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「さて、まずはその堅苦しい制服を脱ぎな!」
そういってパジャマを投げつけられた。広げてみると星柄の黄色いパジャマだった。
「着替えたらキッチンに来ておくれ。かぼちゃが切れないんだよ。」
若干笑いが込み上げてきた。
着替えてキッチンに行ってみると、ジャンプしながらかぼちゃと向かい合っているおばあちゃんがいた。横では大きな鍋が沸騰している。
「あぁやっときた! ほら早く!」
笑いながら腕を引かれた。でもいつもとは違う、優しい誘いに感じた。
かぼちゃを切り鍋に放り込んだり、さつまいもを洗ったり、まるで調理実習のように教えてもらいながらことは進んでいった。そのうち僕も楽しくなり、お互いに笑いながら料理をした。水が跳ねて顔にかかったのを笑ったり、できた料理を味見したり、どれも初めてだった。
そうしているうち、ふとあることが気になった。
「そういえば、どうして電話番号を?」
「そんなもんさね。」
鍋をかき混ぜながら淡々と口にした。
よく考えればだれかと並んで料理をすることなんて今まで一度もなかった。母と呼ぶべき人は日中仕事詰め。父は遠くで仕事をしていて家に帰れば不満を吐露する。それから逃げるように勉強をしても、それが仇となりいじめられた。調理実習だって周りは何もせず、僕だけが手を動かしていた。なんだか今までが馬鹿みたいに感じる。
「やっと泣いたかい。長かったねぇ。」
おばあちゃんが笑いながら言った。普通なら違和感を感じるのだろうが、今は何よりも嬉しく感じた。
「ずっと、その——いじめられてて……。家にも居場所がないし……。」
「もういいよ。全部知ってる。」
言葉が出ない。色々と言いたいことがあって、それが涙に変わる。堪え切れなくなって下を向くと、火を止めたおばあちゃんが僕を抱きしめた。
「えらい頑張ったねぇ。」
経験のない温もり。しおれた花のような手なのに、とても力強い。
もはや服が汚れるとか、涙を抑えるなんてことは考えられなくなっていた。
それからしばらくしてようやく僕が落ち着いた頃、寸胴鍋いっぱいに煮込んでいたかぼちゃシチューが出来上がった。
「そうだ、あとで山に持っていくから手伝っておくれ。」
今度は紫のパジャマに変わったおばあちゃんがそう言った。
「山って、クレスティア山ですか?」
「そうさ。楽しみに待っている子たちがいっぱいいるんだから、サボっちゃだめさね。」
言っている意味がよくわからなかった。授業で習う限りでは集落なんかはないはずだ。それにシーチューなら動物も食べないだろうし。
「ほら、いいから行くよ!」
今度はマントを投げられた。どうやらおばあちゃんは投げるのが好きらしい。
「えっいまから!」
「そうさ今からだよ! ほら、鍋持って!」
なんだかいいように使われている気がする。