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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四六話 正義は今日も曖昧だ!⑦


「ゲホ……!? おまっ、何で……!?」


俺が思いっ切り蹴り飛ばしたユースは、まるで幽霊でも見ているかのような顔で俺を見ている。

先程までの軍服はどこへやら、ガッチガチのSFパワードスーツを着込んでいるユースの左肩からは血が滲んでおり、痛々しい。


「あの時、おれがお前らを瀕死まで追い込んだ! ポーションだって割ったし、あの最初に足を撃ち抜いたヒーラーだって、使い物にならなかった筈だろう!?」

「その使い物にならないヒーラーが覚醒したんだよ。俺どころか、魔族のハイデルやレオンも全回復させちまったよ。そしてパワーアップして更に覚醒したハイデルとレオンがあの偽勇者一行ぶっ倒してくれた」

「はぁ……? 何だよそれ、神聖魔法は魔族に毒なんじゃなかったのか……? クソ、何だよそんなご都合展開! ふざけんなよ!」


主人公である筈の自分ではなく、敵にそんなご都合展開が起きた。

そんな事は認めたくないのだろう、ユースは忌々し気に俺を睨み付ける。


「まあ、ご都合展開と言われても否定出来ねえよ。でも、例えご都合だろうがなかろうが、お前がフィアを……レオンやハイデルを、甘く見てた事が原因だろ」

「……………ッ」

「さっきも言ったけど、この世界の主人公は、この世界で生まれて過ごしてきた人達だ。俺達みたいな異邦人は、ただの異世界からの侵略者でしかねーんだよ」


俺は皮肉と嫌味たっぷりな笑みを浮かべながら、両腕を広げる。


「考えてもみろよ。今ここに居る日本人、自分のエゴで一国滅ぼしたクソ野郎と、その大量虐殺した国民の死体を操って侵略してるヤベー女と、魔王だぜ? 正義のヒーローも主人公も、誰一人居ねえだろ。寧ろ悪役しかいねえじゃねえか」

「このおれを! お前とあの女と一緒にすんなよ!?」


あくまでも、自分はまともであり、正義であり、主人公であるというスタンスを変えないユース。

でも、正直人間らしいと思う。人間誰だって、自分がまともだし、正義だし、主人公だと思っていたいものだろう。

と、後ろから小さくすすり泣く声が聞こえる。


「よ、かった……魔王さん……無事で……」

「今はレイナの方が無事じゃないじゃん! 大丈夫なの!?」

「それより、他の皆は……」

「それよりって……全員魔力切れやら体力切れやらで一時離脱中、でも全員無事だよ」

「よかった……」


自分の容態よりも他者を心配するレイナの全身には痛々しい傷が付いており、今尚血が流れ続けている。

特に両肩にはそれぞれ深い傷が開いており、肩から滴り落ちた鮮血が指先にまで届いている。ユースなんかよりもよっぽど重症だ。寧ろ生きている方がおかしいレベルと言える。

そんな俺の視線に、レイナは叱られた子供のようにシュンと項垂れる。


「ゴメン、ナサイ……あの時、魔王さんが私に託してくれたのに、結局何も、出来ませんでした……」


その揺れ動く瞳からは、止めどなく涙が溢れており、ポタポタと落ちた雫が血と混ざり合っている。


「皆が、あんなに傷付いて、血塗れになって、また護れなくって……それでも、魔王さんが前言撤回しないって、言って……くれたのに……! 結局私は……なんにも……!」


…………。


「でもレイナ、一人で戦ってくれてたじゃん」

「え……」


そんな何てことない一言に、レイナは呆けたように顔を上げる。


「前々から思ってるけど、レイナはさぁ、自分の事卑下し過ぎ。君が何も出来ない奴だってんなら、この世界の全員それ以下だからね?」


言いながら、腕を組んで見ているユースを横目にする。イライラしているが、今この瞬間口や銃弾を挟む様子はない。

変身中は攻撃しないといったオタク界隈の暗黙のルールに従うのだろう。まあ、こんな変身アクションが派手そうなパワードスーツを着込んでいるのだ、それを自分が破ることはしない。

まったく、そんな事笑顔で破る俺とは大違いだ。

そんな事を心の片隅で思いながら、俺はその場に屈んでレイナと目線を合わせる。


「得体の知れない力を持った異世界人相手に、レイナは今まで、ずっと一人で戦ってくれた。例え勇者で、君が凄い力を持ってたって、そんなの怖くて出来ないよ。というか、俺達の世界でも銃を向けられたら恐怖で足が竦むよ」


そしてその小刻みに震える血塗れの両の肩に、そっと優しく手を置いた。

出来るだけ、痛みを感じないように。


「たった一人で、こんなに傷付いて……それでも今の今まで戦ってくれてたじゃないか。それに本当に何にも出来なかった訳じゃないだろ?」

「……チッ」


俺はユースの至る所に刀傷の付いたパワードスーツと力なく垂れ下がっている左肩をチラと見ながら言う。本人は不機嫌そうだが。


「逆に、誰よりも辛くて苦しくて怖い役割を押し付けてゴメンよ。でも、俺達が今こうして生きてるのは、レイナが誰よりも先にユースの元に辿り着いてくれたからだ。そうじゃなかったら、フィアが覚醒する前に全員皆殺しだった」


……あんまり、年の近い女の子にこんな事するもんじゃないだろうし、自分でもキャラじゃないとは思うけど。

俺はレイナの肩に置いていた手を、そのまま涙が伝う綺麗な白い頬に移し、その涙を指で優しく拭った。


「俺、また勇者様に助けられたな」

「あ……う、うぅ……えぅ……!」

「そんじゃ、今度は魔王様が助ける番だ」


今までで一番しゃくり上げながら泣き出すレイナの髪を優しく梳いた俺は、ゆっくりと立ち上がる。

そして、一歩ユースの元へ進んだ。


「アピールタイムは終了か、激寒魔王」

「お陰で様で」

「何でお前も泣いてんだよ、気持ち悪い」

「そりゃ、元々俺はこの子よりも泣き虫だからな」


俺はレイナに感化されてちょちょ切れた涙腺を拭うと、大きく息を吐き出す。


「てな訳だ。悪いが乱入イベント発生だぜ」

「何が乱入イベントだよ、例え回復したって、お前なんて何の脅威でもないんだよ。恐暴竜でも持ってこい」

「誰がイ●ルジョー以下だコノヤロー」


と、恐らくゲーム好きの日本人しか伝わらないであろう会話をしながら、お互い武器を構える。


「本気でこのおれとやるつもりか? おれは、この勇者レイナを打ち負かした男だぞ。それ以下のお前に何が出来る? この女よりもおれの武器の脅威は理解してる筈だろ?」

「まあなぁ……でも、正直そこまで怖くはない。いや、怖いんだけどさ。でも俺は、チャカ向けられるよりももっと死を予感させる場面に何度も遭ってきた。それに比べたら、全然足は動くね」


そうだ、アカツキとやり合ってた時の方が、全身から剣の切っ先を突き付けられているような死の予感があった。

無論、ユースを舐めている訳ではない。実際、レイナがここまでやられるなんて夢にも思っていなかったから、逆に警戒心が強まった。

けれど、不思議と恐怖で足が竦む事はない。


「危機感が無いだけだろ」

「いや? 違うね」


きっと、それは。


「だって俺、一人で戦う訳じゃねーし」

「は? 何を――ッ!?」

「はああああッ!!」


完全に俺に注意が向いていたユースは、突如として突撃してきたレイナの動きに反応が遅れる。

脇腹を目掛けた強烈な回し蹴りを左手でガードしたものの、肩の傷口から血が噴き出て、顔を歪めた。

そのまま真横に転がるもすぐに起き上がったユースは、右手で左肩を押さえて目を見開く。


「な、何でお前、動けるんだよ!? いくら人外でも、動ける怪我じゃなかったはずだ!」

「じ、人外ではないです! 多分! ……その、実は私にもよく分かりません。ただ、魔王さんとあなたが話している時、気が付いたら傷が少し回復していて……」


自分でも不思議そうに自身の身体を見下ろすレイナ。血塗れである為一見重症に見えるが、両肩の傷が先程より明らかに小さくなっていた。

そんな混乱の中、俺は悠然と呟く。


「さっすがサラさん特性、効果が出るのが早えや」

「お、お前の仕業か!? でもお前、回復魔法も何も使ってなかっただろ!? それに回復ポーションだって飲ませる暇もなかっ……!」


そう言い掛けて、ユースはハッとしたように顔を上げる。


「まさか、お前……二次元でもないのに、さっきあんなに女子の身体にベタベタ触りまくってたのって……!」


驚愕とドン引きの入り混じった反応をするユースに向けて、俺はニコリと笑って。


「うん、予め回復ポーション手に塗ってたの」

「ひ、卑怯過ぎるだろ、お前ぇ!! 普通あんな雰囲気で、そんな合理的な事するか!?」

「だってしょうがねえじゃん。こうでもしないとレイナを回復出来ねえもん。お前、相手の回復は絶対妨害するタイプだろ? 俺だってそうさ」


実はレイナが既にボロボロな状態だったのは千里眼で確認していた。

だからハイデル達と別れる直前、予め地獄に用意してあったトリエルポーション店特性回復ポーション(定価4000トアル)を数本投げ渡してもらい、その内の一本を贅沢に手に塗りたくっていたのだ。

そしてレイナを慰めると共に、肩やら頬やらに自然を装いながら触れて回復ポーションを染み込ませ、気休め程度に回復して貰った。


「そもそも、レイナの球の肌にそんな意味もなく易々と触るなんて恐れ多いわ!」


そう、ここは三次元。小さい女の子ならまだしも、同世代の女の子の頭にそんなお手軽にナデナデポンポン出来る訳ないのだ。

優しくて純粋なレイナだから受け入れてくれたが、もしリーンに同じことをやろうとしたら『髪が崩れる』とか言って伸ばした手を振り払うに違いない。


「そ、そうだったんですね……あ、でも、ありがとう、ございます……アハハ……」

「あー……ゴメン、マジでゴメン。嫌だったよな、うん」


レイナはぎこちなくそう感謝を伝えるが、その顔には若干の不満と寂しさが見て取れた。

きっといきなり俺なんかに、しかも何故かビショビショな手で触れられたことにショックを受けているのだろう……うん、そうに違いない。


「別に、触れられるのが嫌だった訳じゃ……」

「ゴホン」


何も聞こえなかった。そんな蚊の鳴く様なちょっと不貞腐れた声など、何も聞いていないのだ。


「真剣勝負の最中に急に変なラブコメ始めんなよ!! トロフィーがしゃしゃり出てくんな!」

「だからレイナをトロフィー呼ばわりす――うおッ!?」


突然発砲してきたユースの銃弾は、回避した俺の頭部があった空間を通り抜ける。

そのまま俺とレイナは素早くユースの両サイドに移動する。


「本当はこのままレイナの事護ってあげたかったけど、ゴメン!」

「わ、私の方こそ、また魔王さんを護れなくて……!」

「だから今回は一緒に戦おう! レイナ、俺を護ってくれ! その代わり、俺がレイナを護るから!!」

「……ッ! はいッ!」


そのまま両サイドから飛び掛かる俺とレイナに対し、ユースは背中のジェットパックを噴射して回避する。


「チッ、二対一かよ……!」

「そっちはずっと自分が作ったSF少女に囲まれて、戦わせてただろうがよ!」


俺が続けざまに飛び掛かり、まずはその拳銃を斬り落とそうとするが。


「硬った……!」


俺の愛刀の刃は刺さりもせず弾き返されてしまう。

そのまま落下する俺目掛けて、ユースが照準を合わせる。


「『発令』!」


そう言いながら放たれた銃弾は、真っ直ぐ俺の腹部目掛けて飛んでくるが。


「はあ!!」


一瞬でその間に入ったレイナが一閃。銃弾は大きく軌道を逸らし明後日の方向に飛んでいく。


「魔王さん、気を付けてください! 彼のユニークスキルは物質創造なんかじゃ――!?」


レイナがそう言い掛けて、一瞬目を見開く。まるで意思でもあるかのように、銃弾が大きく弧を描きながら今度はレイナ目掛けて飛んできたのだ。

それを、今度は魔神眼で極限まで動体視力を上げた俺が真っ二つに斬る。二つに分かれた銃弾は俺とレイナを挟んで飛んで行き、壁に小さな罅を入れた。


「うおお、スゲエ俺、刀で銃弾斬っちゃうとかアニメかよ……」

「あ、ありがとうございます! それで、彼のユニークスキルは……!」

「ああ、多分魔法付与系の何かだろ?」

「し、知っていたんですか!?」

「さっきガールズ・オートマトンの残骸を観察してた時に、一つ一つの部品に魔道具みたいに付与された魔力が何十層も見えたんだ。だから一から魔力で創ったんじゃなくて、作ったガールズ・オートマトンに魔力を付与してたんじゃないかって。しかもお前、それを俺に悟られないように、何かやってたな?」

「チッ、そこまでお見通しか……そーだよ、ガールズ・オートマトン・シリーズには、起動中に魔力を隠蔽する設定を追加していた。その設定を司る部品が壊されたのか……運のいい奴め」


成程、魔法ではなく、設定そのものを追加する能力……さっきの銃弾には『弾かれた場所に旋回して戻る』的な設定を追加していたのかもしれない。

しかもその設定の追加は即興で出来るし、自由度も高いと来た……。


「いや、下手すりゃ物質創造よりも厄介だぞコレ」

「それと、壁伝いでも素肌のどこかが触れていれば追加出来るみたいです」

「どっちにしろチートじゃねえかよもう!」

「唯一、生物は能力の対象外らしいですが……」

「まさか全裸で戦えと? …………」

「あ、あの! 真剣な顔をして無言にならないで下さい!」


正直、勝てるのならこの場でフルチンになっても構わない。だがその後先生に殺されるかもしれないので、最終手段として取っておこう。


「無駄だよ。勇者の聖剣と腕ならまだしも、お前なんかじゃおれにダメージを入れるどころか、このアーマーにさえ傷付けられない。それと――」

「『黒雷槍』!」


俺が余裕そうなユースの台詞を遮る様に、即座に作り出した子くらいの槍をぶん投げる。しかし『だろうな』とでも言わんばかりに何もしないユースは、何の回避もせずにぶち当たる。

アーマー全体に、黒い電撃が迸る。しかし、当の本人は涼しい顔をしている。


「このように、俺のアーマーは完全絶縁体だ。お前の黒雷は脅威でも何でもない」

「だろうとは思ってたけどよ……」


そりゃ手の内は割れてんだ、電気系魔法の対策は万全だろうさ。

……そうだな、現時点では、俺はコイツに有効打を与えることは出来ないだろう。

そう、現時点では。


「しゃーねえ、やっぱアレ使うか」


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