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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第二章 隣の国の勇者さん
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第八話 魔族は今日も嫌われ者だ!①

フォルガント王国の宮殿の廊下を、一人の兵士が歩いていた。

端から見れば普通の見回り兵なのだが、少しだけ他の兵士とは様子が違う。

その兵士は見回り兵のはずだが全く周りを警戒せず、ただ真っ直ぐ廊下を進んでいく。

しばらく進み、兵士は広大な敷地を有する宮殿の一番隅のヒッソリとした部屋の前に着くと、ここで初めて周りを警戒し、誰も居ないと確認した後中に入っていった。

その薄暗い部屋の中には、同じように兵士の格好をした男達が八人いた。


「ただいま戻りました」


そして、部屋に入った兵士は一歩前に出ると、薄暗い部屋の奥の椅子に腰掛けていた男に報告をした。

その男は他の兵士とは違い黒いタキシードを着込んでいる。


「ええ。それで、どうでしたか?」


その男は兵士に向き直ると、柔らかい口調で訊いた。


「はい。今のところは予定通りです。ですが……宜しいのでしょうか?」

「何がです?」

「魔王の事です」

「……フフッ」

「?」


兵士の口から魔王という単語が出た途端、男はクスリと笑う。


「いいのです。事前から計画していた今日という日に、魔王自らがここに訪れたのですから。この機会はまさに運命さだめ、というものではありませんか?」


男はそう言うと、ゆっくり椅子から立ち上がる。

そして、部屋の隅に捨てられたように転がっている数人の兵士と、その男と同じようにタキシードを着込む初老の男を一瞥し、静かに言った。


「それでは、そろそろ始めましょう。我らがアダマス神様の為に……!」






「――ハハハ! 何だよ兄ちゃんそのかっこー!?」

「笑うな笑うな! そんなに似合わないかなぁ……? まあ、確かにブカブカだけども……」


高級そうな燕尾服に身を包み、ネクタイを鏡の前で結ぶ俺に、先に子供用のタキシードに着替え終わったカインがこちらを指差し笑ってくる。

何故俺達が身の丈に合わない服を着ているのかというと、この後魔界から来た俺達の為に、宮殿の広間で軽いパーティーが催されるというのだ。

本格的なものはないのだが、流石に宮殿で開かれるパーティーにパーカーで行くわけにもいかず、リーンと勇者一行と一旦別れて着替えているわけだ。


「そう言うお前だって、あと赤い蝶ネクタイとメガネ付けたらまんま見た目は子供の人じゃねえか」

「誰だよ? ってか見た目は子供って何だよ?」

「分からなくて結構。ほら、そろそろ行くぞ」


ネクタイを絞め襟を正した俺は、カインにそう促すと部屋から出た。


「そういえば、実際にここに来て感想はあるか?」

「ん? ああ…………」


会場に向かう道すがら、俺は隣を歩くカインに訊いた。

そう、忘れてはならないのが、カインをフォルガント王国に連れてきた理由。

あのイタいの化身と言っても過言では無い騎士団長の……何だっけ?

確かベルトルトだかベロベルトみたいな名前……ああそうだ、アルベルトだ。

そのややこしい名前の騎士団長にいきなり喧嘩ふっかけられたから、今まで重要な事を忘れていた。

カインはしばらく考えるように顎に手を当てると、こちらを見ずに答えた。


「今日だけじゃ見て分からないけど……まあ、勇者一行はいい奴らだった」

「そうかー。確かに、お前さっきまでジータに可愛がられてたもんなぁ」

「う、うるせえ!」


俺達が別れる前、カインは主にジータに散々頭をわしわし撫でられてたのを思い出し、ヘラヘラと笑う俺にカインが顔を赤くする。

まったく、美少女に頭撫でられるなんて、羨ましいったらありゃしないよ。

しかしまあ、カインが勇者一行に対してそう思ってくれるのなら、普通にありがたい。


「まあ、ここの全部知ったわけじゃねえし、俺もまだ百パー信用してる訳じゃねえから、お互いじっくり見てから考えようぜ」

「……そうだな」


俺達はそれ以上は何も喋らず、話し声が聞こえてくるパーティー会場に足を進めた。





――立食形式のパーティー会場では、先程顔を合わせた重臣を中心とした有力貴族達が、皆思い思いに会話に花を咲かせ、出された食事に舌鼓を打っていた。


「はえー、軽いって言っても、やっぱ大国のパーティーはスゲえなー!」


などと呟きながら、会場をキョロキョロしながら歩いていると、俺の正体を知らないであろう貴族達がこちらを見てクスクスと笑っていた。

笑いたきゃ勝手に笑え、どうせ俺は日本でも異世界でも田舎者だよ。


「おーい!」


と、会場の奥の方から呼びかけられそちらを向いてみると、普段の格好とは違ってドレス姿のジータが手を振っていた。


「オオー! お前らきれ……遅くなって悪い」

「今、なんて言い掛けたです?」

「な、何でもねえよ」


咳払いをする俺に、フィアがニヤニヤしながら言ってくる。

あっぶねー、柄にもなく女子に対して綺麗って言いそうになってしまった。

しっかし、やっぱコイツらって美人なんだよなぁ。


「まったく、ホントに遅いよ魔王君」

「しょうがねえだろ、燕尾服なんて着たこと無いんだから。って、アレ? リーンとレイナは?」

「ああ、リーンがドレス着るのに手間取っててな。レイナが手伝ってやってるんだ」


二人がいない事に気付き辺りを見渡す俺に、あまりドレスは好きではないのか、渋い顔をして自身のドレスをつまんだりしていたエルゼが言った。

それにしてもリーンの奴、すっかりコイツらと仲良くなったな。

俺なんて友達三、四人作るのにやっとなのに……女の子のコミュニケーション能力ってスゲえわ。

などと思っていると。


「――ツキシロリョータッ!」


後ろから聞いたことがある嫌に甲高い声が、俺の名前を叫んだ。

振り返ると、そこには取り巻き四人に囲まれて、俺よりも高級そうな燕尾服に身を包んだアルベルトが立っていた。


「よお。大丈夫だったか?」

「よく分からないけど、いつの間にか立っていた川の向こう側に死んだ父上がいて、川越しに叱られてしまったよ」


いやソレ完全に三途の川じゃねえか。

ってかこの世界にもあんのかよ、三途の川。


「まあ、あの公衆の面前で盛大にフラれたら、死にそうになるわな」

「止めてくれ、思い出させないでくれ!」


ヘラヘラ笑いながら言う俺に対し、アルベルトは悔しそうに唇を噛む。


「でもま、格好良かったぜ」

「……僕のどこがだい?」

「あの大衆の中、堂々と告白したところ。俺だったら絶対ビビって出来ねえよ」


俺が肩を軽く叩きながら、そう慰めると、アルベルトはジッと俺を見ながら。


「……君の言う通り、僕はレイナ様に拒絶されてしまった。それもそうだ、思え返せば僕の勝手だった部分もかなりあった」

「かなりじゃねえよ、全部だよ」

「……だから僕は、騎士団長としての務めをまっとうし、いつかレイナ様に認められるような男になるよ」

「何か主人公みたいな台詞だな」

「いいから黙って聞いてくれないか!?」


だって、実際そうだもん。

てか、何故に取り巻きはトゥンクみたいな顔になってるの? チョロすぎん?

と、俺がげんなりしていると、アルベルトはこちらをビシッと指差して言った。


「そのために僕はまず君を越える。君よりレベルやステータスを上げ、君より強くなってみせる! それが今の僕の目標だ!」

「……………………」


無言で振り返ると、三人が苦笑いを浮かべていた。


「なんだい三人とも、僕の言っている事の、一体何が可笑しいんだ?」


そんな三人を、アルベルトは睨みつけながら言う。


「……お前、レベルいくつ?」


俺はため息をつくと、頭を掻きながら訊いた。


「僕かい? 僕はレベル36、ジョブは《騎士》だよ」


わーお、思ったより強かった。


「そうか。ちなみに俺はレベル3、ジョブはレンジャーだ」

「ハッハッハッ! 君は何を言っているんだい? そんな訳がないだろう」


ジョークだと思っているのか、アルベルトは取り巻きと一緒に高笑いしだした。


「ホラ」

「どれどれ……うん、さすが魔王ならではのステータスの高……んん!?」


尻ポケットからギルドカードを取り出し、アルベルトに見せつける。

するとアルベルトはギルドカードを二度見し、俺の手から奪い取ってマジマジと見る。


「……………………」

「いい加減慣れてきたなぁ……」

「き……君……コレは……」


すかさずアルベルトからギルドカードを奪い返すと、アルベルトは焦点の合わない目で俺を見る。

そんなアルベルトに、俺は正直に事実を伝えた。


「ちなみに、俺ってロクに剣握ったことないし、対人戦ってお前が初めてだったんだよ」

「………………………………」

「でも、本当に身体能力や剣術は絶対お前の方が上だからよ。だから、その……頑張れよ!」

「……………………………………………………ゴッフ」

「キャアアアアー! 大変、アルベルト様が倒れましたわー!」

「す、すぐに、すぐに医者を……!」

「アレベルト様、しっかり~!」

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