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魔界は今日も青空だ!  作者: 陶山松風
第九章 ワンウィーク・スクールデイズ
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第三九話 放課後は今日も閑寂だ!①

学園生活四日目。

今俺が居る場所はとある空き教室。そこで朝から、バイスとリーンと共に情報交換である。

俺がバイスとフィーネの関係について手短に説明すると、リーンは腕を組みながら少し目を伏せる。


「まさか、誘拐された子とアンタがそんな関係だったなんてね……色々大変だったでしょ?」

「同情はいらない。僕がきっと見つけ出してみせるからな。その為にもワズミ、早速お前達が集めた情報を聞かせろ」

「あいよ」


始業の鐘までまだ30分はある。話し合いとしては短いとも思うが、こういった空き時間を大切にしていきたい。

まず俺は会議室で調べた事や、教員達の証言、そして自分が現時点で考えている憶測を語った。


「成程……大部分は僕と同じ考えだな。だが、事件現場である会議室は僕だけでは入る事が出来なかったからな、情報としてありがたい。それで、会議室について少し気になる事があると言ったな?」

「ああ。勿論、ただの考えすぎって可能性もあるけど……」


俺はそう念を押すと、今までずっと気になっていた事を話し出す。


「火事が起きたとき、教師陣が水魔法を使って消火したって話を聞いた。だから、部屋の絨毯が湿ってるのは分かるんだ。でも、変な箇所が湿っててさ」

「変な箇所が湿ってた? そんなのあったっけ……」


と、考え込むリーンに、俺はメモ帳に書いた簡単な見取り図を見せながら。


「普通、消火に使う水魔法って言ったらアクア・ブレスだ。実際に教師陣はアクア・ブレスで消火したって言ってた。アクア・ブレスは放った直線上に真っ直ぐ飛ぶ。だから炎が燃えていた中央のテーブル付近が湿るのは分かる。でも、ここもかなり湿っていた痕跡があったんだ」

「出入り口……そう言えば、アンタそこら辺調べてたっけ」

「確かに妙だな……普通にアクア・ブレスを放てば、ここが濡れる事は無い。そもそもアクア・ブレスを足下に飛び散らすような、魔法が下手な教師はこの学園には居ない筈だ」

「ちなみにドアの部屋側の面にも濡れた痕跡があった。そして会議室のドアは押戸」

「成程……押戸だとしたら、開けた時に部屋側が濡れる事はあり得ないわね」


恐らく事件当時ドアを開けた際は全開だったんだろう。

数人の教師陣が部屋に押し寄せたというのなら、そっちの方が入りやすいし逃げ道も確保しやすい。

となると、ドアの部屋側の面は必然的に壁側に向く。

だから仮に誰かが水を撒き散らしたとしても、ドアが濡れるのは廊下側であって、決して部屋側が濡れる事は無い。


「更に、探知魔法を阻害する魔道具の破片があった箇所も妙に湿っていた。だからこの会議室の密室は、恐らく水を使ったトリックだ。そうなると、わざわざ犯人が火を付けた理由も分かる」

「犯人が火を付けた理由……あっ、そっか! 教師達に水魔法を使わせれば、それだけで証拠隠滅になる! そうなったら、誰も水魔法を使う前から部屋が湿っていたなんて、分からないわね……」

「とまあ、それが現時点での俺の考え。トリックの仕組みや犯人は、まだ全然分からないけどな」


良い感じにリーンが纏めてくれた。

何と言うか、俺が探偵ならリーンは助手という立ち位置になってる気がする。


「流石は学園長が直々に頼むだけあるな」

「でも、ここから先の進展が無い。だからお前の情報も聞かせてくれ」


感心したように呟くバイスに対し、俺も少し食い気味に訊ねる。

するとバイスは、手に持っていたメモ帳をパラパラと捲りながら。


「僕の調査はフィーネを見つけ出す事に重点を置いている。彼女を見つけ出す一番の近道は、犯人を捕まえること。そして、犯人はまた誘拐事件を起こす可能性がある」

「その根拠は?」

「まずフィーネを攫ったという事は、少なくともユニークスキル目的なのは確かだ。探したいものを何でも見つけ出せる。違う可能性もあるが、金鉱脈発見などの金銭目的で利用するというのが妥当だ」


確かに、彼女のダウジングを利用するとして一番最初に思いつくのは、そういった金目の話だ。


「そして彼女だけでなく、この学園には貴族の跡取りや令嬢が多く在籍している。ソイツらを連れ去り身代金を要求すれば、家は何億だって出すだろう」

「でも、その分リスクは高いんじゃない? そのまま捕まっちゃったりとか」

「だが、相手は現に警察の調査では尻尾すら掴めなかった奴だ。そんな初歩的なミスはしないだろう。そして僕達の共通の考えである、この学園の関係者が犯人だという事……僕の調べではこの学園の人間で新入生を除き、一番最近入ってきたのは一年半も前だ」

「つまり犯人は一年半以上もこの学園に潜伏している。確かに、言い方は悪くなるけど、一年半も潜伏してフィーネさんだけ標的にしてトンズラするってのは、犯人側からしたらちょっと勿体ない気もするな……それにフィーネさんのダウジング、見つけられるってだけですぐに儲かる訳じゃないし、そうなると身代金の方が手っ取り早いな」

「なんか、気分が悪くなる話ね……」


リーンの眉間に皺が寄るのも無理ない。

俺達は今、犯人側の気持ちになって考えている。犯人達はフィーネさんを、きっと利用価値のある道具としか思っていないはずだ。

そんな奴らと同じマインドになるというのは、俺だっていい気分じゃない。


「そして、仮に犯人が再び動き出すとしたら、今日の放課後だろう」

「何でだ?」

「お前達は知らないだろうが……今月末にあるんだ……あの行事が」

「あの行事……って何よ? 随分と恨めしげな顔してるけど」

「分からないのか……? 口に出すことすら身の毛のよだつ、あの行事だ……!」

「いや、分からないわよ」


ふむ……学校の行事でバイスがここまで嫌悪感を示すとするならば、恐らく。


「あー、体育祭か。確かに嫌だねぇ、あの行事」

「分かるのか……?」

「運動できない奴にとっては悪夢だよなぁ。他にも連帯責任強いてくる感じとか、クラス一丸になって頑張ろう! 的なノリとか……俺もあんま親しくないクラスメイトの名前プリントされたTシャツ着せられたのはちょっとキツかったな」

「そうだよな……? 後半の例えはいまいち分からなかったが」

「えー……そこまで嫌がるものかしら? 私にはそういう経験ないけど、楽しそうじゃない、体育祭」

「運動出来る奴に俺達の気持ちが分かるもんかー!」

「そうだ」

「何なの、アンタ達……何で私が怒られなきゃならないのよ……」


と、若干引き気味のリーンはさておき。


「話を戻すが……今日の放課後、体育祭の実行委員会が会議をするんだ」

「成程、体育祭の準備期間か。確かに放課後遅くまで校舎に残っている生徒も多そうだな。教師は?」

「この学園の行事は基本的に生徒が主体となって行う。教師はあまり介入しないだろう。定時が過ぎればそのまま帰る奴が殆どだろうな」

「ますます犯人にとって都合の良いこった」


また誘拐事件が起きてしまったら、今度こそ休校とかも視野に入るかもしれない。

そうなったら俺達がここに来た意味が無くなってしまうし、調査も進まなくなる。

だが、逆にチャンスでもある。

もし本当に今日の放課後、犯人が現れるとするならば、ソイツを捕まえて白状させればいい。

こっちにはローズもいるんだ、問題ない……ってなって、前回失敗したんだけども、まあ流石に今回は大丈夫だろう。

それに体育祭はそんなに好きじゃないが、生徒達の頑張りを出鼻から挫くような事は避けたい。


「よっし、じゃあ今日の放課後またここに集合しよう。バイスは体育祭の実行委員の中で連れ去られそうな奴の目星を付けてくれ。とっ捕まえるのは俺達に任せろ」

「ああ……こんな事を話しても誰も信じてはくれないだろうし、僕だけではどうしようもなかったからな。助かる」


そう言ってバイスは、小さく頭を下げた。

そんなバイスを意外そうな顔をして見ていたリーンが、コソッと耳打ちしてくる。


(……何か、第一印象とは随分違うのね)

(恋人の為に必死なんだろ。格好いいじゃねえか)


不謹慎かもしれないけど、ちょっと羨ましいと思ってしまう。

俺の好きな人は、多分誘拐されたりしないだろうから。

こうやって恋人の為に必死になれる事は、無いだろうな。


「そろそろ始業の鐘が鳴る。早く戻るぞ」

「おーう」


それだけ言って教室を出て行くバイスの後を追いかけるように、俺達も歩き出した。





――そして、その日の昼食休み。


「……何でアンタがここに居るんだよ?」


食堂で昼食を食べていた俺に、ソイツは苛立たしげに話し掛けてきた。

ソイツというのは、昨晩バイスに絡んでた奴の一人だ。

どうもコイツらは基本三人組で動いているらしい。

そして右から順に大中小と背丈が違い、何と言うか非常にバランスが取れている。

向かいの空いた座席に座り睨みつけるソイツらに、俺はサラダを咀嚼しながら、笑顔で答える。


「別に、ここって指定席じゃないじゃんか」

「ここはオレ達が普段から使ってるんだよ、あっちいけ」

「でも他に席空いてないし~、いいじゃないの~」


と、俺がヘラヘラ笑って言うと、小の奴が舌打ちをする。

そして、その視線は俺から右へと移り。


「百歩譲ってアンタはいいが……何でコイツまでここに居るんだよ?」

「……それは、僕が一番訊きたい」


そう言って、俺の右の席に座っているバイスが居心地悪そうに答えた。


(おい、有言実行するのは結構だが、何故僕まで巻き込む……!?)

(そりゃ、コイツらに虐められないようある程度仲良くなってだな)

(そんな事出来る訳ないだろ! もういい、ここから離れて……何故僕の足が動かない!?)

(さぁね)


ちなみに今、バイスの革靴に制止眼を向けているから動けない。

ゴメンよバイス。でも任せて欲しい。

諦めたのか、三人はそのまま食事を始める。

しかしながら一口食った後、中の奴が嫌な笑みを浮かべて。


「あーあ、折角美味い飯だってのに、前方から嫌な臭いがして食欲失せるぜ」

「俺、これでも結構良いシャンプーとボディソープ使ってるんだけどな」

「匂いにも人によって好みが分かれるからな」

「違ーよ、貧乏貴族と魔族の臭いがしてきて臭えっつってんだよ!」


もう完全に皮肉ではなくただの悪口になった中の奴のそこそこ大きな怒声は、この食堂に居る生徒の注目を集める。


「オイオイ、差別とは感心しねえな? 魔族の臭いなんて嗅いだことねえくせに。そんなに魔族嫌いか?」

「当たり前だろ。第一、散々この国に負けまくった弱小国家の劣等種が同列扱いってのがおかしいんだよ。魔族の仲間ならそれらしく、残飯でも食っとけ」


と、大の奴が言う。

良かったな、お前ら。ここにリーンが居なくって。

じゃなかったらお前ら全員半殺しにされてたぞ。

まあ、俺だってそうしたい気持ちがモリモリ湧いてくるが、クールに振る舞おう。


「オイ、お前達。仮にも使者に対してそれは……」

「いーのかなー? そんな事言っちゃってー?」

「あん?」


流石にマズいとバイスが止めに入ったが、それを遮り俺は余裕名表情を浮かべる。


「魔王様はね、俺達がクラスでお世話になった奴らを、バルファスト魔王国に招待してやれって言ってたんだ」

「誰が行くかってんだよ、そんな場所」


まあ、普通にそう返されるよな。

でも、忘れちゃいけない。

コイツらは俺と同じ、思春期真っ盛りの学生であるという事に。

俺は窓から見える景色を眺めて、続けざまに呟いた。


「バルファストには、美人なねーちゃん達沢山居るのにな-」

「「「…………」」」

「ええ……」


先程の威勢が嘘みたいに真顔になって黙り込んだ三人を、バイスがドン引きした様子で見つめている。


「俺の連れのルナ、アイツメッチャ美人だろ? 魔族云々一先ず置いといて」

「ま、まあ、そうだな……魔族にしてはいい線行ってると思うぜ」

「アイツレベルのべっぴんさんいっぱい居るぜ、バルファスト」

「オイ、まさかそんな水商売の客引きみたいな言葉でコイツらを拐かすつもりか……? そんな訳が――」

「どんなのが居るんだ……?」

「あった……!?」


小の奴が食いついたのを確認すると、俺は周囲に聞かれないよう顔を近づけるように促す。

そして、良い取引があるぜ、みたいなノリで。


「魔人族を始めとして、悪魔族、ヴァンパイア族は皆美形ばっかだな。他にもダークエルフとかオーガとか。あとやっぱ外せないのはサキュバスだろ。ウチのサキュバス達はみんな下着みたいな格好してて、そりゃボインボインよ、ボインボイン」

「ボインボイン……!?」


その魅力的な魔法の呪文に、小の奴は鼻の穴を膨らませる。


「オイケット、何つられそうになってんだよ!」

「そうだぞ! オイ、お前……!」


と、今度は大の奴が食って掛かるように俺を睨みつけながら。


「魔族には、ワーウルフって狼人間がいるって聞いたが、本当か……!?」

「パトリック!?」

「居るよー。ワーウルフだけじゃなくって、色んな動物の毛並みした奴が居るよー」


と、俺はパトリックと呼ばれた大の奴の肩を組んだ。

っていうかコイツ、ケモナーかよ。

居るのかよ、この世界にもそういうの需要があるの。本当にこの世界って日本と相性が良い気がする。

大と小は引き込めた。あとはリーダー格の中の奴だが。


「なぁにがボインボインだ、くっだらねえ」

「まさかコイツと同意見になるとは思わなかった……」


ハンッと実に余裕そうに鼻を鳴らす中の奴と、ずっとゴミを見る眼で俺を見ているバイス。

バイス、お前だって仲間だろ……?

と寂しくなっていると、引き込まれそうになっていた二人がハッと我に戻ったように。


「そ、そうだ! お前の誘い文句なんざ屁でもねえ!」

「バカらしいんだよ、ガキかテメエは!」

「いやお前ら完全に取り込まれてたじゃん、見事なまでに取り込まれてたじゃん」


どうやら三人全員を取り込まなければこの勝負は勝てないらしい。

さてどうしたものかと悩んでいると、ケットと呼ばれていた小の奴が意気揚々と自慢げに。


「それにこの人にはそういう言葉は通じねえ! 何を隠そうこのレッド君は……貧乳好きだ!」

「だからアンタの話に微塵も興味が湧かねえなぁ?」

「オイ、何故そんな性癖を暴露されて堂々としてられるんだ……? まったくそんな自慢げな顔するものじゃないだろ……?」


バイスが冷静なツッコミを入れる中、俺は大きく息を吹き出して両肘を机に乗せる。

そんな俺の反応を負けたと見なしたのか、レッドと呼ばれた中の奴はまるで煽るように。


「アンタには分からねえだろうな、貧乳の素晴らしさをよぉ? そういう話に持って来たいなら、少しでもその魅力を言ってみせろや」

「いや、無理に決まってるだろう。というか乗るわけないだろ、いくらなんでも……」


と、バイスが最早呆れ気味に呟く傍ら、俺は俯いたままポツリポツリとと。


「俺は女の子のおっぱいなら何だって大好きだ。比較もしない、順位も無い。ただただ純粋に、女性の胸部が大好きなんだ……」

「頭大丈夫かワズミ」

「でも、あくまで俺個人の考え方だけど……エロさで言えば、巨乳より貧乳の方が勝ると思うんだ」

「ッ!! な、なん、だと……!?」

「うえぇ……?」


そんな俺の告白に、レッドは眼を見開いて身体を仰け反らせ、バイスは素っ頓狂な声を上げていた。


「大きい胸ってさ、やっぱり初見から女性を意識しちゃうじゃないか。すれ違い様に動いたときの揺れだとか、谷間とかで。確かに実際に触ってみた感触とか、水着姿のインパクトは凄いと思う。でも、俺達はある程度想像出来てしまうんだよ。その過程を歩むまでに、ある程度『ああ、こんなもんなのかな』って身構えてしまうんだよ」


つい、声に熱が籠もる。


「でも、貧乳は違う。胸が小さく存在感が無いから、最初は全然女性を意識しない。でも、もしその子の下着姿をうっかり見てしまった瞬間は? 将又行為に及ぶ瞬間だとしたら? その瞬間、俺達は始めて貧乳に対し女性を意識する。その時の衝撃が、エロスが、貧乳をより魅力的にさせているのだと、俺は思うんだ……」

「お前……酔っ払ってるのか?」


気分は酔ってます。自分は今酔っ払っているんだと自己暗示掛けてます。

流石にこの熱をシラフで言うのはちょっと抵抗あるんで。

と、俺の貧乳に対する愛を示したところで、レッドが徐に立ち上がった。


「アンタ……いや、ワズミリョージさん。今までの無礼を、謝罪させてくれ」

「嘘だろ……?」

「いいんだ。さ、一緒に昼飯、食べようぜ!」


そして俺達は楽しくお食事をして、昨日までの嫌悪感が嘘のように、バイスも含めてスッカリ仲良くなった(バイス自身はそう思ってるのか定かではないが)。

まあ、これで今後バイスがイジメられる事は無くなるんじゃなかろうか。


……ちなみに後で『飲み屋じゃないんだから声のボリューム下げなさいアホォ!』とリーンに引っぱたかれた。

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