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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第九章 ワンウィーク・スクールデイズ
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第四十話 推理は今日も切願だ!⑧

夕日が傾いて、空に鮮やかなグラデーションが浮かび上がってきた頃。

俺は一人、いつものパーカーを身に纏い学園の校舎を歩いていた。

パーカーのポケットに右手を突っ込んで、もう片方の手にブラブラとある物を持って。


今日が学園生活五日目になる筈だった。

二冊目に突入したメモ帳を携え、もっともっとこの世界の教育機関を調べる筈だった。

なのに……見ろ、俺のメモ帳を。

半分以上が学園の事じゃなく、今回の誘拐事件の調査内容で埋め尽くされている。

何故こんな事になってしまったのか……いやまあ、それを分かっていて今回の案件を受け入れた訳だが。もう猶予が無いのだ。

だからバルファスト魔王国の為にも、残りの二日間で巻き返すべく、俺は。

何より学友の為にも、俺は。

誘拐事件の真犯人を暴く。


「あっ、こんにちは、お疲れ様です」


ここは四階の会議室、全ての事件の始まりとなった場所。

そこに、一人の人物が居た。

その人物は俺の顔を見ると一瞬顔を顰めるも会釈し、再び今まで行っていたであろう作業を再開する。


「ああ、服装ですか? コイツが俺の普段着なんです。流石に借り物を汚すわけにもいかないので。っていうか、どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも、見てくれ。誰だか分からんが、この会議室の扉の蝶番を誰かが外しちまったんだ。ったく、何で蝶番なんて……」

「大変でしたね?」

「それだけじゃねえよ……この学園の校舎全部の蝶番が外されてたんだよ! 何でだよ、ばっかじゃねえのか!? 俺への嫌がらせか!? そのせいで折角休めると思ってたのに、学園に駆り出されて一日中ドアの隙間と睨めっこだ!」


その人物はブツクサとその蝶番を外した人物に対して怒りを向ける。

本音でそう思っているのだろう、ドライバーを握り締める手が震えている。


「いやぁ、お疲れ様です。疲れたでしょう?」

「おお、分かってくれるか?」


共感してくれて嬉しいよと言わんばかりに笑顔を向けるその人物に、俺も笑顔で言い放った。


「だってそれ、全部俺がやったんですもん」

「…………はぁ?」

「大変でしたよ、学園中の蝶番外すの」


そう、犯人は俺である。学園中の蝶番を外すなんて頭の可笑しい事をした犯人は、俺である。

一瞬ポカンとしていたその人物は、我に返ると勢い良く立ち上がる。


「お前だったのか!? ふっざけんな!? 何でこんな真似をしやがった!?」

「学園長から許可は取りました。スッゲエ何とも言えない絶妙な顔してましたけど」

「そりゃするわ! いや、何で学園長がこんな頭の可笑しい許可を出す!? 一体なんの意味があるんだよ!?」


激昂するその人物に、俺は笑顔を絶やさぬまま応えた。


「だって逃げられたら困るじゃないですか。だから無理矢理あなたを学園内に留めようとしたんですよ」


その言葉に、その人物は。

この学園の用務員さんは、徐に顔を上げた。


「用務員さん。この学園に潜み、フィーネさんとマシュアを連れ去った犯人達……そのリーダーはアンタだ」


用務員さんは一瞬キョトンとしながらも、帽子を脱いでツルピカの頭部をタオルで拭いながら苦笑した。


「なーに言ってんだよ。俺が犯人だってのか? オイオイ、冗談キツい……」

「疑い始めたのは、アンタが異変に気付いたって俺達の前に現れたときだ」


そんな用務員さんの話を遮り、俺は矢継ぎ早に話し続ける。


「アンタは正門から見て西側の塀からここまで来たみたいだったけど、それだとおかしいんだよ」

「おかしい? 何がだ?」

「アンタが警察呼ぶって俺達の前から去った後、入れ違いで実行委員会の生徒達が現れた。でもアイツらは、アンタが走り去っていく姿を見て何がどうなっているのか分からないと言っていた」

「そりゃ、俺だって分からねえよ。何があったかなんて……」

「いや違う、ニュアンスの問題だ。アイツらはアンタを含めた俺達が何故アソコにいて、何故アンタが慌てた様子で走り去っていったのか分からないって言ってたんだよ。おかしいじゃないか、同じ方向から北西の角まで来たのに、生徒達はアンタがソコへ向かう姿が見えなかったなんて。ちなみにちゃんと本人達から聞いた話だぜ」

「そんなの、たまたますれ違わなかっただけだろ……」


呆れたようにちょび髭をイジる用務員さんに、俺は会議室の奥に向かって進みながら。


「アンタが俺達の前に現れてから走り去るまで大体四十秒。その入れ違いで生徒達が来た。西側から来たって事は、アンタ達は正面玄関から出て来たって事になる。東側からグルッと回り込むのはまず不可能。遠回りする意味が分からないし俺とバイスが研究棟の両サイド見張ってたからな。アンタが窓から飛び降りたとしても、当時学園の窓はマシュア達が居た教室しか開いていなかった」


だから用務員さんがどう言い返そうが、実行委員の生徒達と同じルートを辿っていく事になる。


「正面玄関から北西の壁まで、全力疾走で向かっても精々二分ぐらい掛かっちまう。学園の敷地が広大なせいでな。だからタイミング的に、生徒達がアンタが北西の角へ向かっている姿を見ない事はあり得ないんだよ」

「そ、そんなの証拠にもならねえだろ! 第一、薄暗くてよく見えなかったとか、そういう理由もあるはずだ!」

「だな、全く証拠にもなんねえ。でも俺はその違和感からアンタを疑い始めた」


俺は一切用務員さんから視線を離さずに、言葉を紡ぐ。


「でも俺の仮説が正しかったとして、俺達が挟み撃ちしながら追っていた犯人はどうやって消えたのか。それは非常に単純だ。学園の北西の角から一番近い生物学の研究棟の中に隠れてやり過ごしたんだよ」

「研究棟の中に……?」


そう、あの時あの瞬間。

リーンに追い掛けられていた犯人は、俺達が回り込んできているのを察知し、咄嗟に生物学の研究棟の中に隠れていたのだ。


「犯人は生物学の研究棟の鍵を開け中に身を潜む。その間纏っていた黒装束からその用務員の格好にアイドルよろしく早着替えし、静かに外に出て鍵を閉め直し、タイミングを見計らってヒョッコリと姿を現す。あたかも西側から走った感じを装ってな。実際に俺はアンタが校舎裏から走ってくる姿は見えなかった」

「おいおい、待ってくれ! 鍵を開けた? どうやって? 確かに俺はこの学園の鍵を持っているが、正面玄関や用務室のものだけだ! 研究棟や学園長の娘が攫われたっつう会議室の鍵は持っていない! 証人だっている!」

「そう、そこなんだよ肝は。犯人はどうやって鍵を開けたり閉めたりした? ピッキングなら開けるのは出来ても閉め直すことは出来ないし時間が掛かる。だから俺達はあの時咄嗟に、犯人が研究棟の中に隠れているって考えに至らなかった」


でもよくよく思い出してみれば、あの状況で咄嗟に身を隠すのはその手しかない。

だが、犯人はどうやって鍵を開けた? その答えは即ち。


「つまり犯人は、鍵を作り出したんだ」

「鍵を作り出す……? そんな咄嗟に、一体どうやって?」

「とぼけちゃって……それより用務員さん、さっきっから視線がチラチラ俺の左手に向いてるけど……何か気になる?」

「いや気になるだろ……何でやかん何か持ってるんだよ?」


そう、俺が今まで左手にぶら下げていたのはやかんである。

しかも熱々に熱してあるお湯がたっぷり入り、もくもくと注ぎ口から湯気が立っているヤツ。


「その答えは、コレだ食らえボケゴラッ!!」

「ッ!?」


そしてそのやかんを、全力で用務員さんに投げ付けた。

用務員さんは目を見開き、何とか回避しようとするが間に合わない。

そのまま条件反射でやかんをキャッチしてしまい、中身の熱湯が用務員さんに降り注ぐ。

間違いなく普通の人なら火傷する筈だ。そう、普通の人なら。


「…………」


だが用務員さんは熱がる様子も無く、ただ固まっていた。

熱々に熱したやかんを両掌で抱えながら。

だがそのやかんにも熱湯にも、湯気は立っていなかった。

考えが当たってくれなかったらマジで殺人未遂だったなと内心肝を冷やしながら、俺はニヤリと笑いながら言った。


「用務員さん。アンタはユニークスキル持ちだ。そしてそのユニークスキルの能力はズバリ……《触れた対象の温度を操る能力》」」

「……」

「この能力に気付いたのは、アンタが淹れてくれたお茶だ。あのお茶、正直美味しくなかったんだ」

「……酷えな、人が折角丹精込めて淹れてやったお茶にケチ付けやがって」

「しょーがねえだろ、そもそもアンタ丹精込めてって言ってるけどな、あのお茶水で淹れてから温度操って熱々にしてたんだろ。手抜きもいいとこだ、味で分かったぞ」


通りで懐かしい味すると思ったんだ。

だってその作り方、俺の母ちゃんが水で作ったお茶をレンチンするのと同じだもん。


「あとお茶を淹れてから三十分以上も経ってるのに、アンタが持ってたマグカップからまだ湯気が立ってたのも気になったんだ。そこからこのユニークスキルなんじゃないかって思い至って、トリックに結びつけてみたらドンピシャだったって訳だ」


この男のユニークスキルは、言わば電子レンジと冷凍庫のハイブリット。

ハッキリ言って、汎用性の塊みたいなユニークスキルだ。


「話を戻すぞ。鍵を作りだした手順はこうだ。まずアクア・ブレスのような水魔法を使い鍵穴の中を水で満たす。そのまま水の温度を氷点下に下げて凍らせる。するとあら不思議、即席で氷の鍵の出来上がりだ。会議室もそんな感じでやったんだろ? だから本来濡れていない筈の、この会議室だったら内側、研究棟だったら外側のドアノブが濡れていたんだ」


多分コレは、犯人のミスだ。

温度を操る能力ならば、濡れた箇所の温度を上げて蒸発させればいい。それで完璧に証拠隠滅出来る。

だが時間が無かったのもあるが、元々現場周辺が濡れていた事も相まって、そのままでも大丈夫だと判断したのだろう。


「さて、コレが研究棟で犯人が消えたトリックだ。続いて本命、この会議室でのトリックを話そうか。オイ、億劫そうな顔すんなよ。折角気持ち良ーく推理披露してんのに」

「自分の感情優先かよ」

「おう、快楽物質が脳内を駆け巡ってる。超絶エクスタシーだぜ」

「麻薬キメてるみてえに言うな」


俺はヘラヘラと笑いながらも、用務員に推理の披露を続ける。


「まずアンタは用務員の仕事を装って会議室に入り、警戒していないフィーネさんの隙を突いて気絶させた。そこからお得意のユニークスキルをフル活用して――」

「俺は犯人じゃねえっつってんだろ。まあ、確かに俺はそういうユニークスキルを持っているが、それだけで犯人とは決め付けられねえ! それとだな、お前のその話には重大な穴があるんだよ」


ポリポリとツルピカの頭部を人差し指で掻きながら、用務員さんは言葉を遮った。


「もう知ってるだろうが、この四階は魔法やスキルに反応するアラームが取り付けられている。その精度は凄まじい、一切の漏れも許さない。そんなアラームがあるのに、どうやって学園長の娘さんを攫う? 確か、一回だけしか鳴らなかったそうじゃねえか」

「それなんだよ。いや全く、あのクソアラームには何度も悩まされたよ」


そう、このアラームがこの事件の最大の障壁だった。

アラームが鳴ったのは一回。しかも学園長や他の教師陣が扉の前に居るときに鳴った。

そしてその鳴った一回は、探知系魔法の阻害結界を張る魔道具によるもの。

ならばどうやって犯人はあの場から脱出し、鍵を閉め、剰え火なんて放ったのだろう?

ずっと考えていた。ずっと悩んでいた。

でも、その謎は既に解けた。


「あのアラームにはね、重大な欠点があったんだよ」

「欠点……?」


今朝、レイナの姿を見て驚愕したアルベルトはインビジブルで透明化し、四階まで付けてきた。

そして俺に見つかり透明化を解除しても、アラームは鳴らなかった。

なのに再びアルベルトがインビジブルを発動した瞬間、アラームは鳴った。

それは何故か? 答えはこうだ。

俺はポケットに入れていた右手をゆっくりと抜き……小さく手の中でずっと放電していた黒雷を見せつけた。


「あのアラームは、《魔法やスキルを使った瞬間には反応するけど、魔法やスキルを使った状態を維持している時には鳴らない》」

「!」


防犯システムとしてはザルもザルだが、考えてみりゃそうなってしまうのも仕方が無い。

あの四階の奥には大切な魔道具などを仕舞っている倉庫室がある。魔道具は常時魔力を垂れ流してる場合が殆どだ。

もしそれにも反応するというのなら、一日中ずっとアラーム鳴りっぱなしになっちまう。


「アンタは用務員なんだ、整備中とかにその穴を見つけ出す事は出来た筈だ。つまりアンタは《四階に上がる前にユニークスキルを発動させておいて》、防犯システムを掻い潜った。しかもあのアラームは、使っている魔法やスキルの強弱の変化にも反応しない。だから実質魔法やスキルの行使を止めなければ、使い放題なんだよ。切り替えは出来ねえがな」


だから鍵を作り出した際に使用した水は、魔法ではなくコップなんかで注ぎ入れたものだろう。


「アンタはユニークスキルで作り出した氷の道具を使って、密室を作り出したんだ。そしてその道具に常時ユニークスキルを使っていれば、アラームは鳴らねえ」

「道具って……俺のユニークスキルはあくまで温度変化の操作であって、道具を作り出すなんて出来ねえよ! 氷を作り出せるとかならまだしも……!」

「道具は木材かなんかで自分で型枠を作り、水を張って凍らせて作ったもんだ。用務員室、木材とか工具とかで溢れかえってた。型枠なんざ余裕で作れるだろ」


押し黙った用務員さんに、俺は話を続ける。


「アンタはフィーネさんを気絶させた後、道具の設置に取り掛かった。まず予め半分氷づけにしておいた魔道具を、温度変化で上手い具合に壁か天井に接着する。次にもう一つの道具をテーブルの上に置いた。所謂火起こし装置だ」

「火起こし装置? 悪いが物を温めただけじゃそうそう火は付かねえぞ? それに火が上がった瞬間に教師陣が駆け付けてきたんだ、どうやったって逃げれねえよ。魔法で遠隔で付けるしかねえが、アラームがあるから不可能だ」

「いや、出来るぜ? ……うん、ナイスタイミングだな」

「あ?」

「コイツと、コイツを使えば可能だ」


俺は懐からある物を取り出すと同時に、窓の外を指差す。

懐から取り出したのは学校から借りた虫眼鏡。そして窓の外には、丁度この会議室にオレンジ色の光を差し込んだ太陽が浮かんでいる。


「火災の原因は所謂、収れん現象だ。小学校の中学年辺りでやる理科の実験でな、虫眼鏡や鏡で太陽光を反射や屈折させて一点に集めるんだ。そしてその先に可燃物があると火が付く。まあトリックの仕掛け人なら百も承知か」


俺は太陽光を虫眼鏡で操り、用務員さんの腹部を照らす。流石に燃やしたりはしない。


「この時期のこの時間帯、最初の事件が起きたその日も、会議室には夕日が差し込む。その夕日の光を氷で作ったレンズに集めて火を付けた。向きだとかレンズの数だとかの調整は必要だが、アンタは用務員だ。そういった調整の猶予はいくらでもある」


天気に崩れさえ生じなければ、一日やそこらで太陽の軌道は殆ど変わらない。

夕日の光じゃパワーが足りないが、レンズの数を増やせばカバー出来るだろう。


「可燃物はフィーネさんのノート。それを彼女のペンで真っ黒に塗りつぶして、火を付けやすくしたんだろ。ちなみにフィーネさんが愛用してるペンのインクは油性だ、良く燃える。それにフィーネさんの所有物なら、燃えカスが残ってても違和感ないからな」


実際に会議室のテーブルの上には、フィーネさんの所有物の燃えカスしか残っていなかった。


「最後に気絶したフィーネさんを大きめの袋かなんかに入れて、作った鍵で扉を閉めてそっと出て行く。例え誰かに見られたって、用務員さんが大きい袋を運んでてもそこまで気にならない。まあ色々聞き込みしても何もそんな話出てこなかったから、運良く誰にも見られなかったんだろうけどな」

「…………」

「そしてアンタが一階に降りた頃、仕掛けておいた装置がノートに火を付け、そのまま燃え上がった。その異変に気付いた教師陣が会議室に向かい始めたのを見計らって、遠隔で氷を全て溶かした。すると氷で作られていた道具は全て溶けて無くなり、天井か壁に取り付けてあった魔道具が落下し壊れ、発動した。それが唯一アラームが鳴った原因だ。同時にまだ中に犯人が居ると印象付けられ、自分のアリバイも作れる。後は教師陣が消火のために水魔法使って会議室をびしょ濡れにしてくれたら、証拠も消えて完全密室の出来上がりって訳だ」


……うん、一気に喋りすぎて口が痛い。

だが、我ながらメチャクチャ冴えている。

皆が探偵だ探偵だと囃し立てる事もしばしばあったが、自分でもそうなんじゃないかとちょっとだけワクワクしている。

が、まだ問題が残っている。


「……だが、俺がやったって証拠は何処にもねえ。俺を犯人だと決め付けてえなら、証拠出せ! 出せなかったらお前、土下座で謝ってもらうからな! お国の使者とか関係ねえ!」


そう、証拠だ。用務員さんがやったという証拠が無ければ、この推理は意味を成さない。

実際に犯人だと断定していても、証拠が無くて逮捕出来なかったなんてよくある話だ。

……コイツがトリックを仕掛けているとき、天気だとか人とすれ違わなかったりだとか、お天道様はコイツに味方した。

だが実際はお天道様は平等だ、コチラにも味方してくれる。


「ところがどっこい」

「何……?」


自信満々にドヤ顔で言ってみせると、今まで何処か余裕そうだった用務員さんが始めて冷や汗を流した。


「実はな、お前があの時隠れていた生物学の研究棟の中。バイスがタンク草を破裂させたお陰で地面がグチョグチョだったんだよ。そして研究棟の地面の土はこの学園の土と違う、目立つ赤茶色だ」

「……ッ」


そして俺は、ゆっくりと用務員さんが履いているブーツを指差した。


「もしアンタが犯人じゃないってんなら、そのブーツの裏側見せてくれよ。その赤土が、付着していない筈だからさ。ちなみに洗い流してたとしても、靴の裏の土は完璧には落ちねえんだよ」


……長い、長い沈黙。

窓の外から微かに、カラスの鳴き声が聞こえてくる、怖いくらいの沈黙の中。

目を伏せ俯いた用務員さんは、大きく、大きく息を吐き出すと、ゆっくりと片足を上げた。


その裏側にはハッキリと、赤茶けた土が付着していた。

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