第十話 魔女っ子は今日も不機嫌だ!①
約一週間が経ち、遂にフォルガント王国との同盟締結の日になった。
そんな訳で、俺はフォルガント王国に向かうべく、魔王の間で準備をしているのだが。
「リョータ、コレを持って行け」
「……何ソレ?」
「コレは吸血鬼の牙と言われるヴァルヴァイア家の家宝だ。コレさえあれば、この前のような奇襲に遭っても敵を血祭りに上げられ……」
「いらんよそんな物騒なの……でも格好いいなソレ、紫色の刀身に鍔の所がコウモリの羽とかメッチャええやん……なあ、ちょっと見せて?」
「おお、分かるか!?」
「リョータさん、そんな事はいいから、早く支度を終わらせて下さい!」
とまあ、こんな感じで全く支度が進んでいないのだ。
今回は普通に日帰りだし、そんな大した荷物を持っていく必要は無いのだが、このようにレオンを始めとした三バカが邪魔して全然終わらない。
「しかし魔王様、この前のような事態がある可能性もありますし」
「確かに、アダマス教の幹部一人と仲間数人倒しても、まだまだ敵はいるし……」
ハイデルの言葉に、俺は腕を組んで唸る。
現時点での俺達バルファスト魔王国の明確な敵、アダマス教団。
一体何故そこまで魔族を毛嫌いするかは分からないが、きっとまた何か俺達を潰そうと仕掛けてくるだろう。
俺はレオンから吸血鬼の牙を受け取り、そう思いながら刀身を眺め……。
「ちなみに、その家宝はヴァンパイア族以外が持つと生命力を奪われる――ふぉあッ!?」
「それを早く言えや!」
俺が吸血鬼の牙を投擲スキルを使ってレオンの顔がある数センチ右の壁に突き刺した。
「何なんだよお前、密かに俺の事殺そうとしてんのか!? そういうツッコミを期待してんのかよ!?」
「わ、悪かった、そんなつもりは無い! た、ただ単に自慢したかっただけなのだ……」
コイツ……このタイミングで中二病キャラ特権のギャップ出してきやがったぞ……。
「はぁ……ちなみに、俺はそういった中二病全開アイテムは大好物だ。この件が終わったらまた持ってこい」
「フッフッフ……いいだろういいだろう!」
俺がため息をつきながらもそう言うと、レオンはまたマントをバサッとたなびかせて調子に乗った。
しかし、今俺が言ったことは本当だ。
男なら分かるだろう、中二病発祥中に死神が持つような巨大な鎌に憧れて、クイック●ワイパーを振り回したあの日々を。
「まあ今はいいや、話を戻そう。それより、お前らに大事な話があるんだよ」
「大事な話?」
「そうそう」
ローズが小首を傾げると、俺はコクコクと頷く。
「実は、今日はリーンが用事があると言う事で同行出来なくってさ」
「そうなのですか?」
「そう言えば前々から孤児院の子供達とピクニックに行くって言ってましたね」
「そうそう。まあ、数週間前から計画してたらしいし、文句は無いんだが……でも、俺一人で行くってのも何だし、だからお前らの中から誰か一人付いてきて欲しい。と言う事で、誰か頼める?」
俺がそう訊くと、四人はお互いの顔を見合わせる。
「あの、私達は主にどうすればよいのでしょうか?」
「ん? ああ、別にただ俺の後ろに立ってればそれでいい。ぶっちゃけ、一人で行くのが少々心細いだけだから……」
「子供かっ!」
ハイデルの質問に俺が視線を横にずらして応えると、思わずとレオンがツッコんだ。
「いやだって、さっきも言ったけど、また何かあると嫌じゃん?」
俺は別に一人で遠くに行くことが怖いという訳では無い。
むしろよく一人で電車に乗って日帰り温泉旅行とかしてた位だし、何なら京都一人旅とかも計画してた時期もあった。
しかし、またこの前のように何かしらのトラブルに巻き込まれたら、正直一人で解決するのは難しい。
なので、やはり誰かに同行して貰いたいのだが。
「それでは、私が行きます」
「じゃあ私も」
「我も同じく」
すると、そんな俺の心を読んだのか三人が手を上げた。
「おおっ! いいのか!?」
「我が主を一人にする訳にはいきませんしね」
「それに、私もフォルガント王国に行ってみたいもの」
「うむ」
コイツら……! ああ、でも……。
「リムはいいのか?」
唯一手を上げなかったリムに訊くと、リムはやれやれと言った感じで。
「皆さんが行きたいというのなら、私はここに残りますよ」
「お前マジでいい奴だな……」
ほんとにもう、最近の若者は人のことを気遣えるこの十歳の女の子を見習って欲しい。
リムには後でお土産たくさん買ってきてあげよう。
「あっ、だけどその前に一つ言っておきたいことがある」
「何だ?」
俺がピッと人差し指を差しながら言うと、レオンが小首を傾げた。
「もし向こうでトラブル起こしたら、俺でも助けられないからな?」
「「「……」」」
俺がそう忠告した瞬間、何故か三人が急に押し黙った。
…………。
「……お前らそんなに大人しく出来ないの? 自覚あんの? ってか、お前ら何かやらかす予定だったの?」
「「「…………」」」
俺が真顔になってつい詰めるも、三バカは視線を逸らしてくる。
「まさかとは思うけど……魔族だからって教会とかにちょっかい出したりしないよな?」
魔族にとって教会は、存在その物が許せない奴らが多い。
ある悪魔族の話しでは、教会内には神聖なパワーがあるのか、入った途端気分が悪くなるらしい。
特に、悪魔族とかヴァンパイア族とか……。
「「「ッ」」」
そんな俺の言葉に、三人の身体が少しだけ跳ねた。
………………。
「…………リムゥ」
「ハア……仕方がありませんね」
結局、リムと一緒に行くことになりました。
すいません、第二章第八話の内容を大幅変更しました(汗)




