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お高くとまるイジメっ子は俺と同じ特撮ヒーローオタク  作者: 四角三角
彼女は大の特撮ヒーロー好きであった。
2/35

幼馴染は守ってくれる

 小さく柔らかい破片の感触が、頭髪越しから伝わってきた。

 不運にもシャツの襟と首の間に挟まり、不快が増す。

 鼻での笑いを背に浴びながら、飛んで入ってきた物を摘まみ取る。


 千切られた消しゴム。しかもピンク色と頭の悪そうな色だ。消しゴムと言えば白だろうが。


 拘りはどうでもいいにしろ、何故消しゴムが飛んできたのか。どうして笑われているのか。

 答えは非常に簡単だ。


「……よっしゃ、命中~」


 これだ。


 白倉薺の達成と嬉しさ溢れる声が小さく聞こえてきた。

 彼女は定期的に座学に没頭する俺への妨害として、背後から物を投げてくる。

 今日は消しゴムとまだ柔らかい。酷い時はペットボトルをクリーンヒットさせてくるから、投擲能力は優れていると分析出来る。得しない情報だ。

 嘲笑は尚も続き、数学教諭が授業を中断して一喝するほど増大した。

 しかし数分後には再開。第二球目は、丸められた紙屑だ。

 無視するべきところ、リズムに合わせたか細い『開け』コールが耳に届く。已むを得ずしわくちゃな紙を開くと、黒のサインペンでいびつに『キモオタのバーカ!』と殴り書きされてあった。


「…………開いた、開いたよ」

「…………ラブレターでも思ったか?」

「…………やっぱモッキー、キモいわ~」


 蔑んだ私語が交わされる。他人から見れば過度だと認識されるが、これでも嫌がらせのレベルは軽減されたほうだ。

 去年は去年で上履き隠されるわ、画鋲仕込まれるわ、机一式を手洗い場に引っ越しさせられるわで散々だった。

 教師陣には何度も相談を持ち掛けたが、その都度エスカレートしだし、遂には告訴する気も無駄だと悟り、現状行動は起こしていない。

 なのにどうして虐めのレベルが下がったのか。

 理由は明確。


「いい加減にしなさい!」


 マドカが常に助けてくれるからだ。

 彼女の勇猛果敢さは一年の頃から健在で、その鬼気迫る表情に連中は圧倒され回数を少なくした。身に余る行為に、情けなくて感動とは一味違う涙が出てくる。

 幼少期は俺が世話役を買って出るまでにだらしなかったのに、高校に入学して以降はすっかり逆転。おんぶに抱っこの日々を送っている。男としても最低な部類だ。

 話は戻して、授業中に颯爽と立ち上がったマドカは俺に投げ付けられた消しゴムと屑紙を握り締め、後方に力強く歩み出した。

 磁石でも埋め込まれたのかと教師も含め、全員が一点に集中する。


「何か用かよ……」


 女王然に踏ん反り却って足を組む白倉が、視線を合わせず外の景色に向けながら会話を切り出した。言葉を交わす姿勢は一応取ってくれるんだな。


「ふざけないで。あなたが今している行為は小学生以下の悪ふざけよ。幼稚な遊びがご所望なら出ていきなさい。応じないのなら大人しくしてて。授業の邪魔よ……ッ!」


 反論の隙も与えず俺に与えられたゴミを、至近距離から廃棄した本人へ投げ返した。その怒号に身体が反応する。こわ……。


「何すんだよ、制服汚れただろうが。この女狐!」


 先制攻撃に怯むのかと思いきや、余裕でカウンターをかましてきた。

 マドカは白倉から『女狐』と呼称されている。冷たく細めた瞳が狐に見えるからだそうだ。


「構わないでしょ、あなた自身が出したゴミなんだから。同じような身なりして、いっそのこと集積所にでもなったらどう?」

「はぁ!? ざけんなよテメェ!」

「や、やめなさい二人とも!」


 双方の口論に女性教諭が慌てて仲裁に入る。

 突然のアクシデントに呆然とする生徒もいれば、にやにや口角を上げている生徒まで。特殊性癖なのかな。

 一方、喧嘩の原因を作ってしまった俺も、ぽかんと見物人に溶け込む事しか出来なかった。


「…………あ~ぁ。授業潰れた」

「…………石森のせいだよな」

「…………アイツさえいなければ平和なのにね」

「…………谷矢さんが可哀想だよ」


 それからクラスメイト各々が同情とは真逆に値する、迫害の念を浴びせてきた。被害者は俺なのに追い討ちを掛け厄介者扱いしてくるだなんて、人間性を疑ってしまう。

 普通なら挫折待った無しの人間不信に陥り、自宅警備員にジョブチェンジする案件。


 けど、俺は負けないぞ。


 不登校の選択肢は元より用意していない。茨の道、大いに結構。引き籠りに成り下がるよりマシだ。

 守ってくれるマドカに失礼だし、妹にも格好が付かない。何より母子家庭で、親への負担を早く減らすには歯を食い縛ってでも勉学に励んで社会進出する。他に方法なんて無い。

 こんなところで躓いてたまるか。


「…………早く学校辞めろよ」


 三度みたび呟かれた蔑みに、俺は胸の奥で地団駄を踏んだ。

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