第七話 隣の大国は今日も壮大だ!①
あれから、真の魔王城(リーンの部屋)に乗り込み、一日の全てを費やし無事に真の魔王(リーンの服など)を片付けてから一週間が経った。
この一週間、俺は子供達と一緒に街のゴミ捨てや畑の雑草毟りなど、様々な善行をした。
そして、孤児達が人助けをするようになったという噂が広まった辺りで、俺は子供達を雇ってくれそうな店などを一軒一軒訊ねて募集した。
するとかなりの数の店などがOKを出してくれた。やさしい世界だね。
今では子供達は、配達、ウエイトレス、農作、ポーション作りなどなど、今まで盗みをしていた悪ガキが嘘のように働いている。
そんな子供達を見て、最初の方は街の連中は怪訝に思っていたが、今では日常になりつつある。
これで少しは、俺も魔王としての務めを果たせたかもしれない。
色々一段落したので、今日の所はのんびり過ごしていた。
「『アクア・ブレス』~」
この世界での最近のマイブームは、魔王城の城壁に沿って作られている小さな花壇に植えられた花の世話だ。
街の花屋で苗を買ったり、森に自生していた綺麗な花などを持ち帰ったりして、最初は焦げ茶一色だった花壇が徐々に色鮮やかになっていってる。
周りから見たら、魔王が花の水やりをしているというなんとも噛み合わない光景に見えるだろうが、まあ別にいいじゃん。趣味なんだし。
しっかし、何か忘れてる気がするんだよなぁ。
何か、俺だけじゃなくて国にも関わる重大な事だったような……。
そう、俺が屈んで水を撒きながら悩んでいたときだった。
「あっ! こ、こんにちは、お久しぶりです魔王さん」
「あっ」
俺の背後から突如として現れた勇者レイナの顔を見て、俺は一番大事なことを思い出した。
そうじゃん、フォルガント王国との同盟だよ!
そうだ、確か俺が孤児達にその話をしに行ったんだが、あの時のアイツらの事で頭がいっぱいになってて肝心な同盟のこと完全に忘れてた。
やっべー、どうしよう、マジでどうしよう……?
「あの……魔王さん? どうしたんですか?」
「いやいやいや、何でもない何でもない!」
引きつった笑みを浮かべていると、レイナが心配そうに声を掛けた。
それに対し俺は首をブンブンと横に振る。
「そ、それにしても、今日はどうしたんだ? ってか、他の三人は?」
今気付いたのだが、ここにいるのはレイナ一人で、ジータ、エルゼ、フィアの姿が見えない。
「今日は私とジータちゃんだけで来たんです。ジータちゃんがいないとここに来れませんし」
なるほど、つまりジータはレイナのタクシーって事か。
「で、そのジータは?」
「実は……その……ごめんなさい。ジータちゃん、どうしてもこの国を見物したいって言っていたので、魔王さんに会うのは私だけでいいよって言っちゃって……」
「ああ、別にいいよ。街でジータの顔知ってるのなんて冒険者しか知らないだろうし、騒ぎになってもギルド内だけだろ」
「そ、それって凄く問題なんじゃ……」
俺がへらへらと笑うと、レイナは更に申し訳なさそうな表情を見せた。
むしろジータがギルドに入って冒険者達をビビらして来てほしい。
あの時俺を身代わりにしようとした復讐をかねて。
そう思いながら、俺は水やりを再開する。
すると、俺の隣にレイナが屈み、露に濡れる花達をジッと見つめる。
「綺麗なお花ですね……」
そして、そう呟くと愛おしそうに花びらに触れた。
……すごい、メッチャ絵になってる。
何だコレ?
胸がキュンキュンする。写真撮りたい。
「あっ、このお花、凄く綺麗……」
「へっ? あ、ああそれか? この前たまたま森で見つけたやつでな。名前は知らないけど、俺も気に入ってんだ」
思わず見とれてしまい、反応したときに変な声が出てしまった。
それを誤魔化すように、レイナが見つめている花の説明するをする。
その花は他の花と比べて背が高く、ティアラのような花びらは染めたように綺麗な紫に、小さなダイヤモンドを散りばめたような模様がある。
それにしても、自分が丹精込めて育てた花を褒められるのはやはり嬉しいもので、つい頬が緩んでしまう。
そんな俺に、レイナは微笑みながら振り向き――。
「あの、話がずれてしまいましたが、同盟の事についてなんですが……」
――俺はレイナが言い終わる前に土下座した。




