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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第三章 リトルウィッチ・ノクターン
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第十話 魔女っ子は今日も不機嫌だ!⑥


「ハアァ……」


フォルガント王国から帰ってきてから三日後。

私は一人魔王の間を箒で掃きながら深いため息を付いた。

何でため息をついていたかと言うと、この前のあの出来事のせいだ。

リョータさんは私を冒険者から守ってくれた。

でも、リョータさんは私がずっと正しいと思っていた事を否定した。

……私のママは、私を産むまで冒険者をしていた。

今まで、ママは冒険者時代の沢山のことを私に訊かせてくれた。

だけど、どの話でも最後には同じ事を言う。

『いいリムちゃん。冒険者はね、確かにクエストを請けて報酬を貰う一つのお仕事。だけど、冒険者はただ報酬を貰うためにクエストに挑んでるんじゃないの。自分より弱い人を守る人達のことが、本当の冒険者のお仕事なのよ』

私はママのその言葉に、私もこうありたいと思っていた。

だからあの時、私はあの人に本当の事を言った。

冒険者は、人を助けることが何よりも大事な事なんだって。

だけど、あの人は私に怒鳴りつけた。

だけど、周りの冒険者達は私を嘲笑った。

だけど、リョータさんは。


『……リムが言っていた事は確かに正しい。でも、それは俺らの国の話だ。他所には他所のルールがあるんだ』


「ハァ……」」


私は箒を掃く手を止め、もう一度ため息をついたその時。


「ああリム、ここにいたんですか」

「ひゃあっ!?」


背後から突如として声を掛けられ、私は箒を取り落としそうになった。


「ハ、ハイデルさん」

「失礼しました、驚かせてしまいましたね」


私が振り向くと、そこにはここまで転移してきたのであろうハイデルさんが、申し訳なさそうに立っていた。


「い、いえ。それでその、私に何か?」

「実は、リムに頼みたいことがあるのです」

「頼み、ですか?」

「はい。実はこの書類を冒険者ギルドに届けて欲しいのです」


ハイデルさんが私に見せてきたのは、どうやら魔王城から出すギルドの資金について書いてある書類で、下の方にリョータさんの少しだけ歪んだサインが書かれていた。


「ええっと……他の人達は?」

「リーン様は孤児院、レオンは今日はヴァルヴァイア家の都合で、そしてローズはサキュバスの近況報告会議でおりません。かという私も、これから地獄の方へ出向けなければいけなくて……」


な、何てタイミングの悪い……。


「あ、あれ? その……リョータさんは……?」


私がそう訊くと、ハイデルさんはハアとため息を一つつき。


「執務室で書類仕事をしていたのを最後に、突然姿を消してしまいまして……」

「ええ!?」

「仕事は終わっていたようですが、どこに行ってしまったのやら……」

「まったくもう……」


ハイデルさんの説明に、私は深いため息をついた。

リョータさんったら、外に用事がある時は誰かに報告するって決まりなのに。


「しょーがないですね」

「申し訳ありません、リム」

「いえ、これくらい何てことないですよ」


私はハイデルさんから書類を受け取る。

もう、後でリョータさん会ったらちゃんと注意しておかなくっちゃ……。

…………。


「リム?」

「あっ、いえ、何でもないですっ! 行ってきます!」

「は、はあ」


ハイデルさんに心配そうに声を掛けられ、私は慌てて魔王の間を飛び出した。

……気まずいな。

あれから、私はリョータさんとあまり会話できていない。

本当は、リョータさんの言うことが正しいことは分かってる。

でも、申し訳なくって、恥ずかしくって、今まで謝れないでいた。

もし外で会ったら、ちゃんと謝らなくっちゃ……!





――今の時刻は夕方。

雨の時期も後半になり、雲の切れ間から夕日が差し込んでいる。


「もうすぐ夏だな……」


この時期が終わればすぐに暑い夏がやってくる。

そろそろ夏服を準備しなくちゃと思っていると、ギルドが見えてきた。


「…………」


しかし、ギルドが近づきにつれ、私の足は重くなっていく。

分かってる。

ここの人達は怖い人達じゃないって分かってる。

だけど、ギルドの前に着いたときは、足が動かなかった。


「もう、しっかりしなきゃ……!」


私はもう十歳、大人なんだ。

冒険者ギルドなんて、どうってこと――。


「リムちゃん? どうしたのこんな所で?」

「ひゃあああっ!?」


またしてもいきなり声を掛けられバッと振り向くと、そこにはギルドの受付のお姉さんが立っていた。


「ああ、ゴメンなさい! ビックリさせちゃった?」

「い、いえ! 大丈夫です」

「そ、そう? それで、今日はどうしたの?」

「そ、そうでした。 実はコレを届けに来たんです」

「ああそうだったんだ。ありがとう、リムちゃん」


私は抱えていた書類を受付のお姉さんに書類を渡すと、少しだけやり遂げたような気持ちになる。

そんな私に、受付のお姉さんはギルドの中を見ながら言った。


「てっきり私、魔王様をお迎えに来たのかと思っちゃった」

「え?」


受付のお姉さんの言葉に首を傾げて、私もギルドの中を覗いてみる。

この時間は冒険者の出入りが少なく、いつも賑やかなギルドの中は違和感を覚えるぐらい静かだ。

そんなギルドの奥に設置してある酒場のカウンターに、見慣れた紫色のマントが目に入った。


「リョ、リョータさん……!?」


そこには、樽ジョッキをチビチビと口につけているリョータさんと、カウンター越しにその接客をしているカミラさんの姿があった。

後ろ姿でよく見えないが、リョータさんの左頬には三日前にあの男の人に殴られた後を隠すように湿布が貼られている。


「じゃあ、私はこの書類確認してくるから」

「あっ、はい。ありがとうございました」


ギルドの中に入っていくお姉さんに、私は頭を下げる。

そしてもう一度リョータさんの後ろ姿を見て、ため息をついた。

リョータさんってば、まだこんな時間なのにお酒なんて飲んで。

もしかして、ずっとそこにいるのかな?


「まったくもう……」


私はもう一度ため息をつくと、ギルドの中に入っていった。

丁度その時、カミラさんがリョータさんに何かを告げると、カウンターの奥に姿を消す。

呆れた……。

ここは四天王として、魔王であるリョータさんに注意しなくっちゃ。

私が意を決して、リョータさんに声を掛けようとしたその時だった。


「……グスンッ」


……え?


突如として聞こえたその声に、私は思わず足を止めた。

ええっと……今のって……。

私が回りを確認してみても、今のここには私とリョータさんしかいない。

ソレを確認した上で、もう一度リョータさんの方を向いて耳を傾けてみた。


「ううぅぅ……えっぐ、グスンッ……」


!?!?!?!? えええええええええええええええッッ!?


私は声には出さなかったものの、心の中で思いっきり叫んでしまった。

ど、どうしてリョータさん泣いてるの!?

何か悲しいことがあったのかな!?

と、私が混乱していると、カウンターの奥からコツコツと足音が聞こえた。

私は思わず近くになった大きな柱の陰に隠れてしまった。


「魔王様、いつまでここにいるつもりですか?」

「ぅぅ……すびませんカミラざん……もう飲まないとやっでられないんでずよぉ……」

「と言っても、魔王様コレでまだ二杯目ですが……」

「俺にどっでは飲み過ぎなぐらいでずよ……ズズッ……」


柱の向こうから、リョータさんとカミラさんのそんな会話が聞こえてくる。


「ハアアァァ……俺、もう魔王止めようかな……。最近仕事は全然進まないし、いざ終わってここに寄ったら、ギルドの資金に関する書類忘れてきちゃうし……」


アレ、リョータさんが持って行くつもりだったんだ……。

だけど、そんなに落ち込むなんて、リョータさん本当にどうしちゃったんだろう?

そう、私が疑問に思っていると、カミラさんが呆れ気味に言った。


「リムちゃんに嫌われたかもしれないからって、泣きすぎだと思いますが……」


えっ?


「大問題なんですよ俺にとっては!」


リョータさんは樽ジョッキの持ち手を握り締めて反発する。

そして自分の腕に顔を埋めると、籠もった声で呟く。


「だってリム、最近俺の事避けてるみたいだし、どう見たって嫌われちゃってるでしょ……!」

「ほんとに何があったんですか? もしかして、その怪我に何か関係があったり?」

「ッ!」


カミラさんの言葉に、私の身体が少し跳ねてしまう。


「……まあ一応。フォルガントの冒険者にぶん殴られて。リーン達には転んでぶつけたと説明してますけどね」

「それ、私に言ってもいいんですか?」

「カミラさんなら大丈夫でしょ、口硬そうですし」

「まあ確かに、わざわざ口外するつもりはありませんが」

「ありがとうございます……ちょっとリムとは、そのせいで色々喧嘩しちゃって」


リョータさんはカミラさんに対して自嘲気味に応え、もう一度ため息をつく。

そっか……あんな怪我、普通に見れば殴られたとしか思えないのに、リーンさん達みんなその怪我について何も言ってなかった。


「正直、どっちが悪いかと言えば俺です。軽率にリムにギルドに連れ込んで、ぶん殴られた俺のために怒ってくれたのに怒鳴って、リムの考えを否定しちゃって……」

「それだけ聞くと、魔王様が酷い人のように聞こえますが……」

「引かないで下さい! 流石にそんなDV夫みたいな事はしてませんよ!」


リョータさんは樽ジョッキに入ったお酒を一気に飲み干し自嘲気味に言うと、カミラさんが若干引く。

それに対して必死に首を横に振ったリョータさんは、ため息をつくと視線を落とした。


「俺、リムには感謝してたんです。リムは常識知らずの俺に色んな事を教えてくれて……だからそのお礼に、一緒にフォルガントの街でも……って思ってたんですけどね……」


…………。


「でも……でも! やっぱあのイキリ斧太郎さ悪いんだあ! アイツせえいなけりゃ、今こーして悩むことさ無かったのに!」

「ま、魔王様、呂律ろれつが回らなくなってきましたよ?」

「そーだこってね、だすけリムに嫌われたんだ! あんのイキリ斧太郎、次会ったらぶっ殺してやらぁ!」

「ろ、呂律……?」


リョータさんは再びカウンターに突っ伏すと、まるで子供のように喚き散らす。


「…………」


その声を柱越しに聞いていた私は、柱に背を預けて下を向いた。

……私はバカだ。

リョータさんは何も悪くないのに私のせいで怪我をして、こんなに落ち込んで。

私、リョータさんになんて謝ればいいのかな……。

と、私が自分の手をギュッと握り締めていた時。


「あれ? リムちゃんまだ居たんだ」

「ふえあ!?」


その声に思わず視線を上げると、そこには先程書類を渡したお姉さんが。


「えっ、あ、その……!」

「?」


お姉さんは状況が掴めていないようで、私が何を焦っているか分からないのか首を傾げる。


「まあいいや。早く魔王様連れて帰ってね? そろそろ冒険者達が帰ってくると思うから」

「え、ええっと……はい……」


お姉さんは私の応答を聞くと、そのままギルドの受付の奥に消えていった。

ど、どうしよう……バレてない……よね?

気付いていないことを祈りながら、恐る恐る柱の陰からリョータさんを覗いてみると。


――目が合った。


「は……? リム……?」

「っっ!?」


リョータさんと、バッチリ目が合ってしまった。

そうだよね、流石にあんな声で叫んじゃったら気付かれちゃうよね……!


「おま……いつから……って、もしかして今の聞いて……!」


お酒を飲んでいたからなのか、私に全て聞かれたことを恥じているのか、リョータさんは顔を真っ赤にして震えている。


「あの……その……」


私は引きつった笑みを浮かべてゆっくりと後ずさり、そして――。


「ちょっ、リムッ! 逃げないで! いつからそこに居たの!?」

「ま、魔王様、お会計!」

「そうだった! ええっと、ええっと……あった! お釣りはいいです! リム、待ってえええええええ!?」

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