第十二話 捕らわれ少女は今日も幸せだ!③
砦の中を進んでいく道中、武器を持った男達が襲いかかってくるが、リーンや深夜テンションのレオンを前に成せ統べなくやられていった。
そして他の冒険者達も活躍している中、俺一人だけ特に何もしていない。
だってしょうがないじゃん! 周りが強すぎるんだって!
まあしかし、順調に砦を進んでいけるのだからここは喜ぶべきなんだが……。
「リョータ、どうしたのよ?」
「いや別に!」
「あっそう。ソレより、何か敵の人数が多くなってきてない?」
そのリーンの言葉に俺が改めて前方を見てみると、確かにあの時より敵が多い。
「つまりこの先にリム達が居る可能性が高いって事だろ!」
「それなら、コイツら倒して進むだけ、ねッ!」
「「「ぬわあ!?」」」
リーンが腰の鞘から剣を抜きそのまま空を切ると、目の前の誘拐犯達が風圧で吹っ飛んだ。
うはぁ……久々に見たよそのチートっぷり。
リーンに俺を鍛えてくれって言ったけど、俺もこんな風になれるのかな?
ってか、その前に俺死んじゃうんじゃないかな!?
と思っている間に、俺達が今まで開けていた通路が開け、少しだけ大きな広間に出た。
「来たか、魔族共!」
「ここから先は絶対に通すな!」
そしてそこには、先程誘き出した奴らよりは少ないが、それでも数十人はいる男達が待ち構えていた。
「こ、この人数を俺達で相手すんのは少しばかりキツいか……?」
それより、この砦に入ってからずっと男しか見ていないな……。
と、その時。
「何だテメエ、また俺にボコられに来たのか? ああ?」
男達の集団の中から、聞き覚えのある声が聞こえた。
その声の主は、男達の集団を掻き分けるように俺達の前に出てくる。
ソイツの顔を見た瞬間、俺は少し口角を上げた。
やっぱりだ……。
やっぱり俺の考えは間違ってなかった……!
俺は刀を握り直し、目の前に居る大柄で背中に両手斧を背負った男に話し掛けた。
「よう、居ると思ったぜ。イキリ斧太郎」
「テメ……またその名前で呼びやがったな……」
俺の挑発にフォルガント王国の冒険者、イキリ斧太郎。
もといアックスの額に青筋が立った。
「リョータはコイツと知り合いなのか?」
「さあ? 誰アイツ……」
後ろでレオンとリーンがヒソヒソと話しているのを聞きながら、俺はアックスに吐き捨てるように言った。
「評判評判言ってた奴が何操られちゃってんだよ。それより、テメエがリムをぶん殴ろうとした事。あと、俺の顔殴った事忘れてねえからな?」
「あ、あの怪我、転んでぶつけたと言っていなかったか!? というか、リムを殴ろうとした!?」
「ハア……やっぱりね。あの痣、どう見たって殴られて出来たモノなのに」
おっと、うっかりバラしちゃったぜ。
リーンには流石に見破られてたみたいだけど。
「まあいいや。取りあえず、お前もその周りも洗脳を解いてやるよ」
「……調子に乗んなよクソガキ」
背中から両手斧を取り出し身構えるアックスを警戒しながら、俺は後ろに叫んだ。
「この場所にこれだけの人数が居るって事は、確実にこの先にリム達が居るって事だ! 気合い入れろよ、テメエら!」
「「「おおおおおおッ!」」」
その瞬間、アックスを始めとした男達が俺達に襲いかかってきた。
他の男達はリーンやレオン達に任せ、俺は一人アックスに突っ込んでいく。
それを見たアックスは両手斧を思いっ切り振り上げ、ソレと同時に俺は魔神眼を発動させる。
どんなゲームでも、両手斧は攻撃力が高い分隙が大きい。
つまり、当たらなければ何の問題無い!
アックスが振り上げた両手斧をそのまま俺に叩き付けようとし、ソレを見逃さなかった俺はサイドステップで躱そうとするが。
「フンッ!」
「おわあ!?」
地面に両手斧が叩き付けられた事によって衝撃波が発生し、砕かれた地面の欠片を巻き込み俺にぶつかってきた。
「くたばれッ!」
「ヤベッ!」
その衝撃波と欠片に一瞬空中で体勢を取られ、ソレをアックスは見逃さず今度は叩き付けた両手斧を切り上げてきた。
「ッの!」
「んんんんおおおおおおッ!」
「しまっ――わぎゃあああぁぁ!?」
その攻撃を俺はすかさず刀でガードしたが、空中では踏ん張りがきかずそのまま吹っ飛ばされてしまう。
畜生、イキってただけあって強いぞアイツ!
そんなことを考えながら、そのまま俺は人間ミサイルのごとく広間の上空を飛んでいき。
「死ねや狼野郎――んがッ!?」
「ウガッ!?」
「!? リョータが吹っ飛んできたぞ!?」
丁度ヒューズに攻撃を仕掛けようとしていた男と頭がゴッツンコ。
俺とその男はそのまま地面にぶっ倒れた。
「~~~~ッ!」
「あんた大丈夫なのかい!? ヤバそうな音がしたけど……!」
頭の脳天を押さえ悶絶する俺に、近くに居たエマが心配そうに声を掛けてきた。
「だ、大丈夫……だと……信じたい」
「そ、そうか。しかし、結果的に助かった。感謝する、魔王殿」
「お、おう……」
俺のミサイル頭突きに伸びてしまった男を見下ろしながら感謝を述べるクラインに、俺は片手で頭を押さえたまま親指を立てた。
「っと、次が来たぜ!」
「ああもう、まだ痛いけどやってやる!」
そのヒューズの警告に俺はヤケになって叫ぶと、立ち上がりざま掌を相手に向ける。
「『アクア・ブレス』ッ!」
「ブへッ!? コイツ小癪な……!」
「引くな! 所詮はただの水だ!」
と、思ったら違うんだなぁ……!
俺は水を撒き散らした範囲に味方がいないことを確認すると、そのまま水溜まりに手を漬け。
「『トラップ』、からの『スパーク・ボルト』ッ!」
「ウギャァ!?」
「ババババババッ!?」
水溜まりにトラップスキルを発動しそのまま電流を流すと、その場にいた七、八人の男達が感電する。
充分電流を流し込んだ後、俺は後方に向かって叫んだ。
「クライン、ガード!」
「承知した!」
そしてその場で構えたクラインの大盾の後ろに飛び込む寸前、俺は男達に手で作った銃を向けると。
「『イグニス・ショット』ッ!」
「ハッ、そんな小さな火球、喰らったとしても――!」
俺の人差し指から出た小さな火球は、そのまま俺を舐めていた男の方に真っ直ぐ飛んでいき。
「エクスプロージョン(仮)ッ!」
「どうって事なおぶああッ!?」
白い水蒸気の爆発に巻き込まれて、その場にいた奴らもろとも吹っ飛んでいった。
「へっ! 戦闘中にそんな事言う奴は、大概ロクな目に遭わないんだよ! 覚えとけバーカッ!」
「子供か!」
爆風が収まり、クラインの巨体から顔だけ出しあっかんべーする俺に、思わずと言った感じでヒューズがツッコんだ。
それはいいとして、さっきより随分敵が減ったな。
やっぱリーンとレオンがいてくれて助かった!
だけど一番の問題が……。
「ガハハハハハハッ! 魔族の分際でこのアックス様に勝とうなんて百年早いんだよ!」
「何だこの斧使い……強え……!」
「しかも両手斧の使い手の名前がアックスって……安直過ぎるだろ!」
あの冒険者にまで思わずツッコまれる、斧を使うために生まれてきたような名前のソイツ、アックスが広間の中央で大暴れしていた。
いくらアイツが強いとは言え、あまり人員を割けたくない。
「リーン! レオン! 俺達でアイツの相手すんぞ!」
「分かった!」
「フッ、我の闇の力、刮目するがいい! ってちょ!?」
「わーたからさっさと行くぞ!」
レオンの襟首を掴み走り出す俺より先に、リーンがアックスに向かって閃光のごとき突きを繰り出す。
「ハアッ!」
「ぐぅ……! このクソ女が……ぶっ殺す!」
「言ってなさい!」
そのリーンの凄まじい連撃にアックスが一歩後ろに退く。
そしてリーンに気を取られている隙に、俺はアックスの背後に回り込む。
「『スパーク・ボルト』ッ!」
「いで!?」
「ハッ! この前のお返しだ!」
そして俺が電撃を纏わせた拳をアックスの横っ面に入れると、僅かだがアックスの身体がグラつく。
「やあッ!」
「ゴッファ!?」
その隙を見逃さなかったリーンがアックスの土手っ腹に回し蹴りを繰り出す。
決まった……!
腹にめり込んだ蹴りにアックスが苦しそうな声を上げたのだが。
「クソがあああああああああああああああああああッ!」
アックスが叫び、振り向きざま俺の首めがけて両手斧を振った。
「ヤバ、死――」
と言い終わる前に、俺の身体が落ちるような感覚がした後、視界が一瞬で黒く染まった。
――ああ、俺死んだのかな……。
畜生……。
まだリムの顔を見てないのに……ここで終わりかよ……畜生……!
……ん? ちょっと待て?
この感覚、前にもあったような……。
ああそうだ、ブラックドラゴンに押し潰されそうになった時……!
それに気が付いた瞬間、俺は自分の身体が上下逆だという事に気が付いた。
そして俺の足首に不自然な感覚を感じ、見下ろしてみるとそこには。
『レオンッ!』
『まったく貴様という奴は……!』
俺の足首を引っ張り、影の中に引きずり込んだレオンが呆れ笑いを浮かべていた。
『危なかったぁ……ほんと、マジで死んだかと思った……』
『本当にギリギリだったんだぞ』
『そっか。レオン、マジありがとうな』
『……フンッ』
おっと? 何その反応?
照れてんの? 照れてんのかコイツ?
コイツ、やっぱリーンよりツンデレなのかぁ?
俺がそう、そっぽを向いたレオンをニヤニヤしながら見ていたその時だった。
「な、何だ!? アイツどこに消えたんだ!?」
上の方から声が聞こえ見上げてみると、そこには黒い空間の中に様々な形をした白い光が点々と浮いていた。
そして俺の真下……いや真上にある光の中に見えたのは……尻!?
『ってああそうか、この光全部、アイツらの影から見える外の明かりなのか……』
『そうだ。アソコから影の中を行き来するのだ。まあ、今はあの斧使いの影に入っているため、影どうしが繋がっていない限り他の影に移動できないがな』
レオンの解説に、俺は感心したように頷く。
やっぱ影の能力って強いし便利だしかっけえなぁ……!
『って、悠長に話してる場合じゃねえな。アイツを倒さないと!』
『しかしどうする? あやつはかなり頑丈な身体をしている。我らの攻撃では一撃で仕留められんぞ?』
『そうだな……うん、いい手がある』
『……オイ、顔がゲスになっているぞ』
光の中から見えるアックスの尻を見ながらそう言った俺に、レオンがため息交じりに言う。
『で、どんな手だ?』
『それはなぁ……うっひっひっひ……』
――レオンに作戦を話した後。
『ほ、本当にゲスの手だな!?』
『へっ! 勝ちゃあいいんだよ勝ちゃあ!』
俺の足を掴んで支えながら不満そうに言うレオンに、俺は開き直ってそう返した。
『それじゃあ、行くぞレオン!」
『しょうがない、コレもリム達の為だ!』
俺の合図に、レオンは影の中を猛スピードで進んでいった。
そして俺達が目指している影の出入り口には、
「ま、まあいい! アイツは後で殺すとして……まずはお前からだ女!」
「あっそう」
無防備なアックスの尻が。
そして影の中から飛び出す寸前、俺は手を握り合わせ両手の人差し指だけを突き立てる。
そう、コレは日本男子なら誰でも知ってる必殺技。
よく小中学生がおふざけでやろうとするが、下手すれば死んでしまうと言われている禁忌の技。
その名も――!
「千年殺し~~~~っ!」
「――あ゛」
俺がアックスの尻の穴に人差し指をぶっ差した瞬間、辺りがシンと静まり返った。
「えっ、ちょ……」
いきなり影から飛び出してきた俺の攻撃方法に、リーンが絶句する。
そして数秒間沈黙が流れ、アックスは両手斧を取り落とすと、そのまま仰向けにぶっ倒れた。




