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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第二章 隣の国の勇者さん
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第七話 隣の大国は今日も壮大だ!⑧

宮殿の敷地には小さいながらも闘技場があり、魔王と騎士団長が決闘をするという噂が流れているのか、壁より高い所にある観客席はギャラリーで埋め尽くされていた。

それもそうだろう、今から魔王とこの国の騎士団長が決闘が行われるのだから。

そのギャラリーの中には、先程話したばかりの騎士達や心配そうな面持ちの勇者一行の姿が。

そして。


「ちょ、ちょっとリョータ! 決闘ってどういう事なのよ!?」

「何やってんだよにーちゃん!?」


木刀を握りアルベルトと向かい合っている俺に、レイナとカインがフェンスから身を乗り出して叫んできた。

……………………。


「俺が聞きてえよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


そんな俺の心からの叫びは、喧噪に包まれていた訓練場を静めた。


「何で!? 何で自然な流れでデゥエルになってんの!? 俺何かした!? ねえ、俺何かした!?」


木刀を地面に叩き付け、全力で喚き散らす俺。

もう意味分かんねえよ!

アルベルトに決闘だ、何て変な事言われて、そしたらその話を聞いた他の騎士達が盛り上がって!

騎士達に両脇から掴まれて、俺を例の宇宙人を連行するみたいに闘技場に連れてかれて!


「うわああああああああ無理いいいいいいいいいい! 負けるって! 絶対ボコボコにされるって!」

「おやおや、戦う前から逃げ腰かい?」

「そうだよ!」


アルベルトの髪を掻き上げながら言う挑発に、俺は全力で肯定した。

こういった決闘イベントは、主人公が強い奴と戦って圧勝するという見せ場だが。

冗談じゃない、コイツと戦うなんて絶対無理だ。

コイツは見た感じ弱そうに見えるが、それは俺も同じ事。

しかも相手は腐っても大国の騎士団長、レベル3の俺が勝てるわけがない。

更に、コイツにはユニークスキル持ちときたもんだ。


「なあリーン! 助けてくれよ!」

「いや私に言われても。それに、アンタの戦いぶりをちゃんと見るいい機会かもだし、とりあえず頑張りなさい」

「自分達の王様がボコボコにされる姿を見たいと!? ドSかよ!?」

「違うわよ!」


この鬼め、後で覚えてろよ……!

しかし、今更になってはもう遅い。

ここは試合開始と同時に『参りましたあああああああ!』と叫んでやろう。

と、思っていたのだが。


「「「「アルベルト様~!」」」」


観客席の中に居た、見るからにお嬢様な四人が身を乗り出し、アルベルトに向けて黄色い声を上げていた。


「やあ君達! 応援ありがとう!」

「「「「キャアアアア~!」」」」


…………………………。

…………ぶっ殺ッ!

ハッ! あっぶね、危うく理性を失って飛びかかるところだった!


「おいお前、仮にもレイナの未来の旦那って言い張ってんなら、取り巻きの女なんて作んなよ……」

「君は何を言っているんだい? 確かに僕はレイナ様の旦那になる男だ。だけど、だからと言って僕は他の女性にも紳士に接しないとでも?」

「「「「アルベルト様素敵~!」」」」


…………。

多分俺は今、何とも言えない表情になっているだろう。

そんな俺の事などつゆ知らず、アルベルトは観客席のレイナに手を振る。


「レイナ様、僕の勇姿、見ていて下さい!」

「が、頑張って下さ~い」

「君なんて負けちゃえ~!」

「魔王、絶対に勝てよぉ!」

「頑張るですー! 魔王ー!」


おっと、アルベルトは勇者一行には大不評みたいだ。

勇者一行の言葉を涼しい顔で受け止めたアルベルトは、俺に向き直った。


「悪いけど、勝たせて貰うよ。僕はレイナ様の為にも、騎士達の為にも、負けるわけにはいかないんだ」

「主人公気取ってんな。ならこっちは最初から全力の急所狙いだ」

「君、仮にも男同士の決闘なのにそれでいいのか……」

「勝ちゃあいいんだよ勝ちゃあ!」

「あの、そろそろ初めてもよろしいでしょうか?」


と、俺達が睨み合いながら言い合っていると、審判役の騎士が怖ず怖ずと手を上げた。


「ああ、僕はいつでも」

「……畜生、なるようになれだ」

「それでは、これより騎士団長アルベルト・ノード様対魔王ツキシロリョータ様の決闘を行います。試合内容は先に相手を戦闘不能にするか相手の宣告で勝敗が決まります。また、ユニークスキルや魔法、スキルの使用は認められています」


闘技場の中心に立っている審判の言葉に、俺とアルベルトは木刀を構えた。

こうなったら、出来るだけやってやる!


「――それでは、試合開始ッ!」


「それじゃあ、僕から行くよッ!」


審判の手が上がると同時に、アルベルトは俺に突っ込んできた。


「うおお!? このやろっ!」


縦に振られた木刀をギリギリの所で躱し、俺は反撃にかかる。


「甘いよッ!」


しかし、アルベルトは振り下ろした木刀の勢いを利用して切り返してくる。


「っととお!?」


それもギリギリで躱すが、アルベルトの連続攻撃は隙を与えてくれない。


「たあっ! ていっ! はあっ!」

「あぶっ! ないっ! よおっ!?」


何とかしてアルベルトの連撃を躱しまくり、俺は後方に下がって間合いを取ると、ギャラリーが少し沸いた。


「へえ。君、構えや剣筋はお粗末だけど、僕の動きをよく見て躱しているね」

「お、お前だって、何だよその動き……躱すので精一杯だよ……」


少し感心したようなアルベルトに、俺は既に泣きそうになりながらもニヤリと笑ってやる。

しかしさっきまで、俺は魔神眼を発動してアルベルトの攻撃を躱していた。

例え木刀とは言え、あの攻撃をまともに食らったら確実に骨折、最悪死んでいただろう。

もし俺に魔神眼が無かったらと思うと、俺の身体が震える。

やだなぁ……怖いなぁ……。

もう参りましたって言っちゃおうかなぁ!?


「だけど、レイナ様は君には渡さないよっ!」

「だあああかあああらあああッ! 最初から欲しくないって言ってんじゃん!」

「なっ……! レイナ様に対して何て失礼な事を! 男なら誰しもレイナ様に憧れるだろう!」

「流石に出会って数週間で結婚しましょなんて節操なしじゃねえって事だよ!」


会話のキャッチボールにもなってない事を言い合いながら、俺とアルベルトの木刀がぶつかり合う。


「ぐううう重い……!」


アルベルトの振り下ろした木刀を受けようとガードするも、その力の籠もった攻撃に押し潰されそうになる。


「どうしたんだい? もう降参――うわッ!?」


アルベルトが調子に乗ってる隙を見て、俺は手首の力を緩め、ガードしている木刀を斜めに傾けると同時に真横に飛ぶ。

するとアルベルトが力を入れていた木刀は、斜めに傾けた木刀に沿って下りていき、剣先が地面に叩き付けられた。


「今っだっ!」

「グッ!?」


俺は真横に飛んだ時の回転の勢いを利用し、隙を見せたアルベルトの脇腹に木刀を叩き付ける。


「フッ!」

「チイ……!」


が、そのすれすれで躱されてしまった。

そして俺などでは真似できない跳躍力で、距離を取られる。


「やるね……! 少し君を見くびりすぎていたよ」

「そりゃどうも! でもお前強えよぉ……! いや、俺が弱いだけなのか!?」


確かにコイツの実力はリーンやレイナと比べればかなり弱いが、それはあの二人がバケモノすぎるだけ。

一般人の俺にとっては、逆立ちしても勝てそうもない。


「はあっ!」

「うおっ!? ちょっ……まだ体勢が……!」


しばらく呼吸を置いてから、今度は俺に飛びかかって来たアルベルト。

しかし予想以上の速さと力に反応できず、俺はバランスを崩してしまった。


「ここだッ!」

「ゴブッ!?」


その隙を突かれ、アルベルトの強力な回し蹴りがみぞおちに炸裂し、俺は勢い良く後方に吹っ飛ばされた。


「ゲッホッ、ガハッ! うっ……おぅえぇぇえええぇろろろろろろろ……!」


そしてみぞおちを蹴られたことにより呼吸が上手く出来ず、遂には吐瀉物をぶちまけた。


「うう……ゲッホ……あ、朝食ったジャムパンと牛乳がおろろろろろろろろろ……」

「魔王さんッ!」

「ちょっと、大丈夫!?」


壁に手を突き今日の朝食をぶちまける俺に、レイナの悲痛な声と、リーンの慌てた声が上から聞こえる。

くっそぉ……かっこわりぃ……!

こんな目に遭うんだったらやっぱりここに来るんじゃなかった……!

と、俺が咳き込みながら後悔していると。


「やっぱりアルベルト様は強いですわ~!」

「ほんとほんと、あの魔王も所詮はアルベルト様の下の下よ!」


上の方からそんな声が聞こえ、チラと見てみるとアルベルトの取り巻きのその一とその二がそんな事を言い合っていた。


「大体、あんな雑魚がアルベルト様に刃向かう時点で既に身の程知らずなのよ!」

「ほんと、頼りなさそうで弱そうで。きっとさっきの一本も偶然に決まってるじゃない!」


続いて、その三とその四も同様に真下に居る俺を楽しそうに見ながら口々に言い合う。

……我慢だ。我慢しろ俺。

そうさ、アイツらなんて所詮、アルベルトにくっついていれば自分のカーストが上がる何て思っちゃってる奴らなんだろうなぁ。

あー、可哀想可哀想!

と、俺の中で沸々と煮えたぎる怒りを抑え込もうとしたのだが、後ろから歩み寄ってきたアルベルトがソイツらに。


「君達、いくら何でも言い過ぎじゃないか?」


そう、ちょっと怒るように四人に語り掛けた。


「彼は嫌だと口で言いながらも、全力で戦ってくれている。そんな彼を貶すのは、少し嫌だな」

「「「「…………」」」」

「アルベルト……」


先程まで、女性には紳士にとドヤ顔で語っていたアルベルトは、四人に対して眉をひそめる。

コイツ……腹立つ奴だなって思ったけど、案外いい奴なんじゃ……?

アルベルトの説教に、四人はプルプルと小刻みに肩を振るわしている。

大好きなアルベルトに怒られたから、泣いているのだろうか。

と思いきや、バッと顔を上げた四人の顔は、何故か恍惚としていて。


「「「「キャアアアー! アルベルト様ったら優しい-!」」」」


――プチンッ。

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