第七話 隣の大国は今日も壮大だ!⑤
初っぱなからやらかしてしまった俺であるが、一応お互い挨拶を済ませた後、俺達は同盟の話をするため、長机が設置された会議室に移動した。
カインは用意された客室に待機してもらって、俺とリーンの向かい側にフォルガント王とレイナ、そして重臣達が座り、同盟内容の話に入った。
「で、同盟に関して交易を結びたいとの申し出でしたが、正直に言って我が国はとても小さく、そちらのご期待に添えるような物資はありません……」
その中で、一番の課題である交易について、俺は今の俺達の現状を舌を噛まないように頑張って話した。
「いや、すまなかった。レイナにも伝えたように、フォルガント王国とバルファスト魔王国の繋がりに、同盟という口だけの曖昧なものではなく、直接的な繋がりが欲しかったのだ」
俺の言葉に、フォルガント王はポリポリと頬を掻きながら申し訳なさそうに笑う。
確かに、同盟なんて聞こえはいいけが、それだけではただの口約束に過ぎない。
「ど、どうしましょう? 確かに直接的な繋がりは大事ですし、交易も出来るならしたいところですが……」
「交易以外の直接的な繋がりとなると……アレだな」
「アレ?」
俺が首を傾げると、フォルガント王は。
「レイナを、リョータ殿に嫁がせよう」
「お、お父様ッ!?」
「「「「「「いやダメでしょ!?」」」」」」
フォルガント王とレイナを除くその場の全員がハモった。
「陛下、何を血迷った事を言っておられるのですか!?」
「こやつは魔王! あの忌まわしき魔族の王ですよ!?」
「レイナ様を生け贄にするつもりですか!?」
重臣達はメッチャ俺の悪口を言ってくるが、レイナと俺を結婚させるなんて頭のおかしい事を言ったフォルガント王に反対する気持ちは同じだ。
「フォルガント王、この男は取り柄と言えば家事だけの無能です。しかも普段から文句ばかりで、曲者が多いバルファストでも指折りのスケベだとよく噂になっています。レイナ様をこの男に渡すなんて事はどうかおやめ下さい」
「そうそう、リーンの言うとおりですよ……だけどテメエ後で覚悟しとけよ?」
「そしたら逆にアンタを返り討ちにしてやるわ」
こちらに指さし静かに、そして盛大に悪口を言うリーンに、俺は後半涙声になって脅す。
しかしリーンのにらみつける攻撃にすぐに手を下ろす。
「ほう……私の娘に不満でもあるのか?」
そんな俺を威圧感たっぷりの双眸で睨みつけるフォルガント王。
……あっぶね、チビるところだった。
「い、いや、そういうわけじゃないんですよ。まあ確かにそうなればフォルガントとバルファストの同盟の象徴的なものになるかもしれませんけど、それだとレイナ様が可哀想です。レイナ様はお姫様でもあるけど勇者もやってて大変なんですから、無理に結婚させるのは宜しくない……かと」
「ま、魔王さん……」
それに数週間前に会ったばかりの奴と、はい結婚しま~す、なんてのはレイナとしても嫌だろう。
ビビりながらも説明する俺を見て、フォルガント王はさっきまでの硬い表情から一転、柔和な顔になった。
「ハッハッハッ! いやすまない、軽い冗談だ」
アレ? さっきと雰囲気違くない?
その違和感にリーンも不思議に思ったのか、俺達は顔を見合わせる。
「いや、レイナの話を聞く限り悪い奴ではないと思っていたのだが、一応自分で確かめてみたくてな。答えようによってはここでぶっ飛ばしていたかもしれん! ハッハッ!」
あまりに先程のイメージとは別の、俺が言うのも何だが王様らしくない発言に、俺は戸惑ってしまう。
「な、なあレイナ。お前の父ちゃん、もしかして今のが素なのか?」
「え、ええ……。お父様は民や客人の前では、先程のような威厳あるお姿なのですが……」
俺はレイナにそっと聞くと、レイナは苦笑いを浮かべながらフォルガント王を見る。
いや悪い奴の基準が娘の不満を言う奴って。
……何だろうこのおっさん、俺の父ちゃんと雰囲気が似てる。
普段はノリのいい大らかな性格だが、娘を溺愛しすぎて掛け軸に『娘はやらん!』って書いてそうな人だ。
俺の父ちゃんの場合は、娘が出来たらだけど。
この人がどれだけ娘を溺愛しているかは、周りの重臣の人達の呆れ顔でおおよそ分かる。
「それより、いつまで敬語を使っているんだ? 一応私とリョータ殿は同じ国王の立場。もっと口調を崩しても良いのだぞ?」
「いやぁ、確かにそうなんですけど……俺より圧倒的に年上の人にタメ口っていうのも何というか、逆に敬語の方が気が楽というか……」
「謙虚な魔王だなぁ。ハッハッハッ!」
『ますます気に入った!』というフォルガント王だが、実際には未だにこの人にタメ口を言ったら斬首系という庶民の考えが定着しているだけなんだよなぁ……。
「とりあえず、同盟の件については後にしません? それよりも、まずお互いの事をよく知る事から始めましょうよ」
俺はフォルガント王にそう告げながら、さっき俺の悪口を言っていた重臣達を横目で見る。
恐らく、この人達がエルゼが言ってた同盟に反対の人達なのだろう。
別に怒ってる訳ではない、重臣達のその考えはごもっともだ。
「そうか……それでは、まずお互いについて話し合っていこうか」
それから俺達はお互いの国の状況などなどをと話し合ったのだが、一回目の同盟会議はあまり進展しないまま終わったのであった。
「――はぁ~、ほんと、何でここまで巨大にするかね? いちいちトイレに行くの面倒じゃん……魔王城も同じだけど」
会議が終わった後、用を足した俺はブツクサ言いながら廊下を歩いてた。
リーンも先代の事でフォルガント王に謝罪出来たようだしよかった。
それにフォルガント王との会話は楽しかった。
話の最中、重臣達の警戒心を解くために俺がボケると、笑いながらツッコミを入れてくれた。
何だろう、ああいう王様ってちょっと憧れるな。
……それより、凄い廊下だよなぁ。
薄暗くて蜘蛛の糸が張っているの魔王城とは違い、床も天井も窓も全部ピカピカだ。
俺がキョロキョロしながら廊下を歩いていると、向こうからメイドさんが数人歩いてくる。
するとメイドさん達が廊下の端に移動し、俺に斜め四十五度の完璧なお辞儀をしてきた。
「あ、どうも~……」
客人に対しての決まりではあると思うが、元々庶民の俺としては何だか凄く申し訳ない気分になる。
俺はメイドさん達にペコペコと頭を下げて、客室へと向かう。
しかし、魔王城の何十倍はあるであろうこの宮殿。
俺は知らず知らずのうちに迷ってしまい、使用人の人はいないかと探し回っていると、遠くの方で威勢のいい声と何かがぶつかるような音が外から聞こえてきたので、俺は足早に音がする方へと向かった。
俺が着いたのは騎士の訓練所だったらしく、今まさに木刀による模擬戦が行われていた。
うちの国には騎士ではなく兵士、それも街の正門の警備をしている雇われ数人しかいないので、こういったちゃんとした騎士というのは新鮮だ。
でも、こういう所で騎士数人に絡まれたりするので、ここは退散退散!
と、俺が踵を返そうとしたその時だった。
「おい貴様、ここで何をしている。ここは我々騎士団の訓練場だ。貴様のような薄汚い者が来るところではないぞ」
……ほら、絡まれちった。




