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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四四話 開戦は今日も唐突だ!⑥


「……」

「…………」

「……………」

「…………………」

「「……………………………」」

「いい加減に何か喋らないか貴様ら!」


殺人レーザーの壁からを何とか生き延び、ユースが待つであろう司令塔に向かう道中、俺とハイデルはただ沈黙していた。

ただただ、死んだ目をしながら歩みを進めていた。

そんな俺達の影響か、暫く沈黙が続いていたのだが、我慢出来なかったレオンが声を荒げた。


「双方の気持ちは十分理解できるが、敵のアジトの中でいつまでも落ち込んでいるな!」

「……レオン……お前に分かるか……? ズボン越しだったとはいえ、完全に口の中に……っ」

「うわああああああああああ! 止めてください魔王様ああああああああああ!!」


あの時の光景を思い出したのか、今まで静かだったハイデルが打って変わって叫び始める。

何でラッキースケベが男同士なんだよ、しかも『倒れ掛かった時にそのままブラジャーの中に手が入っちゃいました』レベルのあり得ない奇跡起こってるんだよ。


「なあフィア、気分が良くなる魔法ってないの? 正直今、吐こうと思えばいつでも吐ける状態なんだけど……」

「ないですから後で酒飲んで忘れろです」

「さ、流石に辛辣過ぎないかな……?」


多分フィアは、見たくもないものを見させられてご立腹なのだろう。俺だって嫌だよ。


「ま、魔王様……確かに嫌悪されても仕方ない事だったとは言え、露骨に嫌悪感を出されるとそれはそれで傷付くのですが……」

「傷付くなよ! じゃあお前逆の立場だったらどーすんだよ!? 嫌だろ!?」

「…………ええ、そうですね」

「今の沈黙は何だあぁっ!? おいハイデル嘘だよな……? 俺の事が大好きな忠犬ハイデルだってのはもう分かってるけど、忠義以外の要素で大好きとは言わねえよな!?」

「まさか魔王様、私が男色家だと思っているのですか!? 酷いですよ!」

「そうだよな、良かったよ……」

「好き嫌い以前に、そもそも私、恋愛感情というものが未だによく分からないので!」

「可能性を残すなああぁぁっ!」

「敵のアジトで落ち込むなとは言ったが漫才をしろとは言っていないぞこの馬鹿どもが!」


なんてギャイギャイ騒いでいる俺達は、さぞ場違いな存在だろう。

緊張感の欠片もないと怒られても仕方がないと思う。なのに。


「ふ、ふふ、あははは……!」

「レイナまでこの空気に呑み込まれるなです」

「ご、ごめん……でも本当に、皆さんは強いですね。さっき死にかけたばかりなのに、いつでも賑やかで。ちょっと羨ましいです」

「いや、羨ましいって……」


多分その感情は一番俺達に向けちゃダメなものだと思うんだけど……。

否定しようとする俺だったが、その前にレイナが呟くように。


「私は勇者として、沢山の人々の平和を護りたいと思っています。でも、平和ってそう簡単に護れるものじゃないんです。町を破壊したモンスターを倒したとしても、住民の皆さんにはもう家や町が無いから、やっぱり落ち込んでしまう……」


きっとそれは体験談なのだろう。そして、一回二回なんてもんじゃないくらい、沢山経験してきた事なのだろう。

彼女のその瞳が、そう物語っていた。


「命を護る事だけが平和じゃないんです。もっとその先のものを、生活とか故郷とか、何より笑顔を護らなきゃいけないんです。だから私は、どんな状況でも面白おかしく振舞って、自然と周囲を笑顔に出来る魔王さんが羨ましいなって、見習わなきゃなって、そう思ったんです」

「……見習うなんて、俺はそんなもんじゃないよ。逆に、ふざけ過ぎると反感を買う事もあるだろうし、何も俺の振舞い方が正解って訳じゃないだろ」

「そうですね。というか、正解そのものがあるかも分からないです。でも、少なくとも私は、魔王さんを見習えば得るものがあるって思います」

「……精々、見習うじゃなくて見紛うだった、なんて事にならないように祈るよ」


見習う、か。

俺はこの世界に転生してきて、今までずっと誰かを見習って生きてきた。

リーンに剣の教えを請い、リムから魔法を学び、リグルさんに武術を叩きこまれ、フォルガント王に王としての在り方を教えてもらった。

彼らだけじゃない、俺はこの世界で出会った沢山の人から、何かしら見習って生きてきた。

その中には、勿論レイナだって含まれている。

高いステータスと勇者という称号を生まれながらに持っていたにも関わらず、いつも謙虚で穏やかで、慈愛に満ちている性格とか。

素直に格好いいと思った。もし自分が同じような立場になったら、彼女のようになりたいと思った。

そんな彼女が、俺を見習うべきだと言っている。

……俺は、それに値する人間になれているのだろうか。


「……このまま突き当り、変に空間が開けてるな」


そんな事を頭の片隅で考えながらも、俺は進行方向の様子を確認する。

広さは魔王城の魔王の間より一回り大きいぐらいだろうか。壁の高い位置に、囲うようにガラス窓が嵌めてあり、何かの実験場か訓練場を思わせる。

……んなあからさまな。


「……もしかしたらユースの奴、結構形式的のが好きなのかね」

「どういう事だ?」

「この先で絶対戦闘が起こる。ユースが出て来るかSF少女が出て来るか、それとも別の何かが出て来るか分からねえけど、構えとけよ」


俺の言葉に皆が気を引き締める中、俺達は廊下を抜けてその空間へと足を踏み入れた。

その瞬間、再びノイズ音が聞こえ始める。


『月城、よくもあのトラップを破壊してくれたな? 原作再現して創るのに結構手間がかかったんだぞ』

「悪趣味なもんに愛を注いでんじゃねえよ、伝わったけどよ」


吐き捨てるように聞こえたユースの声に、俺もケッとガラ悪く言い返す。

相変わらず姿は見えない。たが、着実に近づいているのは何となく分かった。


「で、今度は一体何と戦わせようってんだよ。途中からトラップが何も襲いに来なかったのを見るに、やっぱり実力で叩き潰そうって腹づもりじゃねえのか?」

『まあな。トラップだけで追い詰めるのは少々面白さに欠けると思ってな。少しくらいは戦ってやらないと』

「イキるんだったら姿見せねえかコノヤロー!」

「ぶっとばしてやるですから直接掛かってきやがれですー!」


安全圏からネチネチと……国の存亡関係なく、個人的に腹が立ってきた。

それはフィアも同じなようで、ワンドをブンブン振り回すという聖職者らしからぬ怒り方をしていた。


『ああ、直接戦ってやるとも』


その瞬間、後方のシャッターが独りでに閉まり、退路を断たれた。

逆に天井の巨大なハッチが開き、そこから唸るような機械音が聞こえ始める。

身構えていると、ハッチから差し込む光の中、まるで天使が降臨するかのようにソイツらはゆっくりと舞い降りてきた。


一人は深い青色をした髪をポニーテールで纏め、巨大なバズーカーのようなものを担いだ少女。

一人は燃えるのような赤髪を靡かせ、マシンガンを構える小柄な少女。

一人は絹のような白髪に、丸い突起が付いた見たことのない銃を二丁携えた少女。

全員容姿も武器も違う。だが、無機質な表情は相変わらず同じだ。


「……何だ、例の女型ゴーレムではないか」

「おや? しかし、どこか既視感があるような……?」

「既視感というか……」


レイナの視線に続くように、俺達もある人物を見つめる。


「私達、です!?」


そう、髪色といい体形といい、勇者レイナのお供三人衆に似ているのだ。

完全に寄せているとはいかないものの、抽象的に見ればすぐに連想できそうな絶妙なバランス。

かといってパチモンと呼ぶには妙に細部にこだわりを感じる。


「お前……現実の女の子とまともに喋れないからって、容姿を似せた人形を作るってどうなのよ……?」

「気色悪いな、反吐が出る」

「ああ、成程そういう……」

「…………」

『おい待て!』


レイナまでもが冷めた目を虚空に向ける中、ユースの苦し紛れの言い訳タイムが始まろうとする。

しかしそれを遮ったのは、恐らくモデルにされたであろう本人。


「お、お前! まさかとは思うですけど、そのゴーレム戦闘以外で使ってないですよね!? もしそうだったら、後で他二人も呼んでミンチにするですよ!?」

『お前は一体何を想像しているんだ!? この三体はおろか他の機体だって戦闘時以外は雑用か待機しかさせていない!』

「雑用って何ですか雑用って!?」

『掃除とか軽い設備のメンテナンスとかだよ脳みそピンク女!』

「なああああああああああああ!?」


うん、俺ならまだしもお前がそのカードを初手で出しちゃダメだろ。

速攻でいやらしい目的に思い至っちゃったって自白してるようなもんだろ。


『ていうか聞けよ! この三体はな、セレコスに四か月前に新たに実装されたばかりのキャラをモチーフにして作った最新型のガールズ・オートマトン・シリーズだ! なのに何でお前ら変に似てるんだよふざけんなこの偽物が!』

「何で十数年生きてる私達が四か月前に出てきた奴の偽物を疑われなきゃならないですか!」

「フィアちゃん、一旦落ち着こう……?」

「レイナはまだコイツらみたいな偽物が出てきてないからそんな事言えるんです! もしここにレイナ似のゴーレムが居たらいくらレイナでも嫌です!?」

「それはそうだけど……」

『お前ら……!』


どうやら勇者一行は物理的攻撃面だけでなく、精神的攻撃面にも優れているご様子。

特に恐らくこの中で一番純粋であろうレイナのガチ嫌悪は見ているこっちも身震いしてしまう。


「……最新型、と言っていたが、広いとはいえ飛翔に制限がある船内では、こちらに分があるのではないか?」

「確かに、空を飛び回られるよりかは攻撃を当てやすいです……」


……確かにそうだ。

だが、わざわざ自ら進んで不利な状況になる必要性が無い。

という事は、この空間だからこそ可能な仕掛けがあるのか?

若しくは……状況や場など関係ないと言い切れるような、何かがあるのか……?


「来ますッ!」


レイナが叫ぶとほぼ同時に、青髪オートマトンが突っ込んできた。

さっき外で戦った奴らと同じような単調な動きだ。

何かあるだろう……だからといって攻撃しないという選択肢は無い。


「ッ!」


俺は瞬時に黒雷を弓と矢の形に変形させ狙いを定める。

この距離にこのスピードだ、外れることは無いはずだが……ええい、躊躇ってる暇なんてねえ!

俺が放った黒雷の矢は、数コンマしない僅かな時間で青髪オートマトンの眉間に突き刺さり……!


「なっ!?」


か、身体を捻ってギリギリで躱した!?


「クッソ……!」


そのまま迫ってくるならと、俺は飛び出すと同時に刀の柄を持ち横薙ぎの居合斬りを放……っ。


「……ッ!?」


間合いに入った瞬間真上に方向転換してギリギリで躱しやがった!?

しかもその状態からそのまま背後に回るかよ!

俺は振り抜いた勢いをそのまま回転し、一撃でも当てようと食らいつく。


「げぼっ!?」

「リョ……ッ!」


しかしその寸前で腹部に走る重い衝撃。

こ、コイツ……! バズーカで刀をガードすると同時に、腹に回し蹴りって……!

その威力で後方に吹き飛ぶ俺に、今度は流れるようにロケット砲弾が飛んでくる。

アクア・ブレスで回避……! ダメだ、腹蹴られた痛みと吐き気で集中力が……!


「ッ!」


ロケット砲弾が直撃する寸前、俺の身体は重力に引っ張られるように真横に移動し、紙一重で当たらなかった。


「魔王さん、大丈夫ですか!?」

「レイなぁうぶ……!」


俺を抱きかかえたまま着地したレイナが、視線を青髪オートマトンから外さずに声を掛けてくれる。

だが感謝の言葉の代わりに胃液とカツ丼が出てきそうになったので何とか堪えた。


「ゲッホ……な、んだ、あの動き……?」

「外に居た人達とは動きがまるで違いますね……」


だが、純粋なスペックという問題ではない。スピードも武器の威力も、さっきまでの奴らと同じはずなのに、明らかに何かが違う……!

間合いの計算、俺の行動に対する予測とその対処……。

まるで生身の人間……しかも戦闘の熟練者と戦っているような……。


「……待てよ?」


確かユースの奴、相変わらず姿見せないけど、直接戦ってやるなんてほざいてたよな?

そして、元々コイツらは対戦型ゲームのキャラを模して創られたゲームキャラクター。

つまり……コイツらはさっきの奴らのように自動で動いているんじゃなくて……。


「遠隔操作は直接対決とは呼ばねえよ……」

『呼ぶだろ。お前、ゲームの大会とか見たことないのか?』


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