第十話 魔女っ子は今日も不機嫌だ!④
「流石大国……何か敗北感が……」
フォルガント王国の首都であるこの街はバルファストと比べても建物の造り、清潔感、そして平民の服装など、どれを取っても勝っていた。
そして何より広い、広すぎる。
いや、うちの国が小さすぎるからかもしれないが、そうだとしてもこの街は途方がくれそうなほど広大だった。
「…………」
俺の隣を歩くリムも、この街の余りの凄さに黙りこくっている。
凄いなぁ……こういう街作りって、この国の主であるフォルガント王さんの力があってこそ出来ることだ。
人口、経済、物、そして何より国民の信頼。
俺もバルファストの街のように、どれを取ってもフォルガント王さんには及ばない。
同盟国としてフォルガントの恥にならないように、そして何よりうちの奴らの為に国作りするのも魔王としての務めなのだが……腹が痛くなってきた……。
……いや、今はそんな事はどうでもいいか。
今はリムと一緒に観光中なのだ、今は楽しむことを大切にしよう。
「なあリム、ここならバルファストにないものもあるかもしれないぞ? 何か欲しいもんとかあるか?」
「えっ、そ、そうですね……強いて言うなら、新しい本とかですかね。バルファストにある本は大体読み終わってしまいましたし」
たまたま見つけた街の案内を見ながら訪ねると、リムが少し自慢げに応えた。
コイツスゲえな、読書家か?
「そっか、それじゃ本屋に行くか!」
「え……で、でも、いいんですか?」
「いーのいーの。あと、俺も結構本好きだし」
「そ、そうですか。あ、ありがとうございます」
どこか申し訳なさそうな表情をするリムに、気にすんなと笑ってやる。
そう、この観光の真の目的は、最近頑張りすぎで疲れているであろうリムの息抜き。
本屋ぐらい付き合ってやるのも、一応上司としての務めであろう。
などと思っている間に、俺達は看板に書かれていた最寄りの本屋に着いた。
「デカいな……」
その本屋に入って早々、俺達は見上げるように本屋の内部を見渡した。
その内部は大きな木の柱を回り込むような螺旋状の造りになっていて、巨大なツリーハウスを思わせるようだった。
ここ、実家の最寄りの市立図書館よりデカいんじゃないか?
俺は恐らく俺と同じように固まっているであろうリムに話し掛ける。
「なあリム、大丈夫か……って」
「わああぁ……!」
リムの目がキラキラ輝いているー!?
いつも背伸びしているリムが、両手をギュッと握り締め、まるでおもちゃコーナを前にした子供のようなキラキラした目をしているのは初めて見た。
そして何より可愛い!
「す、凄いですよリョータさん! こんなに本が沢山……!」
「よ、喜んでるとこ申し訳ないけどさ、流石にコレ全部とか無理だからね?」
「そ、そうですよね……ど、どうしよう……気になる本がこんなにあるのに……」
一瞬シュンと項垂れたリムに、俺はどうしようもなく愛おしくなってしまう。
俺に金があれば全部買ってあげたいほど可愛いぞ今のリム。
って、完璧に俺ロリコンじゃねえか!
何十歳の女の子にトキメいてんだ俺はぁ!
うん、気を確かに持とう、月城亮太。
「じゃ、じゃあリムはゆっくり選んでて。 俺も色々見てみるから」
リムにそう言うと、俺は店内の奥の方へと進んでいく。
「は、はい! どれにしようかなぁ……フフ」
そして、そんな俺の後ろから、リムの心底嬉しそうな声が聞こえた。
……ちくしょう、可愛い。
――巨大な螺旋階段のような店内の上の方に、俺ある本を見つけて手に取った。
「『魔眼図鑑』? 俺に打って付けじゃねえか……!」
俺はその魔眼図鑑をページをパラパラと捲っていく。
そこには様々な魔眼の特徴、効果などなどか書かれている。
そもそも魔眼というのは、ユニークスキルと同じようにごく希に持って産まれた者が扱えるもので、個人個人で魔眼の能力が違う。
だからこの図鑑は、魔道書というよりも暇つぶしか魔眼の研究をしたい人のために書かれたものなのだろう。
しかし、俺にとっては素晴らしい本だ。
「ええっと……未来を見通すことが出来る《未来視眼》、視界に入った任意の場所に空間軸を生み出す《歪曲眼》、相手の目を見つめるだけで洗脳できる《洗脳眼》……どれもこれも見たことあるヤツばっかだな……」
しかし俺の魔力量では、今上げた三つのようなチート級の魔眼を使おうとした瞬間に魔力が切れるだろう。
使えねえなぁ……ったく。
そして中には、俺が普段から使っている千里眼や透視眼、そして魔力が切れるので結局使わなくなった鑑定眼なども載っていた。
更に、新しく俺でも使えそうなものもいくつか見つけた。
普段は見えない精霊や幽霊などを見ることが出来る《霊視眼》、物に染みついた記憶を見ることが出来る《過視眼》。
霊視眼はぶっちゃけ見るだけだから、相手に何らかの効果を与える魔眼よりは魔力量は少ないと思うし、過視眼は未来を見るよりかは簡単そうだ。
よし、折角だしコレを買っていこう!
「え~と、コレの値段は…………」
裏表紙に載っていたこの魔眼図鑑の値段を見た俺は固まった。
「に、二万トアル……」
たっけえぇ……! コレ一冊で二万……!?
まあ確かに、この電話帳ぐらいに分厚くて、しかも紙が貴重な異世界ならこの値段なのも納得できなくもないが……。
などと無理に納得し、ふと手すりから下の階を見下ろす。
「コレ、面白そうだなぁ……! ああでも、こっちもいいなぁ……!」
そこには完全におもちゃを選ぶ子供としか思えないリムが。
…………。
「やっぱ止めよ」
あんなの見てしまったら、俺が買おうとした魔眼図鑑の分を、リムの買う本に充てたいと思ってしまった。
それに別に買わなくたって殆どの魔眼は使えないだろうし。
などと思いながら本を元あった場所に戻し、俺は下の階に移動した。
「リム、買うのは決まったか?」
「はい!」
リムの腕の中には、先程の図鑑より一回り小さい、小説と思われる本が四冊ある。
「それじゃあ私、お会計してきますね」
そう言いながら、懐から財布を取り出そうとするリム。
「よっと」
「えっ、リョ、リョータさん……?」
そんなリムの腕からヒョイと本を取り上げると、俺はそのままレジに向かう。
「すいませーん、コレ下さいー!」
「はい、四冊で一万五千七百トアルです」
「リョータさんっ!?」
結構たけーな……。
俺はリムの驚く声を背中で聞きながら、財布から二万トアルを取り出す。
「お買い上げ、ありがとうございましたー!」
「どうもー。ほれ」
「えっ、あっ、その……いいんですか……?」
お釣りを受け取り店内を出て、本が入った紙袋を渡そうとすると、リムが受け取っていいのかと戸惑う。
子供に払わせるわけにはいかない、何て言ったら怒るんだろうなぁ。
そんなリムに俺は小さくため息をつくと、頬ちょっと胸を張りながら言う。
「最近お前頑張ってるからさ。……魔王ツキシロリョータから、魔王軍四天王リム・トリエルに与えるボーナスだ。まあ、そういう事だから気にすんな」
「そ、そういうことならしょうがないですね」
などと少しツンとした表情を見せるリムは、そう言って俺から紙袋を受け取る。
「えへへ……」
そして、その紙袋を胸に抱えて少し嬉しそうに笑った。
俺の財布は殆ど空っぽだけど、ま、悪くないかな?




