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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四一話 言質は今日も絶対だ!⑤

それから、ジルミーナさんは研究者の性なのか驚きも恥ずかしがらずもせず至極真面目に日本のエロ文化について考察を始めた。

ここ暫く下ネタトークをしていなかった為、大義名分を得たと調子に乗ってしまったが、このままではジータにバレて消し炭にされそうだったので、俺は話題を元に戻しジルミーナさんに自分の知っているありとあらゆるオタク知識を披露した。

自分の好きな事を語るのはやはり楽しいし、それに対して興味津々に聞いてくれる聞き手がいるのも嬉しい。

結局、帰る時間まで俺とジルミーナさんは館長室に籠もりっぱなしだった。

そして現在。


「ねえ待って!? 何で二人してそんな顔が艶々してるの!? この数時間の間に一体何があったの!?」


リムとジータに合流した際、俺と自分の母親の顔を見て娘がワナワナと震えていた。


「そういうお前だって艶々じゃん。というかリムが一番艶々じゃん」

「ここには私の知らない世界が宇宙よりも広がっていて……最高でした」

「そんなリムちゃんを眺めているのも最高だったよ」

「母親として一つ。目の前の女児より本を読みなさい」

「断る。じゃなくて! 二人はずっと館長室に籠もって何してたのさ!?」


恍惚とした笑みを浮かべているリムとロリコン。オイ母親の教えは聞いとけよ。

そして改めて俺とジルミーナさんの顔を交互に見てくる。

俺達は顔を見合わせると、フッと小さく笑いながら。


「いやぁ、ここ暫くずっと溜め込んでたものを吐き出せてスッキリしたよ。ホント、ジルミーナさんには感謝だな」

「ッ!?」

「この歳でまだ知らない世界があったとはね……本当に、魔王様のお陰で娯楽への視野が更に広まったよ」

「ッッ!?」

「えと……とにかく、お二人も満足してるみたいなので、良かったですね……?」

「良くないよッ!? 今ボクの人生において一番良くない事が起きている気がするんだ! 二人には失望したよ! 魔王君に至ってはリーンさんはおろかレイナまで居て……!」


敢えて際どいワードをチョイスする俺達にジータは一瞬灰になりかけるも、ハッと我に返ったように。


「いや待って待ちなよボク、そうだよ、これは絶対ボクの勘違いだよ、魔王君の意外な誠実さとヘタレっぷりは既に分かりきっていることじゃないか……」

「え? 何か言ったか?」

「君に限って聞き逃すなんて事は絶対無い! っていうか二人とも、分かってやってるでしょ!? 前半の方割と血の気引いたからね!?」

「わりーわりー、調子に乗った。ジルミーナさんとは共通の話題で盛り上がっただけだよ」

「でもこの話題の口火を切ったのはジータじゃないか。まったく、困った娘だよ」

「娘にとって最悪な冗談に乗っかってくるお母さんに言われたくないよ!」





――それから、グレンダ親子と別れた俺は、リムと共に少し日が傾いたフォルガント王国の城下町を散策していた。

ジルミーナさんに見繕って貰った本を買いに行くのだ。こういった買い物は早い内に済ませた方がいいからな。


「別に、転移版あるから先に帰ってても良かったんだぞ? いや、俺的にはリムと一緒に居られるのは嬉しいけど」

「だって転移版で帰ったら、お兄ちゃん魔力切れを起こしちゃうじゃないですか。その度にポーションで回復するのは勿体ないですよ」

「確かに、アレ俺の財布から買ってるからな……ありがとなー、俺に構ってくれて」

「別にそんなんじゃ……まあ、多少はそうですけど……ガッツポーズしないで下さい」


しょうがないじゃないか、ここ最近ずっとジータの奴がリムにベッタリだったんだから。

本当にリムをNTRされるんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだから。

でも、最後には俺を選んでくれる。それだけで俺は、シュートを決めたサッカー選手の如く膝からスライディングしてガッツポーズを取ってしまいそうになる。


「そういえば、お兄ちゃんは随分ジルミーナさんと楽しそうにしてましたよね。共通の話題があったと言ってましたが……」

「まあな。多分あの人はこれからも、俺の良き相談相手になってくれると思う」


ジルミーナさんと会話をしていると、本当に日本の知識量が凄すぎて、同郷人と会話しているような感覚になった。

だからなのか、ついつい自分の日本に関しての悩みや考え方を吐露してしまった。

それに対してもあの人は、ちゃんとした返答をくれた。それが嬉しかった。また何時でも話を聞かせて欲しいし、聞きに来てくれと言ってくれた。

それだけで、俺はかなり心が軽くなった。


「……私じゃ、駄目なんですか?」


ボソッと不機嫌そうに、リムは蚊の鳴くような声で呟いた。多分無意識的に。

そして俺がそれを、聞き逃すなんて事は無い。だが、俺はリムが気付いていないことを良い事に、気付かないフリをした。

……やがて、俺達は目的地の書店に辿り着いた。


「すぐに買ってくるから、リムは適当に待っててくれ」

「はい」


リムが店頭に置かれている新刊の棚に目をやっている間に、俺は書店員に話し掛け、メモを渡した。

しかもその店員が先程俺と一緒に修繕係に回されていた人だったので、感謝の言葉と共に、なんとタダで売ってくれるというのだ。

ジルミーナさん、書店側が格安にしてくれるだろうとは言っていたが、まさかこうなることを狙って……色々と侮れない人だ。


店員さんが店の奥に消えたのを見送り、さてついでに面白そうな本はないかと周囲を見渡していた時だった。

店の天窓に日が差し込み、それが一筋に光となって、ある一点を照らした。


「…………」


ソコには一人の少女が立っていた。

白だった。彼女を形容する全ての言葉が、白という言葉しか見当たらなかった。

腰まで伸びたその髪は、正しく絹のようだ。

白髪と言っても、ハイデルのように少しくすんでいる訳でも、フィアのようにほんのり金色がかっている訳でもない。本当に、染み一つ無い白だ。

日差しも相まって、彼女が光を放っているようにも見え、何だか幻想的に思えた。

そんな彼女は日差しに目を細めることはなく、ただボンヤリと真正面の本棚に目を向けていた。

そして、ウンと背を伸ばして一番上の棚に手を伸ばす。が、身長が足りず届かない。

それでも精一杯背を伸ばして取ろうとする様は、何だか子供っぽく思えた。


「あっ……」

「コレ?」


俺は横から手を伸ばすと、そのまま少女に差し出す。

透き通ったブラウンの瞳が、俺を見つめた。


「うん、ありがとう。優しいね」

「あー、でも、その……ねえ」

「? どうしたの?」


何故か唐突にしどろもどろになった俺に、少女が首を傾げる。

別に、美少女と話してガチガチに緊張してしまったという訳ではない。勿論、多少緊張はしているが、伊達に普段から美少女に囲まれてはいない。

ただ、俺が気になったのは……。


「本当に、この本で合ってる?」

「うん。他のと比べて背表紙が綺麗だったから、気になったんだ。内容は知らないけど」

「コレ、官能小説よ」


ソコには、『若葉(わかば)ろう』というタイトルと、デフォルメではあるが明らかにエッチな挿絵が描かれている。

しかし彼女は、もう一度首を傾げて。


「かんのう小説って、何?」

「おっとマジか」


見た目的に、俺とタメだと思っているが……まさか見た目だけでなく中身まで純白とは。

流石にこんな純白を汚してしまうのは気が引けるので、俺はそのまま本は渡さずに背中に回した。


「えっと、何か気になる本を捜している感じ?」

「うん。でも、本を自分で選んで買うってした事なかったから分かんなくって。いつも貰っていただけだったから」

「そっか」


厳しいお家だったのかしら。所謂お貴族様の温室育ち……って訳でもなさそうだ。

多分色々と複雑な家庭事情があるのだろう。


「ちなみに読みたいジャンルってある?」

「うーん、ジャンルとかはよく分からないけど……恋愛系? かなぁ?」

「なら、多分こっちの方かな。何だったら、何冊かオススメしてあげようか?」

「いいの? 本当に優しいね、君って」

「いやぁ、照れる」


このままじゃ知らない間にまたエッチな本を手に取ってしまいそうだったからな。

それに、まだ時間はあるだろう。意外と書店員が店の奥に入っていった時って、戻ってくるの遅いから。

早速、俺は彼女を恋愛小説の棚に案内すると、記憶の中にあったリムがオススメしてくれた本を何冊かパパッと見繕った。

と、同時に店員さんが俺の本も持って来てくれた。何でも、ついでにもう一冊入れてくれたらしい。


「じゃあ、俺はこれで」

「えっ、でもお礼……」

「いいのいいの。それに店頭で妹待たせてるから」

「そっか。本当にありがとう」

「うん、じゃあ」


それだけ言葉を交わして、俺は店を出た。

お互いに名前も知らず、出身も知らず。

自分でも、結構意味ありげな出会い方をしたのに随分アッサリと別れるな、とは思う。

だが、割とそんなもんだろう。


「ゴメン、お待たせ」

「遅かったですね」

「ちょっとな。さーて、帰ろっか」

「はい。そういえば、お兄ちゃんはどんな本を?」

「実はまだタイトル見てないんだ。福袋みたいなワクワク感を楽しみたくて」

「何を言っているんですかもう……」


と、俺はいつの間にかオレンジ色に染まった空の下を歩きながら、紙袋をガサガサと鳴らし、一冊ずつ取り出してみる。


「えっと、マイナーな英雄譚が何冊かと……おっ、帝国最大の偉人、発明家ローランド・ブラウンの伝記だ。ジルミーナさん、気が利くなぁ」

「うーん、一体ジルミーナさんは、お兄ちゃんの何を見てこれらを見繕ったんでしょう……?」


……もしかしてコレ全部、異世界人が関係してたり?


「それから……何だコレ?」


紙袋の奥に残っていた一冊を、俺はなんの疑問も無く取り出してみる。

そして、圧倒的な既視感があるその背表紙が、俺の目に飛び込んできた。


「…………お兄ちゃん……?」


それは正しく、先程俺が手に取っていた『若葉と蝋』であった。

あの店員さん……見てたのか? っていうか見てたとして、オマケにもう一冊でこの本入れるのか?

……チラとリムを見ると、恥じらいと怒りと夕焼けで顔を赤くさせ、コチラを睨みつけていた。


「んー……一応、故意じゃないしちゃんとした言い訳はあるんだけど……ま、いっか! エッチな本、ゲットだぜ!」

「良くないですよ!」

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