エピローグ
――カタカタ、カタカタ。
何処かも分からない薄暗い空間の中、不思議な音が永遠と聞こえてくる。
その音は、数十秒間ずっと続いたと思いきや、ふと鳴り止む。
「あー……だりぃー……!」
そして一人の男のくたびれた声が、部屋に小さく響いた。
男は座っていた背もたれに全体重を預け、背もたれをギシギシと鳴らせながら伸びをする。
その黒目の下には大きな隈が浮かんでおり、不健康さが露わになっていた。
「全く、数体もあれば十分余裕なのに、なんで百体も発注してくるかな。まあ、あの人に言われちゃ仕方ないけど……こっちだって創るの簡単じゃないし、別の方にリソース割きたいんだけどなぁ……」
そんな独り言を呟き、元々ボサボサとしていた黒髪を掻きむしって更にボリュームを増やす。
あの人は、いくらなんでも欲張り過ぎなんじゃないだろうか。
確かにあの人には恩があるが、それとこれとは話が別だ。
そもそも、自分だってまだ目的を何も達成出来ていないのに……。
呻き声のような息を男がずっと吐き出しているその時、後方の方からガシュン、という機械的な音が鳴り、薄暗い部屋全体に外の光が差し込む。
眩しさに目をすぼめながら、顔を顰めて振り返ると、逆光の中一人の女が入ってきた。
その女は男の顔を見るや、気さくに片手を上げる。
「ヤッホー」
「チッ……」
「何ー、その調理場で飛んでる小バエを見るような眼」
「そんな小バエよりももっと不愉快なんだよ、君はさ。だから近寄るなよ」
「酷いなぁ」
女はそのまま男の横に並ぼうとするが、男は自分が座っている椅子を操作し、スライドさせて逃げる。
そんな男の行動に、女は野良猫のようだと思いながら肩を竦めた。
「準備は進んでる?」
「まあ……間に合うとは思うよ。後は全体の調整だけかな。でも、その前にどうしてもやらなきゃいけない事があるんだよ。ここに来てからの、おれの使命と言っても過言じゃない事だ」
「へー、何?」
「聞きたいなら教えてやるよ」
距離を取ったにも関わらず、男は女に向けて意気揚々と語り出す。
その瞬間は、曇った眼に光が灯っているようにも見える。
やがて、自分の使命を語り追えた後、女がパチパチと拍手をした。
「おー、それはいいね!」
「だろ? やっぱりこういうのは正義の為に使わなくちゃいけないんだ」
「じゃあ、それが終わったら残ったヤツを使わせてね?」
「……いいけど、ホント何て言うか……ぶっ壊れてるよな、君」
「何で? とっても素晴らしい事じゃない」
「うわぁ……」
混じりっけの無い純度100%の疑問に対し、男は鳥肌が立った。
噂には聞いていた。でも、本当にここまでヤバイ女だとは思わなかった。
いや……あの時点で、十分ヤバイか。
本当に、何であの人はおれと一緒にコイツを選んだんだろうな。
そんな疑問を抱きながら、男は大きくため息を溢す。
「……最悪だよ。何でおれ以外の同郷人はこんなイカレた奴ばっかりなんだ」
「イカレてる……何で?」
「自覚が無いからだよ、そんな風にね!」
利害が一致しているから今はこうしてあの人の下協力関係にあるけど、もし違ったのならすぐにでも粛清するべき対象だ。
まあ、それは全部終わってから、改めてだな。
男は心の中でそう呟きながら、元いた位置に戻る。
そしてデスクの上に置かれた大量のモニターを眺め、キーボードを操作し、最後にエンターキーを押した。
「よし、これでデータは完成。後はコレを元に、おれが創るだけだ」
「凄いねー。ウチ、こういう機械に触れたこと無いから、何が何だか全然分からないけど」
「……君、本当におれと同郷人? その歳でパソコンイジった事ないとか、ホントはこっちの世界の人間なんじゃないの?」
「違うよー。でも実際、ここで暮らしててあんまり違和感覚えないんだ」
「ド田舎民かよ……」
何て事無いように笑う女に、何度目になるか分からない恐怖と苛立ちを覚えながら、男は再びモニターに視線を戻す。
薄暗い部屋で、唯一照明の換わりになっているそのモニター達には、まるで何かの設計図のようなものが映し出されていた。
設計図だけを見ても、それが巨大な物だという事が分かる。
そして、そのモニター達の中の一つに、女性のようなシルエットが映し出されていた。
無機質な表情、無機質な服装。そして、両手両脚に取り付けられた、近未来的な重機の数々。
そしてそのモニターの右下には、大きくこう表示されていた。
《ガールズ・オートマトン・シリーズ――NO.100》
「おれが世直しするんだ、この腐った世界を、全部」
皆様、超絶お久しぶりです。陶山松風でございます。
コレをもちまして第九章『ワンウィーク・スクールデイズ』が終了致します……いや長えよ!?
この章始まったの去年の9月だぞ!? 今6月だぞ!? 進みが遅えんだよ!
……と、皆様も思っているでしょう。僕自身もそう思います。本当に申し訳ない。
あまりに陳腐な言い訳ですが、最近色々と忙しかったのです。
次の章はもっとスピーディーに進められるように頑張り……次の章この章より長えんだよなぁ……!
ですが皆様に愛想尽かされないように、頑張ります!(ヤケクソ)
さて、それでは今回も章の説明を致しましょう。
前半はカムクラでの激戦を終えてから、皆でワイワイ食事したり各々が心に秘めた不安や想いを吐露したりと、レギュラーメンバーの関係性が大きく動きましたね。
基本コメディなこの作品ですが、やはり登場人物が人である以上、不安は悩み事は必ずあります。
それらを取り除いたり和らげられるのは、同じく登場人物達でしか出来ないのです。
そして明かされる、レイナの母親が日本人だった事実。やっと出せたよこのネタ……!
今回のエピローグを見れば分かるとは思いますがここから先、この異世界と日本との結び付きがより強く濃くなっていきます。
それがリョータにとって、良い方に転ぶのか悪い方に転ぶのか……それは現時点で、誰にも分かりません。
そして後半は、なんとリョータとリーンが学生になっちゃう!? みたいな、要するに学園編というヤツです。
しかし普通の学園編とは行かず、何だか大変な事になってしまいましたね。
あの推理パートのトリック、実は殆ど書き進めながら即興で考えたものなので、推理小説好きにとってはちゃぶ台ひっくり返したくなるようなものかもしれませんが、どうかご自愛下さい。
そもそも何で学園編にしたかと言うと、純粋に書きたかったというのが半分、そして今後の展開に色々絡められる要素を出したかったというのが半分。
実はあの学園編、一見本編と外れていると思いきや、実は結構重要な伏線が散りばめられています。
なので皆様には今後の展開を楽しみつつ、時に振り返ってみて頂けたら幸いです。
さて、先程も申しましたように、次回の章は多分『魔界は今日も青空だ!』史上一番の大作になると思います。
その分、進行速度は遅くなってしまうとは思いますが……それでも、最後まで皆様を楽しませることが出来るように、引き続き頑張っていこうと思います。
なので是非皆様、評価などして頂けたら嬉しいです。感想や『~の好物って何?』みたいな質問があれば、ネタバレにならないものでしたら、公開してお答え致します。
是非今後とも、リョータ達の物語を見守っていて頂けると幸いです。
それでは、第十章のエピローグ、後書きでお会い致しましょう! ではでは!




