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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第九章 ワンウィーク・スクールデイズ
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第四十話 推理は今日も切願だ!⑫


「ここで終わらせる、ね……成程」


追い詰められた筈の犯人は、警戒しながらも納得したように何度も頷く。

それに対し俺は、ある物を握り締めながら応える。


「ちなみにちゃんと学園長に許可貰ったぜ」

「あの人も随分と大胆なもんだな……まあ娘取り返す為ならやるか。それに、ここは取り壊し予定の研究棟……いくら被害に遭っても問題ねえってか?」


そう、ここは学園の東に位置する研究棟の一つ。

元は攻撃魔法学の研究棟だったが、攻撃魔法を研究する場所だけあって至る所に穴が空いている。

その為建物の耐久度に限界が来ており、取り壊して再建設する予定だったのだ。

だからここはいくら壊れてしまっても問題ない。


「だとしても、一体何企んでんだか……ていうか、ホントに効果あるもんなのか?」

「何で自分が倒される作戦の心配してるんだよ、Mかよ」

「違えよバーカ、ただの興味本位だ。ま、意味無いと思うけどな」


そう言ってヘラヘラ笑ってみせるリーダー。随分と余裕層に見える。

だが、ここにコイツが入ってきたって事は少なくとも、あの三人から逃げてきたという事。

撤退の判断が出来た。それはコイツが自分のユニークスキルの強力さに慢心してはいない事に他ならない。

こういう奴が一番厄介だ。一見余裕そうに振る舞っていても、完全にコチラを警戒している。

これでは隙も何も付けやしない。


でも、そういう奴だと分かっていたから、俺はこの作戦を立てた。

そしてちゃんと三人から逃げてきて、あの場から一番近く、隠れるのに丁度良いここまで辿り着いた。

そして、コイツがここに入ってきた時点で、既に作戦の大部分は終了した。


「ハイ、コレなーんだ?」

「あ? 何だそりゃ?」


俺が徐にリーダーに見せつけたソレは、一見何の変哲も無い植木鉢。

その中心には、針の無いサボテンのような植物が生えている。


「なんか、生物学の研究棟で見た事あるような…………タンク草か?」

「正解、10ポイント獲得」

「要らねえよ。ってかそんなもんで何を…………いや、お前……」


ここで、リーダーは俺の作戦に気付いた。気付いてしまった。

徐々に真顔になっていくリーダーに、俺はニヤリと笑いながら。


「ちなみにこの研究棟の至る所に、後一滴水を落としたら破裂する程パンパンに詰まったタンク草が大量に置いてある」

「…………マジか」

「そんじゃ早速――」

「あっ、止め……!」

「『アクア・ブレス』」


俺はリーダーが駆け出そうとしたその瞬間、持っていたタンク草に水を注いだ。

その刹那、タンク草からミチミチと内側から押し付けられるような音が聞こえ。


「あぶっふ!?」


盛大に破裂した。そして俺の顔面にその破片がぶつかった。

痛がっている暇も無く、手元から大樽一杯分の水が流れ出し、研究室を満たしていく。

だが、それだけでは留まらない。

そのタンク草から溢れ出した水が、別のタンク草に降りかかり、再び破裂。そしてまた別のタンク草が破裂。

その繰り返しで水かさがドンドン増していき、ものの十秒でこの研究棟内は天井に届くまで水に満たされた。


「何がしてえんだ、お前さんは……!」


顔だけ水面に出しているリーダーは、そう吐き捨てると水中に消えていった。


「ラウンド2は、水中戦だコノヤロー……!」


そして俺も、目一杯息を吸い込んでから続いて水中の中へ潜っていく。

研究棟にはもう、空気が入るスペースなんて無くなっていた。





――これは、俺が一人鼻歌交じりに学園中の蝶番を外していた時の事。


『もしもーし、魔王くーん?』

「うおう!? ビックリした……ジータか?」

『そんな驚かなくてもいいじゃん、慣れたもんでしょ』


突如、頭の中に馴染みのある感覚と声が響いた。

ジータが通信魔法を使い、遠くから直接脳内に声を届けているのだ。


「いや慣れねえよこの感覚……で、向こうの様子はどうだ? 椿油粕効果抜群だろ?」

『うん……その、効果抜群過ぎてちょっと凄い事になってるっていうか……目前にウネウネしてるミミズの山が出来てるっていう気持ち悪い光景が広がってて……うぷっ』


ジータの声音からして、結構ガチで吐きそうになっているっぽい。

流石じいちゃんの知恵袋。ちなみにじいちゃんの知恵袋には基本イタズラに役に立つものしか入ってない。っておいジジイお茶目かよ。


『ちなみにフィアが早速ダウンしたよ。『レ、レオンにこんな私を見せられないですぅ……!』とか言って蹲って……たった今エルゼもダウンしたね』

「効率重視し過ぎて別の被害が出ちまってる……」

『まったくだよ! 凄く効率良いけどボク達のメンタルの削れる速度が尋常じゃない! 魔王君、お詫びに何でもするって言ったんだってね!? 色々事態が収まったら覚悟してよ!?』

「……うっす」


どうしよう、前言撤回したい。

レイナはまだしも、他三人が何を要求してくるか分かったもんじゃない。


『じゃ、話が逸れたけど本題に行こう。魔王君、午後になるまでに犯人を捕まえる作戦考えるって言ってたらしいね?』

「ああ、取りあえずな。まだ粗削りだから、何かあったら遠慮無く言って欲しい」


俺は取り外した蝶番とネジを床に置き、次のドアへと移りながら。


「まず、犯人をどうやって捕まえるかだけど……普通に考えたら無理だろ?」

『温度操作なんて単純かつ強力なユニークスキルだからね……魔王君はどうするんだい?』

「それなんだけどさ……結論から言うと、水攻めにする」

『水攻め!?』


そんな原始的かつ非現実的な作戦に、ジータの驚く声が脳内に響く。

耳元で叫ばれているような感覚がするので止めてほしい。耳塞いでも効果が無いんだ。


『でも、一体何でそんな方法を? そもそも出来るのそんな事? っていうか温度変化のユニークスキルに水攻めは悪手なんじゃない?』

「そこは順序を追って説明していくけど……その前に一つ確認があるんだ。フィアのグレイス・ウォールってさ、最大どれぐらい大きく出来る? 欲を言えば一軒家ほどの大きさにまで」」

『ちょっと待ってて……ねえフィアー、魔王君がさー』


うっすらとフィアの返答が聞こえてくる。通信魔法なのにまるっきり電話みたいだな。

そんなどこか懐かしいやり取りを聞いていると。


『そこまでデカいのは無理だって。そもそもグレイス・ウォールに限った話じゃないけど、結界ってのは面積を増やすのに結構技術が要るんだよね。例えるなら、骨組み無しにレンガを積み立てて家を作る、みたいな』

「じゃあ、その骨組みさえあればいけるか?」

『というと?』

「実はさ、丁度学園に取り壊し予定の研究室があるんだよ。穴はボコボコ空いてるけど、結界の土台としては十分じゃない?」

『ううーん……まあ、出来なくもない、かな? 時間は掛かると思うけど』

「十分だ。あと、ジータにも頼みがあってさ……」


そうやって、俺は順を追って作戦内容を伝える。

時折ジータの質問も入るが、矛盾点や不可能だという声は上がらなかった。


「まとめると、まずお前らが学園に着くまで俺が足止めする。そんで着いたらお前はフィアとリーンと一緒に東の研究棟へ向かってくれ。その間俺は足止めをレイナにバトンタッチして研究棟の中に入る。その際リーンには準備が出来たって伝言役とレイナの助太刀を、エルゼには犯人が逃げた時待ち伏せして、逃走ルートを狭める役を。フィアは俺に耐熱とかの強化魔法を掛け、犯人が研究棟の中に逃げ込んだのを見計らってグレイス・ウォールで建物ごと閉じ込める。その後は全部俺がやる」

『成程ねぇ……水攻めにタンク草を使うって発想は凄いって言うかえげつないっていうか……普通に新しい軍略として採用されそう。魔王君ってその気になれば歴代で一番世界を脅かす魔王になるんじゃないかな?』

「お褒めの言葉なんだろうけどスゲー反応に困る」

『でも本当に上手く行くのかな? だって、不確定要素の賭けも沢山あるよ?』


そうだ。ジータの言う通り、絶対上手く行く作戦って訳じゃない。

犯人が学校の設備に慣れ親しんだ用務員だからこそ、東の研究棟という穴場に逃げ込むだろうというのは、俺の勝手な妄想に近い。

何より、それまでの過程が上手く行ったとて、水中戦に持ち込めば100パーセント勝てる保証もない。


「でも被害抑えられる可能性0よりかは良いだろ。それに、行き当たりばったりじゃないってだけで結構前向きになれるもんだぜ」

『……そうだね、うん。じゃ、この作戦内容皆に伝えて、ちゃちゃっと討伐終わらせるよ!』

「おう、待ってるぜ!」


以降、ジータの声は聞こえなくなった。通信魔法を終わらせたんだろう。

俺は止まっていた手を再び動かし、ネジを回す。

大丈夫、行ける筈だ。それにもし俺がミスっても、皆が何とかしてくれる。

それだけで十分だ。

……ま、勿論勝つ気まんまんだけどね。





――研究棟の壁に空いた穴から、辛うじてオレンジ色の外の灯りが入ってきている。

それでも、フィアがグレイス・ウォールを張ってくれているお陰で、水漏れの心配は無い。

この研究棟は、今や完全に水槽と化していた。


「…………」


水中に入る前、目一杯息を吸い込んだ為、息にはまだ余裕がある。

フィアには色々支援魔法を掛けて貰ったが、流石に水中呼吸なんて都合の良い魔法は存在しなかった。

だが問題ない、俺はガキの頃から夏になると渓流で泳ぎまくっていた。そこらの一般人寄りかは肺活量も水泳能力もある。

ま、それ以前の問題はあるけど。


「ばばばぼ(馬鹿がよ)……」


俺の目の前にプカプカ浮いているリーダーが、何かを言ってから正面に手を翳した。

そう、ここは水中。温度を操るコイツにとってはホームグラウンドも良いとこだ。

このままでは、この水全部を沸騰させられるか冷凍させられる。向こうからしてみれば、勝手に危機的状況を作り出した馬鹿だろう。

ああそうさ、自分でもそう思う。

でも、沸騰か冷凍……どちらかの二択なら、俺が一つに選ばせてやるよ!


「『ぼぶばい(黒雷)ッ!』」

「ッ!? ガアァアッ!?」


リーダーがユニークスキルを発動する前に、俺は全身から黒雷を放つ。

黒い稲妻は大量の水を通じて、リーダーに襲い掛かる。

やっとダメージを与えられた。だが、こんなんじゃコイツは倒れないと、俺が一番よく知ってる。


「ぐっ……!」


顔を顰めながらも、なんとか能力を発動しようとするリーダー。

だがその瞬間、何かに気付いたように周囲を見渡した。

水中特有の独特な静寂の中に、ボコボコと泡が弾けるような音が聞こえてくる。


「あぶ(熱)……ッ!?」


そして、リーダーは黒雷以外の要因で更に表情を歪ませた。

そう、俺の黒雷がこの大量の水を沸騰させているのだ。

俺にはフィアの耐熱の支援魔法が掛かっている、100度ぐらいの熱湯なら堪えられるんだよ!

だが、お前はユニークスキルを使っていなきゃ茹でられる。だからお前が取る選択肢は……。


「……ッ!」

「ぶべべ(冷て)……ッ!?」


先程まで沸騰していた水は一気に氷水のように冷たくなる。

コイツが水を冷凍しようとしてるんだ。

だが俺も負けずと黒雷の出力を上げ、再び水温を上げる。


「「……ッ!!」」


……正直これが一番の賭けだった。お前のユニークスキルの全容を知っていた訳じゃないから。

もし本当に、自由自在に温度を操るユニークスキルだったら、俺は今死んでいた。

でも、どんなに最強に見える能力にだって弱点はある。ほんの些細な不確定要素から、俺はそう推理した。いや、願った。

結果、俺の切願は可能性へと、そして確信へと変わった。

先程の戦いの中でお前は氷柱の剣を作り出した際、何故かソレを一旦地面に突き刺したり、そのまま溶かしてしまった時があった。

それはお前が物理的な攻撃やダメージを熱で溶かして無効化していた時だ。

その事から結論に至った。

お前は、《《冷凍と加熱を同時には行えない》》。

必ず、どちらか片方に切り替えなきゃいけないんだ。だからこそ今この瞬間、お前は水温を下げることしか出来ない。

もしコイツが両方とも使えていたら、俺だけ熱々に茹でられて終いだった。


俺が黒雷を水中に放電させ、熱々に沸騰させる。

それに対しお前は自分を守るため、必然的に冷凍を選ばなければならない。

加熱と冷凍の押し付け合い、もしくはユニークスキルの綱引きだ。

勝敗が決する瞬間は、双方どちらかの魔力が切れた時……。


「ごばべ(おまえ)……ッ!?」


普通ならな!

残念ながら俺は魔力量に自信はねえ。そもそも俺の狙いはこの押し付け合いじゃねえ!

ユニークスキルを使わざるおえない状況に持ち込む事によって、実質お前のユニークスキルを封じ込めた!

今この瞬間、お互いに武器も使えない、魔法もスキルも使えない。

なら、残っているものはたった一つだけ!


「ばぶびばびばぁ(殴り合いじゃあ)ッ!」


己の四肢だけだ!


「ゴボッ……!」


放電したまま水中を泳ぎリーダーまで近付くと、その顔面に拳を叩き込んだ。

当たった……けど、水中だから威力が乗らねえ……!


「ごぼばぼ(コノヤロ)……ッ!」

「ゲボッ……!?」


でも痛い、普通に痛い……!

今度は俺が顔面を殴られ、後ろに仰け反る。

だがすぐに体制を立て直すと、もう一発ぶん殴る。

水中でのステゴロ勝負。端から見ればゆっくりに見えて実に滑稽だろう。

だが、俺とコイツはガチの殴り合いをしている。

アルコールの味に紛れて、ほのかに血の味もしてきた。

あと、息も続かなくなってきた……!


クッソ……このまま一気に黒雷を放出するか?

いや、駄目だ。元々この水槽から脱出する際に、ヘルズ・ゲートを利用しようと考えていた。

もしここで魔力を消費し過ぎたら、出られなくなる……!

だが、息が続かないのは向こうも同じようだ。段々と、顔色が悪くなっている。

それだけじゃない。黒雷そのものの、感電によるダメージが蓄積されているんだ。

このまま……このまま、行けば……!


「……ッ!?」


突然、リーダーが俺の手首を掴んだ。

そのまま離さないとばかりに、力一杯に握り締める。

な、何が狙いだ……って、熱ッ!?


その瞬間、今まで普通だった水温が急激に上がり、周囲360度前方から沸騰する音が聞こえてくる。

支援魔法が掛かっているにも関わらず肌を焼かられような感覚。

そして、リーダーが眉間に皺を寄せながらもニヤリと笑って。


「ぼーべばば、ばべびびぼぶべ(どーでなら、派手に死のうぜ)ッ!」


まさかコイツ、冷凍から加熱に切り替えた!?

コイツは、ほんっとうに……!


「ぼぶぶばぼぼばぼー(勝負だコノヤロー)ッ!」


――その瞬間、研究棟が爆発した。

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