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再び門を潜ると、フルールが待っていた。
「終わったかい。じゃぁ行こうかね。早くしないと冷めてしまうよ。」
そう言って今潜った門に進んでいった。だが不思議なことに、門を潜ると姿は消えてしまった。これが魔法族の常識なのか、それともここがおかしいのか、魔法に馴染みのない僕にはわからなかった。
後を追い門を潜ると、再び風は止んだ。
「ほら、こっちだよ。」
すでにフルールは遠くにいた。重いからと僕に持たせていた寸胴鍋も、軽々と持ち上げて。
そこから程なく、開けた場所に出た。すでに丸太の椅子が用意され、色々な種族の子供たちが座っていた。
「フルールおばあちゃん!」
一人がそういうと、一斉に人が集まってきた。子供だけじゃない。さまざまな年代のさまざまな種族が一挙に集まってきた。
「その人誰?」
小さい男の子がフルールに聞いていた。
「あぁ、ペランっていうんだ。今日からここで暮らす。仲良くしてやって。」
「わかった!」
無邪気な声が響き、賑やかだ。大人も子供も笑っている。僕が知らない、夢の世界。
「ペラン! ぼっとしてないでよそうの手伝っておくれ!」
フルールからお声がかかった。
鍋の蓋を開けると、さっきまで火にかけていたように沸騰していてとてもいい匂いを漂わせている。すると人々が徐々に皿を持ち始めた。キョトンとしていると、忘れていたとおたまを渡された。
よくわからないままよそっていくと、それと引き換えにかわるがわる挨拶をしていく。みんな本当に笑顔で、それでいて多種多様だ。
あっという間に列は終わり、最後の一人によそい終わった。すると今度はフルールが僕にシチューを手渡してくれた。
「さ、食べるよ。」
辺りを見渡すと、すでにみんな席についていた。
「ペラン、こっちだよ!」
名前を呼ばれた方に向かうと、手招きする少年がいた。
「ほら早く座って! みんな待ってる!」
急かされて座ると、みんなが一斉にいただきますと唱えた。
「僕はシルヴァン。一応エルフ族だよ。よろしくね。」
身を乗り出したかと思えば急にキスをされた。
急なことで驚いていると、彼はキョトンとした様子で見つめていた。
「——? あぁそうか! ここではキスは普通の挨拶なんだ。もちろん好きな人同士ですることもあるけどね。」
笑いながらもう一度僕にキスした後、シチューを食べ始めた。
スプーンを手に取りシチューをすくった。さっき切ったカボチャが浮いている。こぼさないように口へ含むと、ふんわりとした優しい味が広がった。
「そうだ、これからここに住むんでしょ? なら先に行っておかなきゃね。」
改めてスプーンを置き、こちらに向き直った。
「ここにはほとんどルールはないんだ。でも一つだけ、否定しないこと。相手がどんなふうでも否定しない。ほんとにそれだけだよ。だから服だって着なくてもいいし、五体満足じゃなくてもいい。嫌がることは——あまり良くは思われないかも。」
笑いながら、シルヴァンはまたシチューに意識を戻した。
「——多分初めて。こうやって誰かと賑やかに食事を取るなんて。」
また涙を流していた。
「涙だけじゃつまらないよ? 笑顔で楽しく生きなきゃ!」
抱き寄せられ、何回もキスをされた。最初は驚いていたのに、段々と気持ちよくなってくる。温もりに溺れてしまいそうだ。
「どう? 溺れちゃいそうでしょ。」
笑いながら涙を拭い、シチューを口に入れた。