第七話 隣の大国は今日も壮大だ!③
「遅いわよ! もう約束の時間ギリギリじゃない!」
「わり~わり~、ちょっと用事があってな」
あっという間に一週間が経ち、フォルガント王国に行く約束の日になった。
少し寄っていたところがあり、魔王城の正門に遅れてやって来た俺に、同行するリーンがジト目で睨みつけてくる。
「魔王様、くれぐれもお気を付けて下さいね?」
「そうよ、王様に迷惑掛けないようにね?」
「貴様は何をしでかすか分からぬからな」
「お前ら、その言葉まんま返すよ」
コイツらは自分の事を何だと思っているのだろうか、見送りに来た四天王に、俺は哀れみの視線を向ける。
「なあリム。俺達がいない間、コイツらの事頼むわ。ほんとに嫌になったら、逃げていいからな?」
「そんな事しませんよっ! 大丈夫ですから、リョータさんも頑張って下さいね」
俺はリムの肩に手を置いて言うと、リムは笑顔でそう返した。
どうしよう、リムはそう言ってくれたが、マジで心配だわ。
俺とリーンがいない間、何もトラブルが無ければいいのだが。
「ああ、そうだ。ちょっといいか? おーい、いい加減出てこいよー!」
俺は大切な事を思い出し、ずっと後ろの塀の陰に隠れていたソイツを呼んだ。
「あっ! あんた、何でここに……!?」
塀の陰か出てきたソイツに、リーンは驚愕の表情を浮かべる。
それもそのはず、だってコイツは。
「突然ですがこの兄貴君、カインも一緒に同行します!」
「……よろしくな」
――何故兄貴君も一緒に連れて行くのか、それは三日前に遡る。
「急な話になるんだが、お前をフォルガント王国に連れて行きたい」
「……は!?」
リーンがいない隙を見て、俺は孤児院に訪れ、出迎えてくれた兄貴君に開口一番にそう言った。
「待て待て、いきなり何だよ!?」
「そのままの意味」
「いやそうじゃなくて、何で俺をそこに連れて行きたいのかの理由をだな!?」
動揺する兄貴君に、俺は頬を人差し指で掻きながら続ける。
「お前らさ、すっかり忘れてたけど、フォルガント王国との同盟まだ認めてないんだろ?」
「それは……そうだけどよ」
「でだ。いっぺんフォルガント王国に行ってみて、自分の目で見て判断して貰いたいんだよ。本当にアイツらは悪い奴らばっかなのかってな」
「…………」
「全員連れて行きたいのはやまやまなんだが、流石に無理だし。だから、ここのリーダーである兄貴君に来て貰いたいんだよ」
俺が説明を終えると、兄貴君はしばし黙って頭を掻く。
やがて、深いため息とともに。
「……分かった。一応アイツらにも訊いてみる」
「ほんとか!? いや~、ありがとな兄貴君。突然な話で」
「ケッ、まったくだよ」
兄貴君は俺に吐き捨てるように言うと、俺に背を向けて歩き出す。
何とかなったなと軽く息を吐き、ドアを閉めようとすると。
「おい」
「んあ?」
兄貴君に呼び止められ、半開きのドアの隙間から除く。
すると、首だけで振り返り、ジト目で睨みながら兄貴君が。
「いい加減俺の事兄貴君って呼ぶの止めろ。俺の名前はカインだ」
いや、カインがそう言ってきた。
「――ってな訳で」
「だから! 何で! 私に! 言わない! のよ!」
「いや、お前に言ったら向こうで危険な目に遭うかもしれないって拒否するだろ!」
「確かにそうだけど……!」
襟首を掴んでガクガク揺らすリーンにそう言うと、俺はパンッと手を合わせた。
「頼む! ってか、お前が一緒にいてやればいいだろ!? 保護者同伴って事で!」
「ううっ……」
襟首から手を離し、腕を組んで唸るリーンに、俺の横にいたカインが。
「ねーちゃん、俺からも頼む。確かにフォルガント王国の奴らを恨んでいないと言えば嘘になる。
でも、俺は自分の目で確かめてみたいんだ」
そう言って頭を下げるカインに根負けしたのか、リーンはこめかみを抑えて空を仰ぐと。
「はぁ~、しょーがないわね」
そう言って苦笑いを浮かべた。
「……やっぱお前ってコイツらには甘いんだよなぁ」
「あんたに甘く接するとダメになってく気がするのよ」
流石、数週間過ごしてきた仲。
俺の事をよくおわかりで。
などと思っていると、正門の方に突然魔法陣が浮かび上がってきた。
「おーい、魔王君、リーンちゃん、お待たせー」
その魔法陣の中からジータが現れ、軽く俺達に手を振ってくる。
「おーう。それじゃ、行ってくるわ!」
「あんた達、くれぐれもトラブルを起こさないでよね!」
「どうかお気を付けてー!」
「頑張ってね、リョータちゃん、リーンちゃん」
「この国の事は我に任せた!」
「三人のことは私がしっかり見ておきますから、心配しないで下さいねー!」
四天王と挨拶を済ませると、俺達はジータの元に向かう。
「じゃあ早速しゅっぱ……って、その子は?」
やはりカインの事が気になったらしく、不思議そうに訊いてくる。
「ああ、コイツはカイン。色々事情があって、コイツも連れて行く事になった。大丈夫、俺達がしっかり見てるから」
「おい、俺をそんな子供扱いすんな!」
「おっと、その反応はリムの専売特許だぜ? お前がやっても可愛くねえっての」
「ああん!?」
「ははは、仲いいんだね」
「はぁ~、もう」
俺とカインのやり取りにリーンはため息をつき、ジータはまるで兄弟を見るような目で言ってきた。
……この異世界に来てから早数週間。
その間、この小さなバルファスト魔王国から一歩も出なかった俺だが、遂にちゃんとした王国に行けるのだ。
よーし、待ってろよ、フォルガント王国!
「それじゃあ、フォルガント王国に向けて、しゅっぱーつ!」




