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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第二章 隣の国の勇者さん
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第八話 魔族は今日も嫌われ者だ!⑩


「うわぁ……俺のさっきまでの苦労が酷く小さく感じる……」


俺は勇者一行とリーンにボコボコにやられて、ア●パ●マンさながらの顔面になって失神しているエドアルドを覗き込みながら、安堵の気持ちと歯がゆい気持ちが交じったため息をついた。

勇者一行とリーンが会場に入ってきてからの話は、もはや言わずもがな。

なのでここはキング・クリムゾンさせて貰おう。

エドアルドを始めとするアダマス教徒達は、リーン達の後からなだれ込むように入ってきた本物の兵士達の手によって捕縛された。

アルベルトは、フィアの回復魔法で回復したものの、意識は戻らず担架で運ばれていった。

さっきまでのイタさはどこへ行ったのやら、あの時の普通にアルベルトは格好良かった。

だけどまあ、レイナにはフラれるし、取り巻きはテロリストの仲間だったし、アルベルトにとって今日は嫌な意味で忘れられない日になることだろう。

まあ勿論、俺にとっても。


「ハアァアァアァア……魔王城に帰りたい……そして寝たい……」


今までの恐怖や緊張、疲れが一気にこみ上げてきた俺が、もう一度深いため息をついた時だった。


「よかった、無事だったのね!」


後ろからそんな声が聞こえて振り返ってみると、紅い瞳に涙を浮かべてこちらに駆け寄って来るリーンが。

何だよリーンの奴、俺の事心配してくれてたんじゃん。

そう思いながら、俺はリーンと向き直り、両手を広げてリーンを抱きしめようと……。


「カインッ!」

「ね、ねーちゃん!? いきなり抱きつくんじゃねーよ!」


DE・SU・YO・NE☆

俺の横を素通りし、後ろにいたカインを抱き寄せるリーン。

抱きしめられているカインは顔を赤くしながら、リーンの腕から逃れようとジタバタしている。

まあ、分かってたけどね?


「よかった、どこにも怪我は無いようね……もしあんたに何かあったら、今頃リョータを半殺しにしてたわ」

「おいコラ」


とてつもなく恐ろしい事を言ったリーンに思わずツッコム。


「こちとら死ぬ気で頑張ったんだぞ! 俺にもハグの一つでもしてくれよ!」

「絶対に嫌よ! それに、カイン事ちゃんと見ててって言ったじゃない! 魔王のあんたには、カインに傷一つ付けないって義務があるんだから、同然でしょ!?」

「泣くぞ!? 魔王の俺がこの大衆の面前で大泣きしてやろうか!?」


などと、しばらく人目も気にせずギャイギャイ言い合っていた俺とリーンは、やがて互いに背を向ける。

カインはもうデレ期入ってんのに、コイツほんと冷たい。


「……リョータ」

「あん?」


などと渋い顔をしていると、俺に背を向けたままリーンが声を掛けてきた。

俺がそれに荒っぽく答えると、リーンは少し潤んだ声で。


「……ありがとう」

「……フン」


不意打ちは卑怯だろ……。

俺が顔が熱くなるのを感じながら、リーンにぶっきらぼうにそう返した時。


「お父様! お父様ッ!」


会場の奥から、レイナの必死な声が聞こえて来た。


「あっ、そうだ! フォルガント王さん毒盛られてるんだった!」


エドアルドとの戦いですっかりフォガント王の事を忘れていた俺は、慌ててそちらに向かう。


「おい、フォルガント王さんは大丈夫なのか!?」

「いま、回復魔法を掛け続けてるですけど、かなり厳しい状態です」


その身体に何らかの魔法を掛けているフィアの言うとおり、フォルガント王の瞳孔は曇りがかり、意識が朦朧としていた。


「解毒剤を飲ませようにも毒の種類が分からないんじゃ、ボク達にはどうすることも出来ないよ」

「マジかよ……」


フィアでも毒を消せないのなら、確かに俺達にはどうすることも出来ない。


「お父様……ヒック……」


動かない父の手を握りながら、レイナはポロポロと涙を落とす。

何もしてやれないやるせなさに握り絞める手の力を強めていると、ジータがポツリと呟いた。


「こんな時に、あの花があればね……」

「あの花?」

「ああ、この世界のどこかに咲いていると言われている希少な花でね、どんなに強力な毒でも瞬時に直すことが出来るんだよ」


どこかに咲くかぁ……そんな伝説っぽいアイテムが、都合良く近場にある訳がないもんなぁ……。


「ちなみに、その花ってどんな特徴なんだ?」


そう思いながらも何となく訊くと、ジータは思い出すように言った。


「その花の名前はポイズン・ティアラ。その名の通り、花びらはティアラのような形をしていて、色は染められたような紫。そして、ダイヤモンドを散りばめたような模様があるんだ」

「…………ん?」


ジータの説明を受けて、俺は思わず首を傾げる。


「おい、どうしたんだ?」

「いやぁ……何かその特徴に見覚えが……」

「アレ……? 私も何だか……そんな気が……」


不思議そうな顔をして訊いてきたエルゼに、俺が顎に手を当ててそう答えると、何故かレイナも考え込むように口元に手を添える。

うん、スッゲーどっかで見たことがある……。

それもメッチャ近場で……。


「う、ううん……?」


しかも、レイナも見たことがある気がするって言ってるし……ん?

花……レイナ……花壇……。


「「ああああああああああああああああっ!」」

「「「「「!?」」」」」


突然大声を上げた俺とレイナに、周りの奴らの身体が少し跳ねた。


「な、何? 二人ともどうしたのよ?」


そんな俺とレイナに、リーンが恐る恐る訊く。


「それ魔王城の花壇に生えてるうぅ!」

「「「「「は、はああああああああああ!?」」」」」


そうだよ、俺が森でたまたま見つけたあの花じゃん!


「もしかして……いや、間違いないです、あの花です!」

「ほ、本当かい!?」

「マジかよ……!」

「信じられないです……!」


レイナの確信を持った言葉に、勇者一行三人衆は目を見開く。

いやそうはならんやろ……。

でも、あの花はジータが述べた特徴と完全に一致している。

ええ、何このミラクル!?


「ま、魔王さん! あの花を私に下さい! ジータちゃんにテレポートで取りに行って貰います!」


レイナは、まるで泣きつく様に、俺の胸に縋ってきた。


「お願いします……! 私、何でもしますから……!」

「ん? 今、何でもって言った?」

「アンタこんな時に何考えてんのよ!?」

「わああああああゴメン、条件反射で何でもするって言葉に対しての模範解答言っちゃった!」


リーンに頭を引っぱたかれ、俺は痛みに顔を顰めながら謝罪した。


「花壇は魔王城の正門過ぎて、すぐ右に行った所にあるから! 速く行ってこい!」

「了解、すぐに取ってくる! 『テレポート』!」


既に詠唱を済ませてあったのか、ジータはすぐに魔界へと飛んでいった。

が、その瞬間。


「う、ううっ……ガフッ……!」

「ああ、陛下!」


今までずっと静かだったフォルガント王が、苦しそうに呻き血を吐いた。


「ああああッ、お父様! しっかりして下さい! あともう少しの辛抱です!」


レイナはフォルガント王の側に座り込むと、そのゴツゴツした手を握り締め、大粒の涙を溢す。


「ああ、レイナよ……すまないなぁ……私はもう、助からんようだ……」

「そ、そんなぁ! そんな事言わないでよぉ!」

「本当に、すまない……まだ、お前の成長を、側で見て……ゴホッ!」

「お父様ぁ……!」


誰の死に目に会ったこと無い俺でも分かる。

フォルガント王の命の灯火が、もう消えかかっている事に。

ああもう、ジータ何してるんだよ!

早く、早く何とかしなきゃ!

せめて、フォルガント王がもう少し堪えててくれたら……!

自分が死にかけている事すら忘れるぐらい、別のことで気を逸らせてくれれば……!

ん……待てよ?


「そうだ、フォルガント王さん!」

「ま、魔王さん……?」


閃いた俺はレイナの隣に屈み込むと、もう呼吸もしているかどうか分からないフォルガント王の耳元に怒鳴った。

フォルガント王は、レイナをかなり溺愛しているようだ。

だから……レイナには悪いけど……。

俺は大きく息を吸い込むと、三途の川に聞こえるぐらいの大声で。


「さっき俺、レイナに何でもするって言われました! だから……俺は今からこの場で、レイナにエッチな命令をしようと思いますッ!」


ピキーンッ、とこの場の空気が凍り付く。

慌てふためいていた重臣達も、必死に両手を組んで祈っていたカインも、涙腺が崩壊しかけていたリーンも。

全員が、俺の言葉に固まったのだ。

しかし唯一。


「え……あぅ……えぇ?」


レイナだけは、真っ赤な顔をして俺を見つめていた。

そんな周りを気にせずに、俺は尚叫び続ける。


「いいんですか!? 大切な娘さんがこの公衆の面前でエッチな目に遭うんですよ!? このクソ生意気なエロ小僧にあんなことやそんなことされるんですよ!?」


少しだけだが、フォルガント王の眉がピクリと動いた。

よし、ダメ押しだ!


「俺やりますよ!? レイナのおっぱい揉みしだきますよ!? いいんですね!? わっかりました、よしレイナ! 早速この場で脱いでみようグエェッ!?」


俺がそうレイナに命令しようとした瞬間、フォルガント王のゴツゴツした手が俺の頭を掴んだ。

潰れたカエルみたいな声を出す俺の身体が、ゆっくりと上がっていく。

そして同時に、フォルガント王がゆっくりと起き上がる。


「お、お父様……!?」


レイナの声には反応せず、フォルガント王は自分が片手で持ち上げている俺を見る。

その顔は笑顔であったが、とてつもない威圧を放っていた。


「いいわけ……」


そしてフォルガント王は、一人の愛娘を守るべく、死をも乗り越え。


「あるかあああああああああああああああああああああああああ――ッ!!」

「その調子です、フォルガント王さあああああああああああああ――ッ!?」


目の前のエロ小僧を成敗した。






「――これで陛下は大丈夫です!」


数十分後。

ジータが魔王城の花壇から持ってきた花は、俺が止める間もなく一瞬で煎じられてしまった。

そして、出来た解毒薬がフォルガント王に投与され、大人数に運ばれていった。

まあ、花より人命の方が大事だよな。

それに相手は大国の王様だし。

などと自分で納得しながら床に倒れている俺に、レイナが申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごごご、ごめんなさいッ!」

「いいのいいの、覚悟の上だったから……」


我を忘れたフォルガント王にボコボコにされたが、結果オーライ。

だけど、まさか戦いが終わってから一番ダメージを受けるとは思わなかった。

口の中が鉄味ケチャップましましだ。


「や、やりかたはともかく、ナイスファインプレーですよ魔王!」

「でも、あの一瞬であの作戦に思いつくお前の頭の中どうなってんだよ……」


俺に回復魔法を掛けてくれるフィアと、少し引いているエルゼの言葉に、俺はドヤ顔で。


「スケベは世界を救うのだ」

「それで救われた世界なんて滅びればいい」


リーンの鋭いツッコミに、周りが何とも言えない表情をする中、ジータが話し掛けてきた。


「だけど魔王君、本当にありがとう。使っちゃったポイズン・ティアラは、ボク達が払うよ」

「ああ別にいいよ、また摘んでくるから」

「「「「えっ?」」」」


手をヒラヒラさせながら言った俺に、勇者一行が首を傾げた。


「ま、また? でも魔王さん、あの花は偶然見つけたって……」


そんなレイナの言葉に、俺は頭を掻きながら答えた。


「あー、そういえば詳しく言ってなかったな……。正確に言えば、あのポイズン・ティアラ単体を見つけたんじゃなくて、ポイズン・ティアラの花畑を見つけたんだよ。そんで、その中から一本摘んできたんだ」

「「「「え、えええええええっ!?」」」」

「思い返してみると、私もしょっちゅうあの花見たことあったわよ」

「俺も」

「だよな?」


リーンとカインも見覚えがあるらしく、その二人の反応を見て四人は更に目を見開く。


「で、でもあの花はチョー貴重です! 一本百万トアルも値が付くですよ!?」

「マ、マジで? ……俺達って、今まで他国との交流が無かったから、他国の希少価値が分からないんだよ、多分。あと、わざわざ魔界にアイテム採取しよう何て思う奴もいないだろうし」

「そ、そんな事あるです……?」

「俺もビックリだよ……」


苦笑いしながら言う俺に、フィアが若干身を引く。


「それにその花が沢山あるのは、多分魔界の土地環境がいいからじゃないか? 基本晴れてるし」

「……ちょ、ちょっといいかい?」


俺のその言葉に反応したジータが、そう言いながら空中に小さな魔法陣を発動させた。

そしてその魔法陣に手を突っ込むと、どこからともなく一冊の本を取り出した。


「何それアイテムボックス? ストレージ? いいなぁ……羨ましい……」

「それはいいから! 君達、もしかしてだけどこの花も見たことあったりするかい……?」


そう言って俺達に開いたページを押し付けてくるジータ。

そのページには何かの植物の絵が描かれている。


「この花はマナ・ロータスって言って、魔力を瞬時に回復することが出来る薬の材料で……」

「その花、この前花屋さんで見たわよ?」

「じゃあこの、全ての状態異常に効くと言われている、ステイト・リリーは……?」

「コレ、孤児院の庭に何本か生えてるぞ?」

「えっと……じゃ、じゃあこの風邪がすぐに治る健康薬の材料、コールド・ハーブは……」

「ああそれ、そこらの壁や道路の隙間からピョコピョコ生えてんぞ。雑草かと思ってた」

「え、ええ……」


ジータは本を取り落とし、ガクガクと震えている。

つまり、魔界に沢山生えている花や草は、他国ではすっごく貴重だという事だ。


「……ん? 待てよ?」

「どうしたのよ?」


俺はふとある考えが頭によぎった。


「この花とか薬草とかを、貿易品に使えばいいんじゃねえの?」


そうだよ、この花はうちの国に大量にあるし、その上少なくても個々の値段が高いから困らない!


「ああ、でも……」


喜んでいたのもつかの間、俺は突き上げようとした拳を下げた。

そして、俺はゆっくりとカインを見る。


「…………」


カインは同盟の話になったことで、少し表情を暗くさせていた。

そう、カインは人間がどんな奴か、自分の目で見て確かめて貰うためにここに連れてきた。

だけど、先程あんな事件が起きたばかり。

……しょうがない。


「……ごめん、やっぱり同盟の話は無かったことに――」

「そんな事をいちいち気にしていたら何も変わらない。可愛そうって思われたら、鼻で嗤ってやれ。そんで、いつか逆に可哀想な奴らって見下せるようになれ」

「……えっ」


唐突なカインの言葉に、俺は言葉が詰まった。


「にーちゃんが言ったんじゃねえか、俺達にさ」

「あ、ああ、うん」


そういや俺、そんなイタいこと言ってたな……。


「正直、アイツらのことは殺したいほど憎い。それに、やっぱり人間には悪い奴らが大勢いる事も分かった」

「そうだな……」


カインはそう言いながら、俺に背を向けて歩き出す。


「でもさ、にーちゃんの言うとおり、そんな事いちいち気にしても何も変わらないし、それに……」


そう言うとカインは振り向いて、俺に向かってニカッと笑ってみせた。


「逆に、いい人間が今俺の目の前にいるんだしな!」

「カ、カァアァアアイイイイィィインッ!」

「おわっ!?」


その言葉を聞いた俺は、感極まってカインに飛びついた。


「お前はほんといい奴だよぉ……! どんだけいい奴なんだよお前ぇ!」

「離れろコラ! 苦しいだろうが!」

「リーンの時よりも嫌がってる!?」

「まったく、あんた達は……」

「アハハ……」


全力で嫌がるカインの反応に、思わずショックを受けてしまう俺。

その光景をリーン達が苦笑いを浮かべ見ている。

先程まで激闘の舞台だったパーティー会場は、少しだけ暖かい空気に満たされていた。

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