第十話 魔女っ子は今日も不機嫌だ!②
「リムちゃあああああああああああああああああああん!」
「ひゃあ!?」
「会いたかったよリムちゃあああああああああああああんッ!」
「ジ、ジータさん、く、苦しいですよぉ!」
魔王城の正門前にて、予想通り俺達を待っていたジータが早速リムに飛びついた。
リムのぷにぷにのほっぺに頬ずりするジータを、俺は少し離れた所から温かい目で見守る。
いや~、ボクっ娘とショタもいいけど、やっぱロリとの組み合わせは最高だな。
目の保養と供給をありがとう、二人とも!
「もうっ、いい加減にして下さい! 早く行きましょうよ!」
「そんなぁ~」
「リム、もうちょっとイチャイチャしてくれてもいいんだぜ? 俺は隠密スキルで影薄くしてるからお構いなく」
「リョータさんは少し静かにしていて下さい!」
がっかりする俺とジータに、リムが目をバッテンにして怒る。
「それにしても、今日はリムちゃんだけなのかい?」
「ああ。今日はリーンは来れないから、代わりにリムに同行して貰う」
「そうなんだ。あっ、それじゃあリムちゃんにフォルガント王国のテレポート先を登録して貰おう! そうすれば、ボクの負担も減るしね」
「そうですね」
「今更だけど、わざわざ悪いな」
「別にいいさ。よしっ、それじゃあ行こっか」
などと話している間に、ジータがテレポートの魔法陣を地面に展開した。
「『テレポ-ト』」
俺達が魔法陣の上に移動しジータがそう言うと、目の前が一瞬白く光り、目の前に巨大な宮殿が現れた。
「……もう何回目になるのに、やっぱ怖えな」
「そうかい?」
無事に転移出来たことに少しホッとする俺に、ジータが首を傾げる。
遠く離れた場所に一瞬で移動する事は、やはり何度経験しても慣れない。
至って安全なのに離陸と着陸の時に思わず拳を握ってしまう飛行機ような感覚だ。
まあ無事に着いたし、問題ないならいいか。
などと思っていたのだが、俺の隣で顎に手を当てながらジータが言った。
「まあ確かに、テレポートに失敗すると身体半分が転移されて真っ二つ、なんてこともあり得るからね」
「おおいぃ!? 何ソレ怖っわ! 何でそんなこと言うの!? もうテレポートしたくなくなるじゃんかぁ!」
「大丈夫大丈夫、ボクぐらいの魔法使いになれば、そんな事万が一にもあり得ないよ!」
「早々にフラグを立てに掛かってんじゃねー!」
――所変わって、謁見の間の扉の前にて。
「バルファスト魔王国魔王ツキシロリョータ様のおなりです!」
一人の兵士の張った声とともに、門兵達が重い扉がゆっくりと開けていく。
何か……すいません……。
一応俺は国王としてここに来ているわけであるが、毎度毎度俺なんかの為に重い扉を開け閉めしてくれる兵士に申し訳ない。
扉が開き謁見の間に入ると、そこには重臣達とジータを除いた勇者一行、そして中央の玉座にフォルガント王が座っていた。
俺が前に進むと、フォルガント王が口を開いた。
「久しいな、リョータ殿」
「どうも。身体の具合はどうですか?」
「ああ、リョータ殿の花のおかげでこの通りだ。ありがとう」
「いやいや、別にいいですよ。たまたまあっただけですから」
今思えば、あんなミラクル実際に起きるのだろうか。
まあ、そのミラクルがあったからこのおっさんは助かったんだしいっか。
「ん? そちらのお嬢さんは?」
「えっ!? あ、その……」
などと思っていると、フォルガント王が俺の後ろにいるリムに視線を向けた。
申し訳ないが、ただでさえ顔が怖いフォルガント王と目が合い、リムは一瞬身体がピクッと跳ね、オドオドしだす。
「もしかして、リョータ殿の妹公か?」
「い、妹!?」
そんな様子にフォルガント王が顎髭をさすりながら言うと、リムが目を見開いた。
「いやいや、髪の色まったく違うでしょ。妹じゃありませんよ」
「ハッハッハ! すまんすまん、冗談だ」
「まあ、もしこんな可愛い妹がいたら、もうちょっと俺の人生薔薇色だったでしょうけどね……ハハ……」
「ちょっとリョータさん……ッ!」
声のトーンを落として下を向く俺に、リムが胸の前に握り拳を作り声を潜めて怒る。
現実の妹というのは冷たいし怖いから大変だと、昔のオタク仲間が言っていた。
確かに、現実にそんな可愛らしくて、ましてや血の繋がらない妹なんて絶対にいない。
真の妹キャラというのは、各々の心の中にしか居ないのだ。
まあ、それはともかく。
「ほれ、リム」
「まったくもう……」
俺がフォルガント王に挨拶しろと促すと、リムはため息をつきながら一歩前に出た。
「は、初めまして。私は魔王軍四天王のリム・トリエルといいます」
「ま、魔王軍四天王!?」
「こんなに小さい子が!?」
「魔王軍四天王の一人は子供だと聞いていたが……こんなにも幼いとは……」
リムが背筋をピシッと伸ばして自己紹介すると、案の定周りの重臣達が騒ぎだした。
まあ、普通はそんな反応するわな。
おっと、リムがお決まりの『子供扱いしないで下さい!』って言おうとしてるが、ここがどんな場所なのか理解しているから必死に言うのを耐えてる。
真面目だねリムは、俺とは大違い。
「それで、今日リョータ殿に来て貰ったのは他でもない、フォルガント王国とバルファスト魔王国の今後の関係についてだについてだ」
フォルガント王が片手を上げその場を制してそう言うのに対し、俺は姿勢を少しだけ伸ばした。
「再確認をするが、交易面ではそちらからは貴重な薬草などを我が国に提供して貰いたい」
「はい。そして俺……いえ、我々にはその資金と食料を提供して頂きたいです」
「うむ。そして、この同盟の真の目的は、我々人間と魔族の親密な関係を築き上げる事」
「そして、もう二度とあんな争いが行われないようにする事」
フォルガント王が玉座から立ち上がり、俺の方へと進んでくる。
俺も少し前に進み、俺とフォルガント王は向かい合う。
そして、俺達は硬く手を握ると、フォルガント王が高らかに言った。
「ここに、フォルガント王国とバルファスト魔王国の同盟を結ぶことを、宣言する!」
そしてこの謁見の間に、重臣や勇者一行の拍手が響き渡った。




