エピローグ
――目が覚めると、知らない天井だった。
まさかこの台詞を、ネタでもギャグでもなく素で思う日が来るとは思わなかった。
よし……まずは状況確認からだ。
「あー、あーあー! よし、声は出るな……」
次に右腕、左腕、右足、左足、最後に頭の順番で動かしてみる。
……うん、別に拘束具は付けられていない。
これで一番の懸念だった『目が覚めたらデスゲームに巻き込まれた件』の可能性は著しく減った訳だ。
……いや、流石に脳が二次元に侵食されすぎだぜ、俺。
と、内心苦笑しながら、ゆっくりと体を起こしてみる。
「う、ん……ちょっと重いな?」
いつも朝起きてベッドから起き上がる時よりも、肉体的に重く感じる。前者の方は精神的にだが。
天井と、二本の蛍光灯しか見えなかった俺の視界に、この場所の全貌が映り込む。
「やっぱり、病室だった……」
全体的に白く清潔感のある壁床天井に、真っ白なベッド。
横を見てみると黒い画面の小型のテレビに、自分の顔が映り込んでいる。
……何かちょっと髪伸びたな?
「よっ……と」
俺はゆっくりとベッドから降りてみる。
……うん、立ても歩けもするけどやっぱり身体が重い。
念の為、転ばないように壁伝いに窓枠へと進んでいく。
カーテンを開けて窓の外から見える景色は、デカい駐車場と沢山の車と……あと、奥の道路の向かいに並ぶビル。
「流石に最上階とかじゃねえよな」
残念ながら街を一望、とかは出来ない階らしい。この高さから見るに、多分四階ぐらいかな。
ウチ、そんなブルジョアじゃねえしなぁ。ってか、入院費っていくらするんだろ……。
なんて、両親の懐事情を心配していると。
「あっ、君!」
「おびゃあッ!?」
突然背後の方から叫ぶような声が聞こえ、こちらも負けじと情けない叫び声を上げてしまう。
振り返ってみてみると、驚いた様子のナースさんが立っていた。
「意識、戻った!? 良かった……!」
「ああ、ええっと……はい」
「でも取り敢えず、安静にしてて欲しいから、ベッドに戻れる?」
「あ、すいません勝手に立ち上がっちゃって……」
「長谷川さーん! 先生呼んでー! あと親御さんに電話ー!」
なんて仕事の速さだ。流石ナースさん、カッコいいぜ。
病室の入り口で指示を飛ばしてから戻ってきたナースさんは、一人で勝手にベッドの上に戻った俺に再び声を掛ける。
「痛むところとか無い?」
「うーん……今のところは。改めてすいません、ナースコールってどうやればいいか分からなくって……」
「いいのいいの、とにかく意識が戻ってよかった……君、二週間も意識不明だったんだよ?」
「に、二週間!? はー……なんか、身体のダル重さ以外に実感ないですね」
「自分が何でここに運ばれたかは、覚えてる?」
と、割と真剣な表情で訊ねてくるナースさん。
記憶に何かしらの障害を負ってしまった可能性を確かめているのだろう。
「はい、割とハッキリと。それより、あの女の子無事ですか?」
「うん、君のお陰で怪我も無し。ご家族が何度もお礼を言ってたって」
「良かった、それだけがどうしても気になって……」
「優しいんだね」
「いやいや、俺だったらまあ、高校男子なんで身体はある程度頑丈ですけど、あの歳の女の子があんな本棚に押しつぶされたらひとたまりもないじゃないですか」
でもとにかく、あの女の子が無事だったのなら、俺的にはオッケーだ。
……まあ、父ちゃんと母ちゃんは気が気じゃなかっただろうが。
「あー……絶対後で母ちゃんに怒られるよ……『アンタ何二週間も寝とんのじゃ、心配させて!』とか言って引っ叩いてきそう」
「まあ、やっぱり一番心配なのは自分の子供だもの。素直に引っ叩かれなさい」
「ナースさんが暴力を肯定しないで下さいよ!」
と、俺のツッコミにクスリと笑ってくれたナースさんは、やっと一安心とでも言いたげに肩を降ろして、最後に訪ねて来た。
「うん、記憶に関しては問題なさそうだけど……念の為、自分の名前、言える?」
「あ、はい」
それに関しては、目が覚めて三十秒ぐらいに既に確認済みだ。
なので俺は、ハッキリと迷いなく、自分の名前を名乗った。
「――月城亮太です」
「オイ、お前……一年と三カ月ぶりって、どういう事だッ!?」
「ゴメンナサアアアアアアイッッ!!」
……というセルフ説教はさておき、皆様本当にお久しぶりです。陶山松風です。
これをもちまして、第十章『異邦人達のサマーウォーズ 』は終了となります。
一言だけ言わせてください。長かったあああああああああああああああ!!
多分皆様の方が『こっちの台詞だ!』と言いたいのは分かります。でも著者としても長かったあああ!!
大体一章に30話、多くて60話だったものが一気に87話になってしまい……!
最後まで読んで下さった皆様には感謝の言葉しかありません!
次はもう少しコンパクトに収められるように頑張りますので、何卒……!
さて、それではここからはこの章の説明を。
この章の主軸は正にタイトル通り。日本から転移、転生してきた3人の異邦人を中心とした、真夏の大戦争となっております。
リョータも作中で言っていましたように、この世界の主人公はこの世界の住民であり、決してチート能力を持って迷い込んだとしても、主人公はその土地に生きる人々であるべきだ。
異世界転生物を書いているのに、そういったアンチ異世界転生みたいな事を言っておりますが、やはりこの世界が舞台ならこの世界の住民はモブキャラなんかじゃない! という気持ちで書いてみました。
実際に今回の章では、リョータはユースやミトと対峙した時間は少なく、その代わりにリーンとレイナが頑張ってくれました。というか、全員頑張ってくれました。
出来るだけ日本人VS日本人よりも、異世界人VS日本人という構図でキャラを動かし、この世界の住民の凄さや生き様、何より人生を表に出していこうとした結果、このようなストーリーになった訳です。
そして今回の章ボスである二人。
あの二人には、ただ与えられた能力だけで無双するだけのキャラにはしたくなかったので、何故そう考えたのか、何故その行動に至ったのかと、バックストーリーを凝り過ぎた結果、自分が想定していた以上に暗い過去を与えてしまいました。恐らく著者が一番の悪者です。
完全にフィクションの設定ではありますが、私自身もこんな環境で育ちたくないと思いながら書き進めていました。
どうかミトが神様の国で笑っていられるよう、どうかユースが正義を見失わないよう、祈っていてくれれば幸いです。
さて、四七話のラスト、そしてこのエピローグで明かされた、衝撃の事実。
何故、月城亮太は日本で目が覚めているのか。何故、ツキシロリョータはこの世界にやってきたのか。
この物語の主人公の正体は、本当は何者なのか……。
どうか皆様、見届けてくれたら幸いです! まあ、物語の終わりはまだまだ先なのですが!
引き続き、評価やブックマーク、感想などを送ってくれたら嬉しいです!
質問コーナーも引き続き継続中なので、どんな質問でもどしどし送ってくれると嬉しいです!
それでは、第十一章のエピローグ、後書きでお会い致しましょう! ではでは!




