第六話 孤児院は今日もドタバタだ!②
「で、どうすんのよ?」
「それを今から考えるんだよ」
子供達を大広間に残したまま、俺とリーンとリムは台所で話し合っていた。
「ってか、何で台所? 話し合いするんだったらお前の部屋でよくな――」
「絶対嫌」
何故台所なのかと疑問に思いながら提案すると、リーンが即答した。
何でだろう、そこまで嫌がれるとスゲー気になってしまう。
「……まあいいや。とにかく、今俺達がやることは二つ。まずはフォルガント王国との交易材料になる物を探す。次にアイツらをどうするかだ」
「だけど、あの人達が納得するかどうか……」
「いや、別に納得はしなくてもいい」
「え?」
「無理に納得させても、それじゃ本当にアイツらの気持ちを汲んでやれないだろ。せめて、アイツらに向こうの人間は怖くないって分かって貰えればいいんだけどな……」
「…………」
唸るリムに俺が頭を掻きながら言うと、何故かリーンがジッとこちらを見てくる。
「んだよ」
「……別に。ただ、アンタもたまにはいいこと言うんだって」
「おっと~? 俺の事見直しちゃった? そうなの? なあなあ?」
「前言撤回、やっぱりぶっ殺そうかしら」
「悪かった悪かった!」
やっぱりコイツ、ツンデレのツンどころか殺意しか向けてこねえ!
「話戻すけど……まずは手始めとして、勇者一行にアイツらを会わせてみようと思うんだ。着ぐるみを着せて、おもちゃやら何やらを持たせてさ。で、慣れてきたらネタばらし」
「逆に怖がりませんか!? あの世界最強と謳われる勇者一行が着ぐるみを着て現れるとか!」
やっぱダメか。
確かに、そもそもアイツらが着ぐるみ着てくれるか分からないしな。
「とりあえず、もういっちょアイツらと話してみるか」
二人の冷たい目線を払うように手を扇ぐと、俺は大広間に向かった。
……しかし、どうも納得できない事がある。
それは、アイツらの親が人間に殺されたという前提だ。
あの勇者一行、最初は絶対裏があると疑っていたが、実際は全員いい奴らだった。
この国に乗り込んで来た時、冒険者達の命は取らなかったし、三日前も自分達のせいとは言え、俺達を守ってくれた。
そんな奴らがいる国が、本当にアイツらの親を殺したのだろうか。
……いや、少し考えすぎかもしれない。
決してレイナ達だけが戦ってたってわけじゃない。
きっと別の兵士とかが、コイツらの親を殺してしまったのだろう。
などと頭の中で色々考えながら、大広間のドアノブに手を掛け開けてみると。
「…………アレ?」
大広間にいたはずの子供達が一人残らず消えていた。
「そこで突っ立ってないでよ、邪魔だから……ああっ!」
「わととっ!?」
ポカンとその場に立ち尽くす俺の後ろからリーンが顔を除かせると、俺を突き飛ばして大広間に入っていった。
辺りをキョロキョロと見渡すリーンの背中を睨みつけていると、手元からカサッと軽い音が聞こえた。
「何だコレ? 紙?」
俺は手元に落ちていた紙を拾い上げて見てみると、何かメモらしき文字が書いてあった。
「リョータさん、何ですかそれ?」
「この字の汚さから、アイツらの字だな。えっと……」
横から紙を覗き込むリムにそう答えると、俺は文字をジッと見つめる。
この世界の文字が意外と単純だったという事もあるが、やはりリムの教え方がよかったため、二週間という短い期間ですぐにマスターできた。
ありがとうリム先生! あと、教えるときに眼鏡掛けたらきっと萌えてたと思うよ!
なんて思いながら、俺は書いてある文字を読み上げた。
「『ここで大人しく待ってると思ってたのか? ま、どうせすぐには見つからないと思うけどな。捕まえれるもんなら捕まえてみろバーカ!』だってよ。おいママ、子供達に舐められてんじゃねえぞママ!」
「ママって言うなッ!」
――ほっぺが痛いです。
馬鹿にしすぎた為リーンに引っぱたかれた右頬を抑えながら、俺は街中を走っていた。
「まったくもう、あの子達ったら!」
「また悪さしていないといいんですけど……」
その前を、こめかみを抑えているリーンと、ため息をつくリムが走っている。
はあ……アイツらよりも俺のほっぺが痛てえよぉ、奥歯がガタガタするよぉ……!
この前ゴブリン何匹か倒したからレベルが1から3に上がったが、リーンはそれを遙かに超えるレベル60。
少し手加減してくれたとはいえ、俺は大広間の端までぶっ飛ばされた。
むしろそれで生きてるって俺スゲえ!
なんて自画自賛してる場合でもないか。
こう無策に走り回っても、置き手紙に書いてあったように見つかりやしない。
ならば――!
「ちょっと待て!」
「何よ、こんな時に!」
「いいから、なあそこのおっちゃん」
俺は立ち止まり振り向くリーンには気にも止めず、たまたま近くの街頭の修理をしていた工事のおっちゃんに話し掛けた。
「んん? って、魔王様じゃないか。どうしたんです?」
「そのはしご少し貸してくんねえか?」
「え? いいですけど……一体どうして?」
「大したことじゃないさ。ちょっと借りるぜー!」
俺はおっちゃんから近くに置いてあったはしごを借りると、近くの民家の壁に立て掛け、慎重に登っていく。
「あんた一体何やってんのよ!?」
「うっせー! 黙ってそこで待ってろ!」
下でギャイギャイ言ってくるリーンに、屋根に登った俺は覗き込むように怒鳴る。
俺は屋根のてっぺんによじ登ると、落ちないように気を付けながら跨がる。
そして――。
「『千里眼』ッ! プラス『透視眼』ッ!」
俺は魔眼の力を発動させた。
さて、俺の唯一の取り柄と言っても過言では無い魔神眼について、少しご説明しよう。
まずおさらいとして、この俺の魔神眼は全ての魔眼の力が使えるというバカみたいなチート能力だが、俺の魔力が少ないせいであまり強力なのは使えない。
俺が使えるのは、せいぜい自分の眼が良くなる程度の魔眼だ。
その中でも、今発動している千里眼と透視眼はあまり魔力を食わない。
千里眼は遠くの景色もクッキリ見える。それはもう、この国の外壁の端から向こうの外壁まで。クッキリと。
透視眼は俺が毎日セクハラに使おうと頑張って練習している能力。
調整に難しく、今街ゆく人が全員骸骨に見えるが、これで建物などの障害物は関係ない。
この二つの魔眼を同時発動させることによって、アイツらがどこにいるのか正確に分かると言うことだ。
「……いた!」
しばらく辺りを見渡していた俺は、子供達らしき骸骨を見つけた。
「リーン、リム、見つけたぞ!」
俺は下にいる二人の骸骨……ではなく、リーンとリムに叫んだ。
「もう見つけたんですか!?」
「ああ、また屋台街で屋台の果物盗もうとしてる……いや、ちょっと待て、何かさっきと人数が少ないような……」
さっき大広間にいたのはせいぜい二十人。
しかし、俺が見つけたのは六、七人しかいない。
と、いうことは、単純に計算して……。
そう考えながら、俺はもう一度グルッと周囲を見渡す。
「おい、アイツら三つのグループに分かれて行動してるぞ! あっちで外壁に落書きしてて、こっちで……またレオンがボコられてるぞ! これでもう三度目じゃねえか!」
俺ははしごから出来るだけ早く下りると、リーンとリムに。
「リーンは屋台街にいる奴ら、リムは外壁にいる奴らの所に行ってくれ! 俺はレオンの所に行く! おっちゃん、はしごありがとー!」
それだけ言うと、俺は振り返らずに走って行った。




