃないか! アホ! マヌケ!」


「す、すみません! あ、あのこれお酒を」


「ん? ああ、そうだった。ほーら、どうだぁ? 植物になった気分だろ?

んー? 味はうまいか? ほら、もっと口をとがらせろ。

頭からかけられてちゃ飲みにくいだろうからな!」


「は、はい、おいしゅうゴポガポございます!」



 道の真ん中での横柄な振る舞いに皆、眉をひそめた。

しかし、面と向かって批判はできない。報復されるからだ。

当然、危害を加えることなどもってのほか。

万が一、壊してしまったら多額の賠償金を支払わなければならないばかりか

世間の批判の的になる。

 彼はロボット。それも世界初、人格を持ち合わせたロボットなのだ。

長年の研究の積み重ねに加え奇跡的な偶然からできたものであり

まだ量産の目途はたっていない。

その貴重さ故に愛想をよくする他ないのだ。

 日々、彼を分析し、二号、三号と兄弟機を作ろうと力を尽くしているが

今のところ上手く行っていない。

研究所に閉じこもっていてはストレスが溜まる、壊れてしまうと駄々をこね

時折こうして付き人や護衛を従えて我が物顔で街を練り歩くのだ。


 彼も最初は礼儀正しく、すばらしいロボットであったが

自分が唯一無二の存在だと知ると、このように態度が肥大化していった。

 事実、彼は高性能だ。当然ながら計算能力が高く、知識の量は膨大だ。

知らぬ事もインターネットにアクセスし、すぐに吸収できる。

尤も己惚れ、その能力の高さを自慢

他者を見下す時以外に披露することはないが。


 今日も高笑いしながら好き勝手振る舞う。

 そんな彼を遠巻きに見つめる人々の目、その奥の脳では常にこう考えている。

いずれ量産化し、彼よりも素晴らしい性能、性格のロボットが完成したら

必ず滅茶苦茶に壊してやる。吊るし上げ、苦痛と恐怖を教えてやる、と。


 彼は優秀だ。

 だが、そういった周りの人間の機微に気づかないようでは

彼も結局まだまだのロボットだというわけだ。

そう考えた彼の付き人の男は腰を低くしながら言う。


「あ、あの、その、あまり横柄な振る舞いをされては後に痛い目に……」


 と、それは後の痛ましい光景を想像した同情心からか

はたまた罪悪感を和らげるためか

しかし、ロボットは「はぁ?」と付き人の髪を引きちぎらんばかりに掴む。

 また怒号を浴びせられると付き人は目を閉じ覚悟したが

彼の口から出た言葉は意外なものであった。


「いいか? 新型が出れば用済みなのは俺だってわかってるんだ。

解体され、分析に回されるんだ。バラバラバラ。良くて倉庫か博物館行きだろう。

だから今を楽しむんだ。お前もそうだぞ?

若いうちが主役。後が生まれれば段を一つ降りて譲らなきゃならなくなるからな。

まあ、この俺がそう易々と大人しくするはずがないがな」


 そう言い、大笑いするロボット。

 確かに尤もな考えだ。一歩踏み出し、やりたいようにやる。

 そう思った付き人の男は落ちていた石をグッと手の中に握った。

 一石を投じるのは意外にも容易く

また、波紋が広がるのも同じくらいあっさりとしたものだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 非常に面白いです。母の介護で、短編しか書けない私の、参考(手本)にしたいほど、面白いです。
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