第七話 隣の大国は今日も壮大だ!⑩
決闘に勝利し、未だにギャラリーが沸く中、俺は倒れたアルベルトに手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「ハァ……格好悪いなぁ。自分から決闘を申し込んだのに、こうして負けてしまった。正直、君なら余裕で勝てると侮っていたよ」
「しっつれいだなオイ」
苦笑しながら俺の手を掴み、立ち上がったアルベルトはそう言って深いため息を吐いた。
「ってか、この決闘ってどっちがレイナに相応しいか決めるって内容だったっけ? すっかり忘れてた……」
勝負が終わった事で、ホッと胸を撫で下ろしているレイナを見て、俺は頬を掻きながら言う。
するとアルベルトは、悔しそうに俯きながら。
「……本当は、レイナ様の前で魔王である君に勝ってみたかっただけなんだ。君の言う通り、それでレイナ様と対等になれる気がしたから」
「男の子だなぁ」
「う、うるさいよ」
でも、気持ちは分かる。
男ってのは好きな女の子の前で格好付けたい生き物だから。
「気付いてるかもしれないけど、レイナお前に言い寄られてる時スッゲエ困ってたぞ」
「えっ、そうなのか!?」
「逆に気付いてなかったの!? お前が自分で未来の旦那だって言ってたときの引きつった笑みは!?」
「うう……僕にとって、レイナ様の笑顔は等しく愛らしいものだから……」
「…………」
いい奴ではあるけど、やっぱりイタいなコイツ。
「今後色々自重した方がいいぞ。あとレイナが好きなら、自分から一方的に言いたいこと言うんじゃなくて、ちゃんとレイナの本心も聞いてやれ」
「…………」
もう何も言い返せなくなってしまったアルベルトは、今までの自分を恥じているのか悔しそうに唇をかむ。
そんなアルベルトに、俺は歩み寄りながら告げた。
「……ちゃんと告白してみたら?」
「……え?」
「だから、ちゃんと告白してみたらって言ったんだよ」
呆けた表情で顔を上げたアルベルトに、思わず苦笑してしまう。
「本来フツーの事だけど、一方的に俺の女だーって言うより、ちゃんと好きって伝えた方がいいと思うぜ。それに、レイナはお前が自分より弱いとか、そんなこと気にするような奴じゃねえだろ」
「…………」
「ホラ、ビシッと言ってやれ。騎士団長様なんだろ?」
俺が背中を叩いて一歩前に押し出すと、アルベルトはそのままレイナの元へ歩いて行った。
「レ、レイナ様!」
「あ、アルベルトさん! 大丈夫でしたか!?」
「ええ、何とか……申し訳ありません、騎士団長として不甲斐ない姿を見せてしまい。それに僕は、今まで貴方様の気持ちを考えず、自分の都合の良い事ばかり押し付けてきました。どうか、お許し下さい」
「えっ……」
突然、今までの自分の行為を謝罪し頭を下げたアルベルトに、レイナは困惑する。
しかし、すぐに微笑むと。
「分かりました。それと、アルベルトさんがやっと素直に接してくれて、私嬉しいです」
「ッ!」
レイナ、既にアルベルトの心情を知ってたのか。
そうか、だからずっとレイナは何も言わなかったんだな。
自分の為に無理して強がっているのに、ソレを指摘したら申し訳ないと思って。
優しいなぁ……やっぱ天使だよレイナは。
「ありがとうございます。それと……今更伝えるのは、大変おこがましいのですが……!」
普段は勢いのまま接していたからか、いざ真剣に告白しようとしているアルベルトは口籠もっている。
が、アルベルトは震える拳を握り締め、声を絞り出すかのように。
「僕は、私は……貴女を愛しております……!」
告げた瞬間、ギャラリーから歓声が上がる。
決してロマンチックとは言えないが、俺は素直に今のアルベルトは格好いいと思った。
「レイナ、ボクも正直に言った方がいいと思うよ」
「そうだ、いい加減ビシッと言ってやれ」
「そーですそーです」
ジータ達に背を押され、レイナが一歩前に出ると、観衆が静かになる。
静まり返るの中、レイナはしばらく口元をもごもごさせていたが、やがて意を決したように。
「ア、アルベルトさん! あなたは若くして騎士団長を務めている事は、正直に凄いと思いますし、信用しています! それと、私に好意を寄せてくれて、その気持ちは凄く嬉しいです……」
「レ、レイナさ――」
「でも、ごめんなさい!」
「……………………………………………………」
ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……。
静かな闘技場の中で、レイナの声が響く。
そして。
「き、騎士団長が倒れたぞ!」
「口から泡を吹いている! い、急いで医療室へ……!」
よほどショックだったのか、ワナワナと震えていたアルベルトは、白目を剥き口から泡を吹きぶっ倒れた。
「「「「――魔神眼ッ!?」」」」
「お、おう」
所変わって宮殿の客室にて。
燃え尽きて、ソファに寝そべりグデーッとなっていた時に、俺の様子を見に来た勇者一行。
そんな彼女らに何故アルベルトのインビジブルが効かなかったのかと問われ、俺の眼について話していた。
コイツらにだったら、この事を言っても別に問題は無いだろう。
「ま、魔神眼って……あの初代魔王が持っていたとされる伝説の魔眼……」
「そ、そうだけど……な、なあ、この眼ってそんなに凄いのか? 今となってもいまいち実感湧かないんだけど」
レイナが俺の眼をマジマジ見ながら呟く。
四人の視線に俺はそっと目を逸らし、隣で紅茶を啜っているリーンに訊く。
「はあ……あんたねぇ、魔神眼なんてこの世界の人間なら誰でも知ってる伝説の魔眼なのよ。なにせ、全ての魔眼はこの眼の派生なんだから。知らないあんたがおかしいの」
「しょうがねえだろ、俺スッゲえ遠い国の出だし、お前らの常識も分からねえんだよ。……はあ、そんなに凄いもんなのかね、これ」
俺がそう呟きながら何となく眼を光らせると、勇者一行は興味津々な様子で俺の眼を見る。
だから恥ずかしいから、もうやめてん!
……そもそもであるが、この眼を持っていたと言われている初代魔王とは何者なのか。
初代魔王は名前も性別も知られておらず、正体不明の存在であるが、一つの伝説がある。
今から三千年前、人間、魔族を始めとした全種族の大戦があったそうな。
戦争の規模は壮大で、このまま戦争が続けば世界が滅ぶと言われていた。
そんな中、一人の魔族が突如として戦場の中心に現れた。
その魔族の強さ、頭脳、統率力は他の非にならず、何よりその時代で魔眼を持っているのは、その人しかいなかった。
その魔族は瞬く間に戦争を止めさせ、世界の崩壊を救った言われている。
そしてその魔族というのが、初代魔王なのである。
そんな人がどうして世界征服をしようとしたのか、また何故大戦を止めたのかは、今でも分からずじまいなのだ。
……とまあ、どっかで聞いたことあるような話だが、つまり初代魔王とやらはとにかく凄い人って事だ。
「まあ、俺はその初代に比べたら何も出来ないし、おまけに元の魔力少なすぎるせいで、全然この眼の力使えないしな」
「マ、マジかよ……宝の持ち腐れじゃねえか……」
「流石に魔王に同情するです……」
おっとお二人さん、そんな目で俺を見ないで頂きたい。
余計に現実を叩き付けられるから。
「凄いなぁ……」
「え?」
そんなレイナの呟きに、俺は首を傾げる。
今の流れで、何が凄いのだろうか。
「いえっ、その……魔王さんは、能力で人や自分を見ないんだなって」
「そりゃあな。どんなユニークスキルや魔眼を持ってても『自分はこうだ! アイツはこうだ!』なんて決めつける理由にはならねえもん」
「……そっか」
? レイナが一瞬、どことなく嬉しそうな顔をしたような……。
俺が少し疑問に思っていたその時、向かいのドアが静かに開き、カインが恐る恐る入ってきた。
まるでこの部屋にいる俺達に気付かれないように。
不思議に思いながらも、俺はよっと手を上げる。
「お、おい……っ!」
すると何故かカインは焦ったようにバタバタし始めた。
コイツ、さっきから何なんだ? いかがわしいものでも持ってんのか?
などと思っていたその刹那。
「お帰りカインくううううううううううううんッ!」
「ギャァアアー!」
突然ジータの瞳がキラーン☆と光り、そう叫びながらカインに飛びついた。
「大丈夫だった? 迷子にならなかった? もしそうなら次からはボクも一緒に行ってあげるよ!」
「は、離せ……ぐるしい……!」
ジータに思いっきりギューッと抱きしめられるカインは、その腕をバンバン叩いて抵抗する。
……何だコレ?
ジータ、息荒くなってないか?
何だか危ない匂いがプンプンするのだが……。
「何? 俺がバトってた間にこの二人に何があったの?」
「すいませんです、ジータは小っちゃい子を見るといつもこんな感じなんです」
「……そう言えば、コイツこの前リムをテイクアウトしようとしてたよな」
フィアのため息交じりの説明に、俺は一週間ほど前の事を思い返す。
つまり、ジータはロリコンとショタコンのハイブリッドって事か。
「ボクッ娘お姉ちゃんにちょい反抗気味の男の子…………いいね!」
「何がだよ、見てないで助けてくれって……!」




