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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第三章 リトルウィッチ・ノクターン
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第九話 魔界の梅雨は今日も静穏だ!⑤


「…………」


やっぱり捕まっていたローズを留置所で拾い、魔王城に帰った俺はそのまま魔王の間の玉座の上でとある本を読んでいた。

しかしページが進むことはない。

本の内容に入ろうとしても、先程のリムのお母さんの言葉が頭をよぎってくるのだ。

何かリムにしてやれる事は無いだろうか?

しかし、何かしてやろうとしたらきっとリムは子供扱いするなと怒るだろう。

どうしたものか……。

などと俺が開いた本を顔の上に載せ悩ませていると、奥の扉が開き勇者一行が入ってきた。


「あっ、ここにいたんですね魔王さん! 私達そろそろお暇して……て……」

「何してるんだい……?」

「何って……座って本読んでるんだよ」

「それ座ってるって言うか……?」

「座るところと背もたれが逆になってるです……」


まあ確かに、今の俺の姿勢は座っているというよりか壁倒立に失敗したと言った方が正しい。


「玉座をこんな風に使う王様、今までで多分魔王君しかいないんじゃないかな?」

「そーですか。で、帰るんだっけ? りょーかい、次からはお土産とかも期待しますよっと」


俺は玉座から下りると、レイナが思い出したように言った。


「あっ、そう言えば魔王さん」

「ん?」

「この前の事件、終息が見えてきましたよ」

「ああ、って事はそろそろ同盟の話に戻るのか?」

「はい」


今思えば、アレって大事件だったよな。

なにせ国家転覆されそうになったんだもの。

ほんとに、何故俺がそんな事件に巻き込まれてしまったのだろうか?

まあもしその場に俺がいなかったらと思えば、少しは良かったとは思うが。


「ちなみにエド……エド……あっ、エドワードはあの後どうなったんだ?」

「エドアルドな。アイツは一応まだ牢の中だが……」

「まあ、王様の命狙ったんだから、死刑執行は免れないよなぁ」


エルゼの言葉に、俺は苦笑いを浮かべてそう返す。

俺が事件の後個人的に涙目にしたこの事件の主犯、アダマス教幹部のエドアルド・カイルマン。

ここは異世界、しかも中世ヨーロッパみたいな時代だから、死刑執行はしょうがないとは思うが、やはり一度喋った事のある奴が死んでしまうのはちょっと怖い。

しかもこの世界にはゴースト系のモンスターも存在しているから、もしかしたら怨霊となって呪われてしまうかもしれない。


「まあ俺がとやかく言う権利は無いし、そっちの国の問題だから首は突っ込まないよ。それで、話を戻すけど、同盟の締結の目星は立ってるのか?」

「はい、もう数週間後ですが」

「そっか、それなら十分間に合いそうだな」

「何がです?」


レイナの言葉に俺がそう返すと、隣のフィアが首を傾げた。


「……それじゃ、帰る前に少し寄っていくか?」

「「「「?」」」」


俺が不敵な笑みを浮かべると、四人は不思議そうな顔をした。





「――ジャジャーン! ようこそ、バルファスト薬草畑へ!」

「「「「!?」」」」」


俺が連れてきたのは、魔王城の裏の敷地にフォルガント王国から帰ってすぐに造った巨大な畑。

そこには、ポイズン・ティアラを始めとする様々な薬草が綺麗に植えられている。


「う、嘘でしょ……これ全部……?」


三人が唖然としている中、一人更に目を見開いているジータが傘を取り落とし呆然と呟いた。


「そう、花屋さんに種や苗を貰い、農家の皆さんと協力して耕して出来た薬草畑! 小さいとは言え、そこに生えてる薬草の一つ一つが貴重品だから、こんだけでも充分交易可能だろ?」

「…………」


ジータは雨で濡れるのをお構いなしで畑の方にヨロヨロと歩いて行き、そこに生えている薬草の一つに触れる。


「……ボ、ボクは夢を見ているのかい……? 一つ手に入れるのに困難な薬草たちが、こんなに……」

「おーい、戻ってこーい」

「いだっ」


俺はジータが取り落とした傘を拾い上げ、持ち手の部分でコツンと頭を小突いてやる。


「す、凄いね……フォルガント王国なら、この土地だけで国宝級いだよ……?」


俺から傘を受け取り、目をうつろにしながらジータは呟く。


「マジかよ……じゃあ念の為、周りにトラップスキルで罠でも張っとくかな」

「アハハ……それで、私達の国からは何を提供すればいいでしょうか? 何か希望はありますか?」


レイナのその質問に、俺は真顔になって応えた。


「米」

「…………お、お米!?」


即答した俺のリクエストが余りにも予想外だったのか、レイナは少し遅れて反応した。

そうだよ、日本人なら米を食わなきゃ。

分かるだろうか、普段当たり前のように食っていた銀シャリと味噌汁が無いこの絶望感を。

実家じゃ家の周りには視界を埋め尽くす程の田んぼが広がっていたというのに。

いい加減コシヒカリを食わなきゃ死んでしまう。

しかし、レイナの答えは俺の期待を裏切るかのように。


「ご、ごめんなさい、詳しいことは分かりませんが、お米は私達の国でも余り流通してなくて」

「やっぱり無いか……グッパイ、俺の銀シャリ……」

「大陸の東の辺りなら作っているですが……」

「大陸の東かぁ……」


俺はフィアのその言葉に少し反応する。

こういう異世界では、たまに東の方に日本と全く同じような国がある事がある。

その場合その国は江戸時代ぐらいで、将軍とか大名とかの概念があり、大抵国名が日ノ本とか和の国とかだ。

しかしうちの国が西側にあるとしても、刀や和食の概念が無いことから、多分この世界にはそういった国は無いということは想像できるが……。


「はあぁぁぁぁ……」

「そ、そんなに落ち込むか?」

「ほっとけ」


和食、食いてえなぁ……。


――その後、レイナ達を送って再び自室に戻ったとき、部屋に籠もった女子の残り香が気になって夜はあまり眠れなかった。

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