第十二話 捕らわれ少女は今日も幸せだ!④
「ふぅ……コレでひとまず片づいたな」
「あんたねぇ……」
「んだよ、殺してねえから大丈夫だろ」
「それにしたって、アレは無いわよ……」
この広間にいたアックスを始めとした男達を全滅させた後、ウンと伸びをする俺に対しリーンが呆れ気味に言ってきた。
更にこの広間に、何故か微妙な空気が流れている。
その理由はもちろん。
「ぁ……ぁ……!」
レオンのシャドウ・バインドで縛られ、顔を真っ青にして尻の穴を手で押さえているアックスの存在だ。
「「「…………」」」
そんなアックスを見下ろす男冒険者達は、何とも言えない表情で同様に尻を押さえている。
フッ。アックスよ、コレが千年殺しの力だ。
……しかしちょっとやり過ぎたか?
「ううん、流石に異世界でカンチョーはマズかったか……」
「今何か言ったか?」
「んにゃ別に。それよりさっさと行こうぜ」
ボソッと呟いた俺の言葉に首を傾げたレオンにそう返す。
しかし、結構奥の方までぶっ差しちゃったからな……。
他の奴らもアイツと同じ影で縛ってあるし、大惨事にならない事を祈ろう。
そう心の中で思いながら、俺達は早速広間を抜けた。
広間の奥の通路は一方通行になっていて、真正面ある曲がり角に、今まで見てきたのとは一回り大きな扉が見えた。
「多分アソコかな……」
俺はそう呟くと、後ろを歩くリーン達に静かにするようにジェスチャーした。
そして恐る恐る慎重に扉へと近づいていくと、それぞれ両面の壁に背を付け、俺達はまるで敵のアジトに突入する寸前の刑事のような態勢になった。
全員が息を潜め待機する中、俺は透視眼を発動させ扉の向こうを見てみる。
そこは先程の広間よりかは一回り小さな大部屋で、何台ものベッドが均等に並べられている。
その上では主に五、六さいぐらいの女の子達が不安そう面持ちで座っており、何やら話していた。
そして全員がパジャマ姿の事から、恐らく戦いの騒ぎで目覚めてしまったんだろう。
しかし、随分と綺麗な部屋だな……。
もっとこう、ぼろ布の敷き布団に蜘蛛の巣が張った天井ってイメージだったんだが。
(リョータ、どう?)
そんな事を思いながら見ていると、後ろからリーンが声を潜めて訊いてきた。
(ああ、ビンゴだ。見たところ中には男はいないな。あと、全員何ともなさそう)
(そう、よかった……)
俺が魔神眼を解除しながらそう返答すると、リーンはホッと胸を撫で下ろした。
知らない子達とは言え、孤児院の院長としてはこの子達の安全が分かって安心したのだろう。
俺は早速扉に近づき、小さくコンコンとノックする。
するとしばらく扉の奥が騒がしくなり、やがて扉が少しだけ開い……。
「――んがッ!?」
たと思ったら、突然扉が勢い良く開き、俺の顔面にクリーンヒットした。
「リョータ!?」
「うごおぉぉ……!」
扉にぶち当たった鼻を押さえて蹲る俺を見てリーンが困惑する。
畜生、何でこんな目に……!
孤児の時といい今といい、俺って子供が絡むと痛い目に遭う呪いでも掛かってんのか!?
そんな事を思っていると、扉を勢い良く開けた張本人と思われる女の子達が、俺達の前で涙目になって立っていた。
そしてその内の一人が口を開く。
「リムお姉ちゃんはどこなの……?」
「……はい?」
「リムお姉ちゃん、わたし達が起きた時どこにも居なかったの……。ねえ、リムお姉ちゃんは……?」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!」
唐突な女の子の発言に、俺は一旦待ったを掛ける。
ええっと、この子の言う事を整理すると……。
まず俺達のことを誘拐犯と間違えていて、この部屋に居たはずのリムが目が覚めたら居なかったと……んん!?
「えっ、ちょっと待って! リム居ないの!?」
「そ、そうだよ?」
この子達が今までの騒動で目が覚めたとしたら、リムも当然気が付いているはず。
あのリムだ、何が起きたか分からない中、この子達を置いて一人逃げるなんて事は絶対にあり得ない。
という事は、考えられるのは……。
「ヤバいな……」
「どうしたのだ?」
額から冷や汗が滲んできた俺の様子を見て、レオンが訊いてくる。
「多分、リムは敵のボスの所だ。この騒動に気が付いたボスが、リムを人質にしてるんだと思う……」
「マ、マズいわね……どうすんのよ?」
「そりゃあ助ける一択だろ。でも、この子達もどうにかしなきゃだし……」
この先ボスと戦うとなれば、当然人数が多い方がいいが、それだとこの子達を守る人数が少なくなり危険が及ぶ。
うむむと唸っていると、目の前の女の子が俺の顔を見ながら言った。
「おじさん達だぁれ?」
「おじ……さん……」
俺、十六だよ……?
そんなに老けた顔してたっけ……泣きそうなんだが……?
と、俺がショックを受けていると、リーンが女の子の頭を優しく撫でる。
「私達はリムの仲間で、あなた達を助けに来たの。もう大丈夫よ」
「助けに……? お姉ちゃん達がお家に帰してくれるの……?」
「おい、何で俺がおじさんでお前がお姉ちゃんなんだよ……? 同い年だろ……?」
「そんな事気にしてる場合じゃないでしょ。ほら、皆も怖がらなくていいのよ」
俺の言葉を遮りリーンが部屋の奥に居る女の子達に優しく呼び掛けると、女の子達はこちらに歩み寄ってきた。
「流石リーンママ。子供の扱いはお手の物ってか?」
「ママって言うんじゃないわよぶっ殺すわよ?」
「さーせん」
俺とリーンがそんなやり取りをしていると、女の子達が少しだけ嬉しそうな顔をした。
「リムお姉ちゃんの言ってた通りだ。きっと助けが来るから大丈夫だーって。だから怖がらなくていいよーって、ずっとわたし達に話してたもん」
「……そっか」
リム、怖い思いをしただろうに。
それでもこの三日間、この子達の面倒を見てたんだな。
凄いなアイツは……。
「おい、新手が来たぜッ!」
「ッ!」
怒鳴るようなヒューズの警告に、俺はバッと後ろを振り向く。
「子供達を絶対に渡すな!」
「奴らをぶち殺せッ!」
そこには、武器を持った男達がこちらに向かって走ってきていた。
「ヤベエ……まだあんなに居たのかよ……ッ!」
敵のボス、どんだけの数を洗脳してるんだ……!?
畜生、これからリムを助け出すってのに……!
そう、俺が唇を噛んでいた時たっだ。
「レオン……?」
「…………」
無言のレオンが男達の前に移動し立ち塞がった。
そしてチラとこちらを見ると、覚悟を決めたように言った。
「ここは我に任せて先に行け。こんな雑魚、我一人で十分……」
「おい、全員でレオンの援護しろ!」
「だ! てちょっ……!?」
俺がレオンの言葉を遮り全力でそう指示すると、冒険者達は武器を構えてレオンの前に出た。
「何故なのだリョータ! ここは我に任せろと言っただろう!」
「お前がとんでもない死亡フラグ立てたからだよ! 何お前、死ぬの!?」
地団駄を踏みながら反発するレオンに、俺は頭を掻きむしりながら口角泡を飛ばす。
「死ぬわけないだろう、大袈裟だな貴様は!」
「死亡フラグってのはある意味どんな呪いよりも強力なんだよ! いいか!? これから先、『ここは俺に任せて先に行け!』とか、『この戦いが終わったら結婚するんだ』とか、『こんな所に居られるか! 俺は戻るぞ!』とか言うんじゃないぞ!」
「何でそんな具体的なのだ!?」
ファンタジー世界において、死亡フラグは本当に怖い。
実際に、この前カインが『やったか!?』というリザレクションの詠唱を唱えた結果、見事エドアルドが煙の中から出てきたし。
「ああもうしゃーねえ! お前ら全員子供達を守りながらここを出ろ! 俺はリムを助けるから!」
「ちょっ、それ本気で言ってんの!?」
「しょうがねえだろ! 確かに俺一人じゃ何も出来ないかもしれないけど、背に腹はかえられない!」
俺の真剣な眼差しに、リーンが少し戸惑っていたが。
「……ああもう分かったわよ!」
「あんがとな! もし俺が殺されたら、毎日墓参り行ってくれよな!」
「その言葉が冗談じゃないから怖いのよ! ホラ、行くんだったらさっさと行きなさい!」
「おうっ!」
リーンのその言葉に背を押され、俺はそのまま曲がり角を曲がり通路を進んでいった。
大丈夫だ、アソコにはリーンが居るし、死亡フラグ口走ったけど深夜テンションのレオンも居る。
信じるぜ、お前ら――!
「ハッハッハ! さあ掛かってこい! 我の闇の力、思い知るが――ブフォッ!?」
「ああっ! ドヤ顔してるレオンの顔面に鉄球がー!」
……信じてるぜ、お前ら!




