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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四三話 会議は今日も難航だ!②

ここは、フォルガント王国の王都から少し離れた平原。

広大かつ見晴らしがよく、地平線の彼方まで、青々としている夏草が生い茂っている。

その夏草を揺らす爽やかな風が、俺の少し汗ばんだ体を優しく包んでくれる。

……いい眺めだ。だがいい眺め故に何もない。

世界会議の会場となる場所、世界各国の代表が集う場所。一体どんな強固な要塞なのだろうか。

聞いた話によると、わざわざ世界会議の為だけに作られた会場らしい。

そう思いながら転移した。だが、眼前に広がっているのは建造物が何一つ見当たらない草原。


「ねえ、何にもないんだけど……」


隣でリーンが怪訝な顔をして訪ねてくる。まあ、それが普通の反応だろう。


「まさか、野ざらしの状態で会議したりするの? 平原に机と椅子だけ置いて……」

「それはそれでアリだな、格好いいし。でも、流石にそうじゃなさそうだぞ」

「え?」


俺は振り返るとそのまま見上げる。幾重もの強大な魔法と結界に包まれている、白亜の城を。

フォルガント王国の宮殿よりかは遥かに小さい。正直ウチの魔王城よりも小さいかもしれない。

けれどちゃんとお城だ。童話のお姫様が暮らしているような、メルヘンチックかつ芸術的なお城。


「馬鹿みたいに強力な視認妨害結界が張られてるな。俺の魔人眼でもぼやけて見えるぐらいだ」

「なら、私じゃどうしたって視認出来ないわね」


なんて肩をすくめるリーンに対し、俺は徐に手を伸ばす。


「手でも繋いでやろうか? 壁に激突しないように」

「ああ、中に入ってしまえば問題ありませんのでご心配なく」

「……だって」

「……」


この魔法使いさんはさぁ……いや、この人はただ真面目に仕事してるだけなんだから、文句を言う筋合いはないよな。

そしてリーン、テメエ笑ってんじゃねえよ。


「それでは、ご案内致します」


そんな俺達のやり取りなど露知らず、魔法使いさんは小さく詠唱を唱える。

すると結界に人間が通れるサイズの穴が開いた。

彼の後に続いて結界の中に入ると、城の全体がクッキリと見えるようになった。


「……凄いわね。こんな何もない平原に、こんなの建てちゃうなんて。しかもあんな強固な結界まで」

「この会場は、世界各国の出資と選りすぐりの建設士の方々の手によって建設され、世界トップクラスの魔法使いの方々が張られた結界で常に守られております。まさに、世界一強固な要塞と言っても過言ではありません」


リーンの感嘆の呟きに、魔法使いさんが少し自慢げに話す。

うん、しょっぱなから不安になったな。破られる気がして堪らない。

どうかフラグ回収が起きないようにと心の中で祈りながら、俺達は城の中を進んでいく。

やがて正面に、巨大な扉が現れた。恐らくここがゴールなのだろう。

そしてその正面に立つと、扉は軋んだ音を立てながら独りでに開き始める。

その光景を見ながら、俺は大きく深呼吸をして。


「そんじゃまあ、いっちょ媚び売ってきますかね」

「言い方」

「へっ」


リーンと、そんな短いやり取りを交わした後、俺は一歩前に踏み出した。


……扉を開けた先に広がっているのは、巨大な石造りの円形の空間。

その中心には巨大な丸机と均一な間隔で並べられた九つの椅子。

遥か遠くに見える天井のガラス窓からは日光が差し込み、この空間を暗くも眩しくない、丁度良いくらいで照らしていた。

豪華ではない。だからといって、質素なわけでもない。ただただ美しい。

まるで、神々の集会場に迷い込んでしまったかのような、神秘的な空間だった。

そして、九つある椅子の内、既に六席が埋まっていた。

その内の一人、見知った顔が俺に声をかけた。


「来たか」

「……お待たせしました」


いつもの柔和な顔とは打って変わって、真剣モードの顔をしているフォルガント王に、俺も同じように真面目な顔で頷く。

彼の後方には、背筋をシャンと伸ばして真っすぐこちらを見据えている、レイナの姿もあった。

正面に一席だけ空いていた深紅の椅子に、俺はゆっくりと腰掛ける。

その瞬間、様々な角度から鋭い視線が俺を突き刺した。

鋭いと言っても敵意ではない。品定めというか、観察というか、その程度のものなのだろう。

その程度なのに、俺の全てを見透かされているような気がしてならない。鳥肌が立ってしまう。

俺が本物の王様のプレッシャー。ただの視線だけで、相手を委縮させる。

……でも、今この時だけは、俺もあなた達と同じなんだ。


「それでは、これより世界会議を始める。議題は、アダマス教団幹部、ユースについての認識。そして、貴国らがユースに付くかどうかの確認だ」


フォルガント王のその言葉を皮切りに、世界の命運を変える会議が始まった。

と、ほぼ同時にある一人が手を挙げた。


「あー、早速で悪いがいいか? 既に滅ぼされ王族全員殺されたスレイブ王国が空席なのはまだしも、もう一席空いてるのは何故だ?」


そうチラリと隣にある椅子を横目に語ったのは、褐色肌にくすんだ白髪をした、周囲と比べても比較的に若い男だった。

太くたくましい首や腕には、黄金で出来たネックレスやブレスレットが輝いており、いかにも金持ちだという印象を受けるが、だからと言って決して悪い印象ではないから不思議だ。


「アルテナ教皇庁は今回は不参加だそうだ。だが、既にアダマス教団には付かない旨を聞いている」

「えっ?」

「そりゃ意外だな。魔族を悪だと散々言い振り回してるあいつ等が、まさか魔族側に付くとは」


思わず声を出してしまった俺に続き、褐色肌の男が頬を人差し指で搔きながら呟く。

アルテナ教皇庁。世界で一番多い信者数を有している、アルテナ教団の総本山だ。

アルテナ教団教皇をトップに存在するその街は広大であり、聖騎士団を中心とした力は一つの国家と変わらない程強大。

その為、実質一つの国として世界から認められている、かなり異質な存在だ。

そして、絶対に敵側に付くであろうと、俺が一番危惧していた存在でもあったのだが……俺達に付くのか? アルテナ教団が?


「まあ、考えてみればそうだろうな。教皇庁があんな大虐殺を行った奴らの味方をしたら、世界中の信者の反感を買うだろう。散々魔族は悪だと語っているが、今回ばかりはな」

「そりゃそうか。ってかそもそも、違う教団同士が手を組むなんてしたら、それこそ大問題だ」


カムクラ王の言葉に、ケラケラと笑う褐色肌の男。

そっか……多分向こうとしては苦渋の決断なんだろうが、儲けものだと思っておこう。


「さて、教皇庁がバルファスト魔王国に付くとして、他はどうだ? バルファスト魔王国に付こうと決めている者は挙手してくれ」


そう尋ねて、フォルガント王が手を挙げる。続いてカムクラ王も。

だが、他の王たちは手を挙げなかった。かといって、ユースの側に付こうとしている訳ではないようだ。


「ふむ……一応、理由を聞かせてくれないか」

「ハッキリ言って、コイツは博打だ。あのユースとかいう奴の味方をすれば、一応国の安全は今のところは保証される。だがアンタらフォルガント王国と教皇庁が実質敵になっちまう。どっちもウチの大切なお得意様だ、関係を悪化させたくねえし、アンタらと喧嘩できるほど、ウチには武力がないもんでね」


そう言って、男はチラリとレイナを見やる。

それから腕を頭の後ろで組んで、背もたれに身体を預けた。


「かといってバルファスト魔王国に付いたとして、あの集団に勝てるとは思わない。それに、アイツに協力しなけりゃ次の標的がこっちになっちまうんだからな。つまり、安全策をとってユースって爆弾を抱えたままビクビク暮らしていくか、低い確率で勝負して、リスクゼロの未来を掴み取るかの賭けだ」


そう腕を組んでため息をこぼす褐色肌の男。

恐らくだが彼は、大陸の西南に位置する砂漠と芸術の国、サルドマリアの王、バズーサ・フォン・サルドマリア。

若くして先代から王位を受け継ぎ、サルドマリア独自の芸術文化を周辺諸国に広め、その収益で貧しい国を豊かにしたという、王様というより商人気質の天才。

この場において、俺を除いて一番若いのは彼だろう。


「正直言ってしまうとなー、スレイブ王国の事は前々から嫌いだったから、個人的には滅んでくれて良かったとは思うし、あの坊やも見方によってはちゃんと正義なんだよなー」


次に、こちらとしてはあまり宜しくない発言をしたのは、小麦色の焼けた肌に短く刈り込んだ金髪、そして見事な肉体美を兼ね備えた、まるでイケメンサーファーのような男。

歳は四十程だろうか。正直、夏場にサーフボードショップか海の家を開いてそうだ。

だが彼もまた立派な王様。碧海の国、ブルシー王国の国王、ボッセ・シフ・ブルシーだ。

ブルシー王国は大陸の西南に位置し、国々の中で唯一の島国。

島国と言っても国土の広さはバルファストを余裕で越している。そして周囲を息をのむほど美しい碧海に覆われており、漁業や海運業など、海に携わる仕事なら他の国とは一線を画す。

ちなみに、大陸で一番観光人気が高いそうな。

そんな国の王様ボッセ王は、娯楽を好み夏の太陽のような陽気な性格をしていると聞いたのだが……。

喋り口調とは裏腹に、確かな王としての威厳と厳格さを持っている。先程からその視線が俺を突き刺してきていて、身震いしてしまう。


「それは同意見です。スレイブ王国には過去、我が国民を攫われた事が何度もありましたので。いい加減に重い腰を上げようとした矢先に、彼が代わりに滅ぼしてくれた訳ですから、こちらとしてはただただ純粋にありがたい。アオキ殿は先程アルテナ信者の反感を買うと仰っていましたが、逆に正義の行いだと彼の行いを崇める者も、少なからず居るでしょう」


と、同調するように頷いたのは、赤土色の長い髭を蓄えた男。

逞しい腕と恰幅の良さとは相反し、その身長は俺の胸部ぐらいしかない。

間違いない、彼はドワーフ族だ。

という事はつまり、彼がドワーフと鉱山の国、ガンマイン王国国王、ダム・ガンマイン。

大陸東方に位置し、フォルガント王国とのお隣さんであるガンマイン王国は、エルフに次いで珍しいと言われるドワーフ族が多く暮らす国であり、大陸屈指の採掘王国。

国土の半分を占めると言われる超巨大な鉱脈、ガルマイン鉱脈は鉄、金、銀、銅は勿論、希少な宝石や魔鉱石が今尚ザクザク掘れる。

この世に存在するありとあらゆる宝石がそこにあると言われる程に、石に選ばれた国なのだ。

そんなガルマイン王国の国王がこの人、ダム王。

ドワーフは大雑把で大柄な性格をしているという偏見があったのだが、正直今のところこの人が一番理性的な雰囲気を漂わせている。

それもその筈、バズーサ王に続き、この人も他国に宝石やら魔鉱石やらを売り捌き国を豊かにしたやり手だ。


「だが、あの小僧は見る限り不安定だね。共にバルファスト魔王国を滅ぼしたとしても、ワシらが次の標的になる可能性も高い。まあ、それはどうでもいいかね。ワシらはいつも通り強い方に付くよ。獣人はそういう種族なのさ」


獣人と神秘の国、獣王国ビスタールの女王、アーミン・サヴァラン。

長い白髪の上に大きくモフモフの犬耳が付いた、厳格さのあるおばあちゃんだ。なのにその体系は、まるでモデルのようにスラっと引き締まっている。

獣王国ビスタール。様々な獣人が暮らし、カムクラの次に自然に覆われた国土を持つ、長い歴史のある国だ。

その為国の樹海には、嘗ての先人たちが築いた文明遺跡が数多く点在し、そういった意味で神秘の国とも呼ばれる。

また、武芸に秀でた強者が尊まれる、野性味あふれた文化があるビスタールでは、十年に一度、国を挙げた武闘大会が行われ、優勝者が次期国王となるそうな。

だがこの数十年、そんな伝統的な文化が衰退しつつある。

何故ならこのおばあちゃん、そんな武闘大会に五回連続で優勝し、五十年近く王座に君臨する化け物だから。

ちなみに御年七十五歳であり、最後の優勝となると三年前であるため、この人は七十二歳で武闘大会に優勝したという事。

勇者レイナの次に、もしくは同等の武力を個人で有していると噂され、人々から畏怖の念を向けられている生きる伝説だ。


「だが、合理的に考えれば、皆でアダマス教団に協力しバルファスト魔王国を滅ぼした方が、吾輩達の被害は少ないであろうし、今まで築いてきた関係も維持できる。それに、いつ爆発するか分からない危険な爆弾と言えど、扱いを間違わなければいいだけの話である」


最後にバッサリとそう言い切ったのは、白髪交じりの灰色髪にひげを蓄え、ユースのようなコスプレ的なものではなく、もっとクラシックな黒の軍服を身に纏った男。

オズワルド帝国皇帝、ハギルド・シルバ・オズワルド四世

オズワルド帝国。このファンタジー世界の中で、独自の軍事力と技術力を誇る異質な存在。

その中でも、嘗てオズワルド帝国に転移してきたイギリス人の発明家によって、魔道具や魔道機械の発展がすさまじい。

他国からは、百年後の未来を先取りしている国と呼ばれている。

そしてそんなオズワルド帝国の絶対的君主がこの人、ハギルド帝だ。

正直、この人の事前情報はまだよく分かっておらず、俺にとってはブラックボックスのような存在だ。


そして、バルファスト魔王国、フォルガント王国、カムクラを合わせた計七名の国の代表が集ったわけだが。

案の定、こちら側の味方をしてくれる国は、現状フォルガントとカムクラの二国のみ。

そりゃ、ロクに知りもしない、寧ろ悪評ばかりが出回ってる俺たちに付こうと思う国はないだろう。

だが、ロクに知りもしないというのなら、ユースも同じ。

ならば先に、より強固に、より確実に。

勝ち取って見せてやる、信頼を。


「さて、小僧。この絶望的な状況の中、貴殿は吾輩たちに何を見せてくれるのだ?」


そんな俺の心を見透かしたように、オズワルド帝が愉悦そうに口角を少しだけ上げた。

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