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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四七話 セカイは今日も様々だ!⑧

――ぅ……ん……?

アレ……? 俺は一体、どうなったんだ……?

確か俺は、戦艦から落ちかけたレイナの手を掴んで、引き上げようとして。

そしたら背後から銃声が聞こえて……空に放り出されて……このまま終わって堪るかって、レイナだけでも助けなきゃって……そして…………。


ああ、そうだ……俺はまた暴走してしまったんだ……。

今度は明確に、確実に、嘘偽りなく、仲間達を殺そうとした……。

俺が未熟だったせいで、弱かったせいで、自分が恐れていた最悪の結果を齎してしまった。

いや、違う。俺が強くなったせいで、想定していたものより遥かに最悪な結果になってしまった。


脳裏に巡るのは、怯えた表情のレオンとハイデルの顔。

目の前に迫る死に対して目を虚ろにするユースの姿。

傷付きながらも笑顔を見せ続けた、天使の姿をしたレイナの……。


レイナは……リーンは……皆は……。

戦いは、どうなったんだ……?


「さて、これは骨が折れる作業になるな」


えっ……俺の、声……?

でも、俺何も喋ってないし、そもそも何だよ、骨が折れる作業って。

これは、どういう…………ッ!?


その時、真っ暗だった俺の視界が開け、見るからに墜落してる最中ですと言わんばかりのネビュラ・テンペスト号の姿が見えた。


「ああ、意識が戻ったかい?」


ッ!? 俺の口が、また勝手に喋った!?

っていうか、身体の自由も効かないっていうか……俺、何もない足場に立っている……!?

これは…………そうか。


『……準備って、コレの事だったのかよ、初代』

「その内の一つだよ。大丈夫、あの少年含め全員無事だ」


今……というか、俺が意識を手放している間、初代魔王が俺の身体を借りていたという訳だ。

それに、本来どんな狙いがあったのかは、一先ず置いておく。


『俺とアンタの立場がひっくり返ったって事か……歯痒いもんだな』

「分かるかい? 私はずっとその歯痒さに苛まれていたんだ」

『……今どういう状況なんだよ?』

「暴走した君を、エクストラスキルに覚醒した勇者レイナ君が止めた。しかし君の暴走によって戦艦は墜落しかけている。勇者レイナはあの少年を連れて何処かへ飛び立ったが、心配は要らないだろう。他三人は、私はバルファストに転移させた」

『……分かった。つまり今、この戦艦の墜落の被害を最小限にする試行錯誤中って事でいいんだな?』

「相変わらず話が早くて助かるよ」


俺は自分の……いや、正確に言えば初代が観ている視界を共有して、戦艦を見下ろす。


『で、何しようとした?』

「取り敢えず、黒雷で出来るだけ細かくバラバラに解体しようとしていたが……」


確かにこのまま行けば、街に激突してしまうかもしれない。

しかし、空中でこれ以上破壊すれば、鉄くずの雨が降り注ぎ更に被害を増やすかもしれない。

出来るだけ戦艦を壊さないようにして、街から離れた所へ落とす……というのが妥当だろう。


「それが出来ればいいんだけど、静止眼や空軸眼を用いたって難しいよ。全ての破片を落とさず解体だなんて」

『…………』

「被害は最小限に抑えるように努める。だからここは任せて、君はもう少し休んで……」

『いや、ダメだ』


初代魔王の言葉は嘘偽りはないのだろう。免れぬ事実も、俺に対しての善意も。

しかし俺は、それらを全て突っぱねた。


『俺は暴走した……一番ダメな時に、皆に一番迷惑を掛けちまった……! だからせめてその責任を、被害ゼロで果たす! じゃなきゃ俺は、もう皆に顔向け出来ない!』

「気持ちは分かるが……」

『無策な訳じゃない! 被害ゼロに留められる方法がある! でもそれにはアンタの力と技術が必要だ!! 黒雷の本当の使い手であるアンタが!! 俺の身体はどうなったっていい!!』

「…………そう言ってしまうようにしたのは、私なんだよな……」


初代は何かを呟いたが、その顔が自分自身であるため、表情は見えなかった。


「分かった、やろう」

『初代魔王と新生魔王の初共闘だ!! やってやろうぜ、ホイップちゃん!!』

「だからその名前を呼ぶな!!」


本当はゲロ吐きそうなぐらい自分の不甲斐なさに絶望していた。

暴走しないように、一日でも魔王の力を手懐けられる様にと、頑張ってきた。

けれどこの様だ。この罪は、暫くは心の中を蝕み続けるだろう。


……けれど、それは後回しだ。

自分の不甲斐なさに涙するのも、頼りなさに憤るのも。

全部やる事やってからにしろ、魔王ツキシロリョータ!!


『まずは甲板から掌に収まる金属片を拾ってくれ!!』

「金属片……そういう事か」


一瞬怪訝な声を上げるも、即座に俺の作戦を理解した初代は、瞬間移動にも似た速さで甲板に降り立つ。

自分自身の身体でこうも人外離れした動きをされると変な気持ちになるが、この際気にしない。


「いや、でも私でも出来るかどうか不安だけど?」

『アンタ、俺の視界越しにずっと俺の修行風景見てたんだろ!? だったら理屈も何も知ってる筈だ!』

「確かに君の考える理屈は理解出来たけど、この黒雷の使い方……というか、黒雷変形操術は君が編み出したものだ。私だって初トライなんだよ」

『歴史上最古で最強の魔王様なんだろ!? 初見でやってみて成功するのが本物のラスボス、もとい俺の上位互換の教示だろーが!』

「そんな無茶苦茶な!」


なんて口答えしながらも、初代は甲板に転がっていた小さな金属片を拾い上げ、手の中に収めた。


「それより、コイツをどこに落とす?」

『ジークリンデが根城にしていた廃砦の近くに湖があった! そこなら誰も居ない筈だ!』

「よし」


墜落している方向とは真逆に向かって走り出した初代は、そのまま最後尾まで向かい飛び降りる。

その正面、森の木々の隙間から、煌めく水面が見えた。


『割と廃墟マニアが好みそうな場所だし、何だかんだ思い入れのある場所だけど、背に腹は代えられねえ! 初代、やっちゃってくれ!』

「やってやるさ! だからこれでもう役立たずの隠居ババアとか思わないでよ!」

『えっ、あ、バレてた!? 何かゴメン!』

「謝るんだったら思わないでくれよ!」


俺が心の奥底で呟いていた文句をしっかりと拾い上げていた事にビビる俺を尻目に、初代は拳の中に納まった金属片に黒雷を流す。


「『『黒雷変形操術・電磁竜(でんじりゅう)』ッ!』」


この技は、黒雷を金属を媒体として放ち、電磁力に変換させる技。

金属の釘にコイルを巻いて、電池を繋げて電気を流すと電磁石になる、という実験は、誰でも昔学校で学ぶだろう。これはその応用だ。

手の中に握りしめた金属片を釘に、握り込んでいる指をコイルに、自分自身を電池に置き換えて、強力な磁界を発生させる。

しかしこの技は他の変形操術と比べて圧倒的に使用難易度が高い。

そもそもつい最近、やっと磁界を発生出来るようになった段階だ。某有名ラノベのように、コインを超高速で放つなんて事は、悲しい事に暫くは出来ないだろう。

でも、そんな超高難易度の技をやってのけるのが、本家本元の凄い所。


「引っ張られる……!」

『逆もまた然りだ、お互いに引っ張られ合ってんだよ! 踏みとどまって引っ張れ! 戦艦と綱引きだ!!』

「大仕事が過ぎるよ!」


一発で超強力な電磁力を発生させた初代が、空中で踏みとどまった瞬間、墜落していた戦艦も、縄に縛られたかのように前に進めなくなっていた。

このまま電磁力で引っ張って、あの湖まで誘導できればいいのだが。


「さ、すがに、キツイよ、コレは……!!」


引っ張られる右腕を左腕で押さえ、歯を食いしばる初代の声(俺の声でもあるが)がか弱く音を上げる。


「そも、そも……筋力が、足りない……!!」

『それなら……黒雷の制御権半分くれ!』

「えっ……!?」

『意識が二つあれば、同時に別の作業も出来るだろ! パワーに関しては俺がやる!』

「でも、それだと君の身体が……!」

『さっき言ったろ、俺の身体はどうなったっていいって!!』

「……分かった、任せるよ!」

『おっしゃあ!!』


と、意識しか無かった俺の中に、何か痺れるような力が流れ込んできた。

意識と魔力だけが、今の俺にある。まるでゴースト系のモンスターだ。

でも、これでようやく、本当の共闘が出来るって訳だ!


『『黒雷変形操術・雷獣』!!』


意識を集中させ、血管の一つ一つに電流を流す。

電気反射によって波打つように動く全身。意識を共有しているからだろう、俺にも痛みが襲い掛かってくる。


「う、ぐ……!」

『大丈夫か、初代……!』

「何とか、ね……!」

『これが本当の痛み分けってね……!』

「そんな事言ってる場合か!?」


全身を切り裂く様な痛みを代償に、俺の身体の全筋繊維が縮小していく。

普段なら出しえないパワーを、無理やりにでも引き出せる……!


「う、ううううううううう……!」

『が、ぐうううううううう……!』


引き千切れそうな右腕を、無理やり抑え込んで引っ込める。

すると磁力に引っ張られた戦艦も、後方に動く。


「この、まま……!」

『引っ張れぇ……!』


皆が戦ってくれた、祈ってくれた、命を懸けてくれた!

リーン達やレイナ達だけじゃない、国中の皆が、他の国の王達だって信じてくれた!

その全てを……俺自身の失敗で、終わらせて堪るか!!


初代が目に見えない足場から、飛び降りる。

そのまま右腕を背負い投げの様に、湖へ向かって全力で振り下ろした。


「『行っけえええええええええええええっ!!』」


右腕を振り下ろした瞬間、俺達の真上擦れ擦れに、逆向きの戦艦が走る抜ける。

そのまま真っ直ぐ、湖へ向かって進んでいく戦艦。やがて海底火山の噴火を思わせる水飛沫の中に、姿が掻き消され……。


『や……たぁ……』


水飛沫が落ち切った先に、湖の水面に浮かぶネビュラ・テンペスト号の姿があった。

これでもう、戦艦の墜落に関しての危険は、完全に去ったのだ。


「お疲れ様……」

『そっちも……あー、クソ……右腕完全に折れたなコリャ……』

「全く、無茶するよ、君は……」

『無茶しなきゃいけない世界と役割与えたのアンタだけどな……』

「……ゴメンよ」

『ガチトーンで謝るな、冗談に決まってるだろ……』


なんて、いつもの夢の中でのやりとりを現実で……まあ、片方意識だけだが、それでもこうやって軽口叩き合えるのは。

何といえばいいのだろう……少し、何かが先へ進んでいる様な気がした。


『よし、じゃあ……バルファスト魔王国に戻るぞ! 次は死体兵を何とかしなくちゃ!』

「少し、休ませてほしいなぁ……!? それに、死体兵に関してはもう大丈夫みたいだよ……?」

『自分の目で見なきゃ確認出来ねえんだよ! 行くぞ!!』

「分かったよ、もう……!」


そして、息つく暇もなく、俺達はバルファスト魔王国に向かって空中を走っていった。


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