Act 3
それからというもの、全てが苦痛だった。
いままで諦めていたいじめが憎たらしくなり、親にも刃向かえるようになった。だがそれが更なる不運を呼んでしまったのだ。
今まではせいぜい水をかけられる程度だったのが、物を壊されたりノートを破かれるのは当たり前になってしまった。
そして、ついに限界が訪れた。
ようやく午前の授業が終わり、お弁当を食べようとカバンの中を漁ったがどうも見つからない。するとウェルディが笑いながら目の前に佇んだ。
「ようモップ。 今日はプレゼントがあるんだぜ!」
そう言って丁寧に包装された箱を渡された。だが手に取った瞬間、中で何かが動きだした。
「安心しろ。どうしても食べて欲しかったから、お前の弁当は捨てておいたぞ!」
にやけた顔を横目にリボンを取ってみた。すると中では浅黒いバッタが2匹飛び跳ねていた。
「どうだ新鮮だぞ? もちろん食うよな?」
僕の中の何かが音をたてて崩れた。
箱をウェルディに投げつけ、手に持っていたカバンを抱き抱えながら教室を出ようとした。
「おっと、そうはいかねぇ——っ!」
——なんでもいい。もしこれが犯罪だというのなら、喜んで罰を受けよう。
数時間前に水をかけられたカバンは思いのほか重く、彼の顔面に直撃した。その隙をつき、教室を飛び出した。
普段いじめている奴が廊下を走っているのだから、きっと驚いているだろう。先生たちも何が起きているかわからずにただ唖然とその様子を眺めているだけだった。
その足で学校の外まで飛び出し、駅まで走った。幸いというべきか、いじめに耐えるだけの体力は脚力に変わったようだ。そしてちょうどデイム行きの電車がホームに止まっていた。それに飛び乗ると、待っていたとばかりに電車は動き出し、忌むべき地から僕を遠ざけた。
いくつかの幸運に恵まれ、なんとかウォールダムの呪いから逃げ延びることができたのだ。
車内はあの日のようにほぼ人はいなく、残念ならがフルールもいなかった。
だが呪いはもう一つあった。
「なんで駅にいるの」とメールが届いた。母からだ。
「もううんざり。」
スマホで声を録音し、仕返しのように送り返してやった。そしてスマホの電源を切り、たまたま空いていた車窓から投げ捨てた。
ようやく肩の荷が降りたように感じ、深呼吸しながら椅子に腰掛けた。
さて、早速だが後悔している。スマホを投げてしまっては山の位置がわからない。いくらフルールと一緒に歩いたとはいえ、夜道だったし覚えようとすらしていなかった。
まぁ、いくら田舎だろうと手段はある程度ある。それに時間はいくらでもあるのだから、ゆっくり行こう。
車窓はすでに森を映していた。