第十一話 誘拐犯探しは今日も鬱屈だ!③
ジータのテレポートでフォルガント王国に向かった俺は、早速リムの捜索を行った。
まず、俺が一番最初に向かった先は商業ギルドだ。
バルファストとフォルガント王国の交易は、主にこの商業ギルドが担っている。
もしかしたら、何か情報があるかもしれない。
そう思って俺は商業ギルドの受付嬢にリムの行方を捜している事や誘拐犯の事を除いて事情を説明したのだが。
「申し訳ございません、三日前にバルファストに向かったという馬車の情報はこちらにはございません」
「そうですか……」
「はい。バルファスト魔王国へ交易商が派遣されるのは、あと二日程でして」
「分かりました。わざわざありがとうございます」
カウンターの奥から資料を抱えて戻ってきたギルドの受付嬢に深く頭を下げると、俺は商業ギルドを出た。
そして次の目的地に向かう道すがら、先程の受付嬢の言葉を思い返す。
あの馬車の情報が商業ギルドに無かった。つまり、あの馬車は誰かの個人持ちという可能性が高いな。
だから商業ギルドとあの馬車は、今の所関係が無いということだ。
しかし、まったくとは言い切れない。
もしかしたら、誘拐犯がバルファストに向かうとき申請していなかっただけかもしれないし、本当に商業ギルドの交易商が誘拐犯だという可能性も捨てきれない。
ううん……まだ情報が足りないな……。
「あっ」
俺は顎に手を当てボソボソ呟きながら歩いていると、見たことのある通りに出た。
俺から見てその通りの右側にはいくつか露店が出ているが、左側には巨大な白レンガの建物が。
「うわぁ……」
俺はフォルガント王国冒険者ギルド本部本館と看板に書かれたソレを見て全力で顔を顰める。
最悪だ……また来ちまったよ……。
あのイキリ斧太郎のせいで俺はリムに嫌われた。
もうアイツと関わりたくねえ。ってかここの冒険者全員と関わりたくねえ。
さっさと行こう。
俺はそう思い、早足でギルドの前を通ろうとしたのだが。
「ん?」
ふいに俺は足を止め、ギルドの前で立ち止まった。
そしてギルドの入り口を見つめながら、思った事をポロッと口に出す。
「アレ……? 何か……ギルド静かすぎないか?」
俺がリムと一緒に来たときは、まるでライブ会場かと言わんばかりの喧噪がここからでも聞こえたのだが、今ではシンと静まり返っている。
どうしたんだろう……気になるな。
俺はその場で数秒悩むと、ギルドの入り口に向かって行った。
そして入り口から中を覗き込んでみる。
ギルドの中には確かに冒険者がいたが、この前とは遙かに人数が少なくなっていた。
この前は冒険者達が掲示板の前や受付に所狭しと居たのに、今ではもぬけの殻と言っても過言では無い。
しかも、数十人だがギルドの中に居る冒険者の殆どが何故か女性だ。
なんだ、イキリ斧太郎達はどこに居るんだ……?
と、俺が辺りを見渡していたときだった。
「ねえねえ」
「ッ!?」
唐突に後ろから話し掛けられ、俺は拳を固めバッと振り向く。
「ああ待って! 別に絡もうとしてる訳じゃないから!」
そんな俺を見て、俺に声を掛けたであろう女性が慌てて手を突き出した。
「ああそうなんスか……すいません」
「いや、いいよ。アンタこの前アックスにぶん殴られた人でしょ? 警戒するのも無理ないよ」
「は、はぁ……ってかアックス? あの斧担いだアイツ、名前アックスって言うの? 何ソレ、アイツ名前安直すぎるだろ……」
「そうそう! アタシもずっとそう思ってるの! まあ、本人の目の前では言えないんだけどね!」
俺の素直な感想に、その女性は凄く嬉しそうに頷いた。
ってか、いきなりなんだぁこの人。
悪い奴……じゃなさそうだけど……。
「ああ、いきなりにゴメンね! アタシはエミリーって言うの」
俺が怪訝に思っているのを察したのか、その女性はハッとして、自分の名前を名乗った。
歳は俺とあまり変わりなさそうな、この荒くれ者が集うギルドには似合わない、腰に剣を携さえている青髪の女の子だ。
「ああ、どうも。俺は……」
と、自己紹介しようとしたのだが、俺は一瞬言葉に詰まった。
この子も流石に見ただけでは俺を魔王だと思っていないだろうが、一応この国にも魔王ツキシロリョータの名は知れられている。
ここで俺の名前を出すのはマズいな……。
何か、いい偽名はないだろうか。
月城亮太……月城……月と城……。
「あー、俺は…………ム、ムーン! ムーン・キャッスルだ……! よ、宜しく……」
「うん、宜しくね、ムーン!」
俺は咄嗟に思いついた偽名を名乗ると、エミリーは笑顔で頷いた。
ってか、自分で名乗っておいてなんだけど、ムーン・キャッスルって何だよ!?
月城ってを苗字を英語に直訳しただけじゃねえか! センス無さ過ぎだろ、俺!
などと心の中で後悔している事も知らず、エミリーは俺をマジマジ見てくる。
「ムーンさ、あの時妹ちゃんを助けようとわざとアックスに殴られたでしょ? ゴメンね、あの時助けてあげられなくて」
「ああいいよ。あの時アイツをここに連れてきた俺も悪いし」
「そっか。それで、今日は何しにここに来たの? 改めて冒険者登録?」
「いや、俺は別のギルドでもう登録してあるから。あの時は、ちょっと他所の国の冒険者ギルドを見てみたかっただけでな」
「そうなんだ。それじゃあ何で来たの?」
エミリーのその質問に、俺はギルドを見渡しながら応える。
「いや、たまたまここを通りかかったときに、妙に静かだなって思って」
「!」
「で、実際見てみたらこんな感じでさ。何かあったのか?」
「そうだね……折角だから座って話そうよ」
「あー……うん。分かった」
今度は俺が質問すると、エミリーは少し悩んだ後、スカスカのテーブル席を親指で差しながら返した。
一瞬リムを探している最中だから断ろうと思ったのだが、ここで断るのは申し訳ないし、イキリ斧太郎達の事も多少は気になる。
「すいませ~ん、マイルドエール二つ下さ~い!」
俺達がテーブルを挟んで向かい合って座ると、エミリーが手を上げて注文する。
注文した物の名前で分かる。この子、甘口なのね。
「それで、何で今日は殆ど誰も居ないかって言うとね……」
「言うと……?」
答えを溜めて言うエミリーに、俺は思わず身を少し乗り出して……。
「実は、アタシも分からないんだよ!」
「いや分からないんかい!」
二パーと笑いながら応えたエミリーに、俺は定番のツッコミで返す。
「アハハ、いいツッコミ! 話を戻すけど、何でこんなに皆がいなくなったのか、思い当たる理由も分からないんだ……ああ、どうも~」
エミリーはテーブルに肘を突きながらそう言い、ジョッキを運んできたお姉さんに軽くお礼をすると早速ソレを飲み始める。
「でも、理由も無くいきなりあんな数の冒険者が一気に居なくなるか?」
「……プハァ! ああ、実はね、今日一気に消えたわけじゃないんだ」
「と言うと?」
俺が首を傾げて言うと、ジョッキを置いたエミリーは少し顔を引き締めて応えた。
「実は、ここ数日前から段々冒険者の数が減っていってたんだ」
「数日前から?」
「そう、ムーンがここに来る前からちょっとずつだけどね。しかも、全員が男冒険者で、消えた冒険者とは連絡が全然取れないみたいなんだ」
「何ソレこっわ……消えていく理由も分からずにあの数の冒険者が消えていってるって……!」
「だよね。だからアタシも個人的に調べているんだけど、全然情報が見つからなくって……ハァ~」
肩を落とし深い溜め息を着くエミリーを見ながら、俺は腕を組む。
今のとこ、リムの誘拐とは関係なさそうな話だけど……でも気になるな。
一応この話も念頭に入れておこう。
俺はそう思いながら、目の前に置かれたジョッキを持つと一口呷――。
「ッ!? ケッホゲホッ! 何コレ、甘すぎない!?」
何だコレ、まるで砂糖とガムシロップと蜂蜜を混ぜたような甘ったるさだ……!
思わず咳き込む俺を見ながら、エミリーは自分のマイルドエールをグビグビ飲み、笑顔で応えた。
「だってマイルドエールだもん。甘いは正義!」
「確かに俺もそう思うけど、これは流石に甘過ぎ!」
――そのマイルドエールのせいで、この後エミリーと分かれた後も、しばらく俺の口の中が甘いままだった。




