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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第三章 リトルウィッチ・ノクターン
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第九話 魔界の梅雨は今日も静穏だ!③

雨が降りしきるバルファストは少し霧がかっており、とても幻想的でついあちこちに目がいってしまう。

俺は黒い傘を差し、傘に当たる雨音を聞きながら濡れた石畳の上を歩く。


「さてと、とりあえず散布がてらお前が変な事しないように見張ってっからな」

「もうっ、リョータちゃんったら意地悪なんだから」

「お前を野放しにしたら、また俺が留置所にお前を受け取りに行かなきゃ行けなくなるだろうが」


その隣で、赤い傘を差し不満げに頬を膨らませているローズに、俺は渋い顔をして応えた。

先程、俺が外に出ようとエントランスに向かうとそこにはローズが居た。

俺が『どっか行くのか?』と問うと、『ちょっとそこまで♪』と野獣の眼光を輝かせながらローズが返し、またいつものオチになりそうだったので、堂々とローズを監視しているのである。


「それにしてもさ、お前のその格好ってどうにかならないの?」

「あら? もしかして、興奮しちゃったの~?」

「違えよ、お前と一緒に行動してると周りの目線が気になるんだよ」

「もう、照れなくってもいいのに~」


照れ隠しだと思っているのだろうか、ローズは俺の文句を聞き流した。


「それで、どこに行くつもりなんだ?」

「そうねぇ、まずは路地裏にひっそりとある落ち着いた雰囲気のバーなんてどうかしら?」

「今昼時。開店してねえよ」

「それとも、人気の無い公園とかはどう?」

「だから今昼時! 絶賛ちびっ子達走り回り中だよ!」


何故か大人の女性の雰囲気を漂わせてくる、恐らく大人という次元を通り越したであろう人。

サキュバスは年齢を重ねても老けないという、世界の女性に羨ましがれる種族なので、隣に居る人がババアなのかスーパーババアなのかは定かではない。


「何誘って来てんのかなこの淫魔。自分が攻められるの苦手なファッションビッチのクセに」

「だからファッションビッチって呼ばないで! 何でここの男達は誘っても断ってくるし、そもそも向こうから誘ってもくれないのかしら!?」

「お前にトラウマ植え付けられてるからだろ」


実際にここの男達には、『魔王軍四天王、ローズの年齢聞く無かれ』って教訓がある。

それに美人とは言え年齢不詳のBBAババアとあんなことやそんなことをしようなんて気にもならんし。


「お前さ、そんなに発情してんならその辺のゴブリンとちょちょいと済ませて来いよ……」

「……私だって怒るんだからねリョータちゃん?」

「おっとやるか? 最近レベルが9になって強くなった魔王リョータさんとやろうってのか? いいぜこいよ、お前にも俺のエクスプロージョン(仮)を披露してやるよ」


と、俺達が睨み合っていたその時、俺の視界に馴染みのある銀髪が見えた。


「ん? アレってリムか?」

「そうね」


見ると、白い傘を差したリムが買い物袋を持って誰かと話していた。

俺達が近づくとリムのこちらに気付いたようで、少し目を大きくした。


「アレ、リョータさん? それにローズさんも」

「ようリム、ってその人……」

「あら? あなたは……」


俺はリムと話していた人の顔を見て、思わず俺も目を大きくした。

長い銀髪を後ろで縛り青い目をしているその女性も、俺を見て少し驚いたような表情をしている。


「ポーション屋さんじゃないですか」「あの時のお客さんじゃないですか」

「えっ、二人とも知り合いなんですか!?」


同時に指を差した俺とポーション屋さんに、リムが俺達の顔を交互に見てくる。

だいぶ前、レオンが孤児院の子供達にやられてボコボコにされた時があった。

その時にたまたま近くにポーション屋があり、その中で一番安いポーションを買った事があったのだ。

その時に、あの店員さんがリムに似ていると思ったのだが、リムと一緒に居るという事はつまり。


「もしかして、リムのお母さん……ですか?」

「ええ。そういうあなたは新しい魔王様? いつもうちのリムがお世話になってます~」

「いえいえっ、俺もリムには色々と助けられて……」


などと、まるで親と先生みたいな挨拶を交わしていると、生徒の立ち位置であるリムが。


「それで、お二人は何をしていたのですか?」

「ふふふ……ちょっとそこまで♪」

「そしてその監視」

「な、なるほど……」


流石リム、理解が早くて助かる。


「そんでリムは?」

「私はマ……ンン、母の買い物のお手伝いです。四天王としての仕事が無い時は、いつもお店のお手伝いをしてるんです」


今ママって言いかけたな……いやそれよりも。


「おい聞いたかローズ、お前が野獣の眼光で獲物をハンティングしている間に、十歳の子供は実家の手伝いだとよ」

「…………」


そんな俺の質問に、ローズは俺からそっと視線を逸らし。


「だから子供扱いしないで下さいっ!」


リムは相変わらず子供扱いするとプンプンという効果音が付きそうな怒り方で俺を睨む。

は~、可愛か~。

と、俺がそんなリムで癒やされていると、隣からリムのお母さんが。


「そうだ! 折角だからうちに来ない? 魔王城のリムの様子とか聞きたいし」

「マ、ママ!?」


パンッと手を叩きながら提案するリムのお母さんに、リムが思わず素で呼んでしまう。


「いや、でも俺ローズの」

「いいわねいいじゃないそうしましょう! 私は急に用事を思い出したから行くけどリョータちゃんはゆっくりしてくればいいわ!」


そんなリムのお母さんの提案を断ろうとしたのだが、それを遮ってローズが早口で言った。


「はあ!? お前用事なんて絶対に嘘だ――」

「『ヒプノシス』」

「ろ……う……が……」


………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はっ!


「アレ……? ローズは……?」


気が付くと、ローズが目の前から消えていた。


「リョータさんが催眠魔法に掛かっている間に、飛んで逃げちゃいましたよ……」

「マジかよ……ってか催眠魔法怖え……」


正直ローズが逃げたことよりも、催眠魔法に掛かったことの衝撃が恐ろしかった。

何あれ? 一瞬意識が飛んでたわ。

ヤベえ、どんな魔法よりもやっぱ精神魔法の方が怖えな。

ってか、アイツ仮にも魔王の俺に催眠魔法掛けやがったぞ!


「大丈夫? 急にボーッとし始めたけど」

「すいません大丈夫です。リム、魔王城に帰ったら、アイツの分のクッキー食っていいからな?」

「え、ええ……」

登場人物紹介パ~ト9


エルゼ・ガーネット


勇者一行のメンバーで、元はソロで活動していた腕利きの冒険者。筋力と俊敏性が高く、自分の体重の何倍もある大剣を自在に使いこなす。男勝りな性格で喧嘩好きだが、意外と面倒見が良く料理もそこそこ出来る。ちなみに、猫や兎型のモンスターに対しては攻撃出来ない。

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