第八話 魔族は今日も嫌われ者だ!⑫
「魔王さん、知ってますか? 昨日地下牢に収監されたエドアルドさんが、泡を吹いて気絶してたらしいですよ」
「へ~」
「何でも、鞭でしばかれたような跡があったり、目が真っ赤に充血してたり、唇が真っ赤になってたり、後はその……ええっと……」
「ああ、それ以上言わなくていいよ」
「す、すみません……」
そして自分で言おうとした事が恥ずかしくて赤面しているレイナは、めちゃクソ可愛いと思いました。
――長い長い夜が明けて。
フォルガント王とアルベルトはあの後無事に意識を取り戻し、何も症状が残らないまま復活した。
ちなみにフォルガント王は再び目が覚めてすぐに、俺をボコボコにしてしまったことを謝罪しに来てくれた。
勿論許したが、今後何があってもあの人を怒らせないようにしようと心に誓った。
そして先程、フォルガント王国の全土に、アダマス教の幹部がフォルガント王に毒を盛り、仲間も同時に捕まえたと大々的に発表した。
そして捕まえたエドアルド達は国の刑務所に連行され、それをアルベルトが警備している。
二人とも、昨日は散々な目に遭ったばかりなのに……お疲れ様です。
そしてここからが本題なのだが、アダマス教徒達を撃退し、フォルガント王を救ったのはこの国に訪れていたバルファスト魔王国の新魔王だという事も発表されたのだ。
俺は別に『本当は目立ちたくないんだよなぁ……』何て自分のチート隠している主人公みたいな事は思っておらず、むしろ大々的にやっちゃってくれという感じだ。
自分の国の王様を救ったのは魔王だという事を国民に知らせれば、この国の魔族に対する嫌悪もなくなるかもしれない。
まあ、あんな事件が起きたばかりなので、正式に同盟を結ぶのは延期になってしまったが、その間に交易品の薬草やら花やらを用意できるのでむしろありがたい。
まあとにかく、これにて一件落着……。
「それで魔王さん、私に何か用ですか……?」
「ちょっとレイナに話したいことがあってな」
という訳にはいかないのだ。
正直、エドアルドの件や同盟の件よりも、個人的に大きな問題が残っている。
その問題を解決する為、俺はレイナを客室に呼び出したのだ。
「最初に言っておく。もしかしたら、お前に不快な思いをさせるかもしれない」
「は、はい……」
レイナは一体俺が何を話すのか、不安になっている様子。
正直、この話をレイナにはしたくはない。
だが、言わなくてはいけない、今後の俺達の関係性について最も重要なことを。
俺は真っ直ぐレイナの瞳を見つめると、口火を切った。
「お前のユニークスキルについてだ」
「ッ!?」
俺の口から発せられた言葉に、レイナは動揺したように目を見開く。
そして、数十秒静寂がその場に流れ、レイナが口を開いた。
「魔王さん……知って……たんですか……」
「……すまん。昨日エドアルドが言ってたんだ。その事は、あの場にいたカインも知ってる」
「そう……なんですか……。ごめん……なさい、隠していて……」
レイナの声は震えていて、見ると手も震えていた。
多分、俺がレイナのユニークスキルを知ったから、自分のことが嫌いになった何て思っているのだろう。
だから俺は、レイナを安心させるように、普段の口調で言った。
「俺はな、別にお前のこと嫌いになったわけじゃねーよ」
「……ふえ?」
レイナは潤んだ瞳で俺の顔を見る。
「当ったり前だろ。そもそも昨日レイナが言ったんじゃないか、俺はユニークスキルで人を見ないって。カインも同じだ。それにレイナもアイツらも、俺の魔神眼の事を知っても何も言わなかったじゃん。お前らがそうなのに、俺が嫌うなんて不公平だろ?」
俺は自分の眼を光らせて、ニカッと笑ってやる。
「とりあえず、俺とカインはお前のユニークスキルを知っている。だけどお前の事が嫌いになったわけじゃない。そこんところを分かって貰いたかった」
「魔王さん……ありがとうございます……」
目の端に涙を浮かべて微笑んだレイナに、俺は少し安心したが、すぐに表情を戻す。
「……だけど、俺とカインがその事を知ってるのに、お前が一番仲良くしたがっているリーンが知らないっていうのは、個人的に嫌だ」
「あっ……」
リーンの名前が出た途端、レイナは先程よりも動揺しだす。
「勿論本当の友達になるなら、自分の秘密を明かさなきゃならないなんて、そんな事は絶対にない」
「…………」
「レイナ……お前はどうしたい?」
そして、俺がそう問いかけると、しばらくレイナは無言のまま俯き、やがてポツリと。
「……ずっと、リーンさんに私のユニークスキルの事を話そう……そう思っていたんです。リーンさんのお父さんをこの手で倒して……だけどリーンさんはそんな私に優しくしてくれて……だから、嫌われるのが怖かったんです……」
「……そうだな」
レイナはリーンと仲良くなりたかった。
だけど自分はその仲良くなりたい人を殺すために存在するような力を持っている。
そんなの誰だって言えるわけがない。
でも、それだけじゃ何も変わらない。
自分の秘密を隠したまま仲良くなっても、そこには罪悪感が残るだけだ。
「私……リーンさんに言います……! 力の事を……私の気持ちを……!」
レイナは胸に手を当て、決意に満ちた目で俺に言う。
ならば俺はその決意に対し、この言葉をレイナに贈ろう。
「うん、絶対に大丈夫だ!」
「――リーンさん……」
「どうしたのよレイナ、私に話って」
「ええっと……その……」
宮殿の裏庭はバラなどが植えられていて美しく、私とレイナの他に人はいない。
私をここに呼び出したレイナは、しばらく口ごもり、やがて。
「実は……リーンさんに隠していた事があったんです……」
「隠していた事?」
それをわざわざ私に言うために、ここに呼び出したのかしら?
「はい。その事は、既に魔王さんとカイン君は知っています」
じゃあ、知らないのは私だけって事?
カインはともかく、私は知らないでリョータが知ってるなんて……何か悔しいわ。
「それで、話したい事って何?」
「そ、その……」
「レイナ?」
本当にどうしたのかしら。
レイナは目に見えるほど何かに怯えていて、今にも泣きそうになっていた。
「わ、私……私……!」
震える手を自分の胸に置き、必死にその震えを押さえようとしている。
これから一体レイナは何を言おうとしているのか、私には分からない。
でも……。
「レイナ」
「リーンさん……?」
「大丈夫よ」
私はレイナの手を取り、安心させるようにそっと力を込めた。
その手は、勇者とは思えない程繊細で綺麗だ。
「ありがとうございます……リーンさん……」
少し落ち着いたのか、レイナはゆっくりと語り出した。
レイナはサルヴェイションというユニークスキルを持っていた事。
その力は、魔族を滅ぼすために存在するような力である事。
もしその事を私に知られたら、嫌われるかもしれないと思って、ずっと隠していた事。
その全てを話し終わったレイナは、私の手を震える手で握り返し、ポロポロと大粒の涙を流し始めた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
……正直、かなりビックリしている。
このレイナが、そんな力を持っていたなんて。
だからレイナは、こんなにも怯えていたんだ。
……私は……私はそんなレイナを……。
「ありがとう」
「……えっ?」
私の腕の中で、レイナはポカンとした顔をしている。
「確かに、アンタがそんな力を持っていたのはビックリした。でも、私はアンタの事を決して嫌いになったりしないわ。むしろ言ってくれて、ありがとう」
「リーンさん……」
「それに、エドアルドみたいな奴じゃなくて、アンタみたいな優しい子がその力を持っているなら、私達魔族は安心ね」
「う……うぅ……」
「だから、そんなに自分を責めないで」
私の胸に顔を埋めて啜り泣くレイナの頭を、優しく投げてあげる。
そうだよね、歴史上最強の勇者レイナは、私よりも年下の女の子なんだもんね。
それなのに、一人で考えて、思い詰めて、苦しんで。
「ねえ、レイナ」
「はい……」
じゃあ、私も一緒に支えてあげなくっちゃ。
「私と友達になりましょう」
「……! はいっ! よろしくお願いします、リーンさん」
「いいのよ、もっと砕けても。私達はもう友達なんだから」
「は、はい! あっ、ええっと……改めてよろしくね、リーンちゃん!」
「フフッ」
「えへへ」
私達はそう言い合うと、一頻りに笑い合う。
「じゃ、じゃあ、折角だしここの花を見に行こうよ!」
「いいわね」
そう笑顔で答えると、レイナは嬉しそうにはにかんだ。
そしてレイナの後に付いていこうとした時ふと、視界の中にあるものが見えた。
それは、向こうの曲がり角から少しだけ飛び出ている紫色の布きれ。
「どうしたの?」
「……ううん、何でもないわ。行きましょう」
「うん!」
そう元気に笑うレイナは、裏庭に咲き誇るどの花よりも美しかった。
何か百合っぽい回でしたね。
この光景を見ていた誰かさんも、やっぱ百合っていいわ~、などと思っていたり……?




