第九話 魔界の梅雨は今日も静穏だ!④
――様々なポーションが並べられた店内の奥は住居スペースになっていて、様々な家具が置かれていた。
その中でも観葉植物が所狭しと並べられており、この空間だけちょっとした植物園のようだ。
「どうぞ~」
「あっ、ども……」
「それじゃあ、お菓子も用意してくるわね~」
俺は椅子に座り、リムのお母さんがテーブルに置いてくれた紅茶を啜る。
そしてティーカップを置くと、向かいの椅子に座っているリムに。
「……何かゴメン」
「い、いえ、こちらこそ……母の勝手な提案で……」
気まずーい! すっごく気まずーい!
ええ、何でこんな事になっちゃったんだろう!?
今の俺、自分の配下の実家に来てるんだよ!?
コレってもうアレだよね!? 俺の立ち位置完全に家庭訪問に来た先生だよね!?
「それで、魔王城でのリムちゃんの様子はどう?」
クッキーが載せられた皿を目の前に置き、リムのお母さんは笑顔で訊いてきた。
「そ、そうですね、さっきも言ったようにリムちゃんは非常に優秀で、僕も毎回毎回助けられてばかりで、ほ、ほんとに感謝してもしきれなく……!」
ヤバいな、マジで保護者相手の先生の口調じゃないか。
「あらあら、そうなの~」
俺があたふたしながら言うと、リムのお母さんは手を合わせてうんうんと訊いてくる。
リムー、ヘルプミー!
と、俺がリムをチラ見するもぷいっと視線を逸らされてしまった。
もう、こんな時のためのリムでしょーが!
と、俺が焦っていると。
「緊張しなくていいのよ~?」
「あ、あはははは……」
そんな俺の反応を楽しむかのように、リムのお母さんは目を細める。
この人、リムとは真逆の性格だな。
まあ、なんとなく予想は出来ていたが。
リムのような真面目で背伸びしている子供のお母さんは、大体こういったおっとり系の場合が多い。
しかしまあ、随分と若々しいものだ、リムのお姉さんと言っても十分通用する。
リムも大人になったら、こんなべっぴんさんになるのかね?
「それじゃあ私は店の掃除をしてきますから」
とここで、将来期待のべっぴんさんがそう言って椅子から降りた。
そんなリムを、リムのお母さんは不満そうに口をとがらせる。
「もうちょっと魔王様のお話聞きましょうよ~」
「い、嫌ですよ! そもそも、自分の事を親の前で話されるなんて恥ずかしいですし!」
わかるわ~。
三者面談の時なんて、生徒からしたら恥ずかしくて死にそうになるもんな~。
と、俺がうんうんと頷いていると、リムは店の方に出て行った。
ここが日本じゃなくて良かったなリム。
「もう、リムちゃんったら頑固なんだから~」
「まあ、その頑固な性格のおかげで俺も色々助かってますし」
「ありがとう、娘の事ちゃんと見てくれて」
そう言うと、リムのお母さんは微笑みそっと紅茶を啜る。
俺もクッキーを一枚手に取り、口の中に放り込む。
「ねえ魔王様」
「ふぁい?」
そして静かにティーカップを置くと、リムのお母さんが。
「リムちゃん、最近頑張りすぎてると思わない?」
「んぐ……頑張りすぎ?」
俺がそう訊き返すと、リムのお母さんは店の方を向きながら頷く。
「あの子、責任感が人並みに強いから、無理してるんじゃないかって心配で~」
「ああ、確かに……すいません、四天王がジャンケン制度で」
「いいのよ~、あなたが謝ることじゃないわ」
そう、今更だけど十歳の女の子が四天王なんて普通はおかしい。
では何故リムが四天王なのかというと、うちの四天王の決め方がジャンケンで負けた奴がなるという、教室のゴミ捨てジャンケンと同じ感覚で決まっているからだ。
「あの子が四天王としてこの国の助けになっていることは私の一番の誇り。でも、まだまだ子供なんだから、親として、ね?」
「……そうですね」
思い返してみると、俺の前でリムが年相応の笑みを浮かべたことがなかった。
四天王なんて、この国で二番目に偉い立場だ。
流石のリムでも荷が重すぎる。
少し息を吐き出すと、俺は頭を掻きながら。
「……ぶっちゃけ、俺はただの一般人です。力も無ければ金も無い。あるのは魔王っていう肩書きだけ。ほんとに、何でこんな事になっちゃったんだろうって感じです」
「そうなの~?」
「でも同じ元一般人なのに、アイツにはほんとに色々と助けられて。それだと魔王として、いや、年上としてなんか申し訳ないです」
「そう……」
俺の言葉に、リムのお母さんは静かに自分の手の中にある紅茶に視線を落とす。
「何か、リムにしてやれる事があればいいんですけどねー……」
そんなリムのお母さんに、俺は自嘲気味に笑って言う。
とここで、店の方に出ていたリムが箒を持って戻ってきた。
「リョータさんまだ居たんですか? 早く魔王城に帰って下さいよ」
そして未だに残っていた俺に、リムはため息交じりに言ってきた。
「ハイハイ分かったよ。突然すいませんでした」
「いいのよ、誘ったのは私なんだし~」
俺は残りの紅茶を一気に呷ると、立ち上がってリムのお母さんに頭を下げる。
「ねえリム」
するとリムのお母さんは立ち上がり、リムの前に立った。
「何、マ……お母さん?」
そしてリムのお母さんはリムと視線を合わせるように屈み、頭を撫でながら言った。
「素敵なお兄ちゃんが出来てよかったね」
「お、お兄ちゃん!?」
その言葉に、リムが目を見開き顔が真っ赤になった。
「ななな、何を言ってるのママ!?」
腕をブンブン振り回すリムを、リムのお母さんはニコニコしながら見守る。
そんな中、俺はリムのお母さんと同じように屈み、リムの肩にポンと手を置く。
そして、俺は今まででこれほど真剣になったことはないと言うほどの真顔でリムに言った。
「リム、ちょっと俺の事お兄ちゃんって呼んでみてくれ」
「嫌ですよッ!?」
そして全力で断られた。
「そ、そんな不機嫌そうな顔しなくても……ちぇ、孤児院のちびっ子達は最近俺の事お兄ちゃんって呼んでくれるようになったんだぜ? いいじゃん別に、お兄ちゃんって呼んでくれても」
「絶対に嫌です! さあ、早く帰って下さい!」
「ちょ、ちょっと押すなって! せめて傘を取る時間くれ! あっ、お邪魔しましたー!」
「また来てね~」
大変ご立腹に様子なリムに背を押され、俺は外に押し出された。
そして扉の閉まる瞬間、中からリムのお母さんの声が。
「ふふ、こうして見ると、本当に兄妹みたいね~」
「もうっ、ママってばぁ!」
そんな二人の声をドア越しに聞きながら、やっぱ妹欲しいな~と、傘を広げながらそう思った。
人物紹介パ~ト10
フィア・ホワイトリー
この世で最も崇拝されている光と正義の神、アルテナ神に仕える教皇の実の娘で、勇者一行の回復件サポート役。語尾に『です』が付くのが特徴で、語尾と見た目からして一見清楚そうに見えるが、注意深く聞いてみると意外と口が悪い。一応アルテナ神を信仰しているが、そこまで根強く崇拝している訳ではない。




