14.この試練、彼の想いである。
聞き間違いでなければ、いま妹みたいと言った気がする。
喪女にとってそれはどう採点すれば良いのかしら。
目をぱちくりさせる私。
「えっと、俺には妹がいてさ――」
ここは思わず部屋を飛び出すシーン。
そう思ったのに、彼が続けた言葉が意外で――
「――5年前、交通事故でな。生きていれば今の安奈と同じ年齢だった」
私の頬を雫が伝った。
心を読める、そんな力は私には無い。
この胸の痛みは何なんだろう。
彼がそれを私に話してくれたことに意味があった。
彼の気持ちに寄り添い、泣いた。
「……うっ、うぅ……」
椅子を持ち、彼が席を立つ。
私の隣に移動して、肩を抱いてくれた。
「ごめんな、妹みたいだなんて言って。安奈の気持ちも考えずに言ってしまって」
何も言えない、声が出なかった。首を静かに、横に振るだけ。
――しばらく、彼の腕の中で泣いた。でも、泣きたいのは彼だったのかもしれない。
「少し、俺の話をしていいか?」
「……はい」
ギシッという椅子が軋む音だけがリビングに響いていた。
「俺はこれまでの人生、将棋が全てだった。物心がついた頃から爺さんと親父に叩き込まれてな。でも、俺の時代は将棋が強い奴が多すぎて、結局プロ棋士には成れなかった。25歳までは頑張ったが、爺さんも親父も病気で、妹も……みんな逝ってしまって。田舎のおふくろは元気だけどな」
コップの水を一気に飲み干して話を続ける。
私は彼の言葉の一つ一つを胸に刻み込むように聴いていた。
「安奈の強さは、ここ数年ネット将棋を見てきた俺が良く知っている。早指しといっても3切れ(3分切れ負けルール)はやってないんだろ? 3切れなら、プロに後れを取らないどころか、本気で日本一に成れると思ってる」
「……はい」
見つめ合う二人。棋士の眼をする靖さん。
「安奈は自分自身を奮い立たせる時は、厳しくするタイプか? 甘やかすタイプか?」
少し考えた。プライベートはお菓子のように甘い私だけれど、将棋に関してはいつでも自分に厳しく向き合ってきた。
そう、これが私の将棋愛なのよ。
「私は将棋に関しては自分に厳しくするタイプです」
彼は微笑んだ。そしてこう言った。
「――よし、安奈。俺はキミに告白する」
「ふえっ!?」
「もし、安奈がネット将棋でランキング1位になったら、俺と付き合ってくれないか」
こ、これが彼の将棋愛!?




