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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四二話 陥落は今日も一瞬だ!⑨


「正直、何処までが本当で何処までが嘘なのかは分からねえ。ただ、リーンから聞いたアイツの『神様の世界』って言葉と容姿、名前、そして決定的な価値観の相違……錦の死神、霊美兎と断定して間違いねえな」


一気に多くを語りすぎ、口内が乾いていた。

いや、それだけじゃないだろう。思い返すだけで恐怖で緊張していたのだ、俺は。


まるでお通夜みたいな暗い沈黙が流れる。

正直に言って、俺が異世界人だと暴露した時よりも、皆ショックを受けている。

そして俺はそれに結構なショックを受けていた。

だって一世一代の勇気を振り絞った正体明かしの衝撃を、一瞬にして塗り替えられたんだぜ? あの女のエピソードのみで。

まあでも、そうなってしまうのも仕方ないか……何せ、話の内容がアレじゃあな。


「日本では今でもアイツの捜索が行われてるだろうよ。事件から一年経っても尻尾も掴めねえから、もう死んだんじゃないかって説が強くなってたけど、まさか異世界に飛ばされてたなんてな。そりゃ、国が総出を上げて捜索しても見つからねえ訳だ」

「ねえ……何て言うかさ、自分で言うべき様な事じゃないんだけどさ……」


最早呆れの感情で肩を竦める俺に、ジータが怖ず怖ずと声を上げる。

その笑みは引きつっていて、微かに身体が震えていた。


「彼女、色んな意味でボク達とは次元が違うよね……?」

「私も思ったです。何と言うか……悪い意味でツッコミを入れられないです」


分かる。その言葉を、恐らくこの場の全員が思ったであろう。


「アレだな……例えるなら出る作品間違えてる類いの人だ」


この世界で出会ってきた、正直言って頭がぶっ飛んでる奴らは、ツッコミ所のあるような連中ばかりだった。

コメディにあるような『いやそれ~~~やないかいッ!』みたいなツッコミを入れる余地があった。

だがミタマミト……アイツのバックエピソードは、ガチすぎて面白おかしく誤魔化すことが出来ない。


「でも、そうだったのね……何か色々と腑に落ちたわ。ところでだけど、アンタなんでそんな有名人、名前言われるまで気付かなかったのよ? しゃしん? ってのが出回ってたんでしょ?」

「確かに出回ってたし、俺の周りにも見たって奴らは沢山居たけど……俺は見ないようにしてたんだよ」

「何で?」

「受験勉強の為にそういったSNS……まあ、写真を閲覧出来る媒体を遠ざけてたし、何より……誰が好き好んでそんなトラウマ確定な写真見たいと思うかよ!? 話によればマジモンの死体が写ってるんだぞ!? 怖くて見れねえよ!」

「理由が凄くお兄ちゃんっぽい……」

「前者よりも後者の理由が大半を占めているであろうな」

「そして今日、動いてるとは言え初めて人の死体を見ちゃったし……俺が頑張って遠ざけてた苦労は何だったんだよチクショー……!」


机に顔を突っ伏し額をグリグリ押し付けながらも、冷静に想い返す。

動いていたとは言え、初めて人間の死体を見た。だいぶショッキングな光景だった。

そしてリーンの元へ向かう道中、俺は死体を攻撃し足止めしようとし、それでも尚止まらなかったから……刀で死体をぶった斬った。

本気で人を斬った、本気で殺すつもりで斬り伏せた。

今でも鮮明に思い出せる、真っ二つになった身体、飛び散る血と臓物、虚ろな目……。


きっと正確に言えば、俺は人殺しでは無いのだろう。ただ、俺達が行ったのは文字通りの死体蹴り。見方によれば、人殺しよりも醜悪な行いだ。

冒険者の中にも、まだ気分が悪そうにしている奴らも居た。

なのに俺は、正直、そこまで具合が悪くなっていない。そこまで気にしていない。

一体、俺はどうしてしまったのだろうか……スレイブ王国の王族達が処刑された光景を見て、死生観がバグってしまったのだろうか。

そう思うと、やっぱり怖い。

それに……。


「何でアイツが村人を殺したかは分からん……ネット上では、元から気が触れていただの、実は村人達から不遇な扱いをされ続けていてその復讐をしただの、色んな噂が飛び交ってる」

「正直に申し上げてしまうと、そう受け取られても仕方ないとは思いますがね……」

「まあな。だた、アイツと直に話してみて分かったけど、アイツは『世間知らず』と『人間の死の価値観』を除けば、そこまでイカレ狂人って訳じゃないと思う……」


だが、人殺しは人殺しだ。

それでも何故彼女が村民を全員殺したのか、その理由は分からない。

悲しい過去があったのか、やっぱり元から狂ってたのか。

俺にも、村民にも、恐らくミト本人にも分からない。


「だが、攻めてくるってんなら、同郷人でも一切容赦しねえ。説得するとか分かり合うとか、そんな甘ったれた事言ってる暇はねえ。戦うしかねえんだ、アイツらと」


その言葉に、この場の全員が表情を引き締めた。

……ミト、お前は何で村人を殺し、アダマス教団に協力し、今度は俺達までも皆殺しに使用とするのか。

何でユースはそこまで正義に固執し、あんな大量の犠牲をも厭わないのか。

何故、お前らがアダマス教団に加担しているのか。

知りたい事は沢山ある、話したい事は沢山ある。

でもそれは全て、ボコボコにしてから聞き出してやる。






――今話し合うべき事は全て話し終えた。

そのまま雑談という訳にもいかないので、俺達は各自準備を開始した。

レイナ達もまだまだ自国での騒動の鎮静化がまだなのに、わざわざ呼び出してしまって申し訳ない。

それでも俺は、魔王軍四天王やリーンのように、アイツらにも知って欲しかったんだ、俺の正体を。


勇者一行とフォルガント王は会議が終わったらすぐに去っていた。

俺が異世界人だという事には『何か腑に落ちた気がする』と、特にそこまで驚いた様子じゃなかった。

レイナだけが、終始何か俺に言いたそうにしていたが、そのまま何も言わずに帰って行った。

大丈夫だレイナ、どうせ俺の事なんて忘れるぐらいの、もっと重要な話を先生から教えて貰えるさ。お前の母親の事について。

……いや、だとしたら何も大丈夫じゃないか。

レ、レイナ大丈夫かな……? ネガティブな方のショックは受けないとは思うけどな……。


それから俺はすぐさま冒険者ギルドに駆け込むと、会議で話し合った作戦内容、行動パターン、最悪の事態について冒険者達と共に摺り合わせを行い、とにかく戦力となり得る、助けと成り得る人達の元へ走り回った。

バルコニーでメガホン型の魔道具を片手に協力を仰ぐのも手だったが、何処に敵の目と耳が潜んでいるか分からないので、地道に行くことにした。

やっと一通りの伝達と協力要請が終わった時には、空がオレンジ色に染まっていた。

もう夕方か……と空を見上げた時、不意に腹の虫が鳴った。


「そういや、昼飯も何も食ってなかった……」


どれだけ緊急事態で切羽詰まってても、飯を食わないと死ぬ。

腹が減ってるなんて気持ちはどうでもいいのに、人間の身体は正直というか、呑気だよな。

そんな感想を抱いていると、不意に俺の背後から何かが飛び出した。その瞬間、香ばしい臭いが漂ってくる。


「流石にこれから呑気の料理とはいかんだろう。今夜はこれで済ますとしよう」

「露店で夕餉を大人買い、何だか贅沢な気がしますね」

「一応お貴族様よ2人とも……」

「お前ら……」


振り返ると、ソコには串肉やらパンやらがギッシリ詰まったバスケットを持った、レオン、ハイデル、ローズが立っていた。


「気が利くぅ~、ちょうど夕飯どうしようかって数秒前に気付いたばかり~」

「まあ、流石にアソコまで街中を走り回っておればな。まったく、わざわざ会いに行って頼みに行く貴様のスタンスは変わらんな」

「でも一気に纏めて作戦伝達は控えたかったんだよ。それに、下手すりゃ命に関わる事態だ、人様の命をそんな顎で使うような真似はしたかねえよ。串肉一本貰ーらい」

「あ、ズル~い! じゃあ私も一本」

「魔王城に着く前に無くなってしまいますよ、リムが待っているのに」


そのまま4人並んで、魔王城へ歩いて行く。

俺も魔力量が上がって、この場の全員が転移版を使えるにも関わらず、徒歩で帰路に着く。


「ってか、リムは留守番か?」

「ええ、何やら元気が無さそうでしたので」


…………多分、俺関連だろうな。

でも何で俺の正体を知って元気が無くなってしまったのかは分からない。正直、怖くて考えたくない。

だが、進まなくてはいけないのだ。コイツらも、何より俺も。


「……でさ、お前らって大体どの辺で察し付いてた?」

「……何の話だ」

「俺の正体、異世界人だって事」


痛いほど鼓動を繰り返す心臓を抑えながら、軽い調子で訊ねる。

するとレオンが、少し首を捻りながら。


「まあ、割と前だな。大体、ミドリがこの国に来た頃だ。貴様のミドリやカムクラに対する反応を見て、何となく察した」

「って事は、お前元々知ってたの? 日本って国の存在」

「いや、知らん。だが異世界人という存在が実在していた、という事は昔から知っていた。歴史を学んでいれば、一人か二人は出てきていたからな。だが我はこの国以外の世界を知らぬ、故に確証は持てなかった」

「私はもうちょっと前からね……ホラ、私以外のサキュバスって世界中で男性の精力を集め回ってるじゃない? だから世界中の色んな情報が管理者である私に入ってくるのよ。異世界人についての存在もそこから」


わ、割と皆察してたのね……。

そもそもこの三人、通称バルファストの三バカは、趣味嗜好や言動はバカではあるが勉強は出来るという、何やら矛盾している存在。

自分の部下だというのに末恐ろしい……。


「わ、私はその……今日初めて知りました」

「「「ええ……」」」


いや、一人居た。信頼と安定のおバカが居た。


「貴様も学はある方だろう……」

「た、確かに、異世界人の存在は知識としてはありました! でもまさか、自分の主がそれに該当するとは……!」

「普段のリョータちゃんの突飛な言動や考え方から気付かなかったの?」

「『凄い、私達とは全く違う考えをお持ちの御方です! 流石魔王様!』……としか思わず……」

「じゃあ何で会議の場で驚いた様子を見せなかった!? 割と衝撃的な事実だろ、今まで気付かなかったなら!」

「内心驚愕で固まって心臓がバクバクしておりました! でも、あの時皆さんが妙に憤っている中、自分勝手な質問をする訳にもいかないと……! それに続けざまにお話し頂いた魔王様の心情やミタマミトについての話を聞き、何も言えずに……」


…………。


「遂に……遂にハイデルが空気を読むことを覚えたぞ、お前ら……!」

「凄いわハイデルちゃん、ヘルファイアだけじゃなくて心もちゃんと成長していたのね……!」

「フッ、寧ろ遅いくらいだ。だがまあ、我も多少は嬉しく思うぞ」

「え、ええと…………そうです、私は日々成長しているのです!」


俺らの感激に対しハイデルは訳が分からないと首を傾げていたが、やがて理解を諦めたのかドヤ顔で胸を張った。

うん、やっぱりハイデルはこうでなくっちゃ。


「……で? まさか貴様は、我々が薄々察しているのを察し、ならば別に黙っていてもいいだろうと考えてた訳ではないよな?」

「いやいやいや! 流石にそんな事はねえよ!? ……さっき話したクソダセえ理由に嘘は無い、本心だ」


さっきまでの和やかな雰囲気が、少しピリつく。

ああ、やっぱり怒ってるよなぁ……自分でも、そんな理由で話して貰えなかったら、ふざけんなって思うもん。

何を言われるかと身構えていたら、ローズがため息交じりに言った。


「……そうね、確かに理由がダサいわ」

「ごぶっ」


とっても見事な言葉のストレートを腹にねじ込まれた。


「オマケに臆病で、割り切れれいなくて、情けない」

「へぶっ」


続けてレオンにフックを三発貰う。


「何より一番ショックなのは、内心少なからず、私達との出会いがただの夢であってくれと願ってた所ですね……」

「あぶあ……ッ!」


トドメにハイデルのアッパーを喰らい、俺は膝から崩れ落ちた。


「う、うう……」


否定出来ない、言い訳出来ない。

そうだ、俺は願っていたのだ。コイツらとの出会いが、夢であってくれと。全て嘘であってくれと。

そう思われた側としては、傷付くに決まっている。それは、俺が一番分かっていた筈だ。

ああ、怖くて顔を上げられない。今コイツらがどんな眼をして俺を見下しているのか、怖くてしょうがない。

そんな情けない俺の頭部、コツンと軽い衝撃が走る。


「だが同時に、貴様らしくて安心した」

「……え?」


顔を上げてみる。

夕日に照らされた三人は、まるで困った弟を眺めているような、そんな優しい眼差しをしていた。


「頭の中を覗かなくたって分かるわよ。リョータちゃんが正体を隠していても、今までずっと私達に裏表無く接してくれた事」

「ええ。魔王様が私達魔族と国を想い戦い続けてきた事も、同時に嘘ではありませんから」

「と、いう訳だ。だからさっさと立ち上がれ。我らが知っている魔王ツキシロリョータという男は、いつもウジウジしているがすぐに立ち上がって歩き出す。そういう奴だ。まさか、今までのそれが嘘だとは言わぬよな?」


…………。


「とーぜん」


俺がニヤリと笑って立ち上がると、三人は再び俺の前を歩き出した。

膝に付いた土埃を払うと、俺は追い掛けるように走り出す。

そして、同じように相変わらずな三人の背中に、俺は飛びついた。


「大好きだぜ、三馬鹿共っ」

「おわあっ、急に抱きついてくるな気色悪い!」

「はああッ!? 魔王様が私に今、大好きと……!?」

「こっちも反応が気色悪いわ!」

「っていうかリョータちゃん、もしかしなくても泣いてる?」

「おう、バリクソ泣いてる。だからローズ、胸貸して」

「泣いてるからってそんな易々と私の胸は貸せないわよ!? っていうか絶対純度100%のいやらしい気持ちでそう言ってるでしょ! よくないわよ!」

「サキュバスクイーンがいやらしさをよくないと言うか」

「フッ、ハハッ」

「何笑ってんのよハイデルちゃん!」


……取り敢えず、今はとっても腹が減った。

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