エピローグ
「そんじゃあジータ、お願いな」
「任せて!」
午後になり、俺達は魔界に帰るべく宮殿前の正門に集合していた。
「ごめんなさい、お見送りが私達だけで」
ジータがテレポートの詠唱を始めた中、レイナが申し訳なさそうに言った。
「いや、いいよ。昨日あんな事件が起きたばっかりなんだから、みんな忙しいに決まってるし。フォルガント王さんと、あとついでにアルベルトにもよろしく伝えといてくれ」
俺はレイナにそう応えながら、フォルガント王国のお土産が大量に入ったリュックを担ぎ直した。
ふ~、やっと帰れるぜ。
ぶっちゃけ、俺達何しにここに来たんだろうなどと思うところもあるが、少しだけ進展したこともある。
交易材料になるものが見つかったし、敵の幹部を一人捕まえることが出来たし、あとは……。
「リーンちゃん、またいつでも来てね!」
「ええ、分かったわ」
そう、この二人が打ち解けた事だ。
「ねーちゃん達昨日より仲良くなってねえか? 何があったんだよ?」
「まあ、色々あったんだろ。こういう百合っぽい展開になったら男が割り込んでいくのは厳禁だ。よく覚えておけよ?」
不思議そうな顔をするカインの肩に手を置き、そう言いながら三歩後ろに下がった。
と、ここで、詠唱が終わったジータがこちらに向かって手を振った。
「よし、準備オッケーだよー!」
「ありがと。そんじゃあ、帰りますか!」
「おう!」
カインは孤児院の奴らとの再会が待ち遠しいのか、真っ先にジータの展開した魔法陣に駆けていった。
「ニヒッ」
「おわあ!?」
そんなカインをジータはニヤリと笑ったと思いきや、バッと捕まえた。
「カイン君がいなくなっちゃうなんて、ボク寂しいなー」
「は、はあ!? ちょ、ちょっと……!?」
「またいつでも来てね! お姉さん待ってるから!」
「わ、分かった! 分かったから!」
ジータに抱きつかれ、顔を真っ赤にしながらカインはジタバタした。
俺はショタは好きではないが、ロリの話だったら大歓迎。
是非また会ったときには酒を飲み交わそう。
そう、男はみんな、ロリコンなのさ。
「コラ、放してやれ」
「あたっ!」
エルゼのチョップがジータの脳天に落ち、カインが解放されたのを遠目に見ていると、こちらにフィアが寄ってきた。
「魔王、昨日はすみませんです」
「へ? 何が?」
「あのエドアルドのおっさんの事です」
「? 何でお前が謝るんだよ?」
と、俺が怪訝に思っていると、フィアは少し困ったような顔をした。
「同じ聖職者としてです。私達聖職者は、あのおっさん程とは言わないですけど、頑なに魔族を嫌っている人達が多いです」
「みたいだな」
「ですから、今後私達聖職者の中で、こんな事件が二度と起きないように努力するです」
「……ありがとう」
勇者一行の聖職者の言葉なら、非常に心強い。
俺が素直に感謝を伝えると、フィアはフフンと胸を張った。
「任せるです、アルテナ教教皇の娘として、頑張るですよ!」
…………結構凄い人だったのね、君。
「それじゃあまたね、レイナ」
「うん、またね!」
「行きましょ、カイン」
「ん」
などと思っている間に、リーンとレイナは別れの挨拶が済んだようで、リーンとカインは魔法陣に入っていった。
その後に続いて、俺も魔法陣に入ろうとすると。
「魔王さん!」
「ん?」
レイナに呼び止められ、俺は振り向く。
「あの……本当にありがとうございました!」
するとレイナは俺に向かって、深々と頭を下げた。
そんな彼女に、俺は頭を掻きながら言う。
「まあその、なんだ。お前らなら今後そういう事は無いと思うけど、もし困った事があったら俺達に言ってくれ。出来る限り尽力すっからさ!」
……何なんだろうな、この関係。
魔王と勇者? 同盟国?
……いや、違うな。答えはとってもシンプルだ。
「リーンだけじゃなくて、俺もお前らのこと友達だって思ってるから!」
「……! はいっ!」
「あっ、だけどうちに来るときはちゃんと俺にも事前連絡してくれよ?」
「き、気を付けます!」
「それじゃあ、またな!」
俺は勇者一行にそう言うと、魔法陣に中に入っていった。
すると、杖を掲げたジータが笑顔で。
「またね! 『テレポート』!」
俺達は手を振る勇者一行。
いや、友に見送られながら、光に包まれていった。
「――いやー、帰ってきた帰ってきた」
俺の目の前には、フォルガント王国の宮殿とは比べ物にならないぐらい小さな城がそびえ立っていた。
リーンはカインとともに孤児院に向かい、今は俺一人だ。
最初はリム一人にアイツらを任せるのは非常に心配だったが、俺達がここを離れていたのはたったの一日だけ。
うん、きっと大丈夫だろう。
俺はそう思いながら、魔王城の正門を潜る。
そしてふと右側を見てみると、そこにある花壇から一本抜き取られた跡があった。
……お前は一国の王の命を救ったんだ、ありがとう。
お前のことは、一生忘れないよ。
などと花一本に対して異常なまでの感情を抱いていた俺であったが、すぐに我に戻りエントランスの扉を開けた。
「おーいっ、帰ったぞーっ!」
人気の無いエントランスにそう叫ぶと、俺の声が城中に響き渡った。
そして次の瞬間、目の前に小さな魔法陣が浮かび上がり、その光の中からリムが飛び出してきた。
「リム、ただい――」
「リョ、リョータさんッ!」
「ん?」
出迎えてくれたリムは、何故か泣きそうになっていた。
「リ、リム……?」
「よかったです……帰ってきてくれて……!」
「お、おい……!」
そう言って崩れ落ちるように床に座り込んだリムに、俺は慌てて駆け寄る。
それは、いつも『私は大人ですから、えっへん!』などと言っているリムからは想像できなかった。
……何コレ、どうなってんの!?
何でリムが泣きそうになってるの!?
とりあえずギュッて抱きしめてあげたい!
「ん?」
「「「あっ」」」
などと思っていたのもつかの間、エントランスの階段の手すりに隠れるようにこちらの様子を伺っているうちの三バカが。
…………。
「お前ら何しでかした!?」
「に、逃げますよ二人とも!」
「も、勿論よ!」
「言われなくとも!」
「おいっ、たった一日でリムがこんなになるなんて、ほんとに何したんだよおおおお!?」
俺が二階に向かって怒鳴ると、三バカは階段の奥に走って行った。
ああもう、帰ってきた途端コレかよ……!
何なんだよもおおおおおおお!
「待てやああああああああああああああああ! 本当に何やらかしたんだこらああああああ!」
そうして、帰ってきて早々、魔王と四天王による鬼ごっこが始まった。
だけど、魔王城が相変わらず騒々しい事に、少しだけホッとした自分がいた。
これにて第二章は終了いたします! お疲れ様でした!
いやぁ、結構長かったですね。自分でもビックリですよ。
書いてるうちにドンドン書きたいことが増えていって、もう大変です。
さて、今回の章は、魔王の最大の敵である勇者一行と仲良くなるという話でした。
だけどもうちょっと彼女たちの見せ場とか作らないとだなぁ。
もちろん、勇者一行は主要キャラなので、今後もバンバン登場していきますよ。
ということで、これからもこの作品にお付き合い下さい! ではでは!




