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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第三章 リトルウィッチ・ノクターン
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第十話 魔女っ子は今日も不機嫌だ!⑦


「何で逃げちゃったんだろう……」


冒険者ギルドを飛び出した私は、人気の無い小さな公園のベンチに座り、深いため息をついていた。

……バカだな、私。

あの日の事をずっと後悔は私だけだと思ってた。

だけどリョータさんも同じ事で、しかも私なんかよりもずっと後悔してて。

その事を知って、何だか凄く恥ずかしくなって、申し訳なくって……。


「子供だなぁ、私……」


私がそう呟き、もう一度ため息をついたその時だった。


――ゴトン、ゴトン。


「? 何の音だろう?」


遠くから聞こえた音にふと視線を上げる。

この音は……馬車……?

私はベンチから降り、馬車の音がする方に向かってみる。

公園から出てすぐの街道に、一台の荷台がゆっくり進んでいた。

アレ……? こんな荷台、この国にあったっけ?

確かにバルファストには荷台もいくつかあるが、こんな大きい荷台は見たことがない。

そう不思議に思っていると、私の前で荷台が止まり、馬を操縦していた人間の男の人が降りてきた。


「え? え?」

「ああ、驚かせてすまないね。私はフォルガント王国の交易商の者なんだ。実はとある店に商品を卸しに行きたいんだが、道が分からなくてね」

「あ、ああ! そうでしたか!」


何だフォルガント王国の人か……。

そっか、そう言えばこの前、もうすぐフォルガントの交易商の人達が来るって聞いたな。


「ええっと、私でよければ案内しますよ?」

「本当かい? いやぁ悪いね」


私がそう言うと、男の人は頭を掻きながら笑う。

せめてこれくらいは、この国に貢献しなくっちゃ!


「それで、どこですか?」

「ああ、ここなんだけどね……」


私は荷台に近づき、男の人が広げた地図を見てみる。


「……アレ?」

「どうかしたのかい?」

「い、いえ! ええっと、その場所ならすぐソコですよ。付いてきて下さい」

「ありがとうね、お嬢ちゃん」


思わず声を出してしまった私に、男の人は不思議そうに訊いてくる。

私は何でも無いと首を横に振ると、荷台の先頭に立って歩き出した。

でもおかしいな。

あの地図で書かれていた場所、確か何にも無い小さな路地だったはず……お店なんてあったっけ?

もしかしたら、交易のために新しく出来たのかも。


「ここですよ」


などと思っている間にも、私達は目的の小さな路地に着いた。

そして私は薄暗い路地の奥を注意深く覗いてみる。

……うん、やっぱりだ。

やっぱりお店なんてどこにも見当たらない。


「あの、もしかしたらその地図間違ってるのかも……」


私がそう、後ろに立っているであろう男に人に話し掛けようとした時――。


――ガチャン。


……え?


不意に近くから聞こえた金属音に、私は反応が遅れてしまった。

何だろう……首元が冷たい……?

私は恐る恐る自分の喉元を触ってみる。


「!? な、何コレ……首輪……!?」


私の首に、大きな鉄の首輪が着けられていた。


「な、何なんですかコレ!?」

「…………」


私が慌ててバッと振り返り言うと、男の人は先程のような柔和な笑みから一変、不気味なほど無表情になってる。

そして、そのボンヤリとした瞳で私を見下ろしながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「ち、近寄らないで下さい! それ以上近づいたら、ま、魔法を放ちますよ……!?」

「…………」


私が手をかざして脅してみても、男の人は何も警戒する様子もない。

しょ、しょうがない、やっつけなきゃ!


「『エア・ブラストッ』――ッ!」


覚悟を決めて、私は男の人に風魔法を放つ。

無詠唱だから威力は小さいけど、この人を吹き飛ばすぐらいの力は……。


「ア、アレ……!?」


ま、魔法が出ない!?


「エ、『エア・ブラスト』ッ! 『バブル・ボム』ッ! 『ファイア・ボール』ッ!」


私がもう一度魔法を放とうとしても、別の魔法を試してみても、私の掌からは何も出ない。

も、もしかしてこの首輪のせいで!?


「……ッ」

「あっ、きゃあぁ!?」


と、私が首輪に気を取られていた隙に、男の人は私を羽交い締めにした。


「な、何するんですか!? 止めてくだ――ムウゥッ!?」


必死に抵抗するも、男の人に口を塞がれてしまい叫べない。

そもそもこんな人気の無い路地に助けてくれる人なんていない。


「ムグウッ! ムウゥゥウッ!」


嫌だ……嫌だ……!

怖いよ……助けて、誰か……!


「…………」

「……?」


私が心の中で助けを求めていると、不意に男の人の動きが止まった。

な、何……? どうしたの……?

と、私がギュッと瞑っていた目をうっすらと開けてみる。

男の人の視線の先には、路地の向こう側の出口に一人の影が立っていた。


「え……? ちょ、何……やってんの……」


リョ、リョータさんッ!


「ムゥ! ムゥッ!」


私がリョータさんの名前を呼ぼうとしても、男の人の手が塞いで呼べない。


「…………」

「お、おい……何やってんだよあんた……」

「…………」

「リ、リムに、何してるんだって、聞いてんだよ……ッ!」


リョータさんは明らかに動揺した様子で私と男の人を交互に見る。

そんなリョータさんを警戒するように、男の人は私を羽交い締めしたままジリジリと後ずさる。

そして……。


「あ、待てッ!」


男の人は私を抱えると荷台に向かって走り出した。

ど、どうしよう!?

リョータさんと私の距離じゃ到底間に合わない!

そう思ってる間にも、男の人はもう数歩で荷台に辿り着くほどの距離になり――。


「『投擲』ッ!」

「――ガッ!?」

「きゃあ!?」


リョータさんの声が聞こえたと思った瞬間、ゴツンという鈍い音と同時に私の身体が地面に落ちた。


「イテテ……」


私が頭を押さえて起き上がり男の人を見てみる。


「コレって……」


男の人の後頭部にはうっすらと赤い跡が残っていて、そのそばには握り拳ほどのレンガの欠片が転がっていた。

そっか、リョータさんの投擲スキルでこのレンガの欠片をぶつけたんだ。


「あっぶねー、たまたま転がってて良かった……」


私は後ろから聞こえたリョータさんの声にバッと振り向いた。

た、助かっ……た……。


「リム、大丈夫!? 誰その人!?」

「リョータさん後ろッ!」


心配したように駆け寄って来るリョータさんの真後ろを見つめながら、私は咄嗟に叫んだ。


「へ?」


リョータさんは私の声に弾かれるように振り向く。

リョータさんの後ろには、倒れている男の人の仲間だと思われる、黒いフードを被ったもう一人の男の人が……!


「――ァガ……!」


もう一人の男の人の手刀が、鈍い音とともにリョータさんの首に入る。

そしてリョータさんは崩れるように倒れた。


「リョータさん! リョータさんッ!」


私が必死に呼び掛けるも、リョータさんはピクリとも動かない。


「リョータさ――ムゥッ!」


もう一度呼び掛けようとした私の口を、いつの間にか起き上がった男の人が再び塞いだ。


「おい、大丈夫か?」

「ああ、何とかな。ったくこのガキ、舐めたことしやがって」

「ムゥーッ!」


黒いフードの男の人に、私の口を塞ぐ男の人は恨めしそうに気絶したリョータさんを見下ろしながらそう返す。

そして、私を素早い手つきで両手両足を縄で縛り、猿ぐつわを噛まさせると、荷台の後ろに放り込んだ。


「ムゥ!」

「行くぞ」

「ああ、コレもあのお方の為に……」


男の人達の会話とともに、私を乗せた荷台がゆっくりと進み出す。


「ムゥ! ムゥーッ!」


みんな……リョータさん……助けて下さい……!

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