15.我無双、タケノコ派殲滅である。
――数日後。
「おっすー! 『キノコの山』ちゃーん!」
カチカチカチカチ……
「うおっ、凄い集中力。私に気付いてないわね」
カチカチカチカチ……
「よーし、それじゃ今日のおやつを置いていくぞー! 頑張れーっ!」
カチカチカチカチ……カチッ。
パソコンのモニターには勝利の二文字が浮かんだ。
「ふぅー。70連勝まで来たぁー。あっ、千春!?」
キョロキョロしてみたけど千春の姿は既になく、私のカーディガンだけが揺れた。
相変わらず根暗な私に声を掛けてくれるのは千春だけだが、今の私には目標がある。
ネット将棋『将棋バトルオンライン』でランキング1位を獲ることだ。
そして、靖さんと正式にお付き合いするためだ。
将棋しか取柄の無い根暗な私が、甘い恋愛なんてマジ無理な世界だよ。
どれほど過酷な約束をしてしまったんだ私は。
「……千春、おやつ……ありがと」
今日のおやつって言いながら、いつも置いて行くのは『キノコの山』と『タケノコの里』。
多分社内のどこかから貰ってきたものだろう。
片方の箱を選んで中身を取り出すと、つまんで口に頬張った。
「むぐむぐ……美味しい……」
やっぱり『タケノコの里』は美味しいなぁ。
チョコとビスケットのバランスが絶妙で、サクサク食べれちゃう。
『キノコの山』な私が『タケノコの里』を滅ぼしている気分になった。
「おぉ、なんだ、紀国はタケノコ派だったのか。わっはっは、私と同じだな」
「むぐぐ!?」
く、栗山部長!! いつの間に後ろに!?
タケノコ派って、私ただ食べてるだけよ!?
「将棋の調子はどうだ、話題の広告塔には成れそうか?」
「はっ、はひっ! 頑張っているであります!」
思わず声が裏返る。
部長は腕を組みながらパソコンのモニターを覗き込む。すると、想像以上に喜んでくれた。
「おぉ、ランキング5位!! 紀国、キミはそんなに強いのか!?」
あぁそうか、部長は将棋が趣味なんだっけ。以前、靖さんから聴いたわ。
『3分切れ負けルール』でのランキング5位だけど、それが凄いことだと分かる部長も凄いのよね。
「それに、ここ最近のキミは何だか元気そうだ。このままの調子で頑張ってくれたまえ」
「はひっ! 頑張るでありますっ!!」
ふぅー、怖かったあ。座っていた椅子を机の正面に戻す。
栗山部長が他の部署員を叱ってる所を見てしまって以来、なるべく彼の前では元気にするよう心掛けていた。
「――それと、紀国」
「はひぃっ!!」
もう去ったと思っていた上司がまだ後ろにいた時の恐怖!!
思わず立ち上がってしまった。
「あー……そのうちで良いんだが、キミが先生の将棋クラブを立ち上げてみないか」
将棋クラブ!? 何それ楽しそう!!
あ、でも私、教えるのは下手くそかも。
どうしよう、断るのも失礼だし、かと言って今は将棋に集中したいし。
「……広告効果が出たら、でも宜しいでしょうか」
うんうん、と頷く部長。
「よし、前向きに検討するからな! 紀国、期待しているぞ!」
上機嫌で去る部長を目で追った。
期待された……はっ!?
しまった、栗山部長自ら将棋クラブに入るつもりだ。
タケノコ派を殲滅せねば。
「……キノコ派だけの将棋クラブにしよう」




