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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四六話 正義は今日も曖昧だ!⑧


「俺の攻撃が無意味だぁ!? 色々やってみなきゃ分からねえよ! お前、こっちには黒雷だけじゃなくて魔神眼もある事を忘れんなよ!? 『静止眼』!」


と、大袈裟に威張りながら静止眼を発動し、ユースの纏っているアーマーを見る。

俺の静止眼は視界に入った生物以外だったら、何でもその場で固定出来る強力な魔眼だが……。


「魔神眼も含めて無意味なんだよ」

「うーん……やっぱダメか」


しかしユースの動きが固まる事はない。

コイツのユニークスキルは生物以外だったら何でも好きな設定を追加出来る。

一体どうやって無効化してるんだ? 一体コイツ、どんな設定を追加してやがる?

と、銃を撃ちながら牽制しているユースが突然降下し、カツンと床を蹴――ッ!?


「……え? アレ!?」

「あ、危なかった……」

「わあ、お姫様によるお姫様抱っこ再び!?」


突然身体と視界が揺れたかと思うと、俺はいつの間にかレイナの腕に抱かれて別の場所に居た。

何だと思って、先程まで俺が立っていた場所を見ると、鉄の床が小さく窪んで真っ赤に溶けていた。


「魔王さん、気を付けて下さい! 彼が床を踏み鳴らすか、壁を爪で弾くとれーざー光線が飛んでくるんです! それと、多分キカンジュウ? という武器も天井から落ちてきます!」

「殺意高すぎだろ!? そしてレイナそんな状況で戦ってたの!?」


機関銃とレーザー光線の雨なんて、普通の人間じゃなくても一秒だって生きて立っていられない。

流石レイナという畏怖の念と、やっぱりそんな場所に一人で行かせて申し訳ないという謝罪の念が入り混じる。


(レイナ、頼みがある……――)


ユースには聞かれることはないであろう声量で、レイナに指示を送る。

先程、俺の攻撃は完全に無意味だと突き付けられたばかりだと言うのに、レイナは微塵も疑う様子もなく瞳だけで頷いた。

レイナは素早く俺を降ろすと、聖剣を握り直して身構えた。


「フー……!」


小さく呼吸を整えたレイナがキッと正面を見据えた瞬間、その小さな身体から眩い黄金の光が溢れ出す。


「はああああああああああ……!」


先程のフィアと似たような、思わず目を細めてしまう程の眩い光。しかしフィアのとは決定的に違うものだ。

その魔力は空気を震わせ、張り詰めさせる。


「……もう油断はしないぞ、どんな攻撃だったとしても、躱し切ってやる!」

「行きますッ!!」


そしての凛とした声と共に、レイナの魔力が膨れ上がったその瞬間。

……隠密スキルを発動したままユースの背後に移動していた俺が跳躍した。


「ッ!? おまっ……!」

「一人称視点と三人称視点とじゃ、全然違うよなぁ!?」


間接的……つまり、カメラを通して俺達を見ていたユースには、気配を消しても意味が無い。

アルベルトのような透明化ではないのだ、気配を消したとしても、向こうからしてみれば俺がソロッと横に移動していたに等しいのだろう。

何より、実際にその場に居るのと遠くから間接的に見ているのでは、注意の向く方向が全然違う。

だからさっきの不意打ちは見抜かれてしまったのだろう。


けれど今は違う! お前は今俺達と同じ空間に居て、ずっと一人称視点だ!

そして何よりも、レイナという油断してはならない脅威が何かをしようとしているのだ、自然と注意はそちらの方に向いてしまう。

レイナには『何でもいいから派手な事してユースの気を引いてくれ!』って言ってある。つまりあれは攻撃をするフリなのだ!


「でもっ、無駄だ!」


距離的に回避が間に合わない。それでもユースは俺の攻撃ではロクなダメージは与えられないと判断したのか、唯一皮膚が見える顔周辺を片手でガードしながら、もう片方の手で拳銃を向けた。

ああ、そうだな。さっきの愛刀による斬撃だって黒雷槍だって、本気で攻撃したのに無効化された。

怒りをコントロールし魔王の力を引き出せば可能なのかもしれないが、そんなに都合よく出来るものじゃない。

現時点では、コイツにダメージを入れることは無理だ。

――だから、武器を変える。


「ッ!」


俺は真上に向けて片手を翳すと、魔力を解き放つ。

その瞬間俺の頭上に、巨大な黒い靄の円が出現した。

そのまま突き出した手を伸ばし、その黒い靄に手を突っ込む。


「さっきの転移魔法……!? それがなんッ!?」


何か言い掛けたユースだったが、俺が黒い靄から引っ張り出したソレを見た瞬間、絶句した。

ユースが見た物……それは、大剣だった。

俺の身長と左程大差がない程に巨大な、大剣としてもかなりの大型の代物だ。

その分厚く鋭い刀身は黒と赤が入り交じった赤銅色をしており、怨嗟の炎を連想させるような轟々とした異質な魔力を帯びていた。

そんな大剣を、俺は大きく大きく振りかぶり、渾身の腕力と重力と遠心力を加えて振り下ろす。


「フンッ!!」

「うッ!?」


ユースは防御を止め素早く後退し回避しようとするが、その切っ先がほんの少しだけアーマーに触れた。

その切っ先だけでアーマーの腹部が縦に大きく切り裂かれ、衝撃によってユースが苦し気な声を上げる。

その瞬間、エルゼやレイナ、リーンが剣を振るった時の様な衝撃波が発生し、そのままユースの身体を吹き飛ばす。


「ごっ、あが……!?」


受け身を取ることも出来ずに床に叩きつけられたユースは肺を打ち付けたのか、呼吸が上手く出来ていない。

追撃を狙おうと俺が落下しながら大剣を構え直すと、ユースは涙腺に涙を溜めながらも床を爪で弾いた。

すると正面の天井から、巨大な機関銃が姿を現す。息つく暇もなく放たれる銃弾の雨に対し、俺は大剣を盾代わりに構え、攻撃を凌ぐ。


「さ、すがに、おっもい……!」

「ハアッ!」


その勢いに後方に押されるも、すぐさまレイナが斬撃を放ち機関銃を破壊した。


「あんがと、流石に怖かったぁ……」

「よかったです、けど……その大剣は一体……」


大きく息を吐き出す俺の隣に着地したレイナは、ヘルズ・ゲートの中から引っ張り出した大剣が気になるようで、起き上がるユースを警戒しながらチラ見していた。


「何だか異様な気配を感じます……この気配はモンスター、ですか? しかも、災害級の変異種とも違う、もっと圧倒的な気配を……」

「えっ、分かる? スゲエな、流石災害級モンスターを相手してきた勇者様」


俺は純粋にそう思いながら、機関銃の雨を受けても罅一つ入らなかった大剣を掲げる。


「レイナはさ、随分前に俺達が地獄でヤバいモンスターと戦ったって聞いたよな?」

「は、はい……確か、地獄の怒りと呼ばれる、山の様に巨大な犬型モンスターだって……あっ、もしかして!」

「ご名答! コイツは地獄の怒り、名称マケンの尻尾をそのまま大剣に加工した、魔王様のオーダーメイド武器だ!」


今から丁度一年程前、俺がハイデルに招待されて初めて地獄に足を踏み入れた時。

当時地獄では謎の地震が相次いでおり、原因も分からない状況であったのだが、その原因が地獄の怒りこと、マケンであった。

マケンは当時魔界を支配しようとしていたアズベルが、その手段として復活させた伝説のモンスター。

炎のような真っ赤な体毛をユラユラと揺らがせるその姿は、今でもたまに思い出して身震いしてしまう。

そんなモンスターの最大の武器であったのが、尻尾の先端に付いた大剣の様な骨格。それは地獄の硬い岩盤でさえも、豆腐の様に切り裂いてしまう恐ろしい武器であった。

しかもその尻尾を地面に突きさすことによって地脈に流れる魔力に干渉し、地殻変動を自由自在に操ると言うのだからたまったもんじゃない。今思い出しても、何で俺達で勝てたのが不思議なくらいだ。


そんなマケンの尻尾を、リーンがボロボロになりながらも斬り飛ばしたのだが……コイツは、その時斬り飛ばした尻尾の先端だ。

亡骸含め、今の今までハイデルが保管していたのだが、前々からこの尻尾を使って武器を作れないかと計画していたのだ。

ハイデルとアズベルのコネを最大限活用して来て貰った、地獄でも指折りの鍛冶職人数人を雇い、製作する事数か月。

不幸中の幸いで、ユースが宣戦布告したその日に遂に完成したのがコイツだった。


「ゲッホ、カホ……! ハア……クソ、何だよ、今の……ここに来た時も、そうだが……地獄に行く為だけの、ただの転移魔法じゃ、ないのか……?」


苦しそうにアーマーの抉られた部分を押さえながら睨み付けるユースが、ブツブツと何やら言っている。


「本来はそうだぜ。でも工夫次第で色んなことが出来るんだよ、今回もその応用技の一つだ」


実はこの決戦に挑む直前、俺はこの大剣の持ち手をハイデルの屋敷の庭の芝生に突き刺したまま放置していた。

その後、俺が世界会議の会場から地獄を辿ってワープをしようとしたその一瞬、大剣が突き刺してある芝生に、横向きでヘルズ・ゲートの座標設定を行った。

そうする事によって、俺がこちら側でヘルズ・ゲートを開いた瞬間、大剣の真下に繋がる。そこに手を伸ばし大剣を引っ張り落とす事によって、あたかも黒い靄から大剣を取り出したかのように見えたのだ。


「まあ、収納魔法のストレージの方が断然コスパいいけどな。けどこんな風に、絶対相手には予想出来ない不意打ちが出来る。だって別世界から直接取り出してるからな」


ニヤリと不敵に笑って見せながら、俺は大剣を両手でしっかりと握り直す。


「地獄のモンスター、地獄の技術からなる、地獄の集大成……名付けて、『焦熱炎魔(ショウネツエンマ)』! 待ちに待った初披露宴だぜ! あー、レオンにも立ち合って貰いたかったー!」

「モンスターから剝ぎ取った部位で武器を付くとか、まんまモン●ンかよ……」


なんて嫌味ったらしく言うユースだが、この大剣に注がれる視線には明らかな興奮が見て取れた。


「SF好きにしちゃお前、結構こういうファンタジー系好きだよな」

「おれはゲームだったら基本何でも好きだ。セレコスが生き甲斐というだけでな」


相変わらずセレコスに対する愛は重いが、やはりプロゲーマー……いや、ゲーム好きの子供なのは変わらない。

モンスター素材から作った武器なんて、ゲーム好きの男子なら誰でも憧れるものだ。


……こうも趣味も話題も合うのに、何で俺達は戦わなくちゃいけないんだろう。今更になってそう考えてしまう。

本当に、コイツとは分かり合えないものなのだろうか、と。


「…………」


レイナが、何やら悲し気な顔をして俺とユースを見ている。俺が考えていた事が、顔に出ていたのだろうか。

……いや、考えるのはよそう。甘ったれた平和論なんて、ここでは何の意味もない。分かり合えないから、今こうなっているんだ。

即座に気持ちを切り替えた俺は、ゆっくりと、体重をを掛けるように一歩前に右足を出す。


「確かに、SFチックな武器も、装備も、乗り物も、濃密な設定も、格好いいけどよ……やっぱりたまには、原点に帰らなきゃ」

「原点……?」

「そう、男の子だったら皆大好きな原点――ッ!」

「ッ!」


その足に身体中のパワーを集め、一気に床を踏みしめ跳躍する。

自分と同じぐらいの重さの大剣を肩に担ぎながら。

そして、俺は閻魔様もビビるくらいに凶悪に笑って見せながら、その大剣を振り下ろした。


「頭の悪い火力特化は、男のロマンだぜえええええええええッ!!」


小ネタ

リョータの新武器『焦熱炎魔(ショウネツエンマ)』の名前の由来は。


焦熱地獄

(罪人を極熱の地面に押し付け苦しめる八大地獄の一つ)

閻魔大王の『閻』の文字を『炎』に変えた造語

(炎魔=炎を操る魔族=ハイデル。大剣製作にあたって頑張ってくれたハイデルへのリョータなりの感謝とリスペクト)


となっております。ちなみにリョータはこの名前を付けるにあたって、ハイデルには何も由来を言ってません。魔王様は恥ずかしがり屋だからです。

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