第七話 隣の大国は今日も壮大だ!⑥
「す、すいません、道に迷ってしまって……」
後方から聞こえた声に、俺は振り返り頭を下げる。
「貴様は一体何者だ? 身分は高そうにも見えぬ。それに何だそのふざけた格好は。ここはフォルガント王国国王、アーノルド・ブライト・フォルガント様の宮殿であるぞ」
取り巻きを数人侍らしている二十代前半ぐらいの茶髪の騎士は、俺を見下ろしながら服装を指摘してくる。
……よくよく考えてみれば、俺隣国の王様に会いに行くのにパーカーとチノパンで来てんじゃん。
異世界だからこの服がどういった種類か分からないらしいが、下手すりゃ斬首だぞこりゃ。
「いや、俺一応まお――」
「ふん、さっさと立ち去れ平民無勢が」
「…………」
うっはー、コレはコレは……。
俺の言葉を遮った茶髪の騎士の態度や言動に、思わず身を引いてしまう。
こういう奴スッゲー見たことある。
だけど騎士ってもうちょっとこう、紳士なもんじゃないのだろうか。
うちの国の交番のお巡りさんの方がずっと紳士で騎士らしい。
などと思いながらチラと取り巻きを見てみると、全員ありふれたようなチンピラ臭はしないが、自分達の下の存在だと言わんばかりの視線で俺を見てくる。
……ははん、成程。
コイツら、多分上流区域の出身なんだろう。
騎士ってものは、基本身分の高い奴らがなる場合が殆どだ。
つまりコイツらは創作物でよくある、貴族主義の若い騎士達という親の顔より見た事があるエキストラの方々。
だから俺の姿勢や格好、溢れ出る庶民のオーラを見て、調子に乗ってんだろう。
しかし、どうしたものか。
この宮殿をうろついていたらチンピラ(じゃないけど)騎士に絡まれるというテンプレの展開の場合、大抵のチート主人公は無慈悲にもコイツらをボコボコにするだろう。
しかし俺のような雑魚では、ここにいる全員どころか一人も倒せない。
そもそも、絡まれて罵られただけで手が出るほど俺は血の気が多いわけではないし、その度胸もない。
だけども、このままただナメられるというのも何だか嫌だ。
ということで、絡まれた場合に乱闘を起こさずちょっと仕返しできる方法をご覧入れましょう。
「ごめんなさい! 王様に招待されたとは言え、俺のような奴が宮殿に足を踏み入れるなんてやっぱり許されるはずないですよね!」
「き、貴様、陛下に招待された者なのか……!?」
「ほんっっっとうにごめんなさい! 俺なんて死んだ方がいいんです! 身の程を知らずに宮殿に足を踏み入れた俺なんて! 死んだ方が! 死んだ方がああああああ!!」
「ま、待て! 何もそこまで自分を責めなくても……!」
その一、自分が王様に招待されたことをさらりと言い、自分を責めまくる。
地面にうずくまり泣いたふりをすれば、相手に対して罪悪感を植え付ける出来ます。
「うう……ごめんなさい……今から王様に言って帰らせて貰います!」
「お、落ち着け! わざわざ陛下に言わなくてもいい!」
その二、遠回しに脅す。
コレは、騎士達に帰れと言われたので帰りますと王様に言うぞと。
つまり、このことを王様にチクるぞという遠回しの脅しです。
「……やっぱり王様の所に行って、あなた達に言われたように自分のような奴が宮殿足を踏み入れる資格なんてないと言ってきます!」
「おおおおお、おい待て止まれ!」
「安心して下さい! ちゃんと貴方達にご注意を受けたと話しますので! では!」
「ソレがマズいんだと言っているんだ! いい加減にしろコイツ……ッ!」
そう言って走り去ろうとし、騎士に胸ぐらを掴んで貰います。
そうすることで――。
「あ、あなた達、何をしているんです……!?」
「「「「「レ、レイナ様ッッ!?」」」」」
「ほほう……コレは詳しく事情を聞かせて貰う必要があるね?」
その三。
通りすがりの第三者に、この魔王の胸ぐらを掴む騎士というシチュエーションを見せつけましょう。
そうすれば、コイツらはジ・エンドです。
以上、この三つを駆使すれば絡まれても穏便に解決出来るよ!
みんなも試してみてね!
「――申し訳ございません! まさか貴方様が魔王ツキシロリョータ様だとはッ!!」
「怒濤の掌返し」
勇者一行の説明により、俺が魔王だという事が分かった騎士達は、血の気の引いた顔で跪く。
その先程までと全然違う対応に、俺はちょっとイラッとする。
「魔王さん、大丈夫ですか?」
「いや、全然平気。ありがとう」
「ならいいんですけど……」
そんな俺が気になったのか、レイナが心底心配そうに訊いてきた。
ああ……レイナは優しいなあ。
リムの次に癒やされる……。
「それで君達は客人、しかも一国の国王に対してあんな事をしちゃったみたいだけど?」
「これはもう取り返しの付かねえ問題だよな?」
「ですです」
その傍らでは、勇者一行三人衆が騎士達に対して背筋の凍るような声でお説教していた。
「な、なあ、この人達どうするんだ……?」
そんな三人に、俺は身体を震わせている騎士達を見ながら訊くと、エルゼがため息交じりに言った。
「それは王様に決めて貰うけどよぉ、よくて騎士剥奪、悪くてお家取り潰しだな」
「いや待て待て待て、流石にそこまでしなくても!」
コイツらの処罰が想像していたよりも凄くヤバかったので、俺は慌てて手を突き出す。
「でも、この人達は魔王であるあなたに失礼な事をしたですよ?」
「いや、それでも正直何もしないでほしい。ってかお願いします何もしないで下さい!」
そんな俺に、フィアが不思議そうに首を傾げると。
「お、お許し……下さるのですか……?」
さっきまでの威勢はどこに行ったのか、今にも泣き出しそうな茶髪の騎士がおずおずと訊いてきた。
「いや許すも何も、そもそも名乗らずに無断でここに来た俺が悪いし、あなた達がそれを注意するのは当然ですし! あの態度は騎士としてどうかと思うけど……でも、この人は一応当たり前の事をしたんだって! 何かゴメンね!?」
俺は必死にレイナ達を説得しようと早口で説明する。
「それにあなた達、自分が騎士だってこと誇りに思ってるでしょ?」
「は、はい……」
その答えに、俺は頭を掻きながら。
「……事実上、俺がコイツらより立場が上だとはいえ、自分がその人の誇りに思っているものを奪うってのは、何か嫌なんだよな」
例えここが異世界で中世の文化とはいえ、たかが立場とか権力とかで、人から誇りとか、大事に思ってることとかを奪うのは自分としても心苦しいし、スッキリしない。
……それに、無理矢理騎士剥奪してコイツらに襲撃とかされたらたまったもんじゃないし。
あと、さっき権力使って何かを奪うのは嫌だと言ったばかりだが、少し前に冒険者達に身代わりしされかけ、権力行使して資金ストップさせんぞと脅したことがあったが。
だけどそれはアイツらが悪い!
騎士に嫌な態度取られたなら全然許せるが、自分の国の王様を身代わりしにしようアイツらには、権力行使して少し痛い目見させてもいいんじゃないだろうか!
「優しいんですね、魔王さん」
「俺が優しい人ならレイナは聖人だろ」
何やら過大評価されてしまっているようで、俺はレイナの言葉に苦笑した。
「えっと、何か色々ご迷惑お掛けしました! でも次は見た目で人を判断しないようにした方がいいと思います!」
「「「「「「はッ!」」」」」」
「うおう!? そ、それでは、全員解散!!」
騎士達は顔色を戻し、俺にビシッと敬礼すると、俺の指示で仲間の元へ戻っていった。
「……何でお前が号令掛けてるんだよ」
「い、勢いに押されてつい」
と、俺は苦笑いしながら頭を掻いていたが、ふと思い出した。
「そういえば、お前らが来てくれて助かったけど、何でここにいるんだ? もしかしてお前らも訓練か?」
レイナは先程別れた時の白桃色ドレスを着たレイナ姫から、いつもの軽めの鎧装備の勇者レイナ姿になっていた。
俺の考えていることを察したのか、レイナは少し照れながら説明する。
「私、ドレスも可愛くて素敵なんですけど、やっぱりこの服装が落ち着くんです」
「あ~、メッチャ分かる」
実は少し前、ハイデルが魔王なんだからもっときちんとした服を着ろと言われ、ゴワゴワした高級そうな服を着せられかけた事がある。
だけどチクチクするし動きずらかったので、やっぱりいつもこのパーカーとチノパン、スニーカーと後ついでにマントの方が落ち着く。
ちなみに、洗濯はちゃんとしてるからね? ちゃんと他の服も持ってるからね? 街の人と何も変わらないようなの。
「それで、実は魔王さんを探してたんです」
「え? 俺?」
「客室に行ってみたけど、リーンさんとカイン君しかいなくって」
「ゴメン、トイレの帰りに道に迷って彷徨ってたわ」
「アハハ……」
レイナは宮殿を彷徨っている俺を想像したのか、困ったように笑う。
そんな滑稽な自分に苦笑しつつ、話を戻そうとした時だった。
「レイナ様? レイナ様じゃありませんか! わざわざ僕の為にここに来て下さったのですね!」
妙に透き通った甲高い男の声が訓練場に響く。
声がした方向を見てみると、俺より二、三ぐらい年上に見える、金髪碧眼で真珠のような光沢を放ついかにも高級そうな鎧を身に纏った男が笑みを浮かべながらこちらに向かってきた。
そして、その男に気付いたレイナ以外の露骨な顰めっ面で分かった。
……コイツ、絶対面倒くさい奴だ。




