4.だがしかし、宣伝である。
初手から投了図のような私の挨拶が終わると、栗山部長から皆に指示が出た。
「――いいか、今期我々の部署では新たな宣伝戦略として、『コストの掛からない宣伝』というものを企画することになった」
お金を費やさない宣伝? そんなのどうやるんだろう。
「人間、誰しも得意と不得意がある。例えば私は昔からサッカーをやっていて、社内フットサルチームでも監督を務めさせてもらっている。得意なのはサッカーだが、宣伝となるとこうだ」
ホワイトボードに簡単に図が書かれていく。
わぁ、部長ったら達筆だわ。なんて書いてあるんだろう。
「ユニフォームや横断幕、サッカーボールに社名や商品名を入れるのは過去既に行われている。しかし、これはコストが掛かっていることになる。だが、我が社の商品名を含んだ応援歌や掛け声はタダだ。分かるかな? 得意分野を最大限に活かしてこそ『コストの掛からない宣伝』となるわけだ」
なるほど、そういう意味でお金を掛けない宣伝ね。
あれっ、得意分野なんて私には無いんですけど!?
――それから私は自分に割り当てられた席に着いた。
「ねぇ、アンナ。さっきの企画は全員参加だって説明あったけど、何をやるつもり?」
「……わ、私に聴かないでよぉ」
しょぼくれる私に、一人の男性が近づいてきた。
「キミ、紀国安奈だね?」
シャツの上からでも一発で分かる、胸板の厚み。私よりも頭一つ分は大きいだろう高身長な男性。短い髪をツンツンに逆立て……ワックスで固めているのかな?
私は無言で頷くと、割とハンサムなマッチョさんがこう続けた。
「俺は『竹中 靖』だ。今は人事部の人間だが、元はこの宣伝部に所属していた。宜しく」
彼は手を伸ばして握手を求めてきたけど、私がおどおどしていたので、ムッとした表情で手を無理やり握ってきた。せ、セクハラじゃないの?
「握手くらいでセクハラだと思うなら訴えてもいいぞ」
こっ、心を読むタイプの人か!
「わ、私に何か……御用ですか?」
彼は紳士的に、目線を私に揃えるために中腰で話した。私の目はバタフライで泳いでいたけど。
「今回の異動について、俺なりに履歴書を再確認させてもらった。キミは趣味も特技も『将棋』と書いているが、棋力はどのくらいだ?」
棋力とは、将棋の強さの指標のことで、囲碁などにも用いられる。
段級位とレイティングという指標があるが、もちろん私はアマチュアなので――
「……公式なものはありません」
「そうなのか。それで、強いのか?」
「……強い部類に入ると思います」
「そうなのか。どのくらい強いんだ?」
あれっ、この人真剣だ。どうしよう、引かれちゃうかもしれないけど、ちゃんと伝わるかな。
「……ネット将棋で、プロにも勝ったことがあります」
ハッとしたような表情で彼は姿勢を正した。何? 何なの?
「――栗山健生部長から伝言だ。キミはネット将棋で新規アカウントを取得し、飽くまで一般人として日本一を目指すんだ。但し、ユーザーネームを我が社の商品名にして、だ」
は?