19.私と彼、変人である。
「よう、安奈」
どうみても彼だ。でもどうしてだろう、聴いてしまうのは。
「……靖さん?」
ちゃんと足も付いている。幽霊ではない。
「心配掛けてごめんな。でも、よくここが分かったな」
「靖さん……靖さんっ……!!」
私は根暗な女――のはずだった。
それなのに、人目も憚らずに彼の胸に飛び込んだ。
「痛アッ!!!」
「ひゃぁっ!?」
二人同時に飛び跳ねた。
あれ? 痛いって言った?
「靖さん、怪我してるの!?」
彼は胸を押さえて、無理に笑顔を作ろうとしてくれた。
「説明する暇がなかったからな。実は安奈に電話掛けたすぐ後で、車が歩道に飛び込んだ瞬間を見たんだ」
電信柱と接触して停止しているミニバンを彼が指さし、そのまま指をスライドしてファーストフード店の前で泣いている子供に向けた。
「そこの少年が車に気付いていないようだったから咄嗟に庇ったんだ。幸い、運転手も俺もたぶん骨折程度で済んだし、少年も怪我は無かったようだから惨事にはならなかったぜ」
えっ、こんな広範囲にガラスが飛び散っているのに本当に骨折だけで済んだの!?
「――でも、呼んでくれたんだろ?」
「えっ?」
大きな手は、私の頭を優しく撫でた。
「救急車」
「な、なんでそれを……」
胸が痛んでるんだよね。骨折してるんだよね。
そう思ったのに、彼はとても優しく私を引き寄せ――
ギュッと、抱きしめてくれた。
「――俺にも盤面が視えた。安奈が考えていることが分かったんだ」
私、今日何回泣くの?
「どうせ、病院には行かなきゃいけないだろうからな。安奈が呼んでくれて助かったよ」
それと、と付け加えて、私にだけ聴こえるように耳元で囁く。
「ランキング1位おめでとう。俺と付き合ってください」
――少年の母親と、ミニバンを運転していたおじさんが彼に頭を下げていた。
彼が人に好かれる存在だということを知った頃、救急車が到着した。
肋骨にヒビ。全治一か月。
あーあ、付き合うって、病院にってことじゃないわよね?
これじゃあ付き添いだわ。
本当に彼って困ったハンサムマッチョさんね!




