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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第二章 隣の国の勇者さん
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第八話 魔族は今日も嫌われ者だ!②


「魔王、そんなレベルとステータスであの人を倒すなんて、逆に凄いです」

「いや、アイツとの相性が良かっただけだって。ほんっと、魔神眼持ってて良かったぁ……意外と使えるなぁ、コレ」


兵士二人がかりで運ばれていくアルベルトを眺めながら感心したように呟くフィアに、俺はため息交じりに言う。


「それにしても、ねーちゃんちゃん達遅くねえか?」

「そういえばそうだな」


その間、辺りをキョロキョロと見渡していたカインが少し心配そうに言う。


「まあ、女性は髪を梳いたり化粧とかしなくちゃいけないし、そんなもんだろ。おやおや~、もしかしてママが心配なのかな~アダッ!」

「違えよ」

「君達、本当に兄弟みたいだねぇ」


カインにスネを蹴られ、悶絶する俺を見ながら、ジータが少し羨ましそうに言う。


「でも、ボクはいずれカイン君のお姉ちゃんになる予定だから、負けないよ?」

「「何言ってんだコイツ」」


と、その時、会場が一瞬にしてざわめき始めた。

何事かと振り返ってみるとそこには、先程の白桃色のドレスを身に纏っているレイナと、深紅のドレスを身に纏い、恥ずかしそうに下を向くリーンが立っていた。

貴族達はいきなり現れた二人の美少女の姿に言葉を失い、ただ呆然としている。


「ごめんなさい、遅くなってしまって」

「はー……」


その中には勿論、俺も含まれている。

やっべー、レイナもリーンもスッゲー綺麗だ。

女ってこえええええ、普段見慣れた顔でも、薄ーく化粧してドレス着ただけでこうも変わるのか。

まあ、コイツら全員、そもそも元が美人だから何着ても似合うんだろうなぁ。


「……何よ、ジロジロ見てんじゃないわよ」


レイナの後ろからこちらを潤んだ瞳で睨みつけてくるリーン。

……今ドキッとした。

どうしよう、えっ、マジでどうしよう、直視できない! 何か神々しい!

と、思っていたのもつかの間。


「ブフッ……! あんた、燕尾服似合わないわね……!」

「お前もかよ……」


俺姿を見て吹き出すリーンに、さっきまでドギマギしていたのが嘘のように冷めてしまった。


「ケッ、逆にお前のドレス姿、笑えなくて非常に残念だよ」

「……あっそう」


俺の皮肉にリーンは興味なさげに返すが、若干耳が赤くなっているのがバレバレだ。


「まあいいや。それじゃあ全員揃ったし、食べようぜ!」


さっきからごちそうが目の前にあり、食べたくてウズウズしていた俺は、早速取り皿を手に取った。





「――ふぅ、食った食った……」

「幸せだぁ……」

「二人とも、行儀悪いわよ」


会場の隅に設置してあるソファに寝そべっている俺とカインに、リーンがため息交じりに言う。


「しょうがねえだろ、美味いんだから。俺が作ったのとプロが作ったのじゃ、やっぱ差があるしな」


料理は確かに美味かったが、やはり日本人としては旅館の朝のバイキングのように、銀シャリや味噌汁なんかも出して欲しかった。

でもまあ異世界で、そんでもって宮殿パーティー会場にそんなのが出たら、普通に問題になるけども。


「でもなぁ……こんなに美味いのに、貴族ってのはこういう場では会話中心だから、全然手を付けないで殆ど廃棄処分になるんだよなぁ」


少し離れた所で貴族の相手をしているレイナ達を眺めながら言う。


「マジで!? もったいねえ……」

「な? タッパーあったら全部持ち帰るのに……。それが無理なら、せめて孤児とかにやれたらいいのになぁ」

「あんたら、華やかな場で何現実的な話してんのよ……」


リーンは呆れ顔で言うが、コレはとても重要な事だ。

地球だって、東南アジアの辺りはひもじい思いをしてドブ川の水を飲んで暮らしている子供達がいるんだ。

タダで食っている分、俺達はきちんと食べなくてはいけないのだよ。


「皆さん、お料理はお口に合いましたか?」


チラホラと減っていく貴族達を見て、そろそろ客室に戻ろうかと思っていると、レイナ達がこちらに

歩み寄ってきた。


「おう、メッチャ美味かった。ご馳走さん」

「また食べてえ!」

「フフ、よかったです」


口元にソースを付けながら満足そうにいうカインに、レイナは笑みをこぼす。

するとリーンが後ろに回り込み、俺とカインの頭を掴んで無理矢理下げさせる。


「ごめんね、コイツら場もわきまえずにだらしなくって……」

「お前は俺の母ちゃんか」

「あんたが子供っぽ過ぎるのが悪いんでしょ」


何だよ、俺の母ちゃんだったら俺と同じように寝そべってるぞ。

いつも飯食った後につい横になってそのまま寝ちゃうような人だし。

と、故郷の母の顔を顔を思い出していると、レイナがそうだとばかりにポンと手を打つ。


「そうだ! リーンさん、このあと時間ありますか?」

「え? まあ、あるけど」


その返事を聞いたレイナは、少し恥ずかしそうに言った。


「あの……私達、このあと大浴場に行くんですけど……よかったら、リーンさんも一緒にどうですか……? もっとリーンさんとお話ししたいですし……」

「えっ!? 風呂!? 行く行グヘアッ!?」


ハイハイと嬉々として手を上げる俺の脳天に、リーンが拳を落とした。


「あんたな訳ないでしょ? 頭どうかしてんじゃない?」

「イテテ……そんな事分かってるよ、ジョークだよジョーク」


氷のような視線で見下してくるリーンに、俺は頭を押さえながらヘラヘラと答える。


「ったく……えっと、お風呂? いいわよ、一緒に入りましょ」

「あ……ありがとうございます!」


そんな俺を無視して、リーンは苦笑いを浮かべていたレイナに微笑みながら言う。

するとレイナは花開くようにパアッと表情を明るくした。

いやー、こういう百合っぽい展開はいいもんだね、目の保養になる。


「あんた、もし覗きに来ようもんならぶっ殺すわよ?」


その光景を微笑ましく見ていた俺を、リーンは睨みつけてくる。


「大丈夫だ、そもそも俺にそんな度胸は無いから安心して入りたまえ」

「ほんとです?」

「フィアまで何だよ……俺は魔王城の浴場に行くとき、『うっかりドアを開けたら着替え中でしたー』的なテンプレ展開になんないように、ちゃんと三回間を置いてノックする男だぞ」


だって、リーンの場合もリムの場合もローズの場合も、もしそんな事やらかしたらもれなくあの世行きだもん。


「魔王お前、気遣い出来んのか出来ねえのか分かんねえな……」


正確に言えば、気遣いというよりも自己防衛。テンプレなんて、当てにしちゃダメ。


「それじゃあ、カイン君もボク達と一緒に来るかい?」

「ッ!? ゴッホゴホ! は、はああ!? い、行くわけないだろ!」


などと思っていると、その光景をジュースを飲みながら見ていたカインに、ジータがイタズラっぽく微笑みながら言った。

それに対し、カインはむせながらも真っ赤な顔して拒否する。

あああああーあ! 羨ましっいなああああああ!

俺もこれぐらい小さくなりたいなー!

そしたら何も罪にならないで美少女達の裸体を拝めるのになー!!


「ハイハイ、それじゃあ早く行きましょ。リョータ、カインの事ちゃんと見てるのよ」


と、俺がどんな事を考えているのか悟ったのか、リーンは四人の背中を押すように会場から出て行った。


「さてと、カインはこれからどうする?」

「腹が落ち着いてきたからもうちょっと食ってくる」

「スゲえな、まだ食えるのかよ」


ソファから立ち上がり、再びテーブルに向かうカインに、一体その身体のどこに入るのかと不思議に思いながら見送る。

さてと、それじゃあ俺はしばらくここでくつろいでようかな。

と、思っていたのだが。


「リョータ殿、少しいいか?」

「はい? っととと……!? フォ、フォルガント王さん、何でしょう?」


急に呼び掛けられ顔を上げてみると、そこには今まで重臣達と会話をしていたフォルガント王が立っていた。

俺は慌てて立ち上がりながら訊くと、フォルガント王は反対側の壁に備え付けられているバーのようなカウンターを親指で指しながら言った。


「少しだけ付き合ってくれんかね?」

「いいですけど……俺、あんま酒飲めませんよ?」


今気付いたけど、宮殿の会場にバーがあるんだな。結構以外だ。


「ここは私が作らせたんだ。こういったパーティーや仕事が終わった後などに、よくここで飲みながら、ここ専用のマスターに愚痴をこぼしたりするんだ」

「マジッスか? こんなにデカい国の王様が、小さなバーでチビチビ飲んで愚痴るとこなんて、想像できないですけど……」


互いに丸椅子に並んで座りながら言うと、フォルガント王はふと、マスターの顔を見る。


「ん? なあ君、ライムはどこだ? いつもは居るはずだが?」

「……只今、ライムは急な用事があるとの事で、私がここの担当をさせて頂いております」

「そうか、ならいいんだ。じゃあ君、二段目の右から三番目のヤツを頼む」

「はい、少々お待ち下さい……」


話を聞く限り、どうやら今はその専用のマスターさんはいないらしい。

この持ち場に慣れていないのか、ヒョロッとした茶髪の中年マスターさんの妙にぎこちない動きをボンヤリと見ていると、フォルガント王が口を開く。


「そういえば、アルベルトとの試合、見事だったぞ」

「えっ、見てたんですか!?」

「ああ、廊下の窓からな。これで少しは、アルベルトの奴もレイナに絡んで来る事も少なくなるだろう。まったく彼奴と来たら、レイナの未来の旦那など抜かしおって。いい奴ではあるが、あの勇ましく気高かった、先代のアルフレッドの息子なのだからもう少しシャンとして欲しいものだ」

「ハハハ……まあ、アイツもアイツなりに反省してるみたいですし、いいんじゃないですかね」


俺はいつの間にか復活してここに舞い戻り、レイナがいないことにショックを受けているアルベルトを横目で見ながら乾いた笑い声を上げる。


「そういえなあの決闘を重臣達も観戦していてな。それから、今までバルファストとの同盟に反対していた重臣達が考えを改め始めたんだ」

「えっ? そうなんですか」

「ああ。何でも、アルベルトに勝ったとは言え、あんな魔王なら脅威は無いだろうとな」

「あんなって何だよあんなって!? しっつれいだなおい!?」


年長者、ましてや王様に対しては大変失礼言い方になってしまったが、コレはどっちもどっちなのではないだろうか。


「まあしかし、あの者達もリョータ殿が悪い奴ではない、ということは理解したみたいだな」

「今から拗ねて悪い奴になってもいいんですよ……? ってか、それだけで善人って決めつけるのもどうかと思いますけど……」

「いいや、君は悪い人間じゃないよ」


皮肉交じりに言うと、フォルガント王はこちらを見て笑う。


「レイナがな、ここ最近、ずっと君の話を私にしてくるんだよ」

「えっ……!?」


フォルガント王の言葉に、俺はつい身を少し乗り出して聞きに入る。

レイナ、この人にどんな事話してるんだろう?

もしかして、俺が気になってたりとか……!


「君が魔王なのに臆病だとか、ギルドで冒険者と腕相撲をしていたとか、花壇の花の世話をしてたりだとか。他にも、リーン殿の事とかを、実に楽しそうに話してくるんだ」


ですよね~、だと思った!


「何でそんな事楽しそうに話すんでしょうね? しかも俺に関する話全部ロクなもんじゃないし……」

「ハハハ……そうだな、多分、嬉しかったんじゃないか?」

「はい?」


俺が首を傾げて言うと、マスターが無言で差し出したグラスを持ち、クルクルと回しながら語り始めた。


「レイナは生まれながらに勇者としての素質があった。力、魔力、そして勇者というジョブ。その全てが神に祝福されたと言ってもいいぐらいにな」


確かに、あの強さは神に祝福されてんな。


「だが……」

「だが?」


突然声のトーンを下げたフォルガント王の話に、再び耳を傾けた。


「だがその力のせいか、レイナは人々に恐れられてしまった。今はそんなことはないのだが、そのせいかレイナには勇者一行の三人しか友がおらん。そしてその三人も、同じような境遇なのだ」

「そうだったんですか……」


確かに、いくら味方とは言え、あまりにも強大な力を持っていたら、誰だって怖くもなるだろう。

しかし、あの優しいレイナが人々から恐れられているなんて思ってもいなかった。


「だが君達は、そんなレイナ達の力を知りながら、恐れず接してくれている。それが、レイナにとって嬉しかったのだろう」


いや、確かに前とは違ってアイツらに対する恐怖心は無くなったけどもさ?

多分それ、うちの国の連中の方が変なのが多すぎて、俺らの感覚がエラー起こしてたからだと思うよ?


「リョータ殿」

「は、はい?」


などと俺が苦笑いを浮かべていると、フォルガント王がこちらを見ずに呼んでくる。

そして、フォルガント王はグラスに入った琥珀色の液体を一口呷ると。


「あの子達と、今後とも仲良くしてやってくれ」

「…………」


そのフォルガント王の言葉は、一国の王としてではなく、一人の父親としての言葉だった。

……正直、レイナ達といると主人公補正とかで更にトラブルに巻き込まれそうな気がする。

それに、勇者と魔王が仲良くするなんて、普通に考えればおかしい事だ。

……でもまあ。


「勿論です」


そんな事、どうでもよくなるぐらい、アイツらと仲良くなりたい。


「でも、もしレイナと仲良くなったからって、俺に何もしないで下さいよ?」

「……………」

「フォルガント王さんの娘の溺愛っぷり見てると、仲良くしただけでもぶっ飛ばされそうで怖いんですから」

「…………………」

「……? フォルガント王さん?」


急に静かになったフォルガント王を怪訝に思い、チラと横を見てみる。

フォルガント王の顔色は何故か真っ青になっていて、脂汗をダラダラと流し、目の焦点が合っていない。

そして、フォルガント王の手からグラスを床に落とし、ガラスの割れる音が会場に響く。


「う……ぐぁ……!?」

「ちょ、どうしたんですか!?」


胸を押さえて苦しみ出すフォルガント王は、そのまま丸椅子から崩れ落ちた。


「陛下ッ!?」

「おっさん!?」


その声に反応したアルベルトとカインが、血相を変えてこちらに走ってくる。


「ぐ……ぶはあっ……!」

「な、何だよコレ……!? と、吐血!? せめて舌を思いっきり噛んだんだとか、酷い口内炎持ちとかであってくれよ!」


床に手を突き口から赤い液体を吐くフォルガント王に、俺は血の気がサアッと引いた。


「陛下!? 陛下ッ!!」

「お、おいおっさん、しっかりしろって!」


苦しむフォルガント王に、俺達はどうしたらいいか分からず混乱していた。

な、何でこんな事になってるんだ!?

待て、冷静になるんだ月城亮太! よく考えろ!

普通、人が吐血する事なんて場合、十中八九毒を飲んだ場合だ。

という事は――!


「あ、あんた、さっき酒の中に何入れやがった!?」


俺はカウンターの内側で、事の成り行きを見ていたあの茶髪のマスターを睨みつけると。


「フフフ……ハハハハ……!」


混乱渦めく会場内で一人、マスターがグッタリとしているフォルガント王を見下すように笑った。

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