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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第三章 リトルウィッチ・ノクターン
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第十二話 捕らわれ少女は今日も幸せだ!⑥


リムが犯された。


「あああぁぁああああああぁああぁあああああぁあああああああぁぁあああああああああぁぁああああああぁああああああああああああああああああぁぁああああああああああぁああああぁあああああああああああぁああああッッ!」


嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。

間に合わなかったのか? 助けられなかったのか?

俺は……俺は……!





――数分後。


「本当ですから! まだな何もされていませんから!」

「そ、そうか……? 何だよかった……っていやよくはない!」


リムがまだ汚されていない事をやっと理解した俺は、ホッと安堵のため息を漏らした後すぐに首を横に振った。


「アンタ! リムに何しようとしてたんだ!?」


俺が目の前に居る女に指を差しそう問うと、その女性は俺の方に向き直りながら応えた。


「何って、リムちゃんと抱き合おうとしてたのよ?」

「はいアウトオオオォォッ!」


若干苛立ちを含んだ声音でとんでもない事を言った女に、俺は頭を掻きむしった。

この女、マジでそんな事しようとしてたのか……!?

ほんと間に合って良かった……。


「この野郎、よくも純粋なリムにディープな性癖植え付けようとしたな!」

「あなたねぇ、さっきといい今といい、何か勘違いしてるみたいね? 私はリムちゃんが寒そうにしていたから、抱きしめて暖めようとしただけよ?」

「しらばっくれるんじゃねえ! こんな場所でリムがすっぽんぽんな理由が他にあるわけねえだろ!」

「う、ううぅぅ……」


俺に裸のことを指摘され、リムは自分の身体を隠すように抱く。


「お前ふざけんなよ! よくも今までリムのことを怖がらせてくれたな! 絶対リムに何かやろうとしてただろ!?」

「いい加減にしなさい! この私を誰だと思ってるの!? 女の子を性的な目で見るわけないでしょう!」

「誰だと思ってるのって言われても知らねえよ! 性的な目で見てないって、じゃあリムの首に付いてる首輪は何だよ!? 絶対いやらしいヤツだよねアレ!?」

「それは、リムちゃんの魔力を封じ込める魔道具で……!」

「ソレで抵抗するリムを無力化したってか!? ますます許せねえ!」


やっぱりコイツぶっ殺してやろうか……!?

見たところ、この大広間には俺とリムとこの女しか居ない。

って事はこの女がボスか。

赤茶色の瞳をした高身長の女性……間違いない。


「ハア……話が進まないから一旦その話は置こう。で、誰だよアンタ……?」


俺が刀を拾い握り直しながら問う。

するとその女は少しだけ顔に笑みを作り。


「アダマス教団幹部、ジークリンデ・ワウリーク」

「テメエらかよ。しかもまーた幹部か……」


そんな気はしていたが、実際そう答えられ俺は顔を顰めた。


「そう言うあなたは、魔王ね?」

「おう。バルファスト魔王国六十四代目魔王、ツキシロリョータだ。ああそうだ……」


コイツに言っておきたいことがあったんだった。


「一応お礼言っとかなきゃな。あの時、冒険者ギルドで助けてくれてありがとな」

「あら、よく分かったわね?」

「なに、簡単な推理だ。フォルガント王国で十数人の子供達が一夜で攫われた。ってことは、それなりに誘拐犯の人数が必要だ。だけどアダマス教徒はフォルガント王国に追放されているから、下手に出入りできないし、見知らぬ奴らが夜の街を彷徨いていたら目立っちまう」


少しだけ目を見開いているジークリンデに、俺は今までの出来事を思い返すように言う。


「だからアンタはフォルガント王国の冒険者を洗脳し、誘拐犯として働かせた。冒険者なら、深夜に出歩いていてもさほど目立たない。丁度その時、冒険者が謎の失踪をしていたしな。色々と合点がいく。そんで俺を助けてくれたとき、イキリ斧太郎に洗脳魔法掛けたんだろ? 具体的な能力はまだ知らないけど、アレで納得したんだ」

「へぇ……」


俺の推理に、ジークリンデは俺を睨みながらも感心したように頷いた。

どうやら俺の考えは間違っていなかったようだ。


「しっかし、何が正義と光の神だか。国家転覆の次は少女誘拐って、やっぱお前ら邪教徒だろ?」


そして俺が挑発するようなニヒルな笑みを浮かべてそう言うと、ジークリンデはキョトンとした顔で。


「そうね」

「え? おま、え? そうね?」


アレ……?

コイツ何当たり前じゃないみたいな顔してるの……?

ってか、幹部なんだよね……?

もっとエドアルドみたいにカッとすると思ったんだけど……。

と、俺が呆気にとられていると、ジークリンデが呆れたように首を振った。


「ああ、そう言えばあなたエドアルドと会ってたわね? アイツ聖職者だから、正義だの魔族を滅ぼせだのうるさいのよ。真面目にアダマス神様を崇拝して、魔族を滅ぼそうとしてる幹部はソイツだけよ」

「ええ……?」

「あと、エドアルドは幹部の中で一番弱かったし、神神うるさかったから捕まって精々してるわ」

「アイツレオンと同じポジションだったのか……? ていうか酷いなおい!」


次から次へと出てくる敵の新事実に、俺は思わず困惑してしまった。

あのおっさん、敵の幹部の中でそんな扱いだったのかよ……。


「って、教団の幹部がそんなガバガバでいいのかよ……?」

「アダマス教団の幹部って強さや能力で決まってるからね。一応私達の目的って魔族を滅ぼす事だから。信仰心とか関係ないの」

「マジですか……」


うちの魔王軍四天王とタメ張れるぐらいにテキトーだなおい。

俺達、これからそんなテキトーな奴らと戦う羽目になるのか……?

嫌なんですけど!? もっと悪役なら悪役らしい執念とかあるでしょ!?

そんな奴らに魔族滅ぼされたらたまったもんじゃないよ!


「まあ取りあえず、一旦この話はお終いにしましょう」


呆気にとられている俺を一瞥すると、ジークリンデはそう言って俺の方に歩み寄ってきた。


「そうだな。まずはテメエをぶっ飛ばしてから後で色々聞くことにする、よッ!」


それに対し俺は刀を構えジークリンデに突っ込んでいき……!


「私のそばに近寄るんじゃないわよッ!」

「おわあッ!?」


そう言ってジークリンデが腕を振るうと、俺の足下に紐状の何かが飛んできた。

ソレを両足ジャンプで躱すと、足下からバチンと高い音が鳴り。


「チッ……いい反射神経じゃないの」


軽く舌打ちをしたジークリンデが腕を素早く引くと、その紐状の何かがジークリンデの元に戻っていく。

アレは鞭か。しかも何かヤバそうだな……。

ジークリンデが持っている鞭は、持ち手は普通なのだが肝心の縄の部分が淡いピンク色に光っていた。

何かの魔道武具だろうか? 

そのキツそうな表情といい容姿といい鞭といい、ドMさん達が狂喜乱舞しそうだ。


「リョータさん……!」


などとしょうもない事を考えていると、ジークリンデの背後からリムの不安そうな声が聞こえて来た。

まずはリムを何とかしないと。

いくら十歳の子供とは言え、裸だとどうしても目が行ってしまう。

いや、別に性的な目で見るわけじゃないんだけどね!?


「すうぅぅ……、ッ!」


俺は大きく息を吸うと、再びジークリンデに向かって駆け出した。


「ハァッ!」


それ対しジークリンデは鞭を振るうが、魔神眼を発動させた俺は鞭をギリギリ躱していく。

それに対しジークリンデは鞭を手足のように扱い俺に連撃を仕掛ける。


「いでッ……!」


鞭は殺傷力は低いものの攻撃スピードが尋常じゃない程早い。

いくら鞭の軌道が分かっていたとしても、俺の身体能力では全て躱すことが出来ない。

バチンと甲高い音を立てながら右足に当たった鞭攻撃に、思わず声を上げてしまった。

いってえ……メッチャいってえ……肉がえぐられたかと思った……!

いや、とりあえず今は隙を作らないと……!


「『フラッシュ』ッ!」

「まぶしっ……!?」


俺が痛みに耐えながら両手をかざし閃光魔法を放つ。

その強烈な光に、ジークリンデは目を塞いだ。


「リムッ!」

「リョータさん、眩しいです……!」


その隙に俺はジークリンデの横をすり抜けると、同じように光に目をやられゴシゴシ擦っているリムに駆け寄った。

そして俺はすぐに自分のパーカーとマントを脱ぎだす。


「リョリョリョ、リョータさんッ!? こんな時に何を……!?」

「絶対勘違いしてるよね!? ホラ、コレ着てろ!」

「あっ……ありがとうございます……」


赤面するリムに慌てて首を振りながらパーカーを投げ渡すと、リムはパーカーを抱きしめ顔を埋める。

……畜生、こんな時なのにドキッとした。


「キイイイィィ! 私のリムちゃんに何汚い物着せようとしてんのよ!」


すると後ろからジークリンデが地団駄を踏みながら俺を睨みつけた。


「失礼だなおい! ちゃんと洗濯しとるわ!」


ってか私のリムちゃんって何だよ!?

どいつもこいつもリムを独占しすぎだろ! 気持ちは分からなくはないけど!


「リム、お前魔法使えないんだよな? だったらここで大人しくしててくれ」

「は、はい……」


俺はパーカーを着終わったリムにそう言うと、ジークリンデに向き直る。

さてと、どう戦うもんか。

相手の武器は中距離型の鞭。

間合いを詰めたくてもそう簡単に近づけないだろう。

それに一番厄介なのは洗脳魔法だ。

コイツがイキリ斧太郎に洗脳魔法を掛けた時、何をしたのかまったく分からなかった。

どういう魔法なのか、どういう効果なのか、どういう条件で発動するのか。

それが分からない以上、どっちみち迂闊に近づけない。

……結構キツいな。


「何固まってるのかしらッ!」


自分の状況に苦い顔をしていた俺に、ジークリンデは容赦なく鞭を振り下ろす。

それを俺はサイドステップで躱したのだが。


「うッ!?」


地面に打ち込まれた鞭がビシッと音を立てながら切り返され、俺の頬を掠めた。

頬の皮膚が切れ、少量の血が噴き出す。

それでも俺は怯まずにジークリンデに突っ込んでいく。

そして俺はポシェットから投げナイフを二つ取り出す。


「『投擲』ッ!」


人に対して刃物をの投げつけるのは抵抗があるが、躊躇なんてしてられない。

俺は二つの内の一つの投げナイフをジークリンデに投げつける。


「ッ!」


しかしジークリンデはそのナイフを鞭で叩き落としてしまう。

だったら……!


「もういっちょ『投擲』ッ!」


俺は手首をしならせて、今度はナイフを回転させるように投げつけた。

しかし、空気を切り裂く音を立てるナイフはジークリンデの横を通り過ぎていった。


「ハハハ! どこを狙っているのかしら!?」

「…………」


挑発するように笑うジークリンデに対し、俺は何も言わず無言で攻撃を仕掛ける。

その攻撃を阻止しようと鞭を振り上げたジークリンデの後ろでは、先程投げたナイフが未だに回転していた。

そして回転するナイフは空中でカーブを描き、ジークリンデの背中に向かって飛んでいく。

投擲スキルはプロ野球選手さながらのコントロールで物を投げることが出来る。

ナイフをブーメランみたくすることなんて、造作も無いぜ!


「ッ!?」


しかし、ナイフが空を切る音に気が付いたジークリンデは、ナイフをギリギリで躱してしまう。

だがその間にジークリンデの懐に入った俺は、刀の背の部分で首を叩こうとして……!


――ジークリンデと目が合った。


「ぅ……ぁ、アレ……?」


その瞬間、俺の身体が動かなくなる。

な、何だコレ……。

ジークリンデを倒すチャンスなのに……リムを助けられるチャンスなのに……。

攻撃……したくない……。


「フフッ、ハハハハハハッ! アハハハハッ!」


固まる俺を、ジークリンデは蔑むように笑い飛ばした。


「リョ、リョータさん……?」


リムの心配する声が、何故か遠く聞こえる。


「残念だったわね! この私に近づこうなんて思ったからよ!」


なのにジークリンデ様のお声は、大きく聞こえる。

……!?

俺は……いま何て……!?

ジークリンデ……様……!?


「まさか……お前の能力って……」


身体に力が入らなくなり、俺は地面に膝を突きながら、ジークリンデを睨みつける。

そしてその瞬間、ジークリンデの洗脳魔法の正体が分かった。

何故コイツが洗脳しているのが男だけなのか、何故俺がジークリンデ様と思ってしまったのか。

何故こんなに、コイツが愛おしいのか。


「魅了か……!」


俺がそう呟くと、ジークリンデは自分の胸に手を置き、勝ち誇ったように言った。


「そうよ、私の能力は《魅了眼》! 自分の瞳を見た異性を魅了させ、傀儡にする能力よ!」


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