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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第十章 異邦人達のサマーウォーズ
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第四一話 言質は今日も絶対だ!②


「いきなりだけど魔王君、この前ボク達に何でもするって言ったよね?」


さて、所変わって喫茶店。

リムの隣の席争奪戦にジャンケンで制したジータがウキウキでアイスティーを一口呷り、開口一番に本当にいきなりな事を言ってきた。

その向かいの席でアイスコーヒーを口に運ぼうとした俺は硬直すると、そのままグラスに口を付けず、机に置く。

そしてそのまま自分も机に突っ伏した。


「時間差模範解答止めろぉ……」

「何でそんな落ち込むのさ? 君の大好きな何でもする、だよ?」

「それは俺がされる側であってする側の話じゃねえよ! っていうか確かに俺その返し多用してるけど、実際に誰かに何かやらせた事ねえじゃん!」


あれは、俺が王立学園に一週間だけ編入していた時。

誘拐事件の犯人である用務員さん、もといサーモスを捕らえるために、当時遠征討伐に向かっていた勇者一行を無理言ってその日の内に舞い戻らせた。

そしてその代わりに、俺が何でもすると言ってしまったのだが……まさか一ヶ月越しに模範解答を返されるとは思っていなかった。


「実は、ボク達勇者一行それぞれ、少し魔王君の手を借りたい用事があってね」

「四人それぞれ!? もうそれだけで嫌な予感がする! っていうか、何でわざわざ俺なんだよ!? この前グロい光景見せちゃった憂さ晴らしか!?」

「違うよ! ボクらそんな心狭い奴らだと思われているの!? ただ、それぞれの用事に器用な人が必要なだけだよ。実際、ボク達の知ってる中で一番器用で何でも熟せそうな人、魔王君しかいないんだ」


と、何処か期待の眼差しを向けてくるジータから視線を逸らし、そのままリムに移す。


「そ、そんなに器用か? 俺……」

「お兄ちゃんの器用さのステータス凄いじゃないですか。正直あのステータス値、冒険者じゃなくて物作り職人の方が適正高いですよ」

「ずっと昔にギルドカードを見せて貰った時も、他ステータスの酷さに眼が行っちゃったけど、思い返してみるとそう言えば高かったなって思い出してさ」

「酷い言うな。これでも頑張って平均以上に叩き上げたんだぞ」


懐かしい、確か初対面の時だったよな。

自分はお前らの脅威にはなりたくてもなれないって意味で、当時皆をドン引きさせた糞ステータスのギルドカードを勇者一行に見せつけたんだっけ。

結果案の定ドン引きされた。悲しかったぜ、あの時は。


「それと、手伝いの内容はそこまで酷いものじゃないよ。ちなみにボクの用件は、ウチの宮廷図書館の整理とか修繕とか手伝って欲しいってだけ。皆も大体そんな感じ」

「アレ? 本当に思ってたより酷くない……何でもって言ったから、本当に何でもさせられると思ってたけど」

「そりゃ、いくらボク達に無理させたからって、実際君がいなくちゃ誘拐された子達は助からなかった。それにボク達の代わりに全力で闘ってくれた。そんな相手に『ボク達をコキ使ったからそのお詫びをしろ!』なんて酷い事言わないさ」

「というか、元はと言えばコキ使ったのはお前らの方だと思うけどな」

「ま、まぁね。あと、今回の頼み事は君にとってもかなりお得な話だと思うんだ。ちゃんと報酬に色も付ける。どうだい?」

「報酬ねぇ……」


俺はその言葉を繰り返し、そのまま椅子の背もたれに体重を預ける。

その際、グラスの中の氷がカランと音を立てた。


「そもそもウチの国は金が無いわけだし、その分報酬で学校建設の費用を少しは補えるか……?」

「そ、そういう話になるなら私も手伝いますよ! 全部お兄ちゃんに任せるわけにもいきませんし」

「リムちゃんえらーい! いいこいいこしちゃうー!」

「や、止めて下さい! そもそも、偉いかどうかで言えばお兄ちゃんの方が偉いと思います!」

「いやーん、お兄ちゃん嬉しいー。いいこいいこしちゃ――」

「止めて下さい」

「…………」


再びマジトーンで制止された俺は、中途半端に浮かせた腰を再び椅子に落とし、そのまま一口グラスを呷った。


「……苦さが目に染みるぜ」

「さっきまでフツーに飲んでたクセに何言ってんのさ」

「ジータさんもいい加減にして下さい、髪がボサボサになっちゃいます」

「えー、名残惜しいなぁ」

「コイツ俺でさえも素直に引き下がったってのに……っていうか何? 何で最近になってリムへのベタベタが増えた? 俺の知らない所で何があった?」


何というか、本当にジータのスキンシップが増えた気がする。

それに対してリムも、面倒臭そうにしながらもそこまでの嫌悪感は出していない。


「べっつにー? 強いて言えば、君が一ヶ月気絶している間に、寂しがってるリムちゃんとたまに一緒にベッドに入ったりしただけだよ」

「は?」

「あ、あれは殆ど無理矢理じゃないですか!」

「でも魔法の話とかで盛り上がって楽しそうだったじゃん」

「それは……確かに楽しかったですけど」

「は?」


そんな会話を聞き、俺はただただ『は?』を繰り返すロボットと化した。

嘘だ……そんな……。

あの時……あの時リムは……毎晩俺の隣で寝ていたんじゃ、なかったのか……?


「あ、あああああ……! NTRだああああああ……ッ! 知らない間にリムがNTRてたあああああ……ッ! あああぁぁ……脳が、脳が破壊されるぅ……ッ!」


ショックを受けた俺は頭を抱えながら絶望の呻き声を上げるが、それを見たジータは一言。


「勝ったね」

「元々勝ち負けなんてないですよ! というかお兄ちゃん、その、ねとられ……? というのは何なんですか……?」

「多分まだリムちゃんは知らなくていい事だと思う」

「クソ……俺はなぁ……元々NTRは好きじゃねえんだよ……奪われた側の事を思うと心臓がキュッてなるんだよ……そして今正に俺の心臓がキュッてなってるんだよ……!」

「魔王君って何て言うか、地味にノーマルだよね。魔王なのに」

「うるせえ寝取った側は黙ってろ! 金髪ガングロのチャラ男野郎が!」

「ボクの身体的特徴と何一つ当てはまってないんだけど!? オマケに性別まで逆転してる!」

「あ、ゴメンナサイ二人がうるさくしちゃって……はい、ありがとうございます……」


俺とジータが怒鳴り合っている間に、リムが喫茶店のマスターに謝っている。

マスターは今は俺達しか客は居ないから大丈夫だとか言っているが、困り顔だったのでこれ以上怒鳴るのは止めた。


「話を戻すけど、ボク達の頼み事受けてくれる?」

「ジータ以外は前向きに考えよう」

「怒らないでよぉ……これでもボクの仕事、他と比べてだいぶ楽な方だと思うよ?」

「私も書庫のお手伝いなら出来そうですし……」


と、少しだけソワソワした様子でリムが言う。

リムは元々読書好きだから、宮廷図書館というワードが琴線に引っ掛かったのだろう。


「……時間余ったら何か読める?」

「禁書とかじゃなければね」

「なら行くか、リム」

「は、はい! ありがとうございます!」


俺の言葉に、リムはパアッと表情を明るくさせる。それは正しく、太陽の日を浴びた向日葵の如く。

ああ、やはり妹こそ至高である。

と、何故か俺の方を恨めしそうに睨みつけているジータが。


「クッ……なんて良いお兄ちゃん感を出すんだい……」

「伊達に孤児院でガキを相手してねえよ」

「それと同じ感覚で私の相手をするのは不本意です!」


何気に、俺は昔からちびっ子の相手が得意だったからなぁ。

そこら辺は経験の差って奴だ。


「フッ……寝取られたなら寝取り返すまでだ。という訳でリム、今晩はお兄ちゃんと一緒に寝よう!」

「い、嫌ですよ!?」

「よし、ちょっと泣いてくるわ」

「あああ、違いますゴメンナサイ言い方が悪かったです! ただ、暑い日に一緒に寝るのは流石にって事で……」


笑顔のまま腰を浮かせて席を立とうとする俺を、リムが必死に引き留めようとする。

うん、まあそうだよな。夏場に男と一緒の布団で寝たくないよな、普通。

自分じゃ分かんないかもだけど、俺汗臭いかもしれないしな。

などと自分に言い聞かせていると、この流れに便乗したジータが一言。


「そーだそーだー! 君はリムちゃんが隣で寝ていたときに大罪を犯したことを忘れているのかー!」

「ねえまだ擦るの!? まだそのネタを擦り続けるの!? アレから何ヶ月経ったと思ってるんだよ、本当に勘弁してよ頼むから許してよぉ……ッ!」

「な、何の事だが未だにちゃんと教えてくれないですけど……お兄ちゃんが割と本気で泣きそうになっているので止めて下さいね?」

「う、うん……流石にちょっと調子に乗りすぎたかも……ゴメンよ、魔王君」

「うおおおおおおおん……!」

「「泣いちゃった」」


……こうして、俺は暫く勇者一行の手伝いをすることになった。

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