第十一話 誘拐犯探しは今日も鬱屈だ!②
俺達は魔王城に戻り、正門前で待っていたレイナ達をとりあえず中に迎え入れた。
どうやらコイツらは、フォルガント王の書状を俺に手渡すために来ていたようで、その後はすぐにモンスター討伐に向かうとのこと。
そしてレイナ達に、今までの事態を事細かく説明すると。
「な、何だってええええええええええええええええええええええええッッ!?!?!?」
魔王の間に、ジータの耳鳴りがするほどの叫び声が響いた。
「ままままま魔王君っ、リムちゃんが何者かに攫われたってほほほ、本当なのかいッ!?」
「そ、そう言ってんじゃん! って止めろ苦しい……襟掴むな……!」
「ジ、ジータちゃん、落ち着いて! 魔王さんの顔が青くなってきてるよ……!」
「落ち着いてられるかあああああああああああああああああああああッ!!」
「ギャアアアアアァァ!?」
レイナの注意も聞かず、ジータは俺の襟を掴むともの首がもげそうなほどの凄い勢いで揺らしてくる。
「エ、エルゼちゃん!」
「お、おう! コラ、ジータ落ち着け! 魔王が白目剥いてんだろ!」
「リムちゃんは!? リムちゃんは大丈夫なのかい!?」
レイナの指示にエルゼは羽交い締めをして、脳がシェイクされて死にかけている俺からジータを引き剥がすが、それでも構わずジータはジタバタして暴れる。
「ゼエ……ハア……お、俺もリムが今どんな状況なのか知らない……今分かる事は、リムの手掛かりはフォルガント王国にあるかもって事だけだ」
「そ、それじゃあ、今すぐボクのテレポートで戻って、捜索依頼を出して貰おう!」
「そうですね。その方がリムの手掛かりを見つけるのも早くなりますし」
「……いや、ダメだ」
俺が呼吸を整え立ち上がりながら言うと、ジータが身を乗り出して提案をする。
その提案にハイデルも頷いたのだが、俺は首を横に振る。
「ええ!? な、何で!? 君、リムちゃんの事が心配じゃないの!?」
「だからこそだよ」
キッパリと否定した俺にジータが食って掛かるが、頭を掻きながらそう返す。
すると、後ろの方で話の成り行きを見ていたリーンが話に入ってきた。
「リョータの言う事は正しいわ。その誘拐犯はもしかしたらフォルガント王国を拠点にしているのかもしれない。国を挙げての捜索をしていたら、それに感づかれて更に行方を眩ますかもしれないもの」
「な、なるほど……ボクとしたことが、考えが浅かったよ……」
リーンに説明に、ジータは後悔したように肩を落とす。
「だけど、ジータの言う通り一刻も早くリムを助けるのが第一だ。だから手分けして……って言いたいとこだけど、リムの行方捜しは俺がやる」
「何故だ?」
首を傾げて怪訝な表情を見せるレオンに、俺は全員の顔を見渡しながら言う。
「まずお前らは魔族だ。もう既にフォルガントと同盟結んでるって言っても、やっぱ街じゃ魔族は目立っちまう。そんで勇者一行も、フォルガントじゃ顔も知らない者は居ない程の有名人なんだろ? さっきも言ったけど、相手に感ずかれた時点で終わりだ。それだったら俺がやった方がいいだろ。こんな見た目だ、俺が魔界の住人、ましてや魔王なんて誰も思わないだろ」
「な、成程……」
……しかし、本当に何が目的でアイツらはリムを攫ったんだろう?
一番最悪な可能性は、アダマス教団による犯行。
アイツらは正義と名乗っとけば何をしても許されるなんて思ってそうな頭がハッピーセットの集団。
そう思うと、更に最悪な事態を考えてしまう。
もしも、あの小さく幼いリムに対して、ゲスな考えを持つ奴がいたら――。
『いやぁ……や、止めて、止めて下さぃ……! ママ……リョータさん……助けてぇ……!』
――そんな事は絶対にさせないッ! させてたまるかッッ!
俺は左頬に張ってあった湿布をベリッと剥がし、気合い入れに両頬を叩く。
「……さっきから気になってたですが、魔王の左頬はどうしたです? 何か青痣になってるですけど……」
「三日前に転んでぶつけたらしいけど……」
そんなフィアとローズの会話を聞き流しながら、俺はどこかに捕まっているであろうリムに心の中で叫ぶ。
上司として! 年上として! お兄ちゃんとしてッ!
必ず、リムの行方を突き止めてやる――!
「――……何の冗談のですか?」
私を攫った人達のアジトである廃砦に連れられてから一時間ちょっと。
私は目の前に立つ一人の女性を睨みつけながら問う。
「フフッ……冗談なんかじゃないわよ」
しかしその女性はそう言って、私の事を微笑みながら見つめる。
先程、この誘拐犯の首領だと思われる女性と初対面した広間から、私はとある個室に移動された。
この部屋には私とその女性しかいない。
「もう、何で冗談なんて言うの? コレでも真剣なのよ、私」
「何が真剣ですかぁ! 私にこんな……こんな……!」
何故か悲しそうに目を伏せる女性を、私は更に睨みつける。
そしてプルプルと身体を震わしていた私は、真横に立て掛けられている鏡に映る自分を見ながら叫んだ。
「――こんな格好をさせてッ!」
鏡に映る私は、猫耳メイドにされていた。
「もうっ、涙目になってる猫耳のリムちゃん、可愛い過ぎぃ!」
「止めて下さい! 恥ずかし過ぎて死にそうです!」
そんな私を見ながら、女性は飴のようにベタついた声音で私を見渡す。
その視線に耐えきれず、私は自分の身体を抱く。
ううぅぅ……何でこんな事になっちゃったんだろう……?
急に抱きつかれて、訳の分からないままこの部屋に連れてこられたと思ったら、何故かその女性にこの猫耳カチューシャとメイド服を着るように強要されて……。
何だろう、この人凄く怖い……。
「話を戻しますけど、あなたですよね? 私を攫うように命令した人は」
「攫うなんて人聞きの悪いこと言わないでよ~。それより次は、この衣装なんてどう?」
「話を聞いて下さい! それと、この首輪は一体何なんですか!?」
私質問を聞き流し、クローゼットから空色のドレスを手に取る女性に訊くと、女性はニコニコした笑みで応えた。
「それはね、『封魔の首輪』っていう魔道具よ。この首輪は見に付けた人間の魔力を抑える力があるの」
「何でそんな物私に付けるんですか!」
「だって、コレを付けないとリムちゃん暴れるでしょ?」
「うう……」
「大丈夫よ、人体には何も影響は無いわ。それに、首輪を付けたリムちゃんっていうのも……フフフ」
「ヒッ……」
その私を見つめる女性の赤茶色の瞳が光り、私は思わず身を引いてしまう。
そんな私を見ながら空色のドレスをハンガーから外す女性は、ニコニコしながら言う。
「こんな物寂しい廃砦だけど、もうすぐたくさんのお友達が来るから、寂しい想いなんてしなくて済むわ」
「た、たくさんのお友達……?」
言っている意味がよく分からず、私はその女性を訝しみながら訊いた。
「あなたは一体何者なんですか……?」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったわね」
するとその女性は私の方にクルリと振り返り、瞳を細めながら応えた。
「私はアダマス教団幹部、ジークリンデ・ワウリークよ。宜しくね、魔王軍四天王、リム・トリエルちゃん♪」




